美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

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第三節 ハートマークの裏返し

Ep.1 悪徳教諭の疑惑事件

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「アンタだったのね……完全犯罪アドバイザーの正体って」

 待ち合わせをした放課後の体育館。
 佳苗先輩は呆然として立ち尽くしている。きっと、彼女はこの場にイケメンか、男の声が出せる美少女が来ることを想定していたのだろう。相手のイメージがあまりに腑抜けているような人物だったのだから、驚いても仕方がない。

「どうします? 佳苗先輩。依頼は今からでも破棄できますが……あんまりしたくはないんですが」

 彼女の指示をあおいでみる。

「本当にやる気はあるの……? 完全犯罪なんて甘いものじゃないってことは分かってるよね。自分で開いた道ではないんじゃないのかしら? そうですわよね?」

 ぐっと唾を飲み込んだ。

「は……はい」
「じゃあ、破棄なんてあり得ませんこと!? なんたって、ワタクシ、アンタに全部言ったんだからね。ワタクシが松富先生に恋してるってことも、それを何としてでも掴みたいってことも、全て全て! 言ったんですのよ!」
「そ、そうですよね。では始めさせていただきましょう!」

 佳苗先輩の顔が紅潮していく。怒らせると後が怖いから、冗談はここまでにして。
 依頼についての確認だ。
 邪魔と言っても、松富教諭と女子が仲良くしているところに割り込んでいくことではない。そうだとしたら、それは完全犯罪ではないから、僕の仕事ではないのだ。
 あくまで僕がやるのは間接的な妨害。
 誰も分からないように行動するのだ。
 佳苗先輩が提案してきた「靴箱に来た松富教諭宛てのラブレターを捨てる」案。これを実行すれば、ラブレターを出した本人は返事が来ないことから、フラれたのだと勝手に勘違いする。
 松富教諭に聞かない限り、ラブレターが届いてないのだとは夢にも思わないだろう。特に恋に酔いしれる乙女は、ね。聞いたとしても、僕がいた痕跡さえ残さなければ、問題ない。靴箱を開けた際に風で飛んだかして紛失したと推測するであろう。
 僕は胸に決意を込めて、協力すると誓った。

「頑張りますよ」
「お願い……ね! 明日の朝、こっそり松富のところの手紙を確認し、破りなさい! 直接松富に言うような輩はワタクシが見張ってるから」
「は、はい! 女王様!」

 なんて敬称を付けたら、彼女はまた頬をポッと赤く染めていた。

「な、何か、女王様は慣れませんわね……なんか、すっごく気合入ってない?」
「そりゃあ、そうですね……」
「理由があるんですわね。何なの?」

 理由は簡単。彼女の依頼を熟すことで、僕も得をするから、だ。彼女も想いを打ち明けたのだから、答えてみせよう。
 自分の中に籠っている、大切な想いを。

「ナノカは同じ風紀委員ですから、分かりますよね?」
「ええ。あの元気でハキハキぶつかってくる子でしたわよね……ええ。分かるわ。あの小娘がどうかしたの?」
「ナノカには秘密ですよ……? 好きなんですよ。でも、好きなんだけど、彼女が好きなのは松富教諭、なんです」
「へぇ。じゃあ、アタシの恋敵になるって訳ですの? ふぅん……」

 この後は話せば話す程、気持ちが辛くなっていく。厳しい状況が自分にのしかかってくることが分かってしまう。

「でも、佳苗先輩が松富教諭との恋を成熟させれば、ナノカは諦めると思うんです。酷いことは分かってるんです。本当に好きな人なら、その人のことを想うためにも……幸せを願うためにも……自分が身を引くってことができるはずなんです。でも、自分はできなかった。あの人とナノカが一緒にいると想うと……辛くて、幸せになれなくて……」

 思わず泣きそうになる位、感情が込み上がってきた。事実を口にしていたら、自分が情けなくもなってきた。もし自分の足腰が今よりも弱かったら、地面に崩れ落ちていたと思う。
 そんな僕は彼女は突然、一蹴した。

「くだらない。くだらないですわね」
「えっ?」
「普段は正義のくせして、あの人、実は悪魔みたいなことをやってるんですわよ」
「それは……ナノカのこと? それとも……」
「松富教諭のことですわ」

 衝撃の告白に今度は僕が唖然とした。口を大きく開け、理由を尋ねていた。

「何で授業中にサングラスをしているのか……教えてあげようかしら?」
「何か、悪魔的な性格と関係してるんですか?」
「ええ。右目に大きな悪魔がいるんですの。刺青いれずみって言うのかしら? それを生徒には隠してるのよ……」
「教師が刺青なんて入れていいんですか? 日本はまだそういう自由は許可されてませんよね……?」
「そんなのダメに決まってるじゃない。でも、あの人はやったの。校長を脅して、ね」
「ええ……そ、それは本当なんですか?」

 一回、彼女の話が本当なのかを疑っていた。つい僕が本気にするから調子に乗って嘘を吐いているだけだと考える。
 ナノカが好きな、古文のあの、先生が? 悔しいけれど、あの人の授業については良いと思っている。寝てる僕を無理矢理起こさないし。
 僕が彼の行動を思い返している間に佳苗先輩は経験談を上げていた。

「思い出さない? 以前、貴方がワタクシのスカートをスパッと飛んで伏せてしまった時、松富教諭はどんな行動を取ったのか?」
「伏せたって……あっ」

 事故を起こした時の話だ。僕が倒れた時、松富教諭はどんな行動を取ったか。そそっと走って逃げて行ったのだ。とそう理亜から聞いた。彼女の話が嘘でなかったとしたら。本当だったのであれば。
 ナノカと一緒に倒れていた時もそう。
 彼は同じ行動を選んだ。

「思い出したかしら? 下からだとサングラスの中身が見えてしまいますでしょう? だから、机に覆いかぶさって寝ている生徒も起こせない。もし、生徒の誰かがそれを発見して。PTAに生徒が訴えに行ったら、大変なことになるから」

 彼女はそう言ってから、話をひっくり返した。

「でも、ワタクシ、そういう悪いところのある人、とっても、とっても好きなんですわよ。アンタみたいなおこちゃまには全く分かんないでしょうけどね」
「先輩……」
「明日の朝はよろしくね。松富教諭は最近、遅刻も多いみたいだけど。どんな気を起こして、早く来るかも分からない。早く来て、ちゃちゃっと、靴箱の中にある手紙は処理しちゃうことよ。ふふふ、そうすれば、アタシの念願のハッピーライフがやってきますわねぇ!」

 僕は身をひるがえし、体育館裏から出ていく彼女を黙って見送ることしかできなかった。
 本当に松富教諭はそんな人なのか。そうなら、ナノカの恋路を邪魔することに躊躇ためらいはなくなる。そのために吐いた嘘なのか……それとも?
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