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第一節 1080°回った御嬢様
Ep.5 可愛い可愛いレジェンドガール
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さて、まずは情報集めをするしかない。次に電話が掛かってくるかもしれない。その時に備えて動かなければ。
僕は早速、その場を立ち去ろうとしていた。階段までささっと歩き、理亜に「じゃっ!」と声を掛ける。そして一歩降りようとしていた時だ。
「情真、待て!」
声により驚愕。足を踏み外し、階段から転げ落ちそうになるかと一瞬心の底まで冷え込んだ。すぐに手すりを握る。よって、体が前に飛び出すことは避けられた。
息切れしている僕に彼女は一言。
「桐太のことで顔を真っ青にしているところ、悪いな」
「いや……原因はそっちじゃなくて理亜で……ってそんなことはいいよ。何?」
彼女を見上げてみる。何だかとても輝かしい顔をしている。何か彼女自身しか知らない方法を持っていそうなもの。ほんの少しだけ、淡い期待を抱いてしまった。
「……なぁ、もしかしたらなんだが……」
彼女は何か言おうとして、すぐにやめる。「やめた。どうせおふざけにしか聞こえない」と。彼女は冗談か何か言おうとしていたのを僕が見せていた真剣な眼差しで一旦口を閉ざす。
「じゃあ、僕は行くぞ」
「あっ、いや、待て。情真はこの先どうするんだ?」
「桐太の家に行くかどうかは後にして。まずは桐太が起こした事故の全貌を知らないと、と思ってさ。後はもっと詳しい方法を……交通指導の先生に聞けるか……いや、ここは警察に頼らないとダメかなぁ……」
だいぶあやふやな計画の僕に対して、理亜は呆れるように溜息を一つ。また見下された。こちらまで溜息を吐きたくなるものの、彼女はそれだけで終わらなかった。
こんな僕にアドバイスをしてくれたのだ。
「情真、頼りになる人がいる……」
「えっ?」
これが終わったら全速力で走れるように足踏みをしながら、彼女の話を聞いていく。
「合唱部は残ってるだろ?」
「そういや、ナノカがいたし……」
合唱部はナノカが所属している部活だ。ナノカが放課後に残っていたとの事実から、活動しているとは思う。少し落ち着いてみると、歌声が聞こえてくるため予想は確信に変わっていく。
と言っても、彼女に頼るつもりだろうか。「ナノカはそこまで交通事故に詳しい訳じゃ」なんて言おうとするも、彼女が途中で遮った。
「他の部員だ。交通委員の榎田って子がいるんだがな。彼女は非常に交通事故に関することに詳しくてな。自由研究でも交通事故の起こった場所を事細かに記録し、解説をしてたこともあるらしいな。もしかしたら、警察からも情報を入手してるかもしれない」
「そ、そんな子がいるの!?」
まるで伝説だ。
会えたら、きっと良い情報をいただけるに違いない。理亜に礼を告げ、階段を駆け上がる。引き返したところに渡り廊下があり、そこから先が部室棟。合唱部が集う部屋もある・
理亜が何故部活もないのに放課後の学校に残っていたかは知らないが、些細な謎だ。そんな謎解きよりも今は桐太の事故について調査することが先決。
今もまだ様々な部屋から流れてくる歌声は絶えてはいなかった。
合唱部は自身の部室だけではなく、空いてる部室を使って合唱の練習をしていることがあるとナノカから聞いたことがある。どうやら今回は個人でそれぞれの曲を練習しているらしく、一人一人別の部屋に籠っているよう。ただ合唱部だけが空き教室を借りてる訳ではないようで。さっと開けた扉の先に運動部の砂だらけのユニフォームを脱ごうとしていた女子生徒の姿が見えた。彼女達にこちらの姿を確認される前に急いで扉を閉める。最後に高い声で「失礼しましたー」と言っておいた。これで彼女達は女子が部屋を間違えたのだと錯覚するだろう。悲鳴も聞こえてこないし、全く問題ない。
危なかった。こんなところをナノカに見られていたら。
「情真くーん、こんなところで何やってるのかしら?」
いや、実際に見られていたようだ。背後を振り返ると、威圧的な笑顔をこちらに近づけてくるナノカがいた。
「さっきから部屋をジロジロ覗いてたりして、何? 不審者? さっきの話に加えて、覗きね……手遅れ。豚箱行き決定ね」
「ちょっと待ってちょっと待って! ノックとかすれば良かった! 今、人探ししてるんだよ! ナノカにぼっこぼっこにされてる暇はないんだよ! ちょっとっ!」
ナノカは興奮が収まり切らないのか、大声で尋ねてくる。
