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第一節 1080°回った御嬢様
Ep.12 救え! クレーム探偵団!
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「きっと情真くんに掛けた間違い電話の件。きっと本当は電話相手が自分は事件を起こした後で他の人がどんな反応するかが知りたかったんじゃないかしら」
「そうだよね。僕の方はまぁ、いっつも変なことばっかり考えてるからピンと来たけど……ナノカは弟のラスクの件で気付いた?」
「ええ。後で起こることを見越したワタシと同じ。桐太くんもたぶん、後のことが心配になったのね。もし事故に見せかけて復讐をしたとして、後でみんなになんて思われるのか……人の目だったり、手続きだったり……」
僕は頷きながら、今度は「事故に見せかける」ことが分かった理由について口にする。
「事故に見せかけるってのは、本のことで気付いた? あのおじいさんって確か、推理マニアって言ってたよね。桐太が集めていたのは、推理小説じゃないかな。事故の本、所謂、事故が結果だった事件や事故に見せかけた事件のミステリーを桐太が探していたんだ」
「確かに。ワタシもクレーマーとして気付いたわ。図書館の本って言うのはどうしてもタイトルやキーワードだけで検索しなくちゃいけないから。機械があったとしても検索はできないし。ネタバレに関わる内容から本を探す場合、ミステリーをたくさん読みこんでいる、詳しい人に聞くしかないでしょ」
「まぁ、僕は理亜達と本の話をしてる中で、事故関係とかの訴訟の本じゃなくて、事故に見せかけた事件の推理小説もあるんじゃって気が付いたんだけどね。でもまぁ、それで推理小説を参考にして完全犯罪を企んでいたってことでしょ? 桐太は……」
もっと早く気付くべきだった。
たぶん、理亜の方は気付いていたのだと思う。何度か推理を話そうとしたものの「やっぱやめた」や「おふざけかもしれない」と理由を付けて言わなかった。彼女が口を閉ざしていた理由の一つに完全犯罪はふざけたイメージがあるとのことだろう。もしかしたら僕やナノカが「完全犯罪だなんて夢みたいなこと言うべきじゃない」と提言し、理亜自身が恥を掻くかもしれない。それを恐れて言わなかった。
いや、それだけではない。
彼女は桐太の電話番号を知っていた。普通に考えて、連絡網がないこの状況から桐太の電話番号なんて知る必要がない。中学校の頃だとしても、だ。普通は小学校や中学校の連絡網が誰がどうだったかなんて覚えていることなどない。そのことから理亜と桐太は連絡をする程、親密な関係だったのかも、だ。僕もナノカの家の電話番号については覚えている。スマートフォンを持っていない時代だったから、連絡を家電で取り合っていたというのもあるのだが。
大切な関係だったからこそ、早く見抜くことができた。見抜いた上で大切な人が野蛮な行動をしようとしていることを隠そうとしていたのではないか。
「そうね。早く、手遅れになる前に……きっと、これが真相よ」
クレーマーが太鼓判を押した真実。
ポツリと僕がそこに文句を入れた。彼女自身についてではない。彼女が差した真実について、だ。
「復讐なんて……ダメだよね……復讐なんてしたって、結局はダメなんだ……」
復讐で報われてくれたら、どれだけ楽か。
モヤモヤする相手を自分の手で消せば、問題がなくなる。桐太はその悪い犯人を。僕はナノカが好意を寄せている松富先生を。いなくなれば、心に済む悩みは一旦消えるかもしれない。
しかし、それは完全に解決するとは思えないのだ。
僕達が大切な人の前で堂々と生きていけるのか。笑っていられるのか。僕は絶対に穏やかではいられない。ナノカが大切にしようとしていた人を消して、その罪を背負った状態で彼女と楽しく過ごすことなど絶対にできる自信がない。桐太だってそうだ。復讐をしたら、絶対に後悔する。大切な妹の前で、大切な人の前で平穏な日々を送ることができなくなってしまう。
ナノカもそうだろう。
「復讐なんて他の人が悲しむことしかない」
「だよね」
