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第一節 1080°回った御嬢様
Ep.9 ワールドエンド青春ガールズ
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家に帰宅した後は熱いシャワーを顔にぶっかける。顔から出そうなものを必死に耐えたご褒美と言わんばかりにじゃんじゃん掛けていく。気持ちを切り替えて、謎の解明に集中しなければと意識する。
桐太が起こした事件は本物か、それとも偽りか。
まずはこの二点から考えていかなければならないのだが。全く手掛かりがない状況。夕食に出たかつ丼のかつの中の肉が衣より少なかったことに疑問はあったものの、それ以外はずっと事件のことを考えた。母さんが何か言っていたような気もするが、どうでもいい話だと思われる。
すぐベッドに横になって、ある人物に電話を掛ける。母の目の前で掛けると色々いじられる。「あらあら、その子と一晩中電話なんてよっぽど好きなの?」なんて聞かれるが、違う。理亜が勝手に一晩中話してくるだけだ。こちらはただ単に彼女の作家としての妄想や完全犯罪論を聞いているだけなのである。唯一僕が彼女に向ける感情は頼むから、その犯罪は実行しないでくれ、その場合止めなかった僕が共犯になるからとの願いだけだ。
とにかく理亜に連絡を取りたかった。彼女にもアドバイスはしてもらったことだし、調査報告をしなければと思ったのだ。
「理亜……?」
『何だ? 自分から電話を掛けてくるなんて。寂しくなったか。ナノカを寝取られて』
「縁起の悪いことを言うな! まだ寝取られてない! ナノカに限って、それはない! だってそれやったら、あれだよ!? 未成年うんぬんかんぬんで」
『ああ……分かった分かった。で、本件は何だ?』
「ったく、自分から言ってきたのに秒で飽きるんじゃねえって」
彼女のからかいが終わると、早速本題に。手掛かりにはならないと思うのだが、図書館であったことを説明しておく。
「なぁ、理亜はそいつが本当に桐太だったと思うか?」
『ううん……』
向こうからぽちゃんとの水音が聞こえてきた。もしかして彼女は風呂で電話をしているのではと予想し、バスローブ姿の理亜を想像してしまう。一瞬で首を横に振って、邪心を吹き飛ばす。こちらの胸が騒ぐのを止めてから、図書館であったことを丁寧に話していく。
理亜はすぐに答えを出してくれた。
『……まぁ、そうだな……その人が言うに同じ高校生で……図書館にか。最近はデジタル化もあって、行く人も減ってるし間違いはないと思うがな』
僕の言ったことをまるっきり分かっているような口調。何となく茶々を入れてみたくなった。
「何で、高校生って分かるの? 中学生かもしれないよ」
しかし、ただ悪気があってやっている訳ではない。本当に高校生だと断定できる理由が知りたかったのだ。僕やナノカが時々、道端で会った人に中学生だと間違われる。もう、高校生なのに。
『お前は家に帰ってから行ったのか?』
「えっ?」
『高校の制服で行ったろ」
「ああ、そうだった……でも、桐太が何で確実に高校生って分かったんだろ。桐太が行ったのは休みでしょ? そこまで桐太って大人びた顔?」
『いや、どっちかと言ったら、情真みたいな可愛い顔だ』
「可愛くないやい!」
『まぁ、どうでもいいとして。きっと、何回か制服でも行ってるんじゃないか? うん……そう考えると辻褄が合う。もしかしたら……だが』
「ん? もしかしたら?」
いきなり声が聞こえなくなった。
ついでにちゃぽんの音。
「おい、もしかして、お前風呂場ですっぽんぽんで寝てんじゃねえだろうな!?」
『すっぽんぽんとは失礼だな。ただ皿洗いをしていただけだ! やっぱ、お前は変態だよ!』
怒鳴られて、電話は切れてしまった。どうやら僕はワードセンスとデリカシーと推理力を養った方が良いらしい。
と言っても、ただ風呂の中で溺れないか、心配していただけなのに。いや、僕の中に隠れているだろうスケベな一面が顔を覗かせてしまったのかもしれない。
今はもう打つ手なし。彼女の話を聞くのは、また次の機会にしよう。
もやもやが完全には消えないまま、夜は明ける。登校時間もやってくる。
晴れ空は目にする点にしては気持ちが良い。だけれども、残暑がしっかり僕たちの体力を奪っていく天候でもある。不快なことこの上ない。汗が染みついたシャツで自分の肌を仰ぎながら、自転車を全力で漕いでいく。
校舎に入ると、風紀委員とばったり出くわした。そう、栗色ポニーテールの可愛らしくて厳つい、女子高生。彼女は僕を取り締まる。
「あのさ! 服装がなってない! 暑いのは分かるけど、人前ではしっかりしなさいっ! 見てるこっちまで恥ずかしくなんのよ!」
「ご、ごめん……あっ、ナノカ……ちょっといい? 下駄箱を確認したいんだけど」
