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第一節 1080°回った御嬢様
Ep.7 興味津々、謎を好んだ文芸少女
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図書館にはすぐに到着し、新聞紙のあるコーナーを探す。何度も何度もそわそわ見回して、怪しい人に思われたかもしれない。司書の人が白い目をこちらに向けていたと感じたのは疑心暗鬼による思い違いか。
やっと見つけた新聞紙を広げて、いざ探そう。奮起した際。指に惨劇が起きた。いや、斬撃。斬撃を喰らったと言えば、正しいか。
指をしゃきっと切ってしまったのである。
「いったぁ……」
出血している状態ではいられないと一旦、トイレの方に駆け込んだ。水道で指に垂れていた血液を落としていく。しかし、流血は止まることを知らない。図書館でいられる時間も有限ではない。このままずっとトイレにいて、閉館しますでは図書館に来た意味もなくなってしまう。いち早く桐太を助けなければならないと考えている状況で四の五の言ってはいられない。
少し位なら血で汚してしまうのも仕方ない。こっちは人の命が懸っているのだから。
そっと指を隠し、トイレを出たところで誰かがポツリ。
「まさか、その汚い手で図書館の書籍を探そうってんじゃないわよね……それにあんなに大々的に新聞を広げて……迷惑って言葉を知らないのかしら? この大ボケのすっとこどっこい!」
「えっ、ナノカ?」
栗色ポニーテールの彼女だ。間違いない。僕の心臓は彼女の登場により、思いきり飛び跳ねた。口からぼわんと出てきちゃったらどうするんだと不安になる位に。
「これ!」
彼女が僕に乱暴に手渡したのは一枚の絆創膏。彼女は僕から目を逸らし、「ちゃんと貼りなさいよ」と告げてくるのであった。
僕は体が熱くなっていくのを感じつつ、指に絆創膏を巻いていく。汗でぐちょぐちょになった絆創膏。一応、血を止めるだけの役割は果たしている。
止血が終わった後に彼女が何故、ここに来たのか疑問を口にした。
「何で、ナノカ、僕がここにいるのを知って、何で……」
「いや、単ににゅーちゃんから頼まれたのよ。校舎の窓から情真くんが自転車で暴走してるのを見て、『あの交通違反野郎をとっちめてください』って言われたから仕方なく、ね。追ってたら、ここに来たってこと」
「じゃあ、助けに来たってことではなかったんだ」
「ええ。そういうことよ。じゃあ、新聞の方を調べるわよ」
あれ、と僕は頭に疑問符が浮かび上がる。助けに来たわけでないのにナノカは桐太の事故について調べようとしている。完全に発言が矛盾しているではないか。
「へっ? な、ナノカ?」
僕が変な声を出したと同時に彼女はこちらに背中とポニーテールを向けて弁明した。
「た、単に気になってるだけよ! さっさと調べて何もなかったんなら、悪戯で良かったって思うようにしましょうよ」
「あ……う、うん! あっ、絆創膏のこともありがとね!」
「情真くん、と、図書館では騒がないの……」
「あっ、ごめんなさい……」
今、彼女は協力的になっていることは確か。彼女の好意を全面的に受け取って、今は真実を確かめる行動に移すしかない。
新聞を片付けつつ、交通事故の小さな記事を確かめる。そこには榎田さんの言う通り、高校生が被害者になるちょっとした事故はあれども、加害者となった記事はなかった。
本当に見落としていないかも何度も確認する。時々ナノカは話題から逸れて、「まぁ、こんな失礼な事件もあるのね」とぼやいている。額に青筋を立てて怒っていても仕方ないじゃないかと彼女を宥めながら、何とか調査を進めていく。
そんなこんなで探しまくっては見たものの、結局僕たちの努力は水の泡。
桐太が指し示していた新聞。ネット新聞ではないかと何度かスマートフォンで検索してみるも、何も出てこない。
そもそも桐太の事故は新聞に載るものと言われていたものの、その記事が没になった可能性もある。桐太は掲載されたと信じ込んでいるだけで。完全にお互いに笑って終わりにできたのか。警察にも誰にも連絡せず、双方でやり取りを終わらせたのか。