「誰よ! それっ!」
今のナノカに「女の子を探してる」と言われたら、全力で誘拐犯だと疑われそうな気がする。「さてはその子を誘拐して……何をする気なの!?」と。
そうならないためにはどうするか。
ふと視線を別の方向に転換すると、近くにナノカと比べても小柄で大人しそうな三つ編みの女の子が立っていた。
「……ナノカちゃんを怒らせてしまったんですね。で、探している人って誰なんですか? お手伝いしますよ?」
ナノカはその少女と交流があるらしく、手伝いを拒否した。
「別に情真くんの手伝いなんて面倒事が増えるだけよ。いいわよ……私で探すから、にゅーちゃんは先に部室に戻ってて」
「えっ、そうですか……では」
最後に彼女はくりくりした瞳をこちらに向けてくる。小動物のような可愛さを持ち合わせていて、何だかお菓子をあげたくなってしまった。後、何だか守ってあげたくもなっている。胸のサイズなどはナノカのものと正反対。大人っぽいところはなく、ただただ彼女の純粋そうな一面だけが印象に残った。
その子の癒しがあったおかげか、僕はナノカに相談できていた。
「で、ナノカ……榎田さんって人を探してて」
その声を出した途端、少女の足が止まった。そしてくるっと振り返ると同時に自身のことを指差した。
「わ、わたしのことですか?」
「えっ? 榎田さんって……」
「榎田みるくって言います」
「あれ、でも、さっきにゅーちゃんって、ナノカ言ってなかった?」
僕が混乱している中、ナノカが答えてくれた。
「それは、みるく、牛乳、にゅーちゃんってこと。で、何? にゅーちゃんに何か用なの?」
彼女が僕を警戒していることが分かった。
「変なことはしないよ……」
ナノカは少しだけ威圧感を消して「本当だか」と言い捨てる。しかし、榎田さんは優しく受け入れてくれた。
「情真くん、ですね。で、何かわたしに用なんですか? できることなら、何でも」
「ちょっと榎田さんが交通委員でこの辺の事故について詳しいってことで聞きたいことがあるんだけどね」
「えっ? 貴方も、ですか?」
「んっ? 貴方もって?」
彼女は僕の疑問に頭に手を当てて、驚いたことを謝ってきた。自身の頭を擦っているところも何だか、危険な程の可愛さを持っている。こんなに儚かったら誰かに襲われてしまうのではないかと少し不安になってしまう程。
ただ、それ以上に彼女が次に吐いた言葉が気になった。
「あっ、すみません。さっき似たようなことを聞かれたばかりだったので」
僕は早速、その場を立ち去ろうとしていた。階段までささっと歩き、理亜に「じゃっ!」と声を掛ける。そして一歩降りようとしていた時だ。
「情真、待て!」
声により驚愕。足を踏み外し、階段から転げ落ちそうになるかと一瞬心の底まで冷え込んだ。すぐに手すりを握る。よって、体が前に飛び出すことは避けられた。
息切れしている僕に彼女は一言。
「桐太のことで顔を真っ青にしているところ、悪いな」
「いや……原因はそっちじゃなくて理亜で……ってそんなことはいいよ。何?」
彼女を見上げてみる。何だかとても輝かしい顔をしている。何か彼女自身しか知らない方法を持っていそうなもの。ほんの少しだけ、淡い期待を抱いてしまった。
「……なぁ、もしかしたらなんだが……」
彼女は何か言おうとして、すぐにやめる。「やめた。どうせおふざけにしか聞こえない」と。彼女は冗談か何か言おうとしていたのを僕が見せていた真剣な眼差しで一旦口を閉ざす。
「じゃあ、僕は行くぞ」
「あっ、いや、待て。情真はこの先どうするんだ?」
「桐太の家に行くかどうかは後にして。まずは桐太が起こした事故の全貌を知らないと、と思ってさ。後はもっと詳しい方法を……交通指導の先生に聞けるか……いや、ここは警察に頼らないとダメかなぁ……」
だいぶあやふやな計画の僕に対して、理亜は呆れるように溜息を一つ。また見下された。こちらまで溜息を吐きたくなるものの、彼女はそれだけで終わらなかった。
こんな僕にアドバイスをしてくれたのだ。
「情真、頼りになる人がいる……」
「えっ?」
これが終わったら全速力で走れるように足踏みをしながら、彼女の話を聞いていく。
「合唱部は残ってるだろ?」
「そういや、ナノカがいたし……」
合唱部はナノカが所属している部活だ。ナノカが放課後に残っていたとの事実から、活動しているとは思う。少し落ち着いてみると、歌声が聞こえてくるため予想は確信に変わっていく。
と言っても、彼女に頼るつもりだろうか。「ナノカはそこまで交通事故に詳しい訳じゃ」なんて言おうとするも、彼女が途中で遮った。
