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第二話「心の闇を消し去るしあわせの鐘を鳴らそう」
親子を救いたい
しおりを挟む「智也、どう思う」
康成は突然見えた映像のことを話して意見を訊いた。
二匹の子狼が両脇にスッと寄ってきてドキッとしてしまう。急に、なんだ。
「なるほど、これは霊が絡んでいるな」
「霊? 悪霊ってことか」
「おそらく」
悪霊か。
ふと自分のことを思い出す。
他人事とも思えない。苦しんでいるのなら助けてあげたい。
康成は浮かんできた映像を思い出して黙考する。
飛び込んできた白猫が悪霊なのだろうか。それとも親子だろうか。見えた映像を思い出す限り白猫も親子も悪霊とは思えない。
康成は首を傾げて他に誰かいなかったかとさっき見た光景を隅々まで思い出そうと試みたがわからなかった。苦しんでいるのはあの親子なのかもしれない。
「康成、おそらく映像だけじゃ何もわからないだろう。ただ子狼が興奮気味だから間違いなく悪霊が関わっているはずだ。こいつらは悪霊退治に一番力を発揮するからな。何かを感じ取っているのだろう」
そうなのか。
みつめてくる瞳は愛らしくてなんとも人懐っこい顔をして温和そうだけど悪霊に対抗できるのだろうか。これで興奮しているのか。静かなる闘争心ってところだろうか。
「智也、この子狼たちは本当に悪霊に立ち向かえるのか」
「大丈夫だ。まだ修行の身だがかなりの力を持っているからな。秩父の三峯神社は知っているか」
「埼玉の秩父だよな」
智也は頷く。
行ったことはないが三峯神社の名前は知っている。よくわからないが、確かに三峯神社には狼がいて悪霊を祓ってくれるなんて話を聞いたことがある。この子狼が悪霊を祓ってくれるというのか。けど、どこの誰が助けを求めているのだろう。肝心のことがわからない。助けるにしてもどこの誰だかわからなければ無理な話だ。
父親と女の子に白猫しか見えてこなかった。顔がわかっていても住まいがわからない。もっと他に何か見えてこないだろうか。
「康成さん、お兄ちゃん、いる」
こころが来たようだ。
「こっちだ、入って来いよ」
ミシミシと軋ませて階段を上がって近づいてくる音がする。
「あっ、いたいた。もう置いていかないでよね」
「すまない。けどさ、康成さんって呼ばれるのもなんかな。なんかよくわからないけど引っ掛かる。違う呼び方にしてくれないかな」
「そうかな、いいと思うけどな。じゃ、なんて呼べばいい」
智也がニヤニヤしている。
「おい、智也、なんだよ。ニヤニヤするな」
「嬉しいんだよ。こうして三人でいられるのがさ。子供の頃を思い出すよ」
確かに、小学生のころはよく三人で遊んでいた。懐かしい思い出だ。
「あっ、そうだ。思い出した。子供の頃はヤスくんって呼んでいたよね。それで決まり。いいでしょ」
『ヤスくん』か。そういえばそんな風に呼ばれていた気がする。
「いいじゃないか。俺はいままで通り康成って呼ぶけどな」
「当たり前だ。智也にヤスくんなんて呼ばれたらこそばゆい」
「ねぇ、私はヤスくんって呼んでいいの」
「いいよ」
こころの口元がほころび「よかった」と呟いた。こころの安堵の表情に康成は見惚れてしまった。
パチンと耳たぶに何かが当たった。
んっ、なんだ。
「康成、鼻の下が伸びているぞ」
「そ、そんなことないだろう。まったく」
智也は優しい眼差しをこころに向けていたかと思うと、頬をそよ風が撫でていき「こころの笑顔を見せてくれてありがとう」との言葉が耳を掠めていった。
えっ、なに。
智也は目の前にいるのに、声が耳元でした。これはいったいどういうことだ。心の声とでも言うのか。あっ、そうだ智也はこの世の者ではない。霊体だ。しかも神様となる存在だ。動かなくても耳元で囁くことくらい容易いことなのだろう。
あっ、そんな場合じゃなかった。
「なあ、智也。親子のことどうすればいいと思う。どこの誰だかわからないし今のままでは助けようがない」
「そうだな。もしかしたらその親子が神社に参拝に来ていたかもしれないな。そのとき康成は映像を見たって可能性もある」
参拝に。それだけでさっきの映像が見えたというのか。
「ねぇ、何の話をしているの」
「実は……」
こころに今朝見えた謎の映像の話をした。
「そうなんだ。ヤスくん、凄いね。もしかしてそれってお告げみたいなものかな」
お告げ。なるほど。智也は参拝に来た人じゃないかと言うし。けど、そうだとしたら参拝に来た人たちの全員の願いを感じ取ってしまうことになる。おそらく、それはない。
康成は再び黙考した。
神様が吟味して映像を見せているとしたらどうだろう。そうか、神社で直接訊いてみればいいじゃないか。今なら神様の姿も声もわかるはず。
「智也、ちょっと猿田神社に行って訊いてみるよ」
「わかった」
智也はそれだけ口にするとスッと姿を消した。
「あっ、お兄ちゃん行っちゃった」
「こころ、一緒に神社に行ってみようか」
こころは智也の消えた先を見ていたが振り返り頷いた。
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