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第4章 花ホタルの花言葉
(4-16)
しおりを挟む梨花は、部屋を見回してひとり頷く。
『よし、今日は掃除に洗濯に気合入れていくぞ』
自分って、なんて単純なんだろう。助手席の彼女が妹だとわかったら、霧が晴れたみたいにスッキリしちゃった。
どうせなら、部屋の模様替えもしてみようか。なんだか見る景色全部がキラキラしている。いつもと同じはずなのに。
仕事疲れもどこかへ飛んでいってしまったみたい。
結衣のことを思い出して、フッと笑う。一緒にいると明るい気分にさせてくれる。楓もそうだけど、また違った感じの明るさがあるのかも。
そういえば最近、花屋に楓が来ないけどどうしたのだろう。迷惑になるからあまり行かないようにって、母親にでも言われたのだろうか。そこは家庭の事情もあるからあまり立ち入れないけど。
ふいに、颯の笑顔が頭に浮かぶ。
楓のこと考えていたのに、変ね。同じ風の漢字があるからだろうか。関係ないか。
今頃、颯は何しているだろう。
『颯さん』
嫌だ、もう。下の名前で呼んじゃった。妄想の中だから問題ないか。どうせなら、呼び捨てにしちゃおうか。
「颯」
声に出してみたとたん、顔が熱くなる。
まったく、なにをしているのだろう。
『私って、馬鹿なの』
妄想の達人にでもなるつもり。現実にそうなるように、頑張らなきゃダメでしょ。
できるかな。
そう考えたところで、自分には無理だと首を振る。なんでこうも自信が持てないのだろう。
溜め息を漏らして、たま首を振る。
今は、部屋を綺麗にするの。洗濯に掃除でしょ。
梨花は洗濯機を回して、掃除機をかけつつも頭の中では颯のことばかり考えていた。結衣も登場するが、やっぱりメインは颯だ。それでも、気づけば片付いていなかった部屋が見違えるように変わっていた。
おお、スッキリした。妄想していてもバッチリじゃない。
あっ、花ホタルがちょっと萎れている。
水やっていなかったかも。ここのところ夏日だったからかもしれない。暑くなるとこの部屋も熱気が籠ってしまうから気をつけなきゃ。いくら花言葉がよくない言葉でも、花が悪いわけじゃない。きちんとお世話して枯らさないようにしないと。
「ごめんね、花ホタルさん」
花に話しかけるのもいいなんて聞くけど本当だろうか。命があるものだから、なんらかの反応はあってもおかしくはない。それなら話しかけてあげよう。
「元気になってね。お水をあげるからさ」
そうだ、こんど神社にでも行ってこようか。颯との縁結びお願いしてこよう。けど、そんな神社はあっただろうか。
少し考えて、ひとつの神社が思い浮かぶ。
ただ縁結びの願いを叶えてくれるかどうかわからない。そういえば病院の近くに、観音様があった。観音様って縁結びとかしてくれるのだろうか。わからないけど、真剣にお願いすればきっと通じるはず。今度の休みに行ってみよう。
梨花はふとスマホにLINEのメッセージがあることに気がつき、確認すると結衣からだった。
『今日はありがとう。来週また行きますね』
結衣とLINEの交換をしていたのを忘れていた。
『待っていますね。ちなみに水曜日は定休日ですから』
そう返すと『はーい』とすぐに返ってきた。
結衣とは、いい友達になれそうだ。
それならば、颯とだって。
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