この可能性を考えていても疑問はある。何故、相手の容体が悪くなったのか分かったのか? 事故現場で名刺を渡したり、名前を教え合ったりしたのだろうか。
もし何かあったらご連絡くださいみたいなことをしていたのであれば、桐太は相手が今後どうなるか予想をしていたことになる。今になって相手の調子が悪くなったことに驚き、泣き喚いて相談するのか。
頭の痛みと指の切り傷が痛んだ時、更なる疑問が頭に浮かぶ。
どうして相手の容体が悪くなったことと、桐太がたまたま起こした事故のことがくっつけられるのか。もしかしたら、別の理由で具合が悪くなった可能性もある。日常生活を過ごしていたら、転んだり傷付いたりすることなど当たり前。事故だけが原因だと断定できるのか。
「何かぶつぶつ呟いてるけど、不快。怪しい、不審者、極まれり」
一人で推理を進めていたら、ナノカに罵倒されてしまう。
「ああ……ごめん……実は……」
と自分が思い付いた情報を彼女にも小さい声で伝えていく。彼女は小刻みに頷きながら、僕への非礼を詫びていた。
「な、なんだ。ごめん。考えてたのね。てっきり、ゲームの話題とか漫画の話題とかを言ってると思ってたの」
「ええ……」
「ちゃんと考えてるんなら、こっちが手助けしてあげてもいいのよ。役に立つ情報も手に入ったことだし」
「ん? 何々? 何なの?」
僕が急いでそのことを聞こうとしたら、彼女は顔から湯気を上げてぷんすか怒り始めた。
「ちょっと! そんなに急がない。急ぐから指を怪我したり……真実を見誤ったりするのかもよ」
「うう……」
ギクッとしか答えられない。僕は肩の力を抜いて、何回か深呼吸を繰り返した。そうしているうちに彼女は優しい顔へと戻っていく。
「そうそう。もっとリラックスして。アンタのことだから、自分が心の電話をぶっちぎって、責任を感じてるんでしょ。全くもう。ワタシのせいでもあるのに」
「ううん、僕が学校でスマホなんてやってたからかもしれない。掛からなきゃ、相手も聞いてくれるって期待を持たずに済んだんだからさ」
「勝手に人の心を推測して変な方向に走るんじゃないの。彼にもたぶん、話を聞いてくれる人がいるはずよ。少なくとも、似たような気持ちを抱いている妹さんが、ね」
「えっ? えっ? 妹、さん?」
初耳の情報に驚いた僕は耳をぴくぴく動かした。
やっと見つけた新聞紙を広げて、いざ探そう。奮起した際。指に惨劇が起きた。いや、斬撃。斬撃を喰らったと言えば、正しいか。
指をしゃきっと切ってしまったのである。
「いったぁ……」
出血している状態ではいられないと一旦、トイレの方に駆け込んだ。水道で指に垂れていた血液を落としていく。しかし、流血は止まることを知らない。図書館でいられる時間も有限ではない。このままずっとトイレにいて、閉館しますでは図書館に来た意味もなくなってしまう。いち早く桐太を助けなければならないと考えている状況で四の五の言ってはいられない。
少し位なら血で汚してしまうのも仕方ない。こっちは人の命が懸っているのだから。
そっと指を隠し、トイレを出たところで誰かがポツリ。
「まさか、その汚い手で図書館の書籍を探そうってんじゃないわよね……それにあんなに大々的に新聞を広げて……迷惑って言葉を知らないのかしら? この大ボケのすっとこどっこい!」
「えっ、ナノカ?」
栗色ポニーテールの彼女だ。間違いない。僕の心臓は彼女の登場により、思いきり飛び跳ねた。口からぼわんと出てきちゃったらどうするんだと不安になる位に。
「これ!」
彼女が僕に乱暴に手渡したのは一枚の絆創膏。彼女は僕から目を逸らし、「ちゃんと貼りなさいよ」と告げてくるのであった。
僕は体が熱くなっていくのを感じつつ、指に絆創膏を巻いていく。汗でぐちょぐちょになった絆創膏。一応、血を止めるだけの役割は果たしている。
止血が終わった後に彼女が何故、ここに来たのか疑問を口にした。
「何で、ナノカ、僕がここにいるのを知って、何で……」
「いや、単ににゅーちゃんから頼まれたのよ。校舎の窓から情真くんが自転車で暴走してるのを見て、『あの交通違反野郎をとっちめてください』って言われたから仕方なく、ね。追ってたら、ここに来たってこと」
