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第5章 トラブルは突然に
(5-9)
しおりを挟む防犯カメラを設置した次の日。
残念ながら、ストーカーは映っていなかった。颯は映像が終わったあとも、画面をじっとみつめていた。
空振りか。そんなすぐには来ないか。けど、きっとまた来るはずだ。
「結衣、今日は休みだったよな」
「そうだよ」
「よし、なら一緒に警察に行こう」
「えっ、お兄ちゃんは仕事でしょ」
「今日は休む。事情は上司に話して許可を得ているから気にするな」
「わかった。私のためにごめんね」
結衣は申し訳なさそうに俯き、小さく息を吐く。
「謝ることはないさ。とにかくストーカー野郎を捕まえてもらわなきゃ安心して出掛けられないだろう」
「そうだね」
なんだかいつもの結衣じゃないみたいだ。暗いオーラが纏っている。少し目の下に隈もできている。
「警察に行く前に花屋『たんぽぽ』に寄っていくからな。盗聴器が仕掛けてあったって言っていただろう。それがあれば警察も動いてくれるだろう」
こくりと頷き溜め息を漏らす結衣。こんな結衣は見たくない。なんとしてでも、ストーカー男を捕まえてもらわなくてはいけない。
早く解決させて、結衣の笑顔が見たい。
「大丈夫だ。守ってやるから」
「うん」
「じゃ行くぞ」
颯は結衣を助手席に乗せて車を走らせた。
結衣は、なにやらスマホをいじっている。そう思ったら、結衣が「梨花さん、店で待っている」ってと声をかけてきた。
そうか、もう梨花は花屋にいるのか。すでに、仕事をしているのだろうか。まだ午前七時を少し回ったばかりなのに。花屋ってそんなに朝早くから仕事をしているのか。
***
梨花は落ち着かず花屋の店先で待っていると、一台の車が走ってきた。
「あっ、颯さん来た」
車から降りて来た颯は、節子と自分に軽く会釈をして「おはようございます。あの盗聴器は」と口にする。
「あっ、はい。これです」
梨花は颯に盗聴器を手渡すと、結衣も車から降りて来てお辞儀していた。なんだか、結衣は疲れた顔をしている。眠れなかったのだろうか。あんなことがあったのだから、そうなるのは当然か。
自分にできることなんてないけど、早く解決させなくちゃダメだ。
「結衣さん、大丈夫だよ。あたしたちもいるからねぇ。ストーカーになんて負けるんじゃないよ」
「節子さん、ありがとうございます」
節子も思いは一緒だ。後ろで頷いている庄平もまた同じ気持ちのはずだ。
「ニャッ」
「ほら、ツバキもいるって言っているよ」
結衣は少しだけ口角をあげた。
「ありがとうね、ツバキちゃん」
「結衣、行こう」
颯に促されて結衣は再びお辞儀をして、車へ戻っていく。そのとき、颯に誰かがぶつかってきた。歩道に倒れ込む颯。その向こうで手首を掴まれて抵抗している結衣がいた。
なに、どういうこと。
あっ、帽子にマスクの男。
こいつがきっとストーカー男だ。嘘でしょ。もしかして、二人を尾行していたの。
そうか盗聴器を奪いに来たのね。
ちょっと待って。盗聴器の存在がばれたことを知っているはずがない。それじゃ、なんでここにいるの。結衣を連れていくつもりで尾行していたってことか。そんなのダメ。
気づいたら梨花は、マスク男に体当たりしていた。
ストーカー男は、掴んでいた結衣の手を放したが倒れることなく睨みつけてきた。
「梨花さん、危ない」
颯の声に反応してしまい動きが一瞬遅れた。ストーカー男の手にはナイフが握られている。そのナイフをこっちへ向けて近づいてきた。
刺される。殺されてしまう。
死にたくない。
逃げなきゃ。
梨花は後退りをしていくが思ったほど動けていない。ダメだ。
ナイフが太陽の光に反射して、顔を背けた。
すぐそこまで足音が近づいていくる。
足が震える。どうして、動いてくれないの。
最悪の事態が頭に浮かぶ。
『私は、死ぬの』
嫌だ。誰か助けて。
反射的に手を前に出して防御姿勢をとり、瞼を閉じて下を向く。
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