美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

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第三節 ハートマークの裏返し

Ep.12 真相判明事件

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 何か気付きそうな感じと同時に思考を進めていく。
 理亜や三枝先輩が言っていたポジティブ。つまり、「やってやろう! この謎は絶対解けるぜ! 僕が解いてみせるぜ!」なんて形で行けば良いのか。
 ううん。
 あれ、あの手掛かりも、あの話も全部全部僕の前だけで見えていたものだ。他の人は全く見えていない。
 僕だけが見聞きした話をナノカや理亜、三枝先輩に話している。
 本当にこれ、僕が解かなければならない事件なのか……?

「おーい、どうしたぁ?」

 三枝先輩の声もあまり心の中に響く状況ではなかった。ただただ独り言を続けていく。

「いや、でも何で……それだったら、山口先輩がやればいいし……」
「何か、訳分かんないこと言い始めてどうしたんだ? まさか、オレをストーカーとして訴えようなんて言うんじゃ」
「……しませんよ。好きな人を監視して、怪しいってことは確かだけ……監視?」
「監視がどうかしたんだ?」

 後は一つだけ。
 僕は一瞬のうちにそこまで推理を進められていた。ハートマークの意味さえ分かれば、何もかも解ける気がする……!
 ハートマークだけが違和感として残っている。僕の推理が正しいとしたら、そこだけが不審な点。
 再び何かが閃きそうな謎のヒントが脳裏で輝いた。

『刺すペンっス!』

 下らない親父ギャグのおかげで全て謎が解けた。
 迫りくる猛吹雪の中でも僕は口をハキハキと動かせる。突拍子もないことも言い出せる。

「三枝先輩、近くに佳苗先輩はいますか?」
「まだ風紀委員の仕事が残ってるみたいでな」
「後で僕に文句を言うように佳苗先輩へ言っていいですから。彼女を今日と明日の登校までにはずっとストークしておいてください」
「えっ? 後輩公認でストーカーオッケー!? じゃなかった、いやストーカーじゃないんだけどな! 本当にいいのか!? オレ、許可されたら本気でやっちゃうぜ! 後でダメとかなしだからな」
「その代わりに彼女をちゃんと守ってあげてくださいね。三枝先輩!」

 やり取りを真横で聞いていた榎田さんが面食らって、口をポカンと開けていた。

「じょ、じょーくん! なんてことOKしちゃったんですか!?」
「ああ、えっと……交通ルールをちゃんと守ればいいんだよね?」
「まっ、まぁ、それならOKですかね? ってダメですよ!?」

 途中までは自分で言っておきながら、榎田さんの倫理観はどうなっているのだとツッコミたかったが。三枝先輩が早速佳苗先輩のストーキングを始め、僕達の前から姿を消した後に彼女へと真実を伝え始めた。

「こういうことで……」
「そ、そんなことがあり得るのですか?」
「うん。だから、榎田さんも気を付けて!」
「は、はい! ありがとうございます! どうか、じょーくん達も気を付けて!」

 小さく手を振ってくる彼女に対し、こちらも手を振って見送っていく。彼女も帰宅した後に僕はやるべきことを頭に思い付いた。まずはガサ入れ、だ。
 とのことで僕は二年の山口先輩や佳苗先輩がいると思われる教室を探し当てた。昼間、三枝先輩が佳苗先輩を見ていたことに加え、山口先輩も同じクラスだったため、目的であろうゴミ箱はすぐに見つかった。
 掃除の日ではなかったから安心する。もしもそうでなかったら、ゴミ捨て場から探すことになっていただろう。
 誰もいない教室だったのも好都合。すぐさまゴミ箱の中を掘り返していく。
 あの証拠を探し出すために。

「ちょっと……そこで何やってるの?」

 そんな中、一人の女子が僕に目を付けた。どうやら通りがかったらしい。非常に気まずい。ゴミ漁りをしていたこと。それも上の学年の。これこそ、余程ストーカーみたいではないか。いや、それよりも悪質か。

「あっ、いや……」
「ううん、こういうのやらせそうなの……あっ、分かった。三枝が君をパシらせたんでしょ!? そういうことでしょ? 佳苗のものを集めて来いって!」
「これは独断で」
「無理しなくたっていいのよ! ここはこの先輩にどーんと任せなさい! さぁて! アイツをしばいてきますか……!」

 彼女は腕まくりをして走っていく。酷いことになってしまったと汗を掻きつつ、更に奥へと手を入れる。すると、目的のものが見つかった。それは僕の推理を証明するもの。
 ハートマークの裏返し、だった。
 自信満々に放送室へ戻る僕。何だか少し足が重いと思い、扉のガラス戸から中を覗くとナノカが腕を組んで大変お怒りの様子。第六感が危険を察知したのだろう。ただこのまま名探偵が逃げ帰る訳にもいかない。

「のろまのろまで何やってたのよ。電話で確認取るだけなのに、ちょーっと遅すぎない?」

 彼女の説教を聞くことにした。余程、これこそ名探偵っぽくない気もするが。
 僕は一生懸命の余裕を演出するため、笑みを浮かべて話していく。これには少々ナノカの怒りも呆れか、圧倒されたか、消えていくように見えた。

「まぁまぁ。それよりもナノカも理亜にも協力してほしいことがあるんだ。明日の朝、七時三十分に登校してもらっても大丈夫?」

 ナノカは眉をひそめた状態で「いいけれど、アンタが遅刻しないでよ」と注意してくる。理亜は「面白そうなことが起こる予感か」とまで興奮していて、僕が推理について話そうとすると「ネタバレは厳禁だ。明日の朝に聞かせてくれ」とまで言ってきた。
 理亜の態度にナノカが問い掛ける。

「いいの? 何か思い付いたみたいだけど、何をする気なのか全く分からないのよ?」
「情真のことだから悪いようにはしないだろう。なっ。間違っていても、何とかなるさ」

 僕は頷いておく。今は人を導く立場だ。自信なさげに喋っていたら、ナノカ達が不安になってしまう。自分の頬を叩いて、そう言い聞かせた。
 今の様子を理亜が評価してくれた。

「情真、いい感じだな」
「そう見える?」
「見えるな。お前、捻くれている割には人を助けようってできる時、凄い光るよな」
「光ってるって……大袈裟じゃ……まっ、いっか」
「明日は頑張れよ。失敗したら、指を差して全力で笑ってやる」
「この野郎。その時は絶対にお前も巻き込んでやる」

 推理の前夜はやはり緊張する。完全犯罪を決めようとしていた時よりも、更に恐ろしい感じを覚えていた。しかし、それを乗り越えた時こそ心地よい。
 その感覚は幸運にも以前に何度か味わったことがある。頑張ろうと思える。
 大丈夫。僕には仲間がいる。
 翌朝、僕は心の翼を抱いて約束の地へと歩いていく。 
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