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第二話「心の闇を消し去るしあわせの鐘を鳴らそう」
人生計画書に記された使命
しおりを挟む「凄いな、ここ」
「そうだろう。また康成とこうして話せるとは思っていなかったよ」
「そうだな。けど、智也が神様修行するなんて驚きだよ」
智也も天国で過ごすものだと思っていたらしい。だが、康成を助けたことにより霊格が上がったらしく神様となる資格を得てこのアパート『神成荘』に来ることになったそうだ。不思議な縁だ。神様の声が聞える祖母はすでに知っていたようだが。
「康成の霊感もだいぶ強くなっているようだな」
「ああ、そうみたいだ。あそこにいる子狼も子天狗も子烏天狗も子蛇も神様の眷属なんだろう」
「そうだ。人助けをすることで修行になるらしい」
なるほどな。このアパートはあっちの世界の修行の場になっているってことか。
「そういえば、キンも神様の眷属なのか」
「あの猫か。あいつは違うな。けど、神様と人とを繋ぐ役割を持っているのかもしれない」
んっ、なんだ。いつの間にかやってきていたキンが胡坐をかいた膝の上に乗ってきた。噂をすればなんとやらってやつか。本当に不思議な猫だ。
「キン、おまえって人の言葉わかっているのか」
なんとなく訊いてみた。もちろん返事はない。ただチラッとだけ睨まれただけだ。そんなこと訊くなと言いたいのだろうか。
「康成はキンに好かれているんだな」
「そんなことないよ。いまだに撫でさせてくれないんだから」
「そうか。もしかしたら今なら撫でられるかもよ」
確かに膝上にいるキンなら。康成はゆっくりとキンの背中に手を持っていく。いつもならサッと逃げてしまうのだが、今日は違った。おっ、撫でさせてくれるのか。キンの毛並みは柔らかで触り心地がよかった。これって認められたってことなのか。神様修行の場であるアパートに来ることが出来た時点で自分は何かが変わったのかもしれない。智也もはっきり見えているし、想像上と思われていた者たちも今はしっかりとこの目に映る。きっと、神様の声も姿もわかるに違いない。
「そうだ、智也に訊きたいことがあるんだ」
「なんだ」
「なんで身代わりになんかなったんだよ」
「そんなことか。俺はただ康成を守りたかっただけだよ。それが俺の役目だったからな。それに康成には生まれながらにしての使命がある。たくさんの人を助けるという使命がな。死なすわけにはいかなかったんだよ」
えっ、そんな使命があるのか。人助けって言われても何をすればいいのだろう。
「僕に人助けなんてできるかな」
「まあ、それはあいつらが手伝ってくれるさ」
神様の眷属たちが頷いていた。なるほど。使命か。
「なんだか使命なんて言われるとすべて生まれる前から決まっていたみたいだな」
「ああ、そうだ。けど、決めたのは康成自身だぞ。覚えていないだろうけどな」
そうなのか。まったくそんな記憶はないけど智也といればあっちの世界のこともわかりそうだ。
「覚えていない。僕はどんな人生を送るか知っているか」
「ああ、それはさっきも言ったように人助けをする人生だ。俺たちとともにな。康成が生きていないとできないことなんだよ。まあそのへんはゆっくり話そう。時間はある」
時間はあるか。
「そういえばさ、智也って小さいころに婆ちゃんに、じゃなくて路子さんに会っているって本当か」
「なんだ、今更」
「知らなかったからさ。こっちへ来てはじめて聞いたんだよ」
「ふーん、確かに会っている。これも運命だったのかもな。俺の人生計画書がそうなっていたってことだろう。あの両親の事故もな」
人生計画書⁉
そんなものがあるのか。一人一人人生計画書があるってことか。そこに自分の場合は人助けをすると書かれているのだろう。それよりも事故のこと思い出させてしまって申し訳ない。
「ごめん、変なこと思い出させちまったよな」
「いや、平気だ。俺もすでに人ではないから、両親とも再会しているし今はスッキリした気分だ」
「そうか。そんなものなのか」
「不思議と気分はいい。あっそうそう、俺はこれからも康成を手助けするからな。それが神様修行になるらしいから」
そうなのか。よくわからないけど、また智也とともにいられるか。まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。不思議な巡り合せだ。
んっ、待てよ。智也はこのままいけば神様になるってことか。自分は神様と友達でいられるってことか。神様がこんなにも近い存在でいいのか。康成は一瞬だけ考えてそれでいいと頷いた。子供の頃は神様と普通に話していた。友達みたいに。もともと神様は身近な存在だった。神様は素直で一生懸命な人が好きらしいから、そうあろうと思う。
それにしても自分はどんな人生計画を立てたのだろう。まったく思い出せない。生まれ変わる前に皆どんな人生を送るのか決めてくるって面白い。けど、途中で変更することもあるらしい。どちらにせよ、再び生まれ変わるということはまだまだ修行が足りないってことらしい。つまり、自分はまだまだだってことだ。
それに人は皆、なにかしらの役目があるらしい。
全部智也から聞いたことだ。これから智也にいろんなことを教わるのだろう。神様の眷属たちからもいろいろと学ぶのだろう。
智也は自分を助けるという役目を担っていた。亡くなってそうだったと思い出したそうだ。天国で両親とも再会して一緒にまた過ごせると思ったのだが智也は神様となる道を示されたという。
人によっては生まれ変わる準備期間を与えられる者、地獄行きを突きつけられる者、仏の道を行けと言われる者、智也のように神様の道を言い渡される者もいる。
面白い話だ。あの世の理を教わるとは思ってもみなかった。
智也はこんなことも話してくれた。
人の世で人生計画から道を逸れて暴走してしまう者がときどき現れるらしい。覚えていなくてもなんとなく計画書の通り自然と進めるようになるのが普通なのに。
康成はその暴走してしまう者を救わなくてはいけない。道を逸れてしまった者たちを正しい道に戻すのが康成の役目だ。それが康成の人生計画書にしっかり記されているという。覚えていないけど。
「頑張れよ。俺も手助けはするけどな」
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