「他の部員だ。交通委員の榎田って子がいるんだがな。彼女は非常に交通事故に関することに詳しくてな。自由研究でも交通事故の起こった場所を事細かに記録し、解説をしてたこともあるらしいな。もしかしたら、警察からも情報を入手してるかもしれない」
「そ、そんな子がいるの!?」
まるで伝説だ。
会えたら、きっと良い情報をいただけるに違いない。理亜に礼を告げ、階段を駆け上がる。引き返したところに渡り廊下があり、そこから先が部室棟。合唱部が集う部屋もある・
理亜が何故部活もないのに放課後の学校に残っていたかは知らないが、些細な謎だ。そんな謎解きよりも今は桐太の事故について調査することが先決。
今もまだ様々な部屋から流れてくる歌声は絶えてはいなかった。
合唱部は自身の部室だけではなく、空いてる部室を使って合唱の練習をしていることがあるとナノカから聞いたことがある。どうやら今回は個人でそれぞれの曲を練習しているらしく、一人一人別の部屋に籠っているよう。ただ合唱部だけが空き教室を借りてる訳ではないようで。さっと開けた扉の先に運動部の砂だらけのユニフォームを脱ごうとしていた女子生徒の姿が見えた。彼女達にこちらの姿を確認される前に急いで扉を閉める。最後に高い声で「失礼しましたー」と言っておいた。これで彼女達は女子が部屋を間違えたのだと錯覚するだろう。悲鳴も聞こえてこないし、全く問題ない。
危なかった。こんなところをナノカに見られていたら。
「情真くーん、こんなところで何やってるのかしら?」
いや、実際に見られていたようだ。背後を振り返ると、威圧的な笑顔をこちらに近づけてくるナノカがいた。
「さっきから部屋をジロジロ覗いてたりして、何? 不審者? さっきの話に加えて、覗きね……手遅れ。豚箱行き決定ね」
「ちょっと待ってちょっと待って! ノックとかすれば良かった! 今、人探ししてるんだよ! ナノカにぼっこぼっこにされてる暇はないんだよ! ちょっとっ!」
ナノカは興奮が収まり切らないのか、大声で尋ねてくる。
「誰よ! それっ!」
今のナノカに「女の子を探してる」と言われたら、全力で誘拐犯だと疑われそうな気がする。「さてはその子を誘拐して……何をする気なの!?」と。
そうならないためにはどうするか。
ふと視線を別の方向に転換すると、近くにナノカと比べても小柄で大人しそうな三つ編みの女の子が立っていた。
「……ナノカちゃんを怒らせてしまったんですね。で、探している人って誰なんですか? お手伝いしますよ?」
ナノカはその少女と交流があるらしく、手伝いを拒否した。
「別に情真くんの手伝いなんて面倒事が増えるだけよ。いいわよ……私で探すから、にゅーちゃんは先に部室に戻ってて」
「えっ、そうですか……では」
最後に彼女はくりくりした瞳をこちらに向けてくる。小動物のような可愛さを持ち合わせていて、何だかお菓子をあげたくなってしまった。後、何だか守ってあげたくもなっている。胸のサイズなどはナノカのものと正反対。大人っぽいところはなく、ただただ彼女の純粋そうな一面だけが印象に残った。
その子の癒しがあったおかげか、僕はナノカに相談できていた。
「で、ナノカ……榎田さんって人を探してて」
その声を出した途端、少女の足が止まった。そしてくるっと振り返ると同時に自身のことを指差した。
「わ、わたしのことですか?」
「えっ? 榎田さんって……」
「榎田みるくって言います」
「あれ、でも、さっきにゅーちゃんって、ナノカ言ってなかった?」
僕が混乱している中、ナノカが答えてくれた。
「それは、みるく、牛乳、にゅーちゃんってこと。で、何? にゅーちゃんに何か用なの?」
彼女が僕を警戒していることが分かった。
「変なことはしないよ……」
ナノカは少しだけ威圧感を消して「本当だか」と言い捨てる。しかし、榎田さんは優しく受け入れてくれた。
「情真くん、ですね。で、何かわたしに用なんですか? できることなら、何でも」
「ちょっと榎田さんが交通委員でこの辺の事故について詳しいってことで聞きたいことがあるんだけどね」
「えっ? 貴方も、ですか?」
「んっ? 貴方もって?」
彼女は僕の疑問に頭に手を当てて、驚いたことを謝ってきた。自身の頭を擦っているところも何だか、危険な程の可愛さを持っている。こんなに儚かったら誰かに襲われてしまうのではないかと少し不安になってしまう程。
ただ、それ以上に彼女が次に吐いた言葉が気になった。
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