彼女も復讐のむなしさは知っている。夏休み前に起きた事件も報復が混じっていたのだが、犯人の心がスッキリすることはなかった。その上で、だ。彼女は色々と復讐の問題を口にする。
「復讐ってのはね、自分のことしか考えてないからやることなのよ! 人殺しに関しては、それで他の人の復讐したいって気持ちを奪って満足なの!? 見返してやりたいって思ってた人の邪魔をすることにもなるのよ! そうじゃなかったとしても警察沙汰になった場合、警察の手を煩わせることになるのよ!」
「ナノカの両親って警察官だったよね。親思いだね」
彼女は少し顔を紅くする中、更にクレームを連発する。
「べ、別にそれだけじゃないのよ! そ、そんなだけじゃなくって! うちの親が関わってなかったとしてもよ。その事件のせいで警察官は子供や大切な人と一緒にいる時間が奪われちゃうのよ! 例えばだけど……子供が親と遊園地へ行くって約束してて、その先で事件が起こった……そのせいで遊園地へ行けなかった……それだけじゃなくて、雨の中、大丈夫かなって心配する弟をずっと見てる気持ちが、その復讐者って奴に分かるのかしら!? 姉の方とかはどうでもいいけど、自分が楽しみたかった遊園地のことなんてどうでもいいって言って涙を呑んで堪えて、親を心配してる男の子の気持ちってのが分かるのかしらっ!? でも復讐者とかは捕まって、探偵や被害者に謝るんでしょう……! 『こんなことをして申し訳ありませんでした』って言って……その人の最後の良心みたいに思われるんでしょうね……感動的なシーンになるんでしょうね!?」
「ナノカ……」
「でも、そのせいで迷惑を掛けた人や辛い思いをした人のことなんて、絶対に考えないんでしょうね! そんな想像なんてあったら! 復讐なんて、しないでしょうしねっ!」
彼女のクレームはまるで実際あったことのよう。いや、たぶん、彼女の経験談なのかもしれない。
「だよね! 絶対に止めなきゃ、こんなことがあっちゃあ、絶対にいけないんだから! 誰の心も傷付かないうちに!」
僕が賛同したがためか。
彼女の熱中は止まらなかった。目の前にあるのは赤く染まった信号機。曲がってくるトラック。焦って暴走しているナノカ。
十秒もしないうちに起きる惨劇が僕の脳裏ではすでに映写されていた。
「危ないっ!」
「そうだよね。僕の方はまぁ、いっつも変なことばっかり考えてるからピンと来たけど……ナノカは弟のラスクの件で気付いた?」
「ええ。後で起こることを見越したワタシと同じ。桐太くんもたぶん、後のことが心配になったのね。もし事故に見せかけて復讐をしたとして、後でみんなになんて思われるのか……人の目だったり、手続きだったり……」
僕は頷きながら、今度は「事故に見せかける」ことが分かった理由について口にする。
「事故に見せかけるってのは、本のことで気付いた? あのおじいさんって確か、推理マニアって言ってたよね。桐太が集めていたのは、推理小説じゃないかな。事故の本、所謂、事故が結果だった事件や事故に見せかけた事件のミステリーを桐太が探していたんだ」
「確かに。ワタシもクレーマーとして気付いたわ。図書館の本って言うのはどうしてもタイトルやキーワードだけで検索しなくちゃいけないから。機械があったとしても検索はできないし。ネタバレに関わる内容から本を探す場合、ミステリーをたくさん読みこんでいる、詳しい人に聞くしかないでしょ」
「まぁ、僕は理亜達と本の話をしてる中で、事故関係とかの訴訟の本じゃなくて、事故に見せかけた事件の推理小説もあるんじゃって気が付いたんだけどね。でもまぁ、それで推理小説を参考にして完全犯罪を企んでいたってことでしょ? 桐太は……」
もっと早く気付くべきだった。
たぶん、理亜の方は気付いていたのだと思う。何度か推理を話そうとしたものの「やっぱやめた」や「おふざけかもしれない」と理由を付けて言わなかった。彼女が口を閉ざしていた理由の一つに完全犯罪はふざけたイメージがあるとのことだろう。もしかしたら僕やナノカが「完全犯罪だなんて夢みたいなこと言うべきじゃない」と提言し、理亜自身が恥を掻くかもしれない。それを恐れて言わなかった。
いや、それだけではない。
