涙が呼び込む神様の小径

景綱

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第三話「大樹の声に耳を傾けて」

急げ雄大のもとへ

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「康成、ご苦労さん」
「路子さん、ありがとう。けど、今回はキンの活躍が大きいと思うんだ」
「おや、そうかい」

 路子は口角をあげて頷いていた。

「あーあ、私も何か人の役に立ちたいな。それに龍も見たい。ヤスくん、子龍ってどんな感じなの」

 こころはちょっとつまらなそうな顔をしていた。

「そうだな。見た感じはちょっと大きめのタツノオトシゴかな。けど、力はすごいよ」
「ふーん、そうなんだ」
「ウニャ」
「おお、キン来たのか」

 康成がキンの頭を撫でてあげようとしたところスルッと躱されてこころの膝上にポンと飛び乗った。
 あっ、避けやがった。キンの奴、ニヤリと今笑わなかったか。猫は笑わないか。きっと気のせいだろう。いや、キンだったら笑うかもしれない。

「キンちゃん、今日もかわいいね」
「ウニャ」
「おやおや、キンちゃんたら。『カッコイイと言え』って言っているみたいだよ」
「えっ、そうなの。そうか、男の子だもんね」

 こころはキンの顔をじっとみつめて「男前だよね、キンちゃん」と微笑んだ。
 キンはゆったりと尻尾を動かしていた。男前と言われて満足しているのだろうか。それにしても調子のいい奴だ。単なる女好きってこともあるのかもしれない。

 そんなことを思っていたら、キンの目つきがいつもよりも鋭くなった気がした。まさか、キンも心を読めるのか。康成は首を傾げてキンの様子を窺った。
 大欠伸をするキンがそこにいた。思い過ごしだろうか。

 それはそうと今頃雄大はどうしているだろうか。家族で楽しく過ごしているだろうか。母親のあの様子だったら大丈夫だろう。
 康成はふと外を見遣ると窓に水滴がポツポツと当たっていた。どうやら雨が降りはじめたようだ。空に目を向けると、悠然と龍が飛んでいる姿が目に留まる。すぐそばに子龍の姿もあった。あの龍は親子だったのだろうか。

「親子じゃないよ」

 えっ。いつの間にか来ていた智也がそう告げた。親子じゃないのか。

「あの子龍は学んでいるところだ。修行の身だからな」

 なるほど、そういうことか。そう思っていたら子龍がこっちへ近づいて来て「あの子、また神社の銀杏の木のところにいるぞ」と真剣な眼差しを送ってきた。
 えっ、なんで。また学校をさぼったのか。もうそんなことする必要はないはずなのに。いや、待てよ。学校に行きたくない理由があるってことか。よくわからないけど、まだ、解決していないってことか。ならば、雄大のところへ急がなきゃ。きっと、助けを待っているはずだ。
 康成は慌てて家を飛び出して行った。

「ヤスくん、どうしたの」

 背後からこころの声が届いたが返事もせずに神社へと向かった。

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