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第一節 1080°回った御嬢様
Ep.15 青春を謳歌する者達
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それから数日が経った放課の後で。僕は放送室での活動で惰眠を貪っていた。というか、実際に睡眠を取っていた。部活動はやらないの、と疑問が投げられそうだが、僕はそれに答えられない。自分でも何故ここにいるのか謎なのだ。
いや、本来なら来週するべき放送内容だとかを理亜と話すべきである。まぁ、そうしたくても彼女が違うものに熱中していて、会話ができないんだよね。
そろそろ聞いても宜しいか尋ねてみる。
「理亜……?」
「ふむふむ……あっ、まだ読み続けてるからもう少し待っててくれ」
「人を呼んでおいて待たせるってどうなの?」
「しっ、静かに。集中してるんだから」
「酷いなぁ」
そうだ。授業が終わった後、部活も忘れて帰ろうとしていた僕は理亜に呼び止められたのだ。しかし、当の本人は原稿用紙を何枚か手にして、その全てに目を通している。どうやら桐太から小説の何ページかを見せてもらうよう頼んだらしい。そして、推敲もさせてもらうよう協力を申し出たみたいだ。
彼女は原稿用紙に直接は書かず、満点のテスト用紙の裏にすらすらと文章を書いていた。
ふと彼女が一段落ついて、原稿用紙を机に置くその瞬間を見計らって再度声を掛ける。
「なぁ、理亜……理亜も桐太も同じ賞に応募するのか?」
「いや、桐太の場合は私のように公募とかではないらしい」
「じゃあ、書いてそのまま押し入れの奥に? 復讐とか何とかって言うのは何だったんだ」
「ああ、そうじゃないそうじゃない。ネットにアップして確かめてもらうらしいぞ。自ら進んで大魔境に行こうとは、怖いもの知らずな奴め」
怖いもの知らず、ということは荒波に揉まれるような文章だったのだろうか。
「どうだったの?」
「まあ、私が思うに天は二物を与えずって言うが、裏切られたよ。アイツには二物を与えてるんじゃないか」
「えっ?」
理亜はそのふくよかな胸に美貌、成績優秀とも言える頭脳、その他諸々の人生を巧く生きるテクニックを持っているだろう。天はお前に幾つ物を与えたんだよと神に抗いたくなる。
嫉妬できる権利は理亜にないと言いたかったが、ぐっと抑えて言葉を飲み込んだ。下手なことを言うと、彼女の長ったらしい講釈が始まってしまうだろうし。この対応で正解だと思う。
「情真、私の誉め言葉でも考えてるのか?」
「へっ!?」
「何だ……何でもないのか……」
「う、うん……」
ここは敢えて黙っておこう。彼女は褒められて調子に乗るタイプ。言うと何が起こるか分からない。
僕が沈黙を続けていたら、彼女が別のことを語り出した。
「じゃあ、私から褒めることにしよう」
「えっ?」
「私の推理は合っていたが、合ってるだけじゃダメだった。悲劇を食い止めることはできなかった……」
彼女が出した話題は数日前の事故関係のものだった。とある坂で起きそうになった悲劇。それを食い止めたのがナノカ。
やはり、僕ではない。
「ナノカは言っていたぞ。お前が頑張ったから、未来を守ろうと大声を出したからワタシが彼を助けることができたんだって」
「えっ?」
「情真がいなかったら、ワタシも起こせなかったって」
……そこに来ましたか。ナノカの手柄なのに僕を褒めた。彼女は僕のことを何だと思っているのだろうか。弟、か。ううむ、そばにいれるとの点では嬉しいのだけれども。やはり、彼女とはもっと大人として見られたいとの点もある。しかし、僕自身が大人になりたくないなどの矛盾した気持ちを持ち合わせているのも確か。それでいて彼女には想い人がいるから困るのだ。
頭が痛くなることはなるべく考えたくない。
思考を放棄しているところで理亜から新たなる情報が飛んできた。
「まっ、それはさておき、そういやぁ、みるくが少年をとっつかまえたそうだ。何か、悪さ自慢をしてたそうでな」
「えっ?」
「ある少女をコンビニの前で押して大変なことになった……ヤバいことになったから、すぐさま逃げたぜーみたいなことを言いながら並列運転してたそうだから、首根っこ、ひっつかまえたそうで……その後はぼっこぼこに……これ以上は言わない方がいいか」