「じゃあ、助けに来たってことではなかったんだ」
「ええ。そういうことよ。じゃあ、新聞の方を調べるわよ」
あれ、と僕は頭に疑問符が浮かび上がる。助けに来たわけでないのにナノカは桐太の事故について調べようとしている。完全に発言が矛盾しているではないか。
「へっ? な、ナノカ?」
僕が変な声を出したと同時に彼女はこちらに背中とポニーテールを向けて弁明した。
「た、単に気になってるだけよ! さっさと調べて何もなかったんなら、悪戯で良かったって思うようにしましょうよ」
「あ……う、うん! あっ、絆創膏のこともありがとね!」
「情真くん、と、図書館では騒がないの……」
「あっ、ごめんなさい……」
今、彼女は協力的になっていることは確か。彼女の好意を全面的に受け取って、今は真実を確かめる行動に移すしかない。
新聞を片付けつつ、交通事故の小さな記事を確かめる。そこには榎田さんの言う通り、高校生が被害者になるちょっとした事故はあれども、加害者となった記事はなかった。
本当に見落としていないかも何度も確認する。時々ナノカは話題から逸れて、「まぁ、こんな失礼な事件もあるのね」とぼやいている。額に青筋を立てて怒っていても仕方ないじゃないかと彼女を宥めながら、何とか調査を進めていく。
そんなこんなで探しまくっては見たものの、結局僕たちの努力は水の泡。
桐太が指し示していた新聞。ネット新聞ではないかと何度かスマートフォンで検索してみるも、何も出てこない。
そもそも桐太の事故は新聞に載るものと言われていたものの、その記事が没になった可能性もある。桐太は掲載されたと信じ込んでいるだけで。完全にお互いに笑って終わりにできたのか。警察にも誰にも連絡せず、双方でやり取りを終わらせたのか。
この可能性を考えていても疑問はある。何故、相手の容体が悪くなったのか分かったのか? 事故現場で名刺を渡したり、名前を教え合ったりしたのだろうか。
もし何かあったらご連絡くださいみたいなことをしていたのであれば、桐太は相手が今後どうなるか予想をしていたことになる。今になって相手の調子が悪くなったことに驚き、泣き喚いて相談するのか。
頭の痛みと指の切り傷が痛んだ時、更なる疑問が頭に浮かぶ。
どうして相手の容体が悪くなったことと、桐太がたまたま起こした事故のことがくっつけられるのか。もしかしたら、別の理由で具合が悪くなった可能性もある。日常生活を過ごしていたら、転んだり傷付いたりすることなど当たり前。事故だけが原因だと断定できるのか。
「何かぶつぶつ呟いてるけど、不快。怪しい、不審者、極まれり」
一人で推理を進めていたら、ナノカに罵倒されてしまう。
「ああ……ごめん……実は……」
と自分が思い付いた情報を彼女にも小さい声で伝えていく。彼女は小刻みに頷きながら、僕への非礼を詫びていた。
「な、なんだ。ごめん。考えてたのね。てっきり、ゲームの話題とか漫画の話題とかを言ってると思ってたの」
「ええ……」
「ちゃんと考えてるんなら、こっちが手助けしてあげてもいいのよ。役に立つ情報も手に入ったことだし」
「ん? 何々? 何なの?」
僕が急いでそのことを聞こうとしたら、彼女は顔から湯気を上げてぷんすか怒り始めた。
「ちょっと! そんなに急がない。急ぐから指を怪我したり……真実を見誤ったりするのかもよ」
「うう……」
ギクッとしか答えられない。僕は肩の力を抜いて、何回か深呼吸を繰り返した。そうしているうちに彼女は優しい顔へと戻っていく。
「そうそう。もっとリラックスして。アンタのことだから、自分が心の電話をぶっちぎって、責任を感じてるんでしょ。全くもう。ワタシのせいでもあるのに」
「ううん、僕が学校でスマホなんてやってたからかもしれない。掛からなきゃ、相手も聞いてくれるって期待を持たずに済んだんだからさ」
「勝手に人の心を推測して変な方向に走るんじゃないの。彼にもたぶん、話を聞いてくれる人がいるはずよ。少なくとも、似たような気持ちを抱いている妹さんが、ね」
「えっ? えっ? 妹、さん?」
初耳の情報に驚いた僕は耳をぴくぴく動かした。
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