15 / 59
第二話「心の闇を消し去るしあわせの鐘を鳴らそう」
人生計画書に記された使命
しおりを挟む「凄いな、ここ」
「そうだろう。また康成とこうして話せるとは思っていなかったよ」
「そうだな。けど、智也が神様修行するなんて驚きだよ」
智也も天国で過ごすものだと思っていたらしい。だが、康成を助けたことにより霊格が上がったらしく神様となる資格を得てこのアパート『神成荘』に来ることになったそうだ。不思議な縁だ。神様の声が聞える祖母はすでに知っていたようだが。
「康成の霊感もだいぶ強くなっているようだな」
「ああ、そうみたいだ。あそこにいる子狼も子天狗も子烏天狗も子蛇も神様の眷属なんだろう」
「そうだ。人助けをすることで修行になるらしい」
なるほどな。このアパートはあっちの世界の修行の場になっているってことか。
「そういえば、キンも神様の眷属なのか」
「あの猫か。あいつは違うな。けど、神様と人とを繋ぐ役割を持っているのかもしれない」
んっ、なんだ。いつの間にかやってきていたキンが胡坐をかいた膝の上に乗ってきた。噂をすればなんとやらってやつか。本当に不思議な猫だ。
「キン、おまえって人の言葉わかっているのか」
なんとなく訊いてみた。もちろん返事はない。ただチラッとだけ睨まれただけだ。そんなこと訊くなと言いたいのだろうか。
「康成はキンに好かれているんだな」
「そんなことないよ。いまだに撫でさせてくれないんだから」
「そうか。もしかしたら今なら撫でられるかもよ」
確かに膝上にいるキンなら。康成はゆっくりとキンの背中に手を持っていく。いつもならサッと逃げてしまうのだが、今日は違った。おっ、撫でさせてくれるのか。キンの毛並みは柔らかで触り心地がよかった。これって認められたってことなのか。神様修行の場であるアパートに来ることが出来た時点で自分は何かが変わったのかもしれない。智也もはっきり見えているし、想像上と思われていた者たちも今はしっかりとこの目に映る。きっと、神様の声も姿もわかるに違いない。
「そうだ、智也に訊きたいことがあるんだ」
「なんだ」
「なんで身代わりになんかなったんだよ」
「そんなことか。俺はただ康成を守りたかっただけだよ。それが俺の役目だったからな。それに康成には生まれながらにしての使命がある。たくさんの人を助けるという使命がな。死なすわけにはいかなかったんだよ」
えっ、そんな使命があるのか。人助けって言われても何をすればいいのだろう。
「僕に人助けなんてできるかな」
「まあ、それはあいつらが手伝ってくれるさ」
神様の眷属たちが頷いていた。なるほど。使命か。
「なんだか使命なんて言われるとすべて生まれる前から決まっていたみたいだな」
「ああ、そうだ。けど、決めたのは康成自身だぞ。覚えていないだろうけどな」
そうなのか。まったくそんな記憶はないけど智也といればあっちの世界のこともわかりそうだ。
「覚えていない。僕はどんな人生を送るか知っているか」
「ああ、それはさっきも言ったように人助けをする人生だ。俺たちとともにな。康成が生きていないとできないことなんだよ。まあそのへんはゆっくり話そう。時間はある」
時間はあるか。
「そういえばさ、智也って小さいころに婆ちゃんに、じゃなくて路子さんに会っているって本当か」
「なんだ、今更」
「知らなかったからさ。こっちへ来てはじめて聞いたんだよ」
「ふーん、確かに会っている。これも運命だったのかもな。俺の人生計画書がそうなっていたってことだろう。あの両親の事故もな」
人生計画書⁉
そんなものがあるのか。一人一人人生計画書があるってことか。そこに自分の場合は人助けをすると書かれているのだろう。それよりも事故のこと思い出させてしまって申し訳ない。
「ごめん、変なこと思い出させちまったよな」
「いや、平気だ。俺もすでに人ではないから、両親とも再会しているし今はスッキリした気分だ」
「そうか。そんなものなのか」
「不思議と気分はいい。あっそうそう、俺はこれからも康成を手助けするからな。それが神様修行になるらしいから」
そうなのか。よくわからないけど、また智也とともにいられるか。まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。不思議な巡り合せだ。
