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天才魔封術使いと呼ばれる少年
パーティへの招待
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アルスは再び辞書を手に古代文字の解読を再開する。訳して書き写しながら、横目でエリオンを見た。
「で、一体、何の用なんだ?」
アルスはエリオンに本題を尋ねた。彼はよくここへ遊びに来るが、いつもはこの時間には来ない。普段はこの時間に家庭教師が来ているからだ。彼の祖父が雇った家庭教師たち。大体、毎日同じ時間に、その日の科目担当の家庭教師がやって来る。だから、今日は普段のように暇を持て余して遊びに来たというのではあるまい。
「ああ、そうそう。今日はお前を誘いに来たんだ。1週間後にうちでパーティをやるんだけどよ。お前も来いよ。」
本題らしいその話題にアルスは訝しげに眉を顰めた。なぜなら、彼の祖父はアルスのことを嫌っている。オーテッド家の跡取りであるエリオンにアルスは相応しくないという。
確かに名門であるオーテッド家といえば地位も名誉もある家柄だ。
それに対して、アルスといえば、叔父は力のある有名な魔封術使いで貴族ではないが、国王から貴族と同じ地位を与えられている。だが、それは叔父ラムド個人に対してでアルスは関係ない。つまり、アルスはただの魔封術使いで平民でしかない。
最近はアルスも実力をつけてきて、天才魔封術使いなどと世間では言われているが、まだまだ経験は浅いし、オーテッドという家柄に釣り合う地位や名誉があるかと問われると、正直、ない。
しかし、エリオン自身は全く気にしておらず、さらにそのことに関しては祖父の言いなりになるつもりもない様子だったが。
彼は出会ったときから、変わらずアルスを友人だと言い張り続けている。友達は自分で決めるから、お前は気にする必要はない。とアルスに言って、友達付き合いを続けて今に至る。
「オーテッド家パーティに?お前のお祖父さんが嫌がるだろ。」
アルスは訳が分からない。アルスを嫌っているエリオンの祖父が、オーテッド家のパーティに招待するなどあり得ないと思うのだが。
オーテッド家はよく貴族や有名人たちを招いてパーティを催している。
エリオンが言うには『金と権力を自慢したいだけの成金趣味なパーティ』なのだそうだ。
そのパーティにアルスが呼ばれるなど何かの間違いではないだろうか。そんなアルスの疑問にエリオンはニヤリと笑った。
「ジジイは最初、反対したけど、母さんが説得したんだ。」
エリオンは楽しげに言う。
エリオンの母親は病弱で寝ていることが多く、屋敷どころか部屋からもあまり出ることがないらしい。
「母さんがずっと、お前に会ってみたいって言ってたから、一度お前に会わせたかったんだよな。
いつもはジジイがうるさくてお前を家に連れてけねぇだろ。だけど最近、お前、天才魔封術使いとか言われてんじゃん。これを利用して、パーティに参加って理由でなら、うちに呼べんじゃねぇかと思ってよ。
まあ、最終的には母さんがおれの友人のお前に会ってみたいって泣き落として許可が出たんだけどさ。」
つまりはアルスを母親に会わせるために、エリオンはアルスをパーティに参加させたいのだ。
病弱で部屋から出ることもままならないエリオンの母親は、外でアルスと会うなど出来ない。だが、家はアルスを嫌っている祖父の目が厳しく、簡単に家に呼ぶなど不可能だった。
そういうことなら、アルスも断る理由はなかった。
それにアルスもエリオンの母親には会ってみたかった。アルス自身は小さい頃に両親を魔物に殺されている。
父親の顔も母親の顔ももう忘れてしまった。
思い出せるのは彼らが魔物に殺された瞬間の姿と地面に倒れた後の血だらけの姿。
楽しい思い出もあったのかもしれないが、今のアルスに残っているのはその記憶と魔物に対する憎悪だけ。
エリオンが大切にする母はとても優しくて息子を大事に思っている人らしい。
だから、会ってみたかった。
今はつらい場面しか思い出せない自分の両親もきっとエリオンの母と同じように優しくアルスのことを大切に思っていたに違いないから。
両親の暖かさを思い出したいのかもしれない。
「わかった。それなら、喜んで参加させてもらうよ。」
その返事にエリオンはガッツポーズで喜んだ。
さすがに、それにはアルスも呆れた。アルスが家に来るということより、身体の弱い母親が喜んでくれるのが嬉しいというガッツポーズだとわかるからだ。
「・・・お前ってホントにマザコンだよね。」
アルスは以前から思っていたことを口にする。
そんなアルスの言葉にエリオンは悪びれる様子もなく、平然と頷いた。
「かもな。だけど、母さんの願いは出来るだけ叶えてぇんだ。」
堂々のマザコン発言にアルスは何も言えず、ただ脱力した。
