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第三節 夢の先には後悔か
Ep.14 ハッピーエンド(終)
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晴天の空の元、学校の授業も終わって校門の前。今から帰れるぞ、との気持ちと共に伸びをした僕の背を叩くものがいた。隣にあった自転車ごと倒れそうになってから、すぐ文句を言ってやろうかと振り向いたのだが。そんなことを言える相手ではないし、その笑顔にクレームを付けたくはなかった。
「情真くん! あれから凄いことになってるね。あの言葉も凄いSNSで話題になってるし。記事とかでも誹謗中傷と戦った高校生達って書いてあるわ!」
「ふぅ、そこまで目立ってるんだね……危ない危ない」
僕はあの話が後で大事にならないよう、全部古戸くんが言っておいたことにしてくれ、と頼んでおいた。
ナノカが見せてくれた記事にも書いてある。ただ、懸念点をナノカが笑って教えてくれた。
「危ないって言ってるけど、もう手遅れみたいな感じもあるけどね。ほら、アヤコちゃんが『あたし達の後押しをしてくれた人達がいます。他の高校からやってきて、クレーマーと名乗り、短い間に何度もあたし達を救ってくれました』ってインタビューに答えてる!」
「ええ……」
「もうヒーローって認めなさいよ」
「嫌だ。ちょっと面倒。たまたま言ったことだから! たまたま言っただけでいつでもあんなこと言える訳じゃないし! それなら古戸くんの方が言うでしょ!」
「変なところで恥ずかしがり屋なんだから!」
つまるところ、ナノカが地域で有名なクレーマーだと知っている人がいれば、だ。自然と彼女と共に過ごしている僕のこともバレるかもしれない、と。
ううむ、このまま僕は平穏な日々を過ごせると信じている。きっと大丈夫だ。
考えている間にぽつりぽつりと雨が降ってくる。先程まですっかりとの晴天だったはずなのだけれども。
「あっ……ナノカ、雨が降ってきた」
「あらら……」
「帰るのは後にしよっか」
仕方なく、一旦退避。
屋根のある駐輪場にて雨が止むのを待っていた。ナノカも一日中晴天との予想に騙されて、傘も雨合羽も持っているなかったらしい。
彼女は横腹に手を当てて、困った顔をする。
「にしても、凄かったわね。実は芦峯ちゃんが凄いラジオの人だったとは、ね」
「うん。彼女もまた夢を追う人でもあったんだね。それが武器となったってことはまっ、やっぱ夢って凄い力を持ってるんだね」
「ええ。諦めずに何度もみんなの姿が奇跡を起こしたのね。情真くんも何か夢、持った?」
僕は首を横に振っていく。
「うう……まだ、ない」
「ちゃんと早く見つけなさいよね!」
「何かいい人見つけなさいみたいな言い方だな!」
「いい人がいるのかしら?」
彼女が何だか言いたいことがあるよう。何故だかそわそわしている感じがまた不思議。クレーマーであるのにも関わらず、ハキハキと何か言えない様子だ。
雨音があまりにも静かすぎて、何かやらなければならない使命感に襲われる。
今こそ、か。夢のための闘いが終わった今だからこそ、なのかもしれない。
「ナノカ……」
「何?」
僕は、と口にしたところでひょいと理亜が来ようとしていたから、来るな来るなと足で振り払おうとしている。ここで邪魔が来るのは、予想済みだ。ラブコメの漫画やライトノベルで熟知している。邪魔させてなるものか。
「ナノカ、君のことが!」
雨音と共にピカリと光る。ああ、雷が来る前に話してしまおう。
「君のことが好きだっ!」
言いきった後に雷がゴロゴロと鳴り響いていく。音にも人にも邪魔されずに済んだ。
ナノカはこう返してくれた。
「すき焼きが食べたいって……」
「へっ?」
ううん、どんな形で伝わってしまったのだろうか。そもそもナノカも疑ってくれ。普通、こんな時期にすき焼きが食べたいとは言わないのだ。
「あっ、ごめん」
「気付いてくれた?」
良かった、と思った瞬間。
「すきみ丼ね。今の時期、冷たくてとろとろのがまた美味しいよね! あのわさびがつーんと来るのがまた。これは食べたくなるわよね。うちもそうしよ。近所のスーパーで、すきみ売ってるかな」
違う、違うんだって。
