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第三節 ハートマークの裏返し
Ep.11 早朝六時のストーカー事件
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どうやら、三枝先輩の代わりに榎田さんが事情を話してくれるよう。固まっている先輩を横目に彼女へ質問をした。
「な、何か見たんだね!?」
「ええ。自転車運転で暴走してたところを……! それはもう、厳罰です!」
しかし、それは普通のことなのだろうか。彼なら気分で暴走しそうな感じもするが。彼の顔を見る限りは違うと判断できる。
「何か理由があったんだよね」
彼女は可愛いながらも眉をひそめて、厳しそうな表情で語っていく。
「そうですね。あの人止められた時に言ってました。佳苗のことを追わないとっと」
どうやら暴走運転の理由がハッキリと示されたみたいだ。彼女を見失わないためにも急いでいたのだと。僕は彼に呆れの感情を向けて、語る。
「先輩、何やってんですか……ある程度予想はしていましたが……朝からストーカーなんて……」
「ち、違う……違う……」
「何が……」
「佳苗が朝、登校しないかってメールで言ってきたんだ! それなのにさっさと行っちまったから! 追い掛けたってだけで……」
「えっ?」
「それを追い掛けるために動いたって訳だよ。結局、何か言おうにも話ばっかりしてて……追いついて話ができる頃には学校の教室の中って訳で」
「そう……なのですか?」
「アイツ、靴紐とか結んで、自転車がとか、結構もたついていたのに……追いつけなかったんだよ……」
彼のストーカー行為に対する呆れもあったが、同時に驚きと共に嬉しさが混み上がってきていた。佳苗先輩は僕達が予想していた通り、アリバイを作っていたのだ。話ばかり。つまるところ、犯人と話していた。そのラブレターが破られていることがバレないように。自分のせいでラブレターが破られていないことを証明するために。
ただ一つ謎は残る。何故に彼女が三枝先輩にストーカーをさせたのか。分からないが、今はその話していた人物を三枝先輩から聞いていこう。
「で、誰だったんですか?」
「コンビニの女性と少し、紅い髪の男性と少し、募金箱の人んところにお金を入れて、少し立ち話してたな。バレると困るから、遠く離れて見てたから、話の内容は分からなかったんだがな」
「困るって……やっぱストーカーじゃないですか……朝、一緒に登校しようって許可出てるのに何で困る必要があるんですか」
「あっ、いや……迷惑かなと思っただけだ! だけだだけだ!」
そこから今一度、その人たちの顔を思い浮かべてみる。
コンビニの女性はたまにナノカがクレームを付けている人だ。化粧が濃いことが印象的。その化粧の粉が食品に落ちるから気を付けなさいとナノカは怒っていた記憶がある。何のために化粧をそこまで派手にするのか。以前、元の顔も見たことがあるが化粧をしてない時としてる時と印象としては、あまり変わらない気もする。別に顔に何か印象的なものが増える訳ではないよな。あの人の化粧。
紅い顔の男は朝チラッと見ただけの人だ。何故にあそこまで怪しいのか。今度、何をやっているのか聞いてみるのはありかな……。いや、危険すぎるか。
最後は募金をしている優男。彼は何度か前を通っていて、山口先輩が主張した右目下の黒子があることも知っている。
頭の中でまとめてみるも、どれもラブレターの差出人とは関係ない気がする。
三枝先輩に追いつかれるように走っていることを考えるあたり、アリバイは作ったつもりだったのであろう。別に差出人本人を引き留めておくような行動を取らなかったのか。
「ううん……先輩……他にないんですかね。それだけだったんですか? 佳苗先輩の行動」
「教室入るところまではそうだったよ。他の人とも別に話をしなかったし」
「佳苗先輩には何で一緒に登校しようと言ってきたのかは聞かなかったんですか?」
「聞いたさ。そしたら、オレを起こすための嘘だったんだとよ。最近はだらけてるし、遅刻すると家が近いワタクシが叱られると嫌だからって最もなこと言われたな」
榎田さんと同じく僕も思った。そこに関しては何のコメントもできないです、と。
「まぁ、でも、本当に佳苗が悪いことしてるようには思えないんだが。やっぱ、考えとしては、本当に人のラブレターを破るようなことをしたのか?」
「ううん、まだそこは……絶望的です」
「ネガティブになるなよ。成せば何とかなるんだぜ! 希望を信じようぜ!」
そこで理亜の言葉が思い返された。
『この事件はお前がそんな気でいたら、一生解けないな』
そんな同じようなことを言っていた。本当は事件の真相なんて見えていないのに、強がっていただけな理亜……か?
