美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

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第三節 ハートマークの裏返し

Ep.14 僕達の防衛戦事件

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 何たって、これはラブレターではなく、脅迫状なのだから。

「見えますよね。この手紙。ゴミ箱を漁ったらすぐに出てきましたよ。僕が持ち返されたのと合わせれば、見えますよね。『殺す』と書かれた文字が……ええ。僕は最初想像すらしてませんでしたよ! ハートマークが実は殺という字の左上のメの部分だったってことはね!」

 「殺」という字であるからこそ、ハートの枠が作られていなかったのも納得ができる。脅迫状の差出人は太字のマーカーで力強く、殺すの二文字を書いたのだろう。ハートにしては角ばっていたということもだ。それでいて二つの突起があるから、破られていたら歪なハートに見えなくもない。
 愛しているではなく、殺したい。それで松富教諭に嫌がらせをすることが脅迫者の目的だったのだと考える。
 僕は考えたことを、あまりの真実に口を閉ざした皆に告げていく。

「破られた方に書かれている文章もやはり、同じようなものでした。まさに昨日三枝先輩が言った通り、言葉で相手を傷付けようとしていた。凶器はマーカーペンだったんです」

 一瞬絶望しそうになっていた三枝先輩は希望を取り戻していた。ぱぁと顔を明るくして、佳苗先輩に訴えかける。

「ええと、これって。つまり、ラブレターじゃなくて、脅迫状を破れってことの依頼を本当は情真は受けてたんだな」

 そこに今度はナノカが疑問を入れた。

「じゃ、じゃあ、何で山口先輩はその脅迫状をワタシが出したものだって?」

 僕は瞬間的に説明した。他の誰かに変な説明をされないためにも、だ。もう少しで理亜が「情真が好きな相手」と言いそうになり、かなり危うかった。

「僕と距離が近くて風紀委員で知ってもいるから都合が良かったんだと思う。山口先輩は佳苗先輩と共謀して、脅迫者の目論見を失敗させようとしていた。でも、佳苗先輩の性格上、助けてとは言い出せない。だから山口先輩に『ナノカのラブレター』と言わせて……そこで後で気になった僕がナノカに聞いたら、ナノカはラブレターを出してないってことが分かり、調べることになるでしょ?」
「えっ、つまり……今、情真くんが話している推理って……佳苗先輩の狙い通りでもあるの?」
「そうだと思う。気まずかったか、何かの原因で相談できなかったんだと思う」

 理亜が「だから言ったろ。ポジティブな情真。自分が誰かのために役立てると考えた情真でしか、この事件は解決できない、とな」と鼻を高くしていた。確かにそうだ。
 佳苗先輩はきっと僕という藁を掴んで助けを求めてくれた。その意味を知らなければ、一生事件の謎は解けなかった。
 ただ、僕にそれを願った佳苗先輩は僕の推理を頑なに否定する。

「……何、くだらないことを言ってるんですの!? こっちは助けなんて求めていない……!」

 と頑固な佳苗先輩に理亜が対話を試みる。

「じゃあ、認めなくてもいいです。でも、私達のことを信じてくれませんか!? 私達が貴方のピンチを救える、と!」
「えっ?」
「佳苗先輩は強く正しい人だと知っています。その個性は私も憧れています。私はこれ以上、わざと悪人面をして苦しんでる先輩だけは見たくありません。自分が助けを求めてることは否定していてください! ただ、誰に何をされてるのかを教えていただけませんか? 私達は貴方を傷付けず、全て無事に終わらせてみせますから」

 佳苗先輩はいつも舐められている理亜にそう言われて絶句した。後ろへと下がっていく佳苗先輩を見つつ、今度は山口先輩が口を開いた。

「……ここまで言われちゃったら、佳苗も何も言えなくなるかしら……」

 僕が彼女に聞いていく。

「ええと、この場合、どうすれば」
「ああ、安心して。佳苗のことは勝手にメロが喋らせてもらうから。プライドの高い彼女の口からは、今から言うようなこと絶対喋れそうにないし」
「あっ、はい……」
「露雪の推理は合ってる……ずっと佳苗、悪い奴に憧れて。ついつい、遊びの誘いに乗っちゃったのが運の尽き。アイツに遊ばれて、犯罪行為をやらされそうになって。佳苗は一応、風紀委員としてそんなことできない、とかバレるとか……できる限りの抵抗はしていたみたいだけど……」
「そんなことが……」