「情真くん? アンタの靴箱はこっちでしょ? 何処に行くの?」
「桐太のクラスのだよ……ううん」
今日も来ていないみたいだ。スリッパが残されている彼の下駄箱には一種の寂しさが詰め込れていた。そこを確かめた僕の心に覆い被さってくる。
心配する僕の態度をナノカが気に食わなかったのか、いきなり怒鳴ってきた。
「くよくよしないっ! あれじゃ、どんな名探偵だって無理よ! 挑戦状のあるミステリー小説だったら作者にクレーム入れたくなるところだわっ!」
「う、うん……でも……」
ただ彼女は叫ぶ訳でない点が、いいところ。心配する点を自分のように考え始めた。
「でも、困るわよね……この事件ね……とにかく、桐太くんが何で存在しない事件をでっち上げたのかとか、考えても、なかなかその理由が分かんないし。でも分からなかったとしても、困ってたとしても、最後の最後まで粘りましょ。そうすれば、何とかなることだってあるはずだから」
僕は「うん」と頷いて歩いていく。僕が最後だったらしく、ナノカも隣に立って教室の方へと戻ろうとする。
階段を上がって、いざ二階の教室に。入ったところでいきなり、壁が立ちはだかる。本当は壁ではなく、クラスメイト。山田くんだ。ナノカが「おはよう」と声を掛けても、僕が「どうしたんだ?」と質問しても、ずっとしかめっ面。
彼のキャラクター的に何があったか、予測して励ますことにした。
「まぁ、ナンパに失敗したからって、そんながっかりすんなよ。お前にピッタリな人は他にいるんだ」
「違ーよ!」
折角、優しい言葉を掛けたのだが秒で否定されてしまった。「じゃあ、なんなの?」と尋ねるナノカに彼が一言。
「二人ともスマホ見てねえのかよ」
僕は昨日、理亜との通話を終えた後にすぐさま夢の世界へ直行してしまった。ナノカも忙しくて見ていなかったらしい。
彼女は少しビクつき震えて、彼に何があったのか尋ねていた。
「な、何が……」
「今日の朝、体育祭の練習があるって言っただろ? 綱引きの」
と言われて、突然ナノカが身を後ろに引いた。それから汗だくになって「やってしまった」と言わんばかりの顔で絶望する。
「えっ、嘘!? ご、ごめんなさい! みんな、ごめんっ!」
世界が終わるかのように不安げな顔をしたナノカが挙動不審になっている。その間に僕は山田くんに文句を言った。
「だったら、電話で教えてくれればいいだろ?」
「いや、知らねえよ」
答えられた瞬間、頭の中で「あっ、そうか」との言葉と「何故?」との違和感が同居した。
「あっ、あれ……? そうだよね? あれ……連絡網とかないんだよね?」
桐太が起こした事件は本物か、それとも偽りか。
まずはこの二点から考えていかなければならないのだが。全く手掛かりがない状況。夕食に出たかつ丼のかつの中の肉が衣より少なかったことに疑問はあったものの、それ以外はずっと事件のことを考えた。母さんが何か言っていたような気もするが、どうでもいい話だと思われる。
すぐベッドに横になって、ある人物に電話を掛ける。母の目の前で掛けると色々いじられる。「あらあら、その子と一晩中電話なんてよっぽど好きなの?」なんて聞かれるが、違う。理亜が勝手に一晩中話してくるだけだ。こちらはただ単に彼女の作家としての妄想や完全犯罪論を聞いているだけなのである。唯一僕が彼女に向ける感情は頼むから、その犯罪は実行しないでくれ、その場合止めなかった僕が共犯になるからとの願いだけだ。
とにかく理亜に連絡を取りたかった。彼女にもアドバイスはしてもらったことだし、調査報告をしなければと思ったのだ。
「理亜……?」
『何だ? 自分から電話を掛けてくるなんて。寂しくなったか。ナノカを寝取られて』
「縁起の悪いことを言うな! まだ寝取られてない! ナノカに限って、それはない! だってそれやったら、あれだよ!? 未成年うんぬんかんぬんで」
『ああ……分かった分かった。で、本件は何だ?』
「ったく、自分から言ってきたのに秒で飽きるんじゃねえって」
彼女のからかいが終わると、早速本題に。手掛かりにはならないと思うのだが、図書館であったことを説明しておく。
「なぁ、理亜はそいつが本当に桐太だったと思うか?」
『ううん……』
向こうからぽちゃんとの水音が聞こえてきた。もしかして彼女は風呂で電話をしているのではと予想し、バスローブ姿の理亜を想像してしまう。一瞬で首を横に振って、邪心を吹き飛ばす。こちらの胸が騒ぐのを止めてから、図書館であったことを丁寧に話していく。
理亜はすぐに答えを出してくれた。
『……まぁ、そうだな……その人が言うに同じ高校生で……図書館にか。最近はデジタル化もあって、行く人も減ってるし間違いはないと思うがな』
僕の言ったことをまるっきり分かっているような口調。何となく茶々を入れてみたくなった。
