涙が呼び込む神様の小径

景綱

文字の大きさ
上 下
38 / 59
第三話「大樹の声に耳を傾けて」

急げ雄大のもとへ

しおりを挟む

「康成、ご苦労さん」
「路子さん、ありがとう。けど、今回はキンの活躍が大きいと思うんだ」
「おや、そうかい」

 路子は口角をあげて頷いていた。

「あーあ、私も何か人の役に立ちたいな。それに龍も見たい。ヤスくん、子龍ってどんな感じなの」

 こころはちょっとつまらなそうな顔をしていた。

「そうだな。見た感じはちょっと大きめのタツノオトシゴかな。けど、力はすごいよ」
「ふーん、そうなんだ」
「ウニャ」
「おお、キン来たのか」

 康成がキンの頭を撫でてあげようとしたところスルッと躱されてこころの膝上にポンと飛び乗った。
 あっ、避けやがった。キンの奴、ニヤリと今笑わなかったか。猫は笑わないか。きっと気のせいだろう。いや、キンだったら笑うかもしれない。

「キンちゃん、今日もかわいいね」
「ウニャ」
「おやおや、キンちゃんたら。『カッコイイと言え』って言っているみたいだよ」
「えっ、そうなの。そうか、男の子だもんね」

 こころはキンの顔をじっとみつめて「男前だよね、キンちゃん」と微笑んだ。
 キンはゆったりと尻尾を動かしていた。男前と言われて満足しているのだろうか。それにしても調子のいい奴だ。単なる女好きってこともあるのかもしれない。

 そんなことを思っていたら、キンの目つきがいつもよりも鋭くなった気がした。まさか、キンも心を読めるのか。康成は首を傾げてキンの様子を窺った。
 大欠伸をするキンがそこにいた。思い過ごしだろうか。

 それはそうと今頃雄大はどうしているだろうか。家族で楽しく過ごしているだろうか。母親のあの様子だったら大丈夫だろう。
 康成はふと外を見遣ると窓に水滴がポツポツと当たっていた。どうやら雨が降りはじめたようだ。空に目を向けると、悠然と龍が飛んでいる姿が目に留まる。すぐそばに子龍の姿もあった。あの龍は親子だったのだろうか。

「親子じゃないよ」

 えっ。いつの間にか来ていた智也がそう告げた。親子じゃないのか。

「あの子龍は学んでいるところだ。修行の身だからな」

 なるほど、そういうことか。そう思っていたら子龍がこっちへ近づいて来て「あの子、また神社の銀杏の木のところにいるぞ」と真剣な眼差しを送ってきた。
 えっ、なんで。また学校をさぼったのか。もうそんなことする必要はないはずなのに。いや、待てよ。学校に行きたくない理由があるってことか。よくわからないけど、まだ、解決していないってことか。ならば、雄大のところへ急がなきゃ。きっと、助けを待っているはずだ。
 康成は慌てて家を飛び出して行った。

「ヤスくん、どうしたの」

 背後からこころの声が届いたが返事もせずに神社へと向かった。

しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

恋愛が運命を決めないとしたら平和かもしれない

三谷朱花
キャラ文芸
茜はある本を読みたいと思ったことをきっかけに前世の記憶が戻ってきて、この世界が茜の知っている前世の世界とは違うことに気付く。この世界は、恋愛の概念がない世界で、「好き」も「不倫」も「略奪愛」も存在しえない。だからその本も存在しない。前世の記憶を思い出したことから茜の平穏だった生活に変化も出てきて、茜の思わぬ方向に…。そんな中でもその本を読みたい茜と、周りの個性的な人々が織りなすお話。 ※アルファポリスのみの公開です。 ※毎日大体夜10時頃に公開します。早かったり遅かったりしますが、毎日します。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

星ふる夜にでかけよう~オシャレこんぺいとうウミウシの恋

夢ノ命
キャラ文芸
こんぺいとうウミウシとその子供(14匹の魚)たち。ある日、おしゃれこんぺいとうウミウシが恋をした。そんなおしゃれこんぺいとうウミウシを助けようと集まった旅の仲間たち。広大な海を舞台にした、ハラハラドキドキの大冒険がはじまる……

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

処理中です...