美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

文字の大きさ
上 下
80 / 95
第二節 おかわりはありますか?

Ep.10 おかわりはありますか?

しおりを挟む
「えー、えー、放送室の同じ部員がどうしても帰してくれなくて……ダメだ。これだと何かラブコメ小説でも書いてるって勘違いされちまう!」

 教室で一時間目までに反省文を書くよう命令された僕は朝の時間を存分に使って、内容のことについて四苦八苦していた。僕のせいではないことをどう説明するべきか。
 難しい。
 うんうん考える中で後ろから嫌味なる声が響いてきた。

「ああ……折角、ワタシや先輩が注意してくれてるって言うのに、それを破って反省文書いてるー!」
「ナノカ、その説明口調って悪意ある?」
「あるに決まってるでしょ。馬鹿」

 半開きの目をこちらに向けてくるナノカ。見つめられると額から汗が止まらなくなってしまう。
 ここで下手な言い訳をしたら、何をされるか分からない。おとなしく従おうと原稿用紙に目を通す。四百字を何枚も書かないといけないと分かると、気が遠くなった。

「はぁ……」

 理亜を恨んでいると、本人が登場。憎らしい相手の声が軽快に流れてくる。

「反省文か。安心しろ。私が丁寧に指南してやるから!」
「なぁ、これ、お前のせいなんだから少しは反省しない!?」
「ねぇ、何で情真くんはそこまで遅くなったの? 理亜ちゃんと一緒に部活動をしてたんでしょ?」

 ギクッとしてしまう。ナノカにはバレてはいけない内容のことだから、理亜に口をチャックするよう頼みこむ。
 何か物欲しそうな彼女の様子。そんなことにも構わず、僕は礼をする。そこでようやく彼女は無償で人を助ける気になったのか。こんな回答をした。

「情真の人生相談に乗ってたんだよ。自分の価値がないから、どうしようって話題だ。アイデンティティの問題は私にも難しいから答えがなかなか出せなくってね。気付いたら、遅くなってた。で、私は帰ったんだが、ずっと情真の方は考え続けてたんだな」

 少々虚偽が混ざっている。彼女も最後まで一緒にいた。ただ理亜は今はそのことを話すと面倒になるから、との判断なのだろう。
 理亜の話を聞いたナノカがキョロッとこちらの方を向く。いや、ギロッととの効果音の方が正しいのかもしれない。

「な、何でしょう……何かございましたでしょうか……」

 恐る恐る尋ねてみる。ただ、彼女は血管を額に浮かび上がらせている様子はない。怒ってはいないみたいだ。

「あのねぇ、人の価値ってそこまで気にすることなの? どうでもいいと思うんだけど」

 彼女の問いに一瞬固まるもすぐに話していく。僕自身の考え方をしっかりと。

「うん。だって、自分の上位互換がいたら、どうしても頑張る気にはならないでしょ。幾らやってもそいつの上には行けないんだから」
「ひねくれてるわね」
「自分でも分かってるよ」

 彼女は顔を近づけてくる。彼女の息がこちらの鼻に当たって、緊張してしまう。胸の騒めきを少しでも気にしないようにと手で抑えながら、反論をする。

「でさ、ナノカは気にしないの?」
「代わりはいないからね!」

 そうだ。分かり切っていたことだった。いないのは、僕だけだ。女子高生クレーマー、ナノカが二人もいたら、辺りの店は次々と潰れていくことだろう。この世の終わりだ。ああ、恐ろしい。

「でも、僕の価値を買う人はいないでしょ? 一円だったとしても、いらないって言うよ」

 だからこそ、自分は他の人ができないと思えることに手を染めた。そうでもしないと、自分の居場所がないと思えてしまったから。誰も僕を買わないと考えたから。
 目を瞑って、彼女のお叱りを待っている。きっと、彼女なら「気にしないで」と言うのか。内容を予想していたのだが、全く以て違う言葉が並べられていた。

「……悪いけど、自分が本当に欲しいものしか買わないわよ。人は。当たり前じゃない。特に大切な買い物に関しては……」
「ナノカ……」

 やはり僕なんて。そう思った矢先、彼女は暖かい言葉を向けてくれた。

「だからよ……だから、自分に自信を持ちなさいよ。自分の価値は自分で決めなさい! 人に買ってもらいたいと思える価値は自分で付けるの! 自分で一円でも買わないって言ったら、誰も欲しくなんてなくなるからっ!」
「ああ……」

 彼女らしいクレームだ。だけれど、何だろう。厳しい言葉なのではあるが、自信が少しずつ湧いてくる。彼女なりの声援はまだ続いていた。

「自信さえあれば、代わりを見つけるのは凄い難しいわ。幾ら上位互換がいても、そいつが自信ややる気を持ってるとは限らないから。本当にワタシ達が欲しいのはやる気があって、自信に満ち溢れてる人。それなら、一緒にいて楽しいから。目の前にいる奴がそういう人となら幸せとしか言いようがないわ」
「だよね」
「それによ。結局、信頼の積み重ねってものも存在するのよ。人の裏表って見ただけじゃ、やっぱり分からないし……。パッと知り合ったイケメンよりもアンタの方がまだマシよ」
「えっ、本当?」

 何だか一瞬、気持ち良い風が吹いた気がした。
 理亜も隣で「なるほどな……そういう考え方も面白い。ためになった」と言って、彼女を褒める。それから「おっと時間だ」と去っていった。何しに来たんだろう、彼女は……。
 ナノカの方は席に座って、僕に命令する。

「い、以上! 分かったんなら、早く反省文書いて提出してきちゃいなさい!」
「あ、ああ……」

 自信ね。自分で自分に価値を付けることが大事。
 ナノカのクレームに貰った力を大切にしなくては。意気込んでいるところで、突如部屋に大声が響き渡った。
 
「助けてくれっ! あっ、情真! 情真なら何とかならないか!」

 山田くんが急に僕を指名してくる。一瞬驚いたものの自信が付いている状態だったから快く言ってやった。

「いいぞ。で、何が起きたんだ?」
「トイレの蛇口から出る水が止まらないんだ!」
「ああ、でも反省文書かないといけないからな……」
「分かった! お礼の方もするから!」
「了解。何とかできるかも。もし、成功したら高くつくぞ!」
「ええ……じゃあ、失敗しろと願うしかないのか」
「おいおい……!」
「友達価格で頼むぜ……」
「よーし! じゃあ、焼肉定食でも奢ってくれよ」

 そんな僕の言葉にナノカは近くで「焼肉定食と同じ値段か」と呟いて、密かに笑っている。いや、たぶん、いけない本を大量購入して金欠な彼にとってはとんでもない高額なんだよね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

終焉の教室

シロタカズキ
ミステリー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

日月神示を読み解く

あつしじゅん
ミステリー
 神からの預言書、日月神示を読み解く

処理中です...