72 / 95
第二節 おかわりはありますか?
Ep.2 発言におかしな点はありますか?
しおりを挟む
ギョッとしながらも、すぐ乾いた唇を必死に動かしていく。
「そ、そんなことしないし、女子更衣室に投げるとかよりは全然マシじゃん! うん!」
「そういう発想が出る時点で全然マシじゃないのよ!?」
またもや問題発言をしてしまったみたいだ。どういえば、彼女に納得してもらえる言い訳ができるのか。考えている間に彼女がしかめっ面を見せつつも、じっとこちらのペンを見つめていることに気が付いた。
「ん? どうしたナノカ?」
「理亜ちゃんの言ってたのってそれよね。まさか、その中に既にヤバい声が入ってるってことは、ないわよね」
「ないと思う。理亜が変なの入れてなきゃ」
一応、無実を証明するためにも聞いてもらおう。そう思ったが、使い方が分からない。電源ボタンを押すところまでは理解できている。だが、その後どうするのかが分からない。最中、ナノカがポツリ。
「その録音機、説明書があるんじゃないの? ほら、椅子に……」
「本当だ。いつ置いたんだろ……まぁ、いいや。ええと、くるりとペンのキャップをくるくる回すと……録音ができて、横のボタンを押すと再生ができるってことか。で、再生して、何も出てこなかったら僕は無実ってことでいいんだよね?」
「ええ。聞かせなさい」
再生したが、何も入ってはいない。理亜が卑猥なことでも録音していたらどうしようかと思っていたが。そうなることもなし。胸を撫でおろしてホッとした。
そんな中、彼女はまだ僕を睨んでいる。まだ僕への変態疑惑は消えていないようだ。またも別の話題を吹っ掛けた。
「そう言えば、ナノカの方は今日、合唱部の活動あるの?」
彼女はすんなり答えてくれる。
「ええ、あるわよ。でもなかなか集まらなくて。その暇潰しにこっちに、ね。ここからなら進路室もすぐそばでしょ?」
ただ、この発言は僕にとってあまり好ましいものではなかった。彼女の言葉からその名が出るのが嫌で自分で口にしておく。
「……松富先生を観察でもするの? 確か、あの人進路相談員……夢も何もない僕が困らせる先生だったよね」
彼女が恋心を抱いている相手だ。
「そうね。誰かさんのせいで」
「だったら話に行けば? ここが分かりませんでしたーとか言って」
「そんなのダメよ。今日の授業はしっかり理解できたんだから。嘘でも言って、そっちに行ったら松富先生『何がダメだったのか』って悩んじゃうじゃない! そんなの、迷惑よ」
彼女の愛と正義は本物か。彼のことを考えているのか、頬を真っ赤に染めている。
普通の生徒なら、そこまで先生に関して考えないと思う。
自分が会いたい時に会いに行く。彼女はその行動が迷惑だと考え、気遣いをしている。
嫌だよな。僕が彼女に抱く恋心はそんな真面目なところなのだ。人が恋する真剣さに対して、恋をする。その相手が自分でもないのに、ね。間抜けな話だ。
僕はこのまま放送室にいても、気分が暗くなっていくだけと判断した。
「ナノカ、放送室を閉めてもいい?」
「えっ?」
少々意地悪をしたかった気持ちもあった。二人を近くにいさせたくない、と考えていた。
そんな僕をあれこれと言葉を出して、慌てて止めようとするナノカ。
「ちょっと待ってよ!? えっ、まだ部活は? 理亜ちゃんが帰ってくるんじゃないの?」
「別に部活で大事な用をしてはいなかったし。理亜も帰る支度をしてって言ってたし。それにさ、暑いからね」
熱い。それは温度だけではなく、彼女が抱く感情について出した嫌味でもあった。
そんな僕の言葉の意図にも気付いた様子はなく、ナノカは違う視点から食い下がる。
「でも、ワタシが来た途端って言うのは酷くない?」
「たまたま、だよ。別に意図があったわけじゃない」
「絶対偶然じゃないでしょ。鬼よ。アンタ」
「天邪鬼って鬼かもね」
「うう……捻くれ者……!」
僕は珍しくナノカを諦めさせることができた。極めつけに鍵と荷物を持って、彼女に言っておく。
「鍵を持ってるのは、僕だし。文句ないよね」
「そうね……問題ないわよね……何でよ。こっちがアンタを……」
「何? アンタをどうするって?」
「何でもないわよ! 閉めるなら忘れる前にさっさと閉めときなさい!」
命令通り閉めようとした時だった。彼女が目を見開いて「あっ」と言ったのは。
「どうしたの? 中に忘れ物でもした?」
「いや、中じゃなくて。ワタシがここに来たの、そのペンを借りるためってことを言い忘れてたの」
「そっか。だから、さっき、これが理亜のだって分かったんだ。で……えっ? 松富先生の声でも盗聴すんの?」
ナノカがまさか誰かの声をひっそり聴くために、そんなために使うのか。ナノカがスーツとサングラスを着用しているところを想像してしまった。まさに女子高生スパイ。いや、盗聴しているうちに相手の悪いことに対し怒りが我慢できなくなって、そのままカチコミに行ってしまいそうな感じもする。敵の本拠地で怒りのままクレームを放ち、暴れるのはスパイとして如何なものか。
