26 / 59
第二話「心の闇を消し去るしあわせの鐘を鳴らそう」
神成荘にて
しおりを挟む康成は神成荘に戻って来ていた。
「あの親子、大丈夫かな」
「どうだろうな」
「なんだよ、どうだろうなって」
智也はニヤリとしてそれ以上話さなかった。
こころのほうは身を乗り出して「ねぇねぇ、女の子って中学生なんでしょ。名前なんて言うの」と問いかけてきた。
「名前か。確か、上田……麻帆ちゃんだったかな」
「同じ中学かな」
「それはわからないよ」
「そうか。友達になれるかなって思ったのに。もう会わないの」
「たぶん」
「一緒にお見舞いに行こうよ」
「それは……」
あれ、そういえばもう新学期始まっているのにこころはいつもいる。手続きは済んでいるはずだ。
「あのさ、こころはいつから学校に行くんだ」
「えっ、まあね。なんとなく行き辛いというか……」
こころは苦笑いを浮かべていた。
「しかたがない奴だな。中学三年だろう。高校受験もあるんだからしっかり勉強しないと。まあ、自分が言える立場じゃないけど。智也もなんとか言ってやれよ」
「俺は、こころの意思に任せるよ。そのへんはあまり干渉しないほうがいいと思うし。だが、一言だけ、今のこころならどこでもやっていけると思うぞ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「じゃ、僕も干渉しないことにする。けど、路子さんは何か言っていないのか」
「うん、行きたくなったら行けばいいってさ」
そうなのか。もっと厳しいこと話すのかと思ったけど、違うのか。もしかしたら、何か強く言わない理由があるのかもしれない。けど、中学くらいはしっかり行くべきだと思う。
まあ、そこは強くは言えない。自分こそ、本当だったら高校はきちんと卒業するべきだろう。けど、今はやるべきことがある。高校中退でも胸を張って生きられればそれでいい。
そう考えればこころには何も言えない。きっときちんと考えているはずだ。祖母のそこのところはわかっているのだろう。
康成はふと思った。
麻帆と友達になればこころは学校に行くだろうか。もしそうだとしたら、お見舞いに行くこともありなのかもしれない。けど、上田敏文と面識はない。麻帆には嘘をついてしまった。きっと嘘だともうバレているだろう。今頃誰だったのだろうなんて首を傾げていることだろう。
それこそ、お見舞いには行き辛い。どうしたものか。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜
二階堂まりい
ファンタジー
メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ
超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。
同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。
ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
青い祈り
速水静香
キャラ文芸
私は、真っ白な部屋で目覚めた。
自分が誰なのか、なぜここにいるのか、まるで何も思い出せない。
ただ、鏡に映る青い髪の少女――。
それが私だということだけは確かな事実だった。
悪役令嬢は始祖竜の母となる
葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。
しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。
どうせ転生するのであればモブがよかったです。
この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。
精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。
だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・?
あれ?
そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。
邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる