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第一節 1080°回った御嬢様
Ep.3 一触即発ラッキースケベの高校生
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頭にビリッと電撃が走る。
「えっ!? どういうこと!?」
その大声にナノカの方がビクついて、こちらに注目してきた。そして「な、何が起きてるの!?」と。彼女には聞かせられない。あまりにもショッキングな内容だから。
僕一人で考える必要がある。
まず、命を奪うかもしれないというところから聞いていかなければ、だ。彼は最初にその点から教えてくれた。
『自分は一回、事故を起こしてしまったんです。自転車でおじいさんの横を通ろうとして相手が転んでしまったんです……その時は笑って相手も許してくれたんです。でも、その後で状態が変わったんです……』
そう言われて、状況が飲み込めた。
電話の向こうの彼は自転車事故を起こし、一度は被害者も無事であったため安心していた。しかし、事故が起きて何日かして容体が急変するとのこともあり得る。
鼻をすする音が聞こえてきた。どうやら彼は悩み抜いて泣き叫んだ後なのかもしれない。
「それは大変なことになったね……」
『ぼくはどうすればいいんですか……こうなってしまったら、ぼくは一生、一生償わなければならないし……どうしようもないんです……その場合ってどうすれば……!』
「その場合はええと……ええと」
僕にはどうしようもできない事態だ。後ろの焦ってこちらに聞き耳を立てているナノカを確認してから、また電話の声に集中する。
『どうしようもないですかね……? 高校もやめたくないんです……でも、償わないといけないってこともあって……どうしたらいいか分かんなくなって』
「高校? 高校生なの?」
『ええ、男子高校生の桐太って言います……』
「桐太だね。桐太……一旦、お、落ち着こう……深呼吸……深呼吸で」
こちらも深呼吸をする。
『お、落ち着きました?』
「な、何か僕の方が落ち着いてなかったみたいだね。ごめん、不安にさせちゃって……で、それで……その事故は警察とかに連絡したの?」
『は、はい……! で、一応警察の方と話をしたり、新聞に少しだけ載ったりとありました……』
「なるほど」
『ぼ、ぼくはどうすればいいんでしょうか……ぼくはもう打つ手段がないんでしょうか?』
「ま、待ってよ。そんな簡単に諦めないで。もうちょっと、もうちょっと、時間かけて考えよ」
僕は首を振り回し、ナノカの方に向く。彼女はそわそわして何度も足踏みをしている。彼女もまた冷静ではいられない状況なのだろうか。
緊張していると、彼女が突然飛んできた。
「伏せて!」
「えっ!? えっ!?」
逃げる暇もなく、僕は彼女と共に床へと倒れることとなった。ついでに彼女のふくよかな胸にも触れてしまう。今はそんなこと、感じている場合ではないのに、だ。手からスマートフォンが離れている。今すぐ桐太に何か言わなければ、と思うも届かない。伸ばそうとした手をナノカに掴まれた。
「動くな……その手に持ってるスマホを見られたら終わる」
「へっ?」
ナノカが上を向く。そちらの視線を辿ってみると、彼女が好意を持っているであろう松富教諭が廊下を歩いていた。最近、おしゃれのつもりか部屋の中でもサングラスをしているおかげで気迫が半端ない。彼が怒れば不良共も裸足どころか全裸で逃げ出してくとか。
そんな彼がこちらの様子に目を向ける。
僕の近くにあるナノカの頬が段々と熱を帯びていくのが分かった。そうだ。僕とナノカが覆いかぶさっている状況は誤解されても仕方がない。
何も見ていないと松富教諭はそそくさとその場を去っていった。
すぐ僕はナノカの拘束から外れて、スマートフォンを取る。問題の電話は切れていた。確かめたと同時にスマートフォンを床に落としてしまった。恐ろしいことが起きようとしているのが肌に襲い来る寒気で予測できてしまった。
僕もナノカも立ち上がる。もうこちらとしては彼女の怒りを冷ますしか、生き残る術はない。
「ま、松富教諭、何か用でも思い出したのかな?」
「んな訳ないでしょ」
分かっている。ナノカは怒り狂うはずだ。好きなはずの松富教諭に恥辱的なことをしているのだと誤解を与えてしまったのだから。その上、ナノカの優等生としてのイメージも崩れ去っていると思われる。松富教諭からナノカへの評価はだだ下がり。それもこれも、スマートフォンをいじっていた僕のせいだ。
申し訳なさはあるけれども、謝りたいけれども、今は彼女が暴走するのを止めなければならない。
「な、ナノカ……話せばわかる。話せば」
ナノカと距離を取っていくも、詰め寄ってくる。壁際まで追い詰められ、「大丈夫だよ」と何度も繰り返すも無意味。
脳内で「わりぃ、僕、死んだ」や「おいおい死ぬわアイツ」、「アンタはもう死んでいる」なんて声が再生される。
「許さない」
彼女が僕を睨む、心が冷え切っていそうな顔が目の中に入ってくると同時に右頬に鋭い痛みが走る。
「ああ……」
僕が詠嘆の声を発した後に彼女の本気が飛んだ。
「許さない許さない許さないんだからぁあああああああ! アンタのせいでワタシの清純が汚されたって勘違いされたじゃない! 頭を地面に擦りつけても、絶対に許さないから! この豚野郎って一緒にされる豚がかわいそぉだぁあああああああ!」
彼女の平手打ちが左、右、左、右と容赦なく飛んできた。怒号も耳に入って叩かれていないはずの耳まで痛くなってくる。
最後に彼女は「馬鹿ぁ!」と一発のビンタで僕の顔を叩く。その力で横に突き飛ばされることとなった僕。
今、僕が出せる言葉は一つ。
「ごめん! 一応、胸に触れちゃったけどさ、たぶんそこは見られてないから大丈夫だって!」
言い訳をした。
そして後で考えてハッとする。胸を触ったことに関する自白はしなくても良かったのではないか、と。
彼女は一発、急所に蹴りを入れた。
「はおっ……!」
そして倒れそうになる僕に捨て台詞。
「アンタなんて……アンタなんて、豆腐で頭打って、地獄に二百回落ちればいいのよぉおおおおおお!」
彼女は僕を罵る言葉を連発しつつ、廊下を走って消えていった。
頬がヒリヒリ。心はチクチク。大切なものを失った今、泣きたい気がする。しかし、きっと彼女も泣き出したい気持ちを必死に抑えて怒りを吐き出したのだろう。
そんな中、一人の少女が異変を嗅ぎつけて来たのか、教室に入ってきた。
「おお、情真。何で泣かせたんだ? 女をたぶらかすなよな」
「えっ!? どういうこと!?」
その大声にナノカの方がビクついて、こちらに注目してきた。そして「な、何が起きてるの!?」と。彼女には聞かせられない。あまりにもショッキングな内容だから。
僕一人で考える必要がある。
まず、命を奪うかもしれないというところから聞いていかなければ、だ。彼は最初にその点から教えてくれた。
『自分は一回、事故を起こしてしまったんです。自転車でおじいさんの横を通ろうとして相手が転んでしまったんです……その時は笑って相手も許してくれたんです。でも、その後で状態が変わったんです……』
そう言われて、状況が飲み込めた。
電話の向こうの彼は自転車事故を起こし、一度は被害者も無事であったため安心していた。しかし、事故が起きて何日かして容体が急変するとのこともあり得る。
鼻をすする音が聞こえてきた。どうやら彼は悩み抜いて泣き叫んだ後なのかもしれない。
「それは大変なことになったね……」
『ぼくはどうすればいいんですか……こうなってしまったら、ぼくは一生、一生償わなければならないし……どうしようもないんです……その場合ってどうすれば……!』
「その場合はええと……ええと」
僕にはどうしようもできない事態だ。後ろの焦ってこちらに聞き耳を立てているナノカを確認してから、また電話の声に集中する。
『どうしようもないですかね……? 高校もやめたくないんです……でも、償わないといけないってこともあって……どうしたらいいか分かんなくなって』
「高校? 高校生なの?」
『ええ、男子高校生の桐太って言います……』
「桐太だね。桐太……一旦、お、落ち着こう……深呼吸……深呼吸で」
こちらも深呼吸をする。
『お、落ち着きました?』
「な、何か僕の方が落ち着いてなかったみたいだね。ごめん、不安にさせちゃって……で、それで……その事故は警察とかに連絡したの?」
『は、はい……! で、一応警察の方と話をしたり、新聞に少しだけ載ったりとありました……』
