涙が呼び込む神様の小径

景綱

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第二話「心の闇を消し去るしあわせの鐘を鳴らそう」

笑顔の花が咲く

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 日曜日、敏文と麻帆を家に連れて来た。
 こころはまっさきに麻帆の手を取り「いらっしゃい」と微笑んでいた。

「今日はお招きありがとうございます」

 敏文は路子にそう挨拶をしていた。
 いったい路子は何を話すのだろうか。
 こころは自分の部屋に麻帆を連れて行ってしまっている。もしかしたら、路子にそう言われていたのかもしれない。

 緑茶と茶菓子を出して、路子は「なるほどねぇ」と一人頷いている。なにがなるほどなのだろうか。
 そう思っていたのだが、康成は気づいた。敏文の背後にいる守護霊の存在を。そうか、路子は守護霊と話していたのか。
 康成はちょっとだけ敏文の守護霊と目が合いドキッとしてしまう。
 綺麗な女性だったからだ。話も聞こえる。どうやら、敏文の祖母らしい。若い姿をしているから祖母だとは思えないが、若い頃の姿が気に入っているからそうしているようだ。

「あの……」
「ああ、ごめんなさいね」

 路子は守護霊と話していたことを敏文には話さなかった。敏文の祖母は教師だったようだ。しかも、路子の恩師だったことには驚きだ。不思議な縁もあるものだ。

「上田敏文さんと言ったねぇ」
「はい」
「もしかして、あなたのお祖母さんは千代さんという名前だったかい」
「えっと、確かそうですけど。それがなにか」
「やっぱりねぇ。私の恩師だねぇ」

 敏文は目を丸くしていた。

「確かに学校の先生だと聞いています」
「これも何かの縁だ。もしもよければ、ここへ住まないかい。きっと、こころも麻帆が一緒にいたら喜ぶと思うんだよねぇ。あの子も寂しい想いをしているからねぇ」

 敏文は返答に困っている様子だった。
 確かにそんなこと提案をしてくるとは思っていなかっただろう。自分もその提案には度肝を抜かれた。

「千代さんにはお世話になってねぇ。その恩返しだと思ってくれたらいいんだけど。まあ、決めるのは敏文さんだよ。他人の家に厄介になるのは嫌だと思えばそれでもいいんだよ」

 そこへ麻帆が来て「私、こころちゃんと一緒に住みたい」と言い放った。

「麻帆」
「ダメかな。だって、あの家に戻りたくないんだもん」

 敏文は俯き、頭を悩ませているようだ。即断することは難しいだろう。
 んっ。康成は敏文の守護霊に目が向いた。敏文の肩に手を置き、耳元でなにやら囁いている。

「麻帆、わかった。路子さん、よろしくお願いします」

 敏文ははっきりとそう告げた。

「そうかい、そうかい。あっ、けど敏文さん。仕事は決まって落ち着くまでの間だけだからね。まあ、まだ病み上がりだしゆっくり静養してから仕事は探すといいよ」
「ありがとうございます」

 敏文は涙ぐみながら深々とお辞儀をした。
 よかった。これで万事解決だ。
 敏文と麻帆は次の日、引っ越して来た。

「あの、これからよろしくお願いします」

 麻帆に笑顔で挨拶されて思わずにやけてしまった。

「あっ、こちらこそ、よろしく」
「ヤスくんは優しいからいろいろと相談に乗ってくれるよ。ねっ、そうでしょ」
「えっ、まあ」

 康成はこころの言葉に照れて頭を掻いた。

「康成、鼻の下が伸びているよ。両手に花だからって変なこと考えるんじゃないよ」
「ちょっと、路子さん。そんなこと考えてないって」
「そんなことって、なんだい」
「えっ、そ、それは」

 路子にしてやられた気分だ。こころと麻帆がクスクス笑っている。なんだ、あの二人も路子の共犯か。ああ、これはこの先が思いやられる。ここは敏文と結束して。いやいや、別に争っているわけじゃない。仲良くしていけばいいだけだ。

 あっ、キン。
 そうだ、これで三対三だ。キンも男だから。
 けど、負けそうだ。キンはこころ側につくかもしれない。自分もそうかも。敏文もきっと娘には甘いだろう。

 笑顔で『お願いね』なんて頼まれたら喜んでやってしまいそうだ。自分で言うのもなんだけど、男って馬鹿だから。まあ、そのほうが円満にいきそうだけど。
 敏文も笑顔が見えているし、これでよかったのだろう。

『神様、これで良かったんですよね』

 んっ、白猫か。
 麻帆の足下に白猫がいた気がした。目の錯覚じゃないと思う。もしかしたら、サクラかもしれない。そうか、白猫はもう亡くなっていたのか。サクラもきっと二人の様子を見て安心して成仏したのだろう。

***

(第二話「心の闇を消し去るしあわせの鐘を鳴らそう」完)

***

第三話につづく。
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