この時のアルスにはエリオンの言葉の裏にある事情や、今まで頑固に反対していた彼の祖父がなぜ、今回に限りアルスのことを許可したのかなど、知る由もなかった。
「で、一体、何の用なんだ?」
アルスはエリオンに本題を尋ねた。彼はよくここへ遊びに来るが、いつもはこの時間には来ない。普段はこの時間に家庭教師が来ているからだ。彼の祖父が雇った家庭教師たち。大体、毎日同じ時間に、その日の科目担当の家庭教師がやって来る。だから、今日は普段のように暇を持て余して遊びに来たというのではあるまい。
「ああ、そうそう。今日はお前を誘いに来たんだ。1週間後にうちでパーティをやるんだけどよ。お前も来いよ。」
本題らしいその話題にアルスは訝しげに眉を顰めた。なぜなら、彼の祖父はアルスのことを嫌っている。オーテッド家の跡取りであるエリオンにアルスは相応しくないという。
確かに名門であるオーテッド家といえば地位も名誉もある家柄だ。
それに対して、アルスといえば、叔父は力のある有名な魔封術使いで貴族ではないが、国王から貴族と同じ地位を与えられている。だが、それは叔父ラムド個人に対してでアルスは関係ない。つまり、アルスはただの魔封術使いで平民でしかない。
最近はアルスも実力をつけてきて、天才魔封術使いなどと世間では言われているが、まだまだ経験は浅いし、オーテッドという家柄に釣り合う地位や名誉があるかと問われると、正直、ない。
しかし、エリオン自身は全く気にしておらず、さらにそのことに関しては祖父の言いなりになるつもりもない様子だったが。
彼は出会ったときから、変わらずアルスを友人だと言い張り続けている。友達は自分で決めるから、お前は気にする必要はない。とアルスに言って、友達付き合いを続けて今に至る。
「オーテッド家パーティに?お前のお祖父さんが嫌がるだろ。」
アルスは訳が分からない。アルスを嫌っているエリオンの祖父が、オーテッド家のパーティに招待するなどあり得ないと思うのだが。
オーテッド家はよく貴族や有名人たちを招いてパーティを催している。
エリオンが言うには『金と権力を自慢したいだけの成金趣味なパーティ』なのだそうだ。
そのパーティにアルスが呼ばれるなど何かの間違いではないだろうか。そんなアルスの疑問にエリオンはニヤリと笑った。
「ジジイは最初、反対したけど、母さんが説得したんだ。」
エリオンは楽しげに言う。
エリオンの母親は病弱で寝ていることが多く、屋敷どころか部屋からもあまり出ることがないらしい。
「母さんがずっと、お前に会ってみたいって言ってたから、一度お前に会わせたかったんだよな。
いつもはジジイがうるさくてお前を家に連れてけねぇだろ。だけど最近、お前、天才魔封術使いとか言われてんじゃん。これを利用して、パーティに参加って理由でなら、うちに呼べんじゃねぇかと思ってよ。
まあ、最終的には母さんがおれの友人のお前に会ってみたいって泣き落として許可が出たんだけどさ。」
つまりはアルスを母親に会わせるために、エリオンはアルスをパーティに参加させたいのだ。
病弱で部屋から出ることもままならないエリオンの母親は、外でアルスと会うなど出来ない。だが、家はアルスを嫌っている祖父の目が厳しく、簡単に家に呼ぶなど不可能だった。
そういうことなら、アルスも断る理由はなかった。
それにアルスもエリオンの母親には会ってみたかった。アルス自身は小さい頃に両親を魔物に殺されている。
父親の顔も母親の顔ももう忘れてしまった。
思い出せるのは彼らが魔物に殺された瞬間の姿と地面に倒れた後の血だらけの姿。
楽しい思い出もあったのかもしれないが、今のアルスに残っているのはその記憶と魔物に対する憎悪だけ。
エリオンが大切にする母はとても優しくて息子を大事に思っている人らしい。
だから、会ってみたかった。
今はつらい場面しか思い出せない自分の両親もきっとエリオンの母と同じように優しくアルスのことを大切に思っていたに違いないから。
両親の暖かさを思い出したいのかもしれない。
「わかった。それなら、喜んで参加させてもらうよ。」
その返事にエリオンはガッツポーズで喜んだ。
さすがに、それにはアルスも呆れた。アルスが家に来るということより、身体の弱い母親が喜んでくれるのが嬉しいというガッツポーズだとわかるからだ。
「・・・お前ってホントにマザコンだよね。」
アルスは以前から思っていたことを口にする。
そんなアルスの言葉にエリオンは悪びれる様子もなく、平然と頷いた。
「かもな。だけど、母さんの願いは出来るだけ叶えてぇんだ。」
堂々のマザコン発言にアルスは何も言えず、ただ脱力した。
この時のアルスにはエリオンの言葉の裏にある事情や、今まで頑固に反対していた彼の祖父がなぜ、今回に限りアルスのことを許可したのかなど、知る由もなかった。
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