 山口先輩から語られていく佳苗先輩の苦悩を皆、聞いていた。三枝先輩だけは気付けなかったことを悔いとしたのか、小さく嗚咽を上げながら拳をぐっと握っていた。

「で、佳苗はずっと逃げてたんだけど。今回脅迫状を出す位ならできるだろって言われて。悩んでたの。やったら、松富が傷付く。だけど、やらなきゃ、自分が痛い目に遭わされる。そこで事故で破れたってことを装うとしてたんだけど、メロだけじゃ佳苗と仲がいいから。共謀して破ったと思われかねない。アイツの後輩が校内にいて監視してないとも限らず、困っていた。そこで露雪が偶然、佳苗の頼れそうな人として、ちょうど良いところにいた……。だから、露雪と一緒に破らせてもらった。これなら、メロが破ったのでなくて、露雪がラブレターと勘違いして破ったと言い訳できたし……後は違和感に気付いてアイツの正体を暴いてほしかった。でも自分の弱いところを後輩に見せたくなかった……これが事件の全貌よ。で、アイツの正体だけど……信じてもらえるかな」

 いや、大丈夫だ。

「分かりますよ」

 三枝先輩がすぐに僕の元へと食いついた。肩を掴んで「そいつは誰なんだ!?」と唾を飛ばしながら、叫んでくる。
 だから勢いよく答えてあげた。

「佳苗先輩たちが助けを求めている。その目的を脅迫状のことから知って分かりました。松富教諭なんですが、左目の下に火傷があるのはご存知ですか?」
「うん? それがどうかしたのか?」
「佳苗先輩はずっと言ってたんです。松富教諭は右目の下に刺青があるってことを。これを嘘だと割り切るのではなくて。松富教諭を悪い人にして、犯人の特徴を言っているのではないかと思いました」
「何でそんなことを」
「たぶん、その男の仲間が生徒の中にいたとして。監視していたとして……松富教諭の悪口を言っていたとしたら、松富教諭に脅迫状を出した本人は自分の意に添っていると勘違いして、佳苗先輩の行動を疑いませんでしょう。逆にそのままその犯人のことを言ってしまったら、すぐさま脅迫犯が飛んできて何をされるか分からない」
「そういうことか……でっ! 誰なんだ。そんな目の下に刺青がある相手なんて! 辺りじゃ、見掛けねえぞ!」
「いいえ。いますよ。佳苗先輩は三枝先輩を通して教えてくれました」
「えっ、オレ?」
「言ってたじゃないですか。佳苗先輩がまるで自分の後をわざとストークさせるかのように登校して。それで三人と会話をした、と」

 そこで理亜が合点を打っていた。

「そういうことか。そう言えば、放送室の中で佳苗先輩は差出人に破っているところを見られないようにしたって言ってたな。その差出人が犯人ならば。その時に犯人と喋っている可能性が高い」

 三枝先輩は困惑した表情ですぐ言葉を吐く。

「で、でも、オレ、時間とか分かんねえぞ。破ってた時間、誰か話してた時間、分かんねえぞ!」

 僕は首を横に振って、真実を明かした。

「いいえ。言ったじゃないですか。犯人の特徴を佳苗先輩は言っていたんじゃないかって。話していた中で三人の右目の下。そこにどす黒い悪魔が眠っているのは……募金をやっていた男だよっ!」
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感想 2

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みんなの感想(2件)

2024.06.17 ユーザー名の登録がありません

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鈴奈(SSS+)

ポップな話口調の登場人物たちに、読んでて気持ちが明るくなりますね!クレーマーなのに正しくてあっけらかんとしてるナノカちゃん可愛い〜!

夜野舞斗
2024.06.14 夜野舞斗

ありがとうございます!
個性的で楽しいものを考えて、キャラを描きました。これからも楽しんでいただければ、と思います!

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