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プロローグ
しおりを挟む「ねぇねぇ、お兄ちゃん」
「んっ、どうした」
「このへんに天狗さんや龍さんや狼さんが住むアパートがあるんだって。知っている?」
えっ、そんなアパートがあるのか。夢の話だろう、そんなこと……。まあいいや、話を合わせておこう。でも、本当にあったらいいとは思った。
「知らないなぁ」
「そっか、残念」
智也はこころの頭を撫でて微笑んだ。
「こころ、そんな話だれから聞いたんだ」
「えっとね。忘れた」
「そうか、そんなアパートあったら面白そうだよな」
「うん」
こころの笑顔と返事に答えるかのようにあたたかな風が頬を撫でていき、小鳥が楽し気に鳴きながら空に舞った。智也は足を止めてふと空を仰ぎ見て笑みを浮かべる。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「こころ、あそこ見てごらん。あの雲、龍に見えないか」
指差す先に目を向けるこころの顔に再び笑顔の華が咲く。
「うわぁ、本当だ。すごい、すごい」
龍か。龍って本当にいるのだろうか。智也ははしゃぐこころを横目にして再び空を見上げた。こころの話って本当だろうか……いや、きっと本当だ。信じよう。そのほうが楽しいじゃないか。
「おや、龍神さんに歓迎されているみたいだねぇ」
背後からの声にハッとして振り返ると、お婆さんがニコリとしていた。
「ごめんよ。驚かせてしまったねぇ」
「お婆ちゃん、あの雲は本当に龍なの」
「そうかもしれないねぇ。ふたりは龍神さんに良いご縁をいただいたってことだねぇ。これはすごいことなんだよ。でもね、私のことはお婆ちゃんじゃなくて路子と呼んでおくれ」
「うん」
「いい返事だねぇ」
こころはお婆さんに褒められちょっと照れ臭そうにしていた。
「智也、こころ、早く来なさい。猿田さんにお参りするんだからね」
母の声に智也は「今行く」と返事をしてこころと手を繋ぐとお婆さんに会釈して父と母のもとへ駆けていった。
*
「あの子たちとはまたいつか会うような気がするねぇ」
路子は駆けていく二人の背を見て呟いた。
「心の綺麗な子たちだったぞ」
小さな碧色の蛇が足元で呟くと子狼に小天狗に小烏天狗もやってきて頷いていた。
「男の子には神様の素質があるようだしな」と小天狗が付け加えた。
***
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