彼女は桐太の電話番号を知っていた。普通に考えて、連絡網がないこの状況から桐太の電話番号なんて知る必要がない。中学校の頃だとしても、だ。普通は小学校や中学校の連絡網が誰がどうだったかなんて覚えていることなどない。そのことから理亜と桐太は連絡をする程、親密な関係だったのかも、だ。僕もナノカの家の電話番号については覚えている。スマートフォンを持っていない時代だったから、連絡を家電で取り合っていたというのもあるのだが。
大切な関係だったからこそ、早く見抜くことができた。見抜いた上で大切な人が野蛮な行動をしようとしていることを隠そうとしていたのではないか。
「そうね。早く、手遅れになる前に……きっと、これが真相よ」
クレーマーが太鼓判を押した真実。
ポツリと僕がそこに文句を入れた。彼女自身についてではない。彼女が差した真実について、だ。
「復讐なんて……ダメだよね……復讐なんてしたって、結局はダメなんだ……」
復讐で報われてくれたら、どれだけ楽か。
モヤモヤする相手を自分の手で消せば、問題がなくなる。桐太はその悪い犯人を。僕はナノカが好意を寄せている松富先生を。いなくなれば、心に済む悩みは一旦消えるかもしれない。
しかし、それは完全に解決するとは思えないのだ。
僕達が大切な人の前で堂々と生きていけるのか。笑っていられるのか。僕は絶対に穏やかではいられない。ナノカが大切にしようとしていた人を消して、その罪を背負った状態で彼女と楽しく過ごすことなど絶対にできる自信がない。桐太だってそうだ。復讐をしたら、絶対に後悔する。大切な妹の前で、大切な人の前で平穏な日々を送ることができなくなってしまう。
ナノカもそうだろう。
「復讐なんて他の人が悲しむことしかない」
「だよね」
彼女も復讐のむなしさは知っている。夏休み前に起きた事件も報復が混じっていたのだが、犯人の心がスッキリすることはなかった。その上で、だ。彼女は色々と復讐の問題を口にする。
「復讐ってのはね、自分のことしか考えてないからやることなのよ! 人殺しに関しては、それで他の人の復讐したいって気持ちを奪って満足なの!? 見返してやりたいって思ってた人の邪魔をすることにもなるのよ! そうじゃなかったとしても警察沙汰になった場合、警察の手を煩わせることになるのよ!」
「ナノカの両親って警察官だったよね。親思いだね」
彼女は少し顔を紅くする中、更にクレームを連発する。
「べ、別にそれだけじゃないのよ! そ、そんなだけじゃなくって! うちの親が関わってなかったとしてもよ。その事件のせいで警察官は子供や大切な人と一緒にいる時間が奪われちゃうのよ! 例えばだけど……子供が親と遊園地へ行くって約束してて、その先で事件が起こった……そのせいで遊園地へ行けなかった……それだけじゃなくて、雨の中、大丈夫かなって心配する弟をずっと見てる気持ちが、その復讐者って奴に分かるのかしら!? 姉の方とかはどうでもいいけど、自分が楽しみたかった遊園地のことなんてどうでもいいって言って涙を呑んで堪えて、親を心配してる男の子の気持ちってのが分かるのかしらっ!? でも復讐者とかは捕まって、探偵や被害者に謝るんでしょう……! 『こんなことをして申し訳ありませんでした』って言って……その人の最後の良心みたいに思われるんでしょうね……感動的なシーンになるんでしょうね!?」
「ナノカ……」
「でも、そのせいで迷惑を掛けた人や辛い思いをした人のことなんて、絶対に考えないんでしょうね! そんな想像なんてあったら! 復讐なんて、しないでしょうしねっ!」
彼女のクレームはまるで実際あったことのよう。いや、たぶん、彼女の経験談なのかもしれない。
「だよね! 絶対に止めなきゃ、こんなことがあっちゃあ、絶対にいけないんだから! 誰の心も傷付かないうちに!」
僕が賛同したがためか。
彼女の熱中は止まらなかった。目の前にあるのは赤く染まった信号機。曲がってくるトラック。焦って暴走しているナノカ。
十秒もしないうちに起きる惨劇が僕の脳裏ではすでに映写されていた。
「危ないっ!」
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