僕が妄想に勤しんでいると、彼女が呆れた様子でツッコミを入れてきた。
「何でアンタみたいなこと、しなきゃいけないのよ!? そこまでワタシは落ちぶれてないわ」
「ああ、ナノカは他の女子高生とは違うか」
彼女なら恋のためと言っても、やはり変な手段は使わないのだろう。相手のことを考えつつ、正しく生きていくのだろう。
「何で全国の女子高生がそういうのやる前提なの!? 全国の女子高生に謝ってきなさい!」
「ごめんなさい」
「それに聞きたいことがあったら、ワタシはハッキリと聞きに行くから」
「盗聴器なんて必要なさそうだね」
僕が笑いながら、そう言うと彼女は本来の目的について説明してくれた。
「録音機能で歌を取っておきたいのよ。後で聞き返して、何処が悪かったのか確かめるために、ね。合唱の練習に役立つから」
「でも、ペン型の奴って向いてるのかなぁ?」
「まぁ、向いてなかったら理亜ちゃんに返しとくわ」
「了解。じゃあね」
僕が別れの言葉を告げた時、不意に校内で吹奏楽部の演奏が響き渡った。彼女はこちらに手を振って、何かを言っていたみたいだが。何も聞き取れず。
仕草から察して、僕と同じ「じゃあね」だったのだろうか。いや、「好きよ」だったらいいのだけれどなぁ、と一人勝手に妄想して、胸を騒めかせるのであった。
「そ、そんなことしないし、女子更衣室に投げるとかよりは全然マシじゃん! うん!」
「そういう発想が出る時点で全然マシじゃないのよ!?」
またもや問題発言をしてしまったみたいだ。どういえば、彼女に納得してもらえる言い訳ができるのか。考えている間に彼女がしかめっ面を見せつつも、じっとこちらのペンを見つめていることに気が付いた。
「ん? どうしたナノカ?」
「理亜ちゃんの言ってたのってそれよね。まさか、その中に既にヤバい声が入ってるってことは、ないわよね」
「ないと思う。理亜が変なの入れてなきゃ」
一応、無実を証明するためにも聞いてもらおう。そう思ったが、使い方が分からない。電源ボタンを押すところまでは理解できている。だが、その後どうするのかが分からない。最中、ナノカがポツリ。
「その録音機、説明書があるんじゃないの? ほら、椅子に……」
「本当だ。いつ置いたんだろ……まぁ、いいや。ええと、くるりとペンのキャップをくるくる回すと……録音ができて、横のボタンを押すと再生ができるってことか。で、再生して、何も出てこなかったら僕は無実ってことでいいんだよね?」
「ええ。聞かせなさい」
再生したが、何も入ってはいない。理亜が卑猥なことでも録音していたらどうしようかと思っていたが。そうなることもなし。胸を撫でおろしてホッとした。
そんな中、彼女はまだ僕を睨んでいる。まだ僕への変態疑惑は消えていないようだ。またも別の話題を吹っ掛けた。
「そう言えば、ナノカの方は今日、合唱部の活動あるの?」
彼女はすんなり答えてくれる。
「ええ、あるわよ。でもなかなか集まらなくて。その暇潰しにこっちに、ね。ここからなら進路室もすぐそばでしょ?」
ただ、この発言は僕にとってあまり好ましいものではなかった。彼女の言葉からその名が出るのが嫌で自分で口にしておく。
「……松富先生を観察でもするの? 確か、あの人進路相談員……夢も何もない僕が困らせる先生だったよね」
彼女が恋心を抱いている相手だ。
「そうね。誰かさんのせいで」
「だったら話に行けば? ここが分かりませんでしたーとか言って」
「そんなのダメよ。今日の授業はしっかり理解できたんだから。嘘でも言って、そっちに行ったら松富先生『何がダメだったのか』って悩んじゃうじゃない! そんなの、迷惑よ」
彼女の愛と正義は本物か。彼のことを考えているのか、頬を真っ赤に染めている。
普通の生徒なら、そこまで先生に関して考えないと思う。
自分が会いたい時に会いに行く。彼女はその行動が迷惑だと考え、気遣いをしている。
嫌だよな。僕が彼女に抱く恋心はそんな真面目なところなのだ。人が恋する真剣さに対して、恋をする。その相手が自分でもないのに、ね。間抜けな話だ。
僕はこのまま放送室にいても、気分が暗くなっていくだけと判断した。
「ナノカ、放送室を閉めてもいい?」
「えっ?」
少々意地悪をしたかった気持ちもあった。二人を近くにいさせたくない、と考えていた。
そんな僕をあれこれと言葉を出して、慌てて止めようとするナノカ。
「ちょっと待ってよ!? えっ、まだ部活は? 理亜ちゃんが帰ってくるんじゃないの?」
「別に部活で大事な用をしてはいなかったし。理亜も帰る支度をしてって言ってたし。それにさ、暑いからね」
熱い。それは温度だけではなく、彼女が抱く感情について出した嫌味でもあった。
そんな僕の言葉の意図にも気付いた様子はなく、ナノカは違う視点から食い下がる。
「でも、ワタシが来た途端って言うのは酷くない?」
「たまたま、だよ。別に意図があったわけじゃない」
「絶対偶然じゃないでしょ。鬼よ。アンタ」
「天邪鬼って鬼かもね」
「うう……捻くれ者……!」
僕は珍しくナノカを諦めさせることができた。極めつけに鍵と荷物を持って、彼女に言っておく。