あれ、待て。
逆に僕がポジティブだったら解ける。そんな謎なんだよな。
なんてところで今の事件に榎田さんが首を突っ込んでいた。
「何か調べてるんですか?」
「ああ、人がどうして変わったのかってことをね。優しい人って、やっぱ変わっちゃうのかなって」
ラブレター云々説明しても訳が分からないと思ったから、省略してしまった。
ただ、そこに榎田さんの見解が入る。
「……何かあるのかもしれません。人って意地っ張りになると、何も言えなくなっちゃいます。助けを求めたくても、プライドのせいで言葉が出なくなっちゃうんです。苦しいのに。苦しくって助けを求めたいのに……喉が渇いて声が出ないのか、それとも自分で声を出さないのか、そのうち訳も分からなくなっちゃって……それで……それでいつの間にか、助けを求めたかったはずなのに、助けの声を出さないってことは助けを必要としていないんだって何故か勘違いしちゃって……どうにもならなくなっちゃうんです」
「榎田さん……?」
彼女が見せた深刻な顔。彼女は彼女自身で何か深刻な問題を抱えているのでは、と心配したくなった。だが彼女はすぐ笑顔になっていた。三枝先輩もそこを考えたのか。
空気を変えるためなのか、奇妙なことを言い始めた。
「なぁ、情真としめじ田マーガリン」
「榎田です!」
「この場合の凶器って何だと思うか?」
僕が「えっ、何でしょう?」と。二人でうんうん悩む間に三枝先輩が答えを出す。
「ペンだな」
「えっ、どうしてです?」
「なんたって今の状況はサスペンス。刺すペンっス! なんてな! あはははははははははははは!」
「さ、寒いです! 残暑が厳しいはずなのに震えが止まりません!」
「情真の方は……あ、あれ、完全に滑った?」
僕が無言だったことに対し、彼は違和感を持ち始めたらしい。確かに僕は極寒の中で思考を進められていた。
今の一言で謎が解けそう、だ。
「な、何か見たんだね!?」
「ええ。自転車運転で暴走してたところを……! それはもう、厳罰です!」
しかし、それは普通のことなのだろうか。彼なら気分で暴走しそうな感じもするが。彼の顔を見る限りは違うと判断できる。
「何か理由があったんだよね」
彼女は可愛いながらも眉をひそめて、厳しそうな表情で語っていく。
「そうですね。あの人止められた時に言ってました。佳苗のことを追わないとっと」
どうやら暴走運転の理由がハッキリと示されたみたいだ。彼女を見失わないためにも急いでいたのだと。僕は彼に呆れの感情を向けて、語る。
「先輩、何やってんですか……ある程度予想はしていましたが……朝からストーカーなんて……」
「ち、違う……違う……」
「何が……」
「佳苗が朝、登校しないかってメールで言ってきたんだ! それなのにさっさと行っちまったから! 追い掛けたってだけで……」
「えっ?」
「それを追い掛けるために動いたって訳だよ。結局、何か言おうにも話ばっかりしてて……追いついて話ができる頃には学校の教室の中って訳で」
「そう……なのですか?」
「アイツ、靴紐とか結んで、自転車がとか、結構もたついていたのに……追いつけなかったんだよ……」
彼のストーカー行為に対する呆れもあったが、同時に驚きと共に嬉しさが混み上がってきていた。佳苗先輩は僕達が予想していた通り、アリバイを作っていたのだ。話ばかり。つまるところ、犯人と話していた。そのラブレターが破られていることがバレないように。自分のせいでラブレターが破られていないことを証明するために。
ただ一つ謎は残る。何故に彼女が三枝先輩にストーカーをさせたのか。分からないが、今はその話していた人物を三枝先輩から聞いていこう。
「で、誰だったんですか?」
「コンビニの女性と少し、紅い髪の男性と少し、募金箱の人んところにお金を入れて、少し立ち話してたな。バレると困るから、遠く離れて見てたから、話の内容は分からなかったんだがな」
「困るって……やっぱストーカーじゃないですか……朝、一緒に登校しようって許可出てるのに何で困る必要があるんですか」
「あっ、いや……迷惑かなと思っただけだ! だけだだけだ!」
そこから今一度、その人たちの顔を思い浮かべてみる。