「何で、高校生って分かるの? 中学生かもしれないよ」
しかし、ただ悪気があってやっている訳ではない。本当に高校生だと断定できる理由が知りたかったのだ。僕やナノカが時々、道端で会った人に中学生だと間違われる。もう、高校生なのに。
『お前は家に帰ってから行ったのか?』
「えっ?」
『高校の制服で行ったろ」
「ああ、そうだった……でも、桐太が何で確実に高校生って分かったんだろ。桐太が行ったのは休みでしょ? そこまで桐太って大人びた顔?」
『いや、どっちかと言ったら、情真みたいな可愛い顔だ』
「可愛くないやい!」
『まぁ、どうでもいいとして。きっと、何回か制服でも行ってるんじゃないか? うん……そう考えると辻褄が合う。もしかしたら……だが』
「ん? もしかしたら?」
いきなり声が聞こえなくなった。
ついでにちゃぽんの音。
「おい、もしかして、お前風呂場ですっぽんぽんで寝てんじゃねえだろうな!?」
『すっぽんぽんとは失礼だな。ただ皿洗いをしていただけだ! やっぱ、お前は変態だよ!』
怒鳴られて、電話は切れてしまった。どうやら僕はワードセンスとデリカシーと推理力を養った方が良いらしい。
と言っても、ただ風呂の中で溺れないか、心配していただけなのに。いや、僕の中に隠れているだろうスケベな一面が顔を覗かせてしまったのかもしれない。
今はもう打つ手なし。彼女の話を聞くのは、また次の機会にしよう。
もやもやが完全には消えないまま、夜は明ける。登校時間もやってくる。
晴れ空は目にする点にしては気持ちが良い。だけれども、残暑がしっかり僕たちの体力を奪っていく天候でもある。不快なことこの上ない。汗が染みついたシャツで自分の肌を仰ぎながら、自転車を全力で漕いでいく。
校舎に入ると、風紀委員とばったり出くわした。そう、栗色ポニーテールの可愛らしくて厳つい、女子高生。彼女は僕を取り締まる。
「あのさ! 服装がなってない! 暑いのは分かるけど、人前ではしっかりしなさいっ! 見てるこっちまで恥ずかしくなんのよ!」
「ご、ごめん……あっ、ナノカ……ちょっといい? 下駄箱を確認したいんだけど」
「情真くん? アンタの靴箱はこっちでしょ? 何処に行くの?」
「桐太のクラスのだよ……ううん」
今日も来ていないみたいだ。スリッパが残されている彼の下駄箱には一種の寂しさが詰め込れていた。そこを確かめた僕の心に覆い被さってくる。
心配する僕の態度をナノカが気に食わなかったのか、いきなり怒鳴ってきた。
「くよくよしないっ! あれじゃ、どんな名探偵だって無理よ! 挑戦状のあるミステリー小説だったら作者にクレーム入れたくなるところだわっ!」
「う、うん……でも……」
ただ彼女は叫ぶ訳でない点が、いいところ。心配する点を自分のように考え始めた。
「でも、困るわよね……この事件ね……とにかく、桐太くんが何で存在しない事件をでっち上げたのかとか、考えても、なかなかその理由が分かんないし。でも分からなかったとしても、困ってたとしても、最後の最後まで粘りましょ。そうすれば、何とかなることだってあるはずだから」
僕は「うん」と頷いて歩いていく。僕が最後だったらしく、ナノカも隣に立って教室の方へと戻ろうとする。
階段を上がって、いざ二階の教室に。入ったところでいきなり、壁が立ちはだかる。本当は壁ではなく、クラスメイト。山田くんだ。ナノカが「おはよう」と声を掛けても、僕が「どうしたんだ?」と質問しても、ずっとしかめっ面。
彼のキャラクター的に何があったか、予測して励ますことにした。
「まぁ、ナンパに失敗したからって、そんながっかりすんなよ。お前にピッタリな人は他にいるんだ」
「違ーよ!」
折角、優しい言葉を掛けたのだが秒で否定されてしまった。「じゃあ、なんなの?」と尋ねるナノカに彼が一言。
「二人ともスマホ見てねえのかよ」
僕は昨日、理亜との通話を終えた後にすぐさま夢の世界へ直行してしまった。ナノカも忙しくて見ていなかったらしい。
彼女は少しビクつき震えて、彼に何があったのか尋ねていた。
「な、何が……」
「今日の朝、体育祭の練習があるって言っただろ? 綱引きの」
と言われて、突然ナノカが身を後ろに引いた。それから汗だくになって「やってしまった」と言わんばかりの顔で絶望する。
「えっ、嘘!? ご、ごめんなさい! みんな、ごめんっ!」
世界が終わるかのように不安げな顔をしたナノカが挙動不審になっている。その間に僕は山田くんに文句を言った。
「だったら、電話で教えてくれればいいだろ?」
「いや、知らねえよ」
答えられた瞬間、頭の中で「あっ、そうか」との言葉と「何故?」との違和感が同居した。
「あっ、あれ……? そうだよね? あれ……連絡網とかないんだよね?」
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