榎田さんが何やらとんでもないことをやっているようだ。スカッとした反面、ヒヤッとしたところもある。しかし、あの榎田さんが本当にやるとは思えない。可愛らしい彼女が。
「ま、マジで? 嘘? 本当? マジ?」
「私もガセであってほしい」
「そ、そうだよな」
彼女も一応可愛い人を可愛いと信じ抜きたい、それこそ可愛らしい心があったのだ。
「私のサイコパスで危険で火傷しそうな女というイメージがかすんで見えてしまうだろうが」
前言撤回。
「あっ、そ……」
なんて呆れている間に彼女は原稿用紙の方に顔の向きを戻していた。暇だから自分は最近やっているスマホゲームの方を起動する。そこに気付いた理亜が唇の端を上げて、僕に声を掛けてきた。
「この前もやっていたが、どうなんだ? それ。学校でわざわざ危険を冒してやるってことは、とっても楽しんだろうなぁ?」
いや、正直にここは言わせてもらおう。実はこのゲーム。
「実は全然っ、面白くないんだよね……ううん、油断したらそりゃあ、ゲームオーバーになるけど、そうじゃなきゃ簡単すぎるってのかな。最初ちょびっとお金払ってアイテム買っちゃったから、無駄にしない分遊んでおこうかなぁって思っただけ」
「そうなのか? じゃあ、わざわざ、学校でやる意味もないんじゃないか? いや、ナノカや教師に見つかるか見つからないかのスリルを楽しんでるのか?」
「いや、別に。そんなこと、全く考えてなかったし。この前見つかったのは、本当油断しただけ」
ふぅんと理亜が小さな声を出してから、一つ問うた。
「あのさ、情真」
「何?」
「この学校の裏掲示板に完全犯罪アドバイザーってのがいるらしいんだ。知ってるか?」
「そもそも裏掲示板なんか見ないし……」
僕の言葉にぷいっと首を傾げていた。
「そっか。見るのは私のような物好きだけってだけか。いやな、情真も頼んでみたらどうだ? 松富教諭とナノカの恋を終わらせるような、そんな……お願い事を、な」
「悪いけど、そんな信用ならないような奴の世話にはなりたくないかな」
僕達の物語はできれば、ミステリー小説よりかは恋愛小説でいたいものである。しかし、そうはいかないのが世の常。そこまで日が経たない間に僕はもう一つの事件に遭遇することとなった。
いや、本来なら来週するべき放送内容だとかを理亜と話すべきである。まぁ、そうしたくても彼女が違うものに熱中していて、会話ができないんだよね。
そろそろ聞いても宜しいか尋ねてみる。
「理亜……?」
「ふむふむ……あっ、まだ読み続けてるからもう少し待っててくれ」
「人を呼んでおいて待たせるってどうなの?」
「しっ、静かに。集中してるんだから」
「酷いなぁ」
そうだ。授業が終わった後、部活も忘れて帰ろうとしていた僕は理亜に呼び止められたのだ。しかし、当の本人は原稿用紙を何枚か手にして、その全てに目を通している。どうやら桐太から小説の何ページかを見せてもらうよう頼んだらしい。そして、推敲もさせてもらうよう協力を申し出たみたいだ。
彼女は原稿用紙に直接は書かず、満点のテスト用紙の裏にすらすらと文章を書いていた。
ふと彼女が一段落ついて、原稿用紙を机に置くその瞬間を見計らって再度声を掛ける。
「なぁ、理亜……理亜も桐太も同じ賞に応募するのか?」
「いや、桐太の場合は私のように公募とかではないらしい」
「じゃあ、書いてそのまま押し入れの奥に? 復讐とか何とかって言うのは何だったんだ」
「ああ、そうじゃないそうじゃない。ネットにアップして確かめてもらうらしいぞ。自ら進んで大魔境に行こうとは、怖いもの知らずな奴め」
怖いもの知らず、ということは荒波に揉まれるような文章だったのだろうか。
「どうだったの?」
「まあ、私が思うに天は二物を与えずって言うが、裏切られたよ。アイツには二物を与えてるんじゃないか」
「えっ?」
理亜はそのふくよかな胸に美貌、成績優秀とも言える頭脳、その他諸々の人生を巧く生きるテクニックを持っているだろう。天はお前に幾つ物を与えたんだよと神に抗いたくなる。
嫉妬できる権利は理亜にないと言いたかったが、ぐっと抑えて言葉を飲み込んだ。下手なことを言うと、彼女の長ったらしい講釈が始まってしまうだろうし。この対応で正解だと思う。