んっ、待てよ。智也はこのままいけば神様になるってことか。自分は神様と友達でいられるってことか。神様がこんなにも近い存在でいいのか。康成は一瞬だけ考えてそれでいいと頷いた。子供の頃は神様と普通に話していた。友達みたいに。もともと神様は身近な存在だった。神様は素直で一生懸命な人が好きらしいから、そうあろうと思う。
それにしても自分はどんな人生計画を立てたのだろう。まったく思い出せない。生まれ変わる前に皆どんな人生を送るのか決めてくるって面白い。けど、途中で変更することもあるらしい。どちらにせよ、再び生まれ変わるということはまだまだ修行が足りないってことらしい。つまり、自分はまだまだだってことだ。
それに人は皆、なにかしらの役目があるらしい。
全部智也から聞いたことだ。これから智也にいろんなことを教わるのだろう。神様の眷属たちからもいろいろと学ぶのだろう。
智也は自分を助けるという役目を担っていた。亡くなってそうだったと思い出したそうだ。天国で両親とも再会して一緒にまた過ごせると思ったのだが智也は神様となる道を示されたという。
人によっては生まれ変わる準備期間を与えられる者、地獄行きを突きつけられる者、仏の道を行けと言われる者、智也のように神様の道を言い渡される者もいる。
面白い話だ。あの世の理を教わるとは思ってもみなかった。
智也はこんなことも話してくれた。
人の世で人生計画から道を逸れて暴走してしまう者がときどき現れるらしい。覚えていなくてもなんとなく計画書の通り自然と進めるようになるのが普通なのに。
康成はその暴走してしまう者を救わなくてはいけない。道を逸れてしまった者たちを正しい道に戻すのが康成の役目だ。それが康成の人生計画書にしっかり記されているという。覚えていないけど。
「頑張れよ。俺も手助けはするけどな」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
神さま御用達! 『よろず屋』奮闘記
九重
キャラ文芸
旧タイトル:『よろず屋』奮闘記~ヤマトタケルノミコトは、オトタチバナヒメを諦めない!~
現在、書籍化進行中!
無事、出版された際は、12月16日(金)に引き下げ、レンタル化されます。
皆さまの応援のおかげです。ありがとうございます!
(あらすじ)
その昔、荒れ狂う海に行く手を阻まれ絶体絶命になったヤマトタケルノミコトを救うため、妻であるオトタチバナヒメは海に身を投じ彼を救った。
それから千年以上、ヤマトタケルノミコトはオトタチバナが転生するのを待っている。
アマテラスオオミカミに命じられ、神々相手の裏商売を営む『よろず屋』の店主となったヤマトタケルノミコトの前に、ある日一人の女性が現れる。
これは、最愛の妻を求める英雄神が、前世などきれいさっぱり忘れて今を生きる行動力抜群の妻を捕まえるまでのすれ違いラブコメディー。
あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします
ろいず
キャラ文芸
旧題:嫁入り先は、祓い屋<縁>でした。
キャラ文芸大賞にて優秀賞をいただきました。皆様のおかげです。ありがとうございます。
書籍化いたしました。
春日和に、ミカサは嫁入りをした。
相手は顔の上半分を布で隠した青年、コゲツだった。
「顔を見られては困る」と言い、妻のミカサにも素顔を見せないコゲツだが、二人は夫婦として暮らしていく。
そんなある日、同級生の美空千佳が行方不明になる。
そして知る、ミカサが嫁いだ家は、祓い屋<縁ーえにしー>という人ならざるものを祓うことを生業にしている家だった。
仲町通りのアトリエ書房 -水彩絵師と白うさぎ付き-
橘花やよい
キャラ文芸
スランプ中の絵描き・絵莉が引っ越してきたのは、喋る白うさぎのいる長野の書店「兎ノ書房」。
心を癒し、夢と向き合い、人と繋がる、じんわりする物語。
pixivで連載していた小説を改稿して更新しています。
「第7回ほっこり・じんわり大賞」大賞をいただきました。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる