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short story ※時系列バラバラです
一万円
しおりを挟む男ケ田銃蔵が熊谷と共に生離野山の別荘地を見回った帰り、〔道の駅 ろくどう〕に立ち寄った時のこと。
「それにしても……」
男ケ田は良太と榊を交互に見下し、眉を顰めて顎髭を擦った。
「榊、マジかよ」
「なにがですか」
「そいつを拒否ってるんじゃなかったのか」
「あの頃は良太も子供でしたからね。今はもう大人ですから」
ちゃんと付き合ってます、という榊の恋人宣言を聞いた良太は、
「どうも」
とはにかみつつ軽く会釈をして、俺たち実は付き合っちゃってます、みたいな雰囲気をだした。
「俺はな、桧村が花高の屋上でやらかしたとき、一万円を賭けてたんだが」
「ああ、あの時ですか」
あの時とは、かつて良太と榊が花園高校定時制の生徒だった頃の話である。
校舎の屋上がタイマンの聖地だと知らずに、一年の良太が上級生の榊を呼び出したことがあった。
目的は喧嘩ではなく恋の告白だったのだが、そうとは知らず「幹部の榊龍時vs新人の桧村良太」の対戦に多くの見物人が集まったのだ。
当時、男ケ田はどちらが勝つか賭けをしようという誘いに乗った。ちなみに言い出しっぺは月輪高校の幽銭。
ところが胴元に賭け金を預けようしたまさにその時、椿事は起きた。良太が対戦相手であるはずの榊に、好きです、と叫んだのだ。
呆気に取られて油断した刹那、一万円札は風に攫われ、
「どっか飛んでったんだぞ」
というわけだ。
その一件以来の男ケ田は、良太が榊に告るたびに振られ続けていると噂を聞けばこそ、一万円を失った溜飲が下がるというものであった。
「いやー、あれはびっくりしましたよね。てっきり下剋上かと」
「よね、じゃねえんだ」
「風のせいですよ」
賭けを持ちかけ、金を受け取り損ねた幽銭が悪い、と言わないあたりが榊の優しさ。
不機嫌そうに男ケ田が、どっかりと良太の隣に腰をおろす。
「なあ、桧村」
「……ハイ」
「誰のせいだ」
「一万円でしたら弁償します!」
「俺はお前に賭けてたんだ。あのまま殴り合ってれば、どちらが勝ったろうな」
「い、いや、分かんないっす」
「お前の方が力は強かろう、αだものな。となると俺は賭けに勝ってたはずだよな」
「そうとも限らな……」
「いくらの儲けになったろうなぁ?」
理不尽な詰めに良太は恐々として萎縮した。榊にはこれが男ケ田特有の親しみを込めた「イジり」だと分かるのだが、とはいえ、年下の可愛い恋人をあまりいじめてもらっては困る。
「良太が私を殴れるわけないですよ」
という榊の言葉に、そうです!と力強く肯定を示す良太だった。
「おうおう、仲のよろしいこと」
冷やかした男ケ田は何か思い付いたように、
「お前ら、ちょっと面白いものを見せてやろう」
とニヒルな笑みを浮かべたのであった。
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