涙が呼び込む神様の小径

景綱

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第二話「心の闇を消し去るしあわせの鐘を鳴らそう」

康成の初任務始動

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「路子さん、座禅をするならどこのお寺がいいかな」
「座禅かい。それだったら家でしてもいいんじゃないかねぇ。わざわざお寺さんに行くこともないよ」
「えっ、そうなの。けど、前は行ったよね」
「康成は以前と今じゃ違うからねぇ。前はお寺さんの力も必要だったってことだよ。今は力をもらわなくても大丈夫だねぇ。仁吉さんが見守ってくれているさ。それだけで十分だねぇ」

 なるほど、けどこころは寺のほうがいいような気がするけど。

「路子さん、こころもここでいいのかな」
「こころもやるのかい。そうだねぇ。康成がいるからきっと大丈夫だろう。それに、神成荘から連れ来ているだろう。その子たちも力を貸してくれるさ」

 足元を見遣るとつぶらな瞳の子狼が二匹伏せをして両脇に陣取っていた。身体は小さいけど子狼はあたたかな気を発していて頼もしく映った。

「じゃ、こころ座禅をしよう」

 康成は寺で座禅をした時のことを思い出しながら座り方、手の組み方、呼吸法とかをこころに教えてゆっくり目を閉じた。

 んっ、何かが膝に触れてきた。チラッと見ると子狼の手が置かれていた。なんとなくあたたかな気を感じた。
 子狼のおかげなのか次第に心が落ち着いて安らぎを感じていく。
 あれ、なんだろう。枯れたかけた木がぼんやりと見えてきた。どこかの家の庭の木だ。あっ、白猫がいる。何かを警戒しているような。毛を逆立てて怒っているみたいだ。

 んっ、石か。これはなんなのだろう。
 川も見えてきた。あれは池だろうか。水が濁って綺麗じゃなさそうだ。

 うっ、異臭が鼻につく。なんだこの臭いは。何か焦げたような嫌な臭いだ。同時に胸に痛みが走った。息が荒くなりかぶりを振って瞼をあげた。

「ヤスくん大丈夫。すごい汗だよ」

 こころが心配そうにみつめてくる。

「ああ、大丈夫だ。少しだけわかった気がする」

 康成は額の汗を拭いフゥーと息を吐く。自分にこんな力があったのかと思うと感慨深いものがある。
 そういえば、あの水の濁った池は見覚えがある。小学生の頃にザリガニ釣りをした場所だ。間違いない。あの池の周辺を捜せばあの親子と白猫が住む家があるのかもしれない。
 よし、早速行ってみよう。

「路子さん、ちょっと出掛けてくるから」
「わかったよ。康成の初仕事だねぇ」
「えっ、初仕事」
「人助けするんだろう」
「まあ、そうなるのかな」
「頑張んな。けど、まだ完全に覚醒したとは言えないからねぇ。気をつけるんだよ。無理は禁物だからねぇ。危ないと思ったらすぐに引き返しておいで」

 康成は頷き「行ってくる」と玄関扉を開けた。

「ちょっと、私も行く」
「あっ、こころはここにいてくれ。相手がどんな奴かわからないし、今の僕にはまだ守れないかもしれないから」
「こころ、康成の言う通りだよ。足手纏いになっちまうかもしれないだろう」

 こころは渋々頷き「頑張ってね」と見送ってくれた。
 あの池は駄菓子屋があった一本橋のすぐ近くだ。ここからだと歩いてはいけないか。やっぱり電車か。
 駅に着くと、ホームにキンがいた。ここは無人駅だから猫が立ち入っても誰も咎めるものはいない。まさか、キンも一緒に行くつもりなのか。目的地の駅は有人駅だ。きっと駅員に追い出されるぞ。
 そう思っていたのだが、キンは電車が来ても乗り込んで来ることはなかった。見送りに来てくれたのか。不思議な猫だ。

 足元を見遣れば子狼二匹が両脇に護衛のようについて来てくれている。子狼に関してはおそらく他の人には見えていないだろう。霊感がある者がいればもしかしたら気づくかもしれないが。子狼がいてくれることが心強い。きっと悪霊が現れてもなんとかなるだろう。そのためについて来てくれているはずだから。
 心の中で子狼に『よろしく頼むよ』とお願いしたら二匹同時に頷いた。言葉は理解しているようだが、あまりおしゃべりではないようだ。それとも何か話さない理由があるのだろうか。そのへんはわからないがまだ完全に心を許してくれていないのかもしれない。

 目的の駅に着くと改札を抜けて街並みに目を向ける。
 目の前にコンビニが一軒。左側の道沿いに中華料理店に歯科医院が見える。
 康成は記憶を頼りに左へと進んだ。中華料理の良い香りにそそられてお腹がグゥーとなってしまい子狼に一瞥された。

 苦笑いを浮かべて誤魔化すと右にいた子狼が「気にするな」と呟いた。
 おお、口を利いた。なんだか嬉しくなったがそのあとはまた黙ってしまった。

 十分くらい歩いただろうか。確か近くに寺があったと思うけど、あっ、墓がある。
 記憶は間違っていない。ここからもうちょっと行ったあたりに池があるはずだ。康成は足を速めて進んで行く。

 あった。

 記憶だと近くに駄菓子屋があったはずだが、その店はなくなっていた。ちょっと残念な気持ちになったが店があっただろう場所からすぐ向こう側に枯れそうな木が目に映りドキッと心臓が跳ね上がった。

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