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歌わない合唱部員と放送規制!

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 僕達は必死で校舎を走り回った。勿論、三人とも別々に。美吉野さんだけは単独行動が危険だと察し、彼女には悪いが僕と一緒に行くことにした。順番は変だが犯人が下原さんだとすると、次に狙われるのは僕のはず……だから、やっぱり、誰かと行動した方が良い。何より、彼女が僕といることを希望した。

「うん。……行こう! 全部集まったら、合唱部の部室に集合! 僕と美吉野さんは全部置いてくるから……」
「分かったわ。どうやら、教師がいないと予想される場所に置いてあるみたいだから、教師がいるクラスの方じゃなくて、特別教室、体育館。校庭を探した方が良さそうね。あたしは体育館。遠藤は校庭。二人には特別教室をお願いするわ」
「俺だけ……」拳が口を尖らしつつも、それ以上の不満を口にすることはなかった。
「るっさい……分かった。体育館が終わったら、校庭の捜索もいくから!」

 僕達四人は下原さんの捜索を兼ねたCDプレイヤーの回収を始めた。
 最初に部室でCDプレイヤーの状態を美吉野さんと共に確かめる。これに犯人の情報が残されてたら、いいのだが……。

「時間設定ができるとは。逆にアリバイのない人が増えたな……弱ったな……」僕は頭を抱え、部室の机に突っ伏した。

 机に転がった丸いCDプレイヤーが僕をコケにしているような気がして、腹が立つ。

「……探しましょう……きっと何かわけがあるんですよ。彼女にも……」
「意味なんてあるもんか。こんな精神がおかしくなりそうな悪戯に意味があるとしたら、美吉野さんを傷つけるってことだけだ。それだけはどうしても許せないんだよ……」

 彼女が歌っている姿。ピアノを弾いている格好。分からないことを一生懸命知ろうとする姿勢。確かに失敗して、格好悪いところはあるかもしれない。だからって、それを笑う理由にはならないじゃないか!
 
「ん?」CDプレイヤーとは違う音が頭上のスピーカーから声が流れてきた。
「ちょ、ちょっと……だけ聞いてみましょうか」美吉野さんが耳を澄ました。

 学校からの連絡かな……? 校内放送に少しだけ気持ちが和らいだ。良かった。教師がこの事態を治めようと放送をしてくれたのかな……。

「合唱部。星上 切、実は遠藤 拳と同じで――」
「ちょっと君!?」

 普段耳にしているから分かる。黒幕、下原 亜野の声。その言葉を急いで静止させる放送部員の声か……?
 彼女を捕まえる最高のチャンスだ。僕と美吉野さんは同じ階の放送室へと足を進めた。

「ねえ。亜野ちゃんが今、来たけどどうしたの?」

 放送部員の女子が美吉野さんの腕を掴んで、体を揺らした。何か、それに反応する彼女。可愛いな……。

「め、目が回るううううううぅ……」
「あ、ごめんね。真奈々ちゃん」

 放送部の部室。置いてある機械とその障害物となっている扉。扉の奥にはテーブルがある。ここで話をしていたとしても、彼女の姿に気づかなかったのかな? それに……。

「に、逃げられたものには……しょうが……ないよ。CDプレイヤーを探しに行こ?」
「う、うん」

 心残りはあったが、僕達は放送部員の彼女に頭を下げて教室を出た。
 ……部室や音楽室の階段近くとは違って、特別教室付近には教師が出入りする教科準備室があった。この辺りでCDプレイヤーの声が聞こえないならば、回収作業はしなくて良いかな。
 CDプレイヤーは教師がいない場所に置いてある傾向だから。

「……拳や赤城さんが言う割には……CDプレイヤーが落ちてないな」
「そうだね。ありがとね。こんなわたしのために……気にしてないから、大丈夫だよ」
「そ、そう」この時、僕の心拍数が速くなった。「……うん。何が嫌なことがあったら、教えてね」

 生徒の話し声が聞こえてくる。その中に美吉野さんの話はなかった……妙だな。設置されていたのは文化部の部室付近だけだったのか……?

 窓の外では春風が吹き荒れていた。
 
「そ、そう言えば。ちょっと外れてたね。星上君の推理……」

 隣で並んで歩く美吉野さんが声を掛けてきた。

「そうだね。僕は犯行の順番も考えたけど、逆だったね」
「うん。普通に考えると、あれだったんだよね……な、なんででしょう」

 赤城さん。拳。僕。美吉野さん。下原さん。入部した順番ではなかった。
 赤城さん。拳。ここまでは合っていたが、僕と美吉野さんの順番が逆だったのだ。
 しっかり僕の犯行を放送しようとしたのだから、ミス……ではないことは断言できる。

「一体、犯人は誰なのか。それにおかしいところがもう一つ」

 僕を狙った時の犯行が不確か過ぎる。美吉野さんへの話もそうだ。思い出したが、今は二、三年のテスト週間。勉強している場所でCDプレイヤーなど流した日には教師の怒鳴り声が響き渡るだろう。
 意外なことだが、僕達は捜査ができる事由があるのだ。
 それに気づいた美吉野さんは僕を部室に引きずり込んだ。「ちょっと来てください!」

 合唱部の部室に戻った彼女は、目を剥く僕へと話をした。

「そろそろ……話す頃ですね」

 彼女は下原さんのように窓を開けると、そこから身を乗り出す。

「危ない!」僕は彼女の腕を急いで掴むと、彼女は笑っていた。「な、何で」
「痛いですよー」
「あ、ごめん」
「飛び降りたり……できる度胸があるわけないですから……」

 同感。高いところから低いところを見ると、吐き気を催してしまうだろ? 絶対に窓から飛び降りてはいけない……と思う。
 彼女は他愛もない話を続けた。

「彼女が歌わない理由。昨日は、答えられなくて……ごめんなさい……」
「昨日は? 今日は答えられるの?」
「……ごめん」

 彼女は首を下に向けて、沈黙を通した。

「持ってきたぜ。……運動部の方に少し多かったかな。半分、埋まってたりもしてたし。まあ、全部集め終わった……俺にかかれば、この作業も楽勝だぁ!」
「嘘言いなさい! 私と二人でやったんでしょ」
「ぐへっ!?」

 入口に二人の部員が立っていた。拳と下原さんだ。彼らの努力は見てすぐに分かった。体に幾つか葉っぱがついていたからだ。
 下原さんが拳の頭をCDプレイヤーで小突いているが……彼女も協力しただと……? 全く持って意味不明。犯人は彼女のはずだ。何故、校内から逃げずに、各々と自分の仕掛けた道具を設置していたのだ?

「あたし達の後ろに立っている赤城さん。貴方が犯人よ。間違いないわ。共犯は星上君ってところかしら」
「え!?」

 僕達は彼女の後ろでCDプレイヤーを一つ落とした赤城さんを見つめた。自分は湧きだす汗を止まることができない。
 何で、合唱部でこんなことをする必要があるんだよ。もう諦めろよ。

 僕は赤城さんの元へ走り、誇らしく彼女の背中を押した。

「もっとも無実なら、誇ってよ!」
 
 その時、僕の服に何かが飛んだ。このザラザラする感触。土……?
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