「鍵を持ってるのは、僕だし。文句ないよね」
「そうね……問題ないわよね……何でよ。こっちがアンタを……」
「何? アンタをどうするって?」
「何でもないわよ! 閉めるなら忘れる前にさっさと閉めときなさい!」
命令通り閉めようとした時だった。彼女が目を見開いて「あっ」と言ったのは。
「どうしたの? 中に忘れ物でもした?」
「いや、中じゃなくて。ワタシがここに来たの、そのペンを借りるためってことを言い忘れてたの」
「そっか。だから、さっき、これが理亜のだって分かったんだ。で……えっ? 松富先生の声でも盗聴すんの?」
ナノカがまさか誰かの声をひっそり聴くために、そんなために使うのか。ナノカがスーツとサングラスを着用しているところを想像してしまった。まさに女子高生スパイ。いや、盗聴しているうちに相手の悪いことに対し怒りが我慢できなくなって、そのままカチコミに行ってしまいそうな感じもする。敵の本拠地で怒りのままクレームを放ち、暴れるのはスパイとして如何なものか。
僕が妄想に勤しんでいると、彼女が呆れた様子でツッコミを入れてきた。
「何でアンタみたいなこと、しなきゃいけないのよ!? そこまでワタシは落ちぶれてないわ」
「ああ、ナノカは他の女子高生とは違うか」
彼女なら恋のためと言っても、やはり変な手段は使わないのだろう。相手のことを考えつつ、正しく生きていくのだろう。
「何で全国の女子高生がそういうのやる前提なの!? 全国の女子高生に謝ってきなさい!」
「ごめんなさい」
「それに聞きたいことがあったら、ワタシはハッキリと聞きに行くから」
「盗聴器なんて必要なさそうだね」
僕が笑いながら、そう言うと彼女は本来の目的について説明してくれた。
「録音機能で歌を取っておきたいのよ。後で聞き返して、何処が悪かったのか確かめるために、ね。合唱の練習に役立つから」
「でも、ペン型の奴って向いてるのかなぁ?」
「まぁ、向いてなかったら理亜ちゃんに返しとくわ」
「了解。じゃあね」
僕が別れの言葉を告げた時、不意に校内で吹奏楽部の演奏が響き渡った。彼女はこちらに手を振って、何かを言っていたみたいだが。何も聞き取れず。
仕草から察して、僕と同じ「じゃあね」だったのだろうか。いや、「好きよ」だったらいいのだけれどなぁ、と一人勝手に妄想して、胸を騒めかせるのであった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
Arachne 2 ~激闘! 敵はタレイアにあり~
聖
ミステリー
学習支援サイト「Arachne」でのアルバイトを経て、正社員に採用された鳥辺野ソラ。今度は彼自身がアルバイトスタッフを指導する立場となる。さっそく募集をかけてみたところ、面接に現れたのは金髪ギャルの女子高生だった!
年下の女性の扱いに苦戦しつつ、自身の業務にも奮闘するソラ。そんな折、下世話なゴシップ記事を書く週刊誌「タレイア」に仲間が狙われるようになって……?
やけに情報通な記者の正体とは? なぜアラクネをターゲットにするのか?
日常に沸き起こるトラブルを解決しながら、大きな謎を解いていく連作短編集ミステリ。
※前作「Arachne ~君のために垂らす蜘蛛の糸~」の続編です。
前作を読んでいなくても楽しめるように書いたつもりですが、こちらを先に読んだ場合、前作のネタバレを踏むことになります。
前作の方もネタバレなしで楽しみたい、という場合は順番にお読みください。
作者としてはどちらから読んでいただいても嬉しいです!
第8回ホラー・ミステリー小説大賞 にエントリー中!
毎日投稿していく予定ですので、ぜひお気に入りボタンを押してお待ちください!
▼全話統合版(完結済)PDFはこちら
https://ashikamosei.booth.pm/items/6627473
一気に読みたい、DLしてオフラインで読みたい、という方はご利用ください。
終焉の教室
シロタカズキ
ミステリー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。
そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。
提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。
最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。
しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。
そして、一人目の犠牲者が決まった――。
果たして、このデスゲームの真の目的は?
誰が裏切り者で、誰が生き残るのか?
友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。


体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる