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第二話「心の闇を消し去るしあわせの鐘を鳴らそう」
病院の黒ずんだ窓
しおりを挟む康成は東条総合病院の前に立ち見上げた。ここにいるのだろうか。上田としかわかっていない。それだけで辿り着けるだろうか。もしも亡くなっているとしたら、人助けはできない。いや、きっとそれはないだろう。誰かが神社に助けを求めて来たのだから。きっと、父親の病気回復を願って頭の中で見た女の子が来たのだろう。
「なあ、どう思う。ここに悪霊らしき者を感じるか」
返事がない。
アロウとウンロウを見遣るとじっと一点をみつめていた。
んっ、どこを見ているのだろう。視線の先を見極めようとしたがよくわからない。あの辺の窓だろうか。特にかわりはなさそうだけど。
「何か感じるのか」
やっぱり返事がない。
「おい、訊いているのになんで答えないんだよ」
そう足元に言い放つとすぐそばを通り過ぎていく男性に怪訝な顔をされた。しまった。ここは病院前だ。人が行き交う場所で普通に話すなんて。子狼の姿は自分にしかみえていないはず。
周りを見遣ると、不審者でも見るような目が向けられていることに気がついた。
やってしまった。気をつけなきゃ。
子狼たちは心を読める。声を出さなくても通じることを忘れていた。早くこの場から立ち去りたい。けど、病院に行かなくては。
康成は改めて心の中で問い掛けた。
『おい、無視するのか』
「うるさい」
アロウはそれだけしか口にしなかった。
うるさいとはなんだ。
「悪霊にバレちゃうでしょう」
ウンロウに睨まれてしまった。そうか、そういうことか。気配を消していたのか。ということはここに悪霊がいるってことか。
再び、病院を見上げて康成は集中した。どこだろう。一旦瞼を下ろして一つ深呼吸をすると子狼たちが見ているあたりを凝視した。
んっ、なんだろう。明らかに違和感がある場所があった。さっきは見えなかったのに。まだまだ自分の力は不安定のようだ。
きっと、あそこにいるのだろう。
少しだけ窓が黒ずんでいる。間違いない。けど、関係のない幽霊まで見えてきてしまった。まあ、これといって害のなさそうな幽霊だから問題はなさそうだけど。これじゃ、ダメだ。やっぱりもっともっと修行が必要だ。霊格が上がると幽霊も見ずに済むようになるらしい。幽霊は霊格が低い存在だと祖母が言っていた。本来ならあまり関わらないほうが得策らしい。まあ、今回は無視できない状況だからしかたがない。
この問題が片付いたら神社のいい気を浴びに行こう。それがいい。
よし、行くとするか。
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