「情真、私の誉め言葉でも考えてるのか?」
「へっ!?」
「何だ……何でもないのか……」
「う、うん……」
ここは敢えて黙っておこう。彼女は褒められて調子に乗るタイプ。言うと何が起こるか分からない。
僕が沈黙を続けていたら、彼女が別のことを語り出した。
「じゃあ、私から褒めることにしよう」
「えっ?」
「私の推理は合っていたが、合ってるだけじゃダメだった。悲劇を食い止めることはできなかった……」
彼女が出した話題は数日前の事故関係のものだった。とある坂で起きそうになった悲劇。それを食い止めたのがナノカ。
やはり、僕ではない。
「ナノカは言っていたぞ。お前が頑張ったから、未来を守ろうと大声を出したからワタシが彼を助けることができたんだって」
「えっ?」
「情真がいなかったら、ワタシも起こせなかったって」
……そこに来ましたか。ナノカの手柄なのに僕を褒めた。彼女は僕のことを何だと思っているのだろうか。弟、か。ううむ、そばにいれるとの点では嬉しいのだけれども。やはり、彼女とはもっと大人として見られたいとの点もある。しかし、僕自身が大人になりたくないなどの矛盾した気持ちを持ち合わせているのも確か。それでいて彼女には想い人がいるから困るのだ。
頭が痛くなることはなるべく考えたくない。
思考を放棄しているところで理亜から新たなる情報が飛んできた。
「まっ、それはさておき、そういやぁ、みるくが少年をとっつかまえたそうだ。何か、悪さ自慢をしてたそうでな」
「えっ?」
「ある少女をコンビニの前で押して大変なことになった……ヤバいことになったから、すぐさま逃げたぜーみたいなことを言いながら並列運転してたそうだから、首根っこ、ひっつかまえたそうで……その後はぼっこぼこに……これ以上は言わない方がいいか」
榎田さんが何やらとんでもないことをやっているようだ。スカッとした反面、ヒヤッとしたところもある。しかし、あの榎田さんが本当にやるとは思えない。可愛らしい彼女が。
「ま、マジで? 嘘? 本当? マジ?」
「私もガセであってほしい」
「そ、そうだよな」
彼女も一応可愛い人を可愛いと信じ抜きたい、それこそ可愛らしい心があったのだ。
「私のサイコパスで危険で火傷しそうな女というイメージがかすんで見えてしまうだろうが」
前言撤回。
「あっ、そ……」
なんて呆れている間に彼女は原稿用紙の方に顔の向きを戻していた。暇だから自分は最近やっているスマホゲームの方を起動する。そこに気付いた理亜が唇の端を上げて、僕に声を掛けてきた。
「この前もやっていたが、どうなんだ? それ。学校でわざわざ危険を冒してやるってことは、とっても楽しんだろうなぁ?」
いや、正直にここは言わせてもらおう。実はこのゲーム。
「実は全然っ、面白くないんだよね……ううん、油断したらそりゃあ、ゲームオーバーになるけど、そうじゃなきゃ簡単すぎるってのかな。最初ちょびっとお金払ってアイテム買っちゃったから、無駄にしない分遊んでおこうかなぁって思っただけ」
「そうなのか? じゃあ、わざわざ、学校でやる意味もないんじゃないか? いや、ナノカや教師に見つかるか見つからないかのスリルを楽しんでるのか?」
「いや、別に。そんなこと、全く考えてなかったし。この前見つかったのは、本当油断しただけ」
ふぅんと理亜が小さな声を出してから、一つ問うた。
「あのさ、情真」
「何?」
「この学校の裏掲示板に完全犯罪アドバイザーってのがいるらしいんだ。知ってるか?」
「そもそも裏掲示板なんか見ないし……」
僕の言葉にぷいっと首を傾げていた。
「そっか。見るのは私のような物好きだけってだけか。いやな、情真も頼んでみたらどうだ? 松富教諭とナノカの恋を終わらせるような、そんな……お願い事を、な」
「悪いけど、そんな信用ならないような奴の世話にはなりたくないかな」
僕達の物語はできれば、ミステリー小説よりかは恋愛小説でいたいものである。しかし、そうはいかないのが世の常。そこまで日が経たない間に僕はもう一つの事件に遭遇することとなった。
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