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第4章 花ホタルの花言葉
(4-2)
しおりを挟む「うっ」と、小さく呻き声を上げて、顔を顰める。
やってしまった。
水を入れてあったバケツを蹴飛ばしてしまった。運よく水がそんなに入っていなかったから、大惨事にはならずに済んだ。
もう、何をしているのだろう。これじゃ、働きに来ているのか、邪魔しに来ているのかわからない。
これも、すべて小宮山のせいだ。
違う、違う。そうじゃないでしょ。付き合っているわけじゃないんだから。
溜め息を漏らして、蹴飛ばしてしまったバケツを片付ける。
ダメだ。小宮山の顔が、どうしてもちらついてしまう。同時に、車の助手席にいた女性のことも思い出してしまった。
『もう、イヤ。思い出したくない。どっかいってよ』
ああ、頭も痛い。昨日は、飲み過ぎたかも。ちょっと二日酔いだ。
こんなんじゃダメでしょ。仕事をなんだと思っているの。頑張らなきゃダメでしょ。朝から何回やらかしているのか。切り花の茎を切り過ぎてしまったり、釣銭の準備をしていて、ばら撒いてしまったりと最悪。
こんな体たらくじゃ解雇されたって文句を言えない。こんなにも精神的ダメージを受けるなんて思ってもみなかった。
「どうしたんだい。心ここにあらずって感じだねぇ。さっきから溜め息ばかりしているしねぇ」
「あっ、節子さん、すみません」
まったく何を落ち込んでいるの。仕事中でしょ。あの人のことは忘れなさい。もっといい人と出会えるはずだ。たぶん、きっと。梨花は心の内で自分に言い聞かせる。
本当にあの人以上の男性と会えるのだろうか。
馬鹿、馬鹿。もう考えないの。あの人だってどんな人か、わかっていないじゃない。一回会っただけじゃない。本当に優しい人かどうかもわからないじゃない。
ダメだ。頭からあの人の笑顔が消えてくれない。
『小宮山さん』
またしても、溜め息を漏らしてしまう。
「具合が悪いなら早退してもいいんだよ」
「えっ、そういうわけじゃ。大丈夫です」
「もしかして、恋煩いってやつかねぇ」
嘘でしょ。完全に気づかれている。
「おや、その顔は、図星だったかい。仕事に支障になるようじゃいけないねぇ」
「すみません。私、頑張ります」
節子の言う通りだ。とにかく忘れよう。今は仕事に集中しなきゃいけない。
「あれ、あの人はあのときの人じゃないかい」
あのときの人って。まさか。身体中がカァーッと熱くなる。
ガシャン。
振り向きざまに、植木鉢を落としてしまった。最悪のダブルパンチだ。
「大丈夫ですか」
「はい、大丈夫です」
梨花は箒を持ってきて、急いで割れた植木鉢を片付けた。
どうして、あの人が。ドキドキが止まらない。
扉を開けて入って来たのは小宮山だった。
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