コンビニの女性はたまにナノカがクレームを付けている人だ。化粧が濃いことが印象的。その化粧の粉が食品に落ちるから気を付けなさいとナノカは怒っていた記憶がある。何のために化粧をそこまで派手にするのか。以前、元の顔も見たことがあるが化粧をしてない時としてる時と印象としては、あまり変わらない気もする。別に顔に何か印象的なものが増える訳ではないよな。あの人の化粧。
紅い顔の男は朝チラッと見ただけの人だ。何故にあそこまで怪しいのか。今度、何をやっているのか聞いてみるのはありかな……。いや、危険すぎるか。
最後は募金をしている優男。彼は何度か前を通っていて、山口先輩が主張した右目下の黒子があることも知っている。
頭の中でまとめてみるも、どれもラブレターの差出人とは関係ない気がする。
三枝先輩に追いつかれるように走っていることを考えるあたり、アリバイは作ったつもりだったのであろう。別に差出人本人を引き留めておくような行動を取らなかったのか。
「ううん……先輩……他にないんですかね。それだけだったんですか? 佳苗先輩の行動」
「教室入るところまではそうだったよ。他の人とも別に話をしなかったし」
「佳苗先輩には何で一緒に登校しようと言ってきたのかは聞かなかったんですか?」
「聞いたさ。そしたら、オレを起こすための嘘だったんだとよ。最近はだらけてるし、遅刻すると家が近いワタクシが叱られると嫌だからって最もなこと言われたな」
榎田さんと同じく僕も思った。そこに関しては何のコメントもできないです、と。
「まぁ、でも、本当に佳苗が悪いことしてるようには思えないんだが。やっぱ、考えとしては、本当に人のラブレターを破るようなことをしたのか?」
「ううん、まだそこは……絶望的です」
「ネガティブになるなよ。成せば何とかなるんだぜ! 希望を信じようぜ!」
そこで理亜の言葉が思い返された。
『この事件はお前がそんな気でいたら、一生解けないな』
そんな同じようなことを言っていた。本当は事件の真相なんて見えていないのに、強がっていただけな理亜……か?
あれ、待て。
逆に僕がポジティブだったら解ける。そんな謎なんだよな。
なんてところで今の事件に榎田さんが首を突っ込んでいた。
「何か調べてるんですか?」
「ああ、人がどうして変わったのかってことをね。優しい人って、やっぱ変わっちゃうのかなって」
ラブレター云々説明しても訳が分からないと思ったから、省略してしまった。
ただ、そこに榎田さんの見解が入る。
「……何かあるのかもしれません。人って意地っ張りになると、何も言えなくなっちゃいます。助けを求めたくても、プライドのせいで言葉が出なくなっちゃうんです。苦しいのに。苦しくって助けを求めたいのに……喉が渇いて声が出ないのか、それとも自分で声を出さないのか、そのうち訳も分からなくなっちゃって……それで……それでいつの間にか、助けを求めたかったはずなのに、助けの声を出さないってことは助けを必要としていないんだって何故か勘違いしちゃって……どうにもならなくなっちゃうんです」
「榎田さん……?」
彼女が見せた深刻な顔。彼女は彼女自身で何か深刻な問題を抱えているのでは、と心配したくなった。だが彼女はすぐ笑顔になっていた。三枝先輩もそこを考えたのか。
空気を変えるためなのか、奇妙なことを言い始めた。
「なぁ、情真としめじ田マーガリン」
「榎田です!」
「この場合の凶器って何だと思うか?」
僕が「えっ、何でしょう?」と。二人でうんうん悩む間に三枝先輩が答えを出す。
「ペンだな」
「えっ、どうしてです?」
「なんたって今の状況はサスペンス。刺すペンっス! なんてな! あはははははははははははは!」
「さ、寒いです! 残暑が厳しいはずなのに震えが止まりません!」
「情真の方は……あ、あれ、完全に滑った?」
僕が無言だったことに対し、彼は違和感を持ち始めたらしい。確かに僕は極寒の中で思考を進められていた。
今の一言で謎が解けそう、だ。
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