「なるほど」
『ぼ、ぼくはどうすればいいんでしょうか……ぼくはもう打つ手段がないんでしょうか?』
「ま、待ってよ。そんな簡単に諦めないで。もうちょっと、もうちょっと、時間かけて考えよ」
僕は首を振り回し、ナノカの方に向く。彼女はそわそわして何度も足踏みをしている。彼女もまた冷静ではいられない状況なのだろうか。
緊張していると、彼女が突然飛んできた。
「伏せて!」
「えっ!? えっ!?」
逃げる暇もなく、僕は彼女と共に床へと倒れることとなった。ついでに彼女のふくよかな胸にも触れてしまう。今はそんなこと、感じている場合ではないのに、だ。手からスマートフォンが離れている。今すぐ桐太に何か言わなければ、と思うも届かない。伸ばそうとした手をナノカに掴まれた。
「動くな……その手に持ってるスマホを見られたら終わる」
「へっ?」
ナノカが上を向く。そちらの視線を辿ってみると、彼女が好意を持っているであろう松富教諭が廊下を歩いていた。最近、おしゃれのつもりか部屋の中でもサングラスをしているおかげで気迫が半端ない。彼が怒れば不良共も裸足どころか全裸で逃げ出してくとか。
そんな彼がこちらの様子に目を向ける。
僕の近くにあるナノカの頬が段々と熱を帯びていくのが分かった。そうだ。僕とナノカが覆いかぶさっている状況は誤解されても仕方がない。
何も見ていないと松富教諭はそそくさとその場を去っていった。
すぐ僕はナノカの拘束から外れて、スマートフォンを取る。問題の電話は切れていた。確かめたと同時にスマートフォンを床に落としてしまった。恐ろしいことが起きようとしているのが肌に襲い来る寒気で予測できてしまった。
僕もナノカも立ち上がる。もうこちらとしては彼女の怒りを冷ますしか、生き残る術はない。
「ま、松富教諭、何か用でも思い出したのかな?」
「んな訳ないでしょ」
分かっている。ナノカは怒り狂うはずだ。好きなはずの松富教諭に恥辱的なことをしているのだと誤解を与えてしまったのだから。その上、ナノカの優等生としてのイメージも崩れ去っていると思われる。松富教諭からナノカへの評価はだだ下がり。それもこれも、スマートフォンをいじっていた僕のせいだ。
申し訳なさはあるけれども、謝りたいけれども、今は彼女が暴走するのを止めなければならない。
「な、ナノカ……話せばわかる。話せば」
ナノカと距離を取っていくも、詰め寄ってくる。壁際まで追い詰められ、「大丈夫だよ」と何度も繰り返すも無意味。
脳内で「わりぃ、僕、死んだ」や「おいおい死ぬわアイツ」、「アンタはもう死んでいる」なんて声が再生される。
「許さない」
彼女が僕を睨む、心が冷え切っていそうな顔が目の中に入ってくると同時に右頬に鋭い痛みが走る。
「ああ……」
僕が詠嘆の声を発した後に彼女の本気が飛んだ。
「許さない許さない許さないんだからぁあああああああ! アンタのせいでワタシの清純が汚されたって勘違いされたじゃない! 頭を地面に擦りつけても、絶対に許さないから! この豚野郎って一緒にされる豚がかわいそぉだぁあああああああ!」
彼女の平手打ちが左、右、左、右と容赦なく飛んできた。怒号も耳に入って叩かれていないはずの耳まで痛くなってくる。
最後に彼女は「馬鹿ぁ!」と一発のビンタで僕の顔を叩く。その力で横に突き飛ばされることとなった僕。
今、僕が出せる言葉は一つ。
「ごめん! 一応、胸に触れちゃったけどさ、たぶんそこは見られてないから大丈夫だって!」
言い訳をした。
そして後で考えてハッとする。胸を触ったことに関する自白はしなくても良かったのではないか、と。
彼女は一発、急所に蹴りを入れた。
「はおっ……!」
そして倒れそうになる僕に捨て台詞。
「アンタなんて……アンタなんて、豆腐で頭打って、地獄に二百回落ちればいいのよぉおおおおおお!」
彼女は僕を罵る言葉を連発しつつ、廊下を走って消えていった。
頬がヒリヒリ。心はチクチク。大切なものを失った今、泣きたい気がする。しかし、きっと彼女も泣き出したい気持ちを必死に抑えて怒りを吐き出したのだろう。
そんな中、一人の少女が異変を嗅ぎつけて来たのか、教室に入ってきた。
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