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short story ※時系列バラバラです
コート
しおりを挟む良太と榊が付き合いはじめてから、何度目かの冬の夜のこと。
「コート買いました」
良太がマントのような黒いロングコートを翻して、待ち合わせ場所に現れた。
臙脂色の裏地に目をとめた榊が、
「ドラキュラみたいだな」
と言うと、良太は得意げに両腕を広げてくるりと回る。初めてドレスを着た、いたいけな女児のように。
夜とはいえそれなりに人通りのある場所だ。成人男性にそぐわないその仕草は、人々の目に奇異に映ることだろう。
しかし榊はむしろ、どうだ見ろよこの可愛くて美しい男を、と恥ずかしげもなくそこら中に言いふらしたい気分だった。
街衢を彩る無数のイルミネーション。黄金の瞬きを背後に従え、黒と赤の表裏した闇を着こなす良太は、本当に何百年も生きる吸血鬼のようだった。
良太は前裾をつかみ、ばさり、と蝙蝠のように双翼を広げて恋人を抱きしめた。
「やってみたかったんですよね、これ」
「吸血鬼ごっこか」
二人で頭だけ出してコートの内側に閉じこもる。
北風を遮った暖かい闇の中で榊は、自らハイネックの襟元を引っ張って首筋を晒す。
「晩餐の血はどうだ?」
墨色のカシミヤからのぞく白い肌。それは絹織物のようにしっとりとした光沢をもって、良太の目を眩ませた。芳しい肌の香りもまた、心地よい陶酔感をもたらす。
ご馳走を捧げられた魔物は欲望に逆らえず、その首に口元を寄せる。
榊は大人しく目を閉じ、固いエナメル質が皮膚に食い込む、甘やかな痛みを待っていたのだが──
「噛んだら同じ種族になってしまうから、噛みません」
と良太はこれを辞退した。
「私もαになったら、良太の苦労が分かるのに」
「俺は榊さんがαになって、Ωのフェロモンで穢れるのは嫌なんで」
そのままでいてください。
良太は囁き、情熱的な唇で肌を吸う。一片の花弁にも似たその痕は、魔物になりきれない男の愛念の証だ。
濃紺の冬空から紙吹雪のような雪が舞い降りてくる。お前は正しい、と天が正解の通知をくれたみたいだと良太は思った。
・
・
・
「でも吸血鬼に血を吸われるのは、もの凄い快感だとかいうよな」
「それは……」
「ああ、残念」
「このあと頑張ります!」
「ベッドの上で?」
「そうです!」
異種間の侵食を超えた、深い交わりを期待して。
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