完全犯罪計画部!~ご相談につきどんな完全犯罪でも創ります!~

夜野舞斗

文字の大きさ
上 下
33 / 40
2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談

30.黒い心眼には真実が宿る

しおりを挟む
「ユニちゃんを困らしちゃダメじゃない……」
「ああ……」

 彼女は少しだけ僕を叱ると、いつも通りの顔に戻り今後の計画を考え始めた。

「捜査を陽介君だけに任していた私たちにも問題はあるんだし……次は三人でいこうか」
「……次は犯人候補……湯治さんに……話を聞こう……」

 河井さんの考えに同意し、僕たちは客間へと迷わず直行した。まだ鈴岡警部が古臭いテーブルをはさんで、湯治さんと話している。これはチャンスにと僕たちは笑みを浮かべて、彼らに近寄った。

「あれ。鈴岡警部直々に事情聴取だなんて、珍しいですね」
「……なんだ? 東堂か。まだお前たちの事情聴取の番は回ってきていない。庭で待ってろ……」

 勿論、東堂さんは鈴岡警部に食い下がる。ここで諦めたら、捜査終了ですからね……

「私は湯治さんが見た状況を教えて欲しいんですよね。アリバイとかの主張とか……」
「えっと、君も僕を疑っているのかい? なんか悲しいなあ。僕はやっていないというのに」

 湯治さんは目で「自分は無実」だと主張している。確かに携帯電話の番号を忘れたり、死体をうごかしってしまったり……そこには少々疑いの余地はあるが、完全に黒といえる確証はどこにもないし、そうも思わない。いや。思えない。と言った方が適切だ。
 僕は彼にアリバイについて尋ねてみる。

「あの……コンビニに行ったって言ってましたが、レシートとかありますよね。まさか、捨ててませんよね」

 その答えは鈴岡警部が先に出した。

「いや。あるには、あるんだが。証言もある。近くのコンビニなんだ。それと死亡推定時刻を考えて、走ればギリギリ犯行が不可能ではないんだな。つまりは犯行が可能な人間が彼しかいないんだよな。一応、こっちは湯治さんが殺人を犯した後にコンビニへ行ったと思われる。」
「僕はやってません!」
「あれ……」

 東堂さんが小さく口を開けて、不可思議な事実の根拠を確認している。

「どうして……彼にしか可能な人間がいないと思うんですか? 強盗……の可能性だってありますよね」
「それはだな……鍵だ。鍵を開けて犯行をしている。湯治さんからは戸締りをして用事とコンビニに行ったという証言があるからな」
「……? としますと、最初から疑問に思っていたんですが。ここに集まった容疑者は合鍵を持っているということですか?」

 鈴岡警部は頷く。集めてはみたものの全員アリバイ持ちだった。その努力は徒労に終わった。少し悲しいが、少し疑問が残る。このまま彼が犯人だということにしてしまうと、永遠に悩みが打ち消されない感じがする。
 僕は湯治さんに頭の整理をさせてもらった。

「湯治さん。貴方は、まず何処か違う場所……外にいたんですよね」
「ええ。緊急でやんなきゃならない大学の研究レポート……自然についてのね。それがあって……勉強のために電話してくれたみたいだけど、出れなくてすまんな……それが終わってコンビニに行った」

 そこで鈴岡警部にも話しかける。疑問は残らず拭い去ったほうが良いと思うから。
 手は絶えず震えているが、随分と緊張がほぐれてきた。たまには、調子に乗ってみても、許されるだろう。

「えっと、荷物とかは……」
「荷物? ああ。コンビニの店員が証言してたな。確かに資料とかが入ってそうなリュックも持っていたし、さっき台所よりも奥にある部屋でそれを確認させて貰った」
「じゃあ、この部分はいいですね。では、湯治さん。その後に戻ってきて、死体を発見してしまった。ここで、僕たちが電話をかけて……」
「思わず触ったって訳だ。お願いします。警部さん……僕はやってません。その時に指紋がついたんです」

 湯治さんの言葉に鈴岡警部は何も言わなかった。ただ瞼を閉じて……静かに窓の外を見ていた。
 指紋について、何かあるのか……?

「ちょっと……いいですか……何で……黙ってるんですか? 指紋……について」
「何処にもついてなかった。そこの容疑者が用心のために消したんだろう」

 ……!東堂さんが微か、本当に僅かだけれど小さな微笑みを顔に出したみたいに……まるで、もう真実を見抜いたかのように。容疑者全員とも話していないのに、頭が回る……そんな彼女を見て、体を縮めてしまった。

「……で、警察を呼んで、待っているときに君たちが来た……でいいかい?」
「ええ。だいたい……ありがとうございました。そろそろ、ここを……」

 僕たちは客間に一礼してから、廊下に出た。今はもう、心が静まって清らかに。胸に手を当てて、東堂さんがたどり着いたはずの真相を考える。
 東堂さんも女子高校生。僕だって、高校生だ。彼女に負けてはいられない!

「何考えてんの?」
「いや。東堂さんには、もう犯人が分かったでしょ?」
「うん。犯人はね……けど、何か物足りない」

 彼女はカップのソフトクリームにシリアルが入っていない位、自分の考えに不満があるようだ。河井さんは珍しく口を尖らせながら、考えている。

「河井さんは何が……」
「分かんない……東堂さんが誰を……怪しいと思うのか……もう分かり切ったことなのに……」

 何を言っているんだ?僕のその思いの裏にある期待は自分の何かを押していた。
 両手に力が入ってくる……何が、この何かが分かれば、彼を殺した真犯人が分かるかもしれない……

「あっ! 待ってください! そこの電話は……」
「こっちの自由だ! ここの電話を使わせてもらう! アリバイ証人だっているんだ! 怪しくないだろう! 本当はすぐにでも帰らしてもらいたいものだが!」

 東堂さんは、警官に対して傲慢な態度を取る傍若無人な蛭間と言う男に黒い視線を向けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.4』

M‐赤井翼
ミステリー
赤井です。 「元女子プロレスラー新人記者「安稀世《あす・きよ》」のスクープ日誌」シリーズも4作目! 『焼飯の金将社長射殺事件の黒幕を追え!』を公開させていただきます。 昨年末の「予告」から時間がかかった分、しっかりと書き込ませていただきました。 「ん?「焼飯の金将」?」って思われた方は12年前の12月の某上場企業の社長射殺事件を思い出してください! 実行犯は2022年に逮捕されたものの、黒幕はいまだ謎の事件をモチーフに、舞台を大阪と某県に置き換え稀世ちゃんたちが謎解きに挑みます! 門真、箱根、横浜そして中国の大連へ! 「新人記者「安稀世」シリーズ」初の海外ロケ(笑)です。100年の歴史の壁を越えての社長射殺事件の謎解きによろしかったらお付き合いください。 もちろん、いつものメンバーが総出演です! 直さん、なつ&陽菜、太田、副島、森に加えて今回の準主役は「林凜《りん・りん》」ちゃんという中国からの留学生も登場です。 「大人の事情」で現実事件との「登場人物対象表」は出せませんので、想像力を働かせてお読みいただければ幸いです。 今作は「48チャプター」、「400ぺージ」を超える長編になりますので、ゆるーくお付き合いください! 公開後は一応、いつも通り毎朝6時の毎日更新の予定です! それでは、月またぎになりますが、稀世ちゃんたちと一緒に謎解きの取材ツアーにご一緒ください! よ~ろ~ひ~こ~! (⋈◍>◡<◍)。✧💖

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

警狼ゲーム

如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。 警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...