絶望間近になったところで理亜がこちらに両腕で絡んできた。ちょっとだけ濡れているようで僕達の制服に水がしみわたっていく。
「おうおうおう!」
「ちょっと理亜ちゃん! 濡れるって!」
「すまんすまん。でも讃えてくれていいんだぞ? 私が芦峯を推薦しなかったら、ああはならなかったんだから」
「はいはい、凄いと思っているわよ」
なんて言っているのと同時に理亜がコソッとナノカには聞こえない声を出した。
「残念だったな……タイムアウトだ、情真」
「いやいやいや、理亜が来なきゃ、まだ」
「あの食いしん坊ナノカモードで告白を受け入れてくれると思うのか? お前じゃなくて食べ物に夢中なんだぞ」
「ま、まぁまぁまぁ……ううむ」
理亜の助言も間違ってはいないと思う。と言うより女心については理亜に頼った方がいいだろう。
がっかりしながらナノカの方を見て、諦めておく。また別の機会に告白してみせよう。今度はもっと大きな事件を解決して、と……いや、何故事件に巻き込まれる前提なのだ。もっと別の分野で活躍……できるところあるかなぁ。
なんて不満を持ちつつも。
ナノカが理亜のせいで栗色ポニーテールを濡らし、そこから水が落ちていく状態だ。笑っている姿もまたいい。水も滴る素敵な女の子、だ。
うっとりしている間にナノカが外を見て、呟いた。
「あっ……! 雨が上がったわよ! ほら、綺麗な虹が出てる!」
七色のアーチが大空のキャンパスに飾られている。
理亜もうんうんと頷いて、すっきりとした表情を見せてくる。二人の女子高生が虹を指差して盛り上がっている。
「虹か。縁起がいいな。この様子じゃ、明日からは気温も高くなるみたいだ」
「そんな、暑いのは困るわね……」
「でも、ジメジメとはもうおさらばだと思うな」
「やったぁ!」
これで一層、人々の心も晴れやかになるだろう。
気付けば、目の前にいた女子高生二人は自転車を置いて走り出していた。
「ナノカ、どっちが虹の先に行けるか、走ってみないか?」
「ふんっ、ワタシに勝てると思う訳?」
「まぁ、交通事故にならないように気を付けながら、行くぞ!」
「ちょっと待ってよ!」の声に二人が振り返り、挑戦的な発言を出す。
「びりっけつは情真くんかしら?」
「悪いな。一等賞はワタシのものだ」
負けてたまるか、と地面を蹴った勢いで転ぶ。そしてナノカが前を向いて気付かないうちにすぐさま立ち上がった。
何度転んだって、問題ない。
さぁ、もう一度二人を追って走っていかなくては。って、誰だ? 僕のことを「二人の女子高生を捕まえようとしている不届きもの」って言った奴!?
「情真くん! あれから凄いことになってるね。あの言葉も凄いSNSで話題になってるし。記事とかでも誹謗中傷と戦った高校生達って書いてあるわ!」
「ふぅ、そこまで目立ってるんだね……危ない危ない」
僕はあの話が後で大事にならないよう、全部古戸くんが言っておいたことにしてくれ、と頼んでおいた。
ナノカが見せてくれた記事にも書いてある。ただ、懸念点をナノカが笑って教えてくれた。
「危ないって言ってるけど、もう手遅れみたいな感じもあるけどね。ほら、アヤコちゃんが『あたし達の後押しをしてくれた人達がいます。他の高校からやってきて、クレーマーと名乗り、短い間に何度もあたし達を救ってくれました』ってインタビューに答えてる!」
「ええ……」
「もうヒーローって認めなさいよ」
「嫌だ。ちょっと面倒。たまたま言ったことだから! たまたま言っただけでいつでもあんなこと言える訳じゃないし! それなら古戸くんの方が言うでしょ!」
「変なところで恥ずかしがり屋なんだから!」
つまるところ、ナノカが地域で有名なクレーマーだと知っている人がいれば、だ。自然と彼女と共に過ごしている僕のこともバレるかもしれない、と。
ううむ、このまま僕は平穏な日々を過ごせると信じている。きっと大丈夫だ。
考えている間にぽつりぽつりと雨が降ってくる。先程まですっかりとの晴天だったはずなのだけれども。
「あっ……ナノカ、雨が降ってきた」
「あらら……」
「帰るのは後にしよっか」
仕方なく、一旦退避。
屋根のある駐輪場にて雨が止むのを待っていた。ナノカも一日中晴天との予想に騙されて、傘も雨合羽も持っているなかったらしい。
彼女は横腹に手を当てて、困った顔をする。
「にしても、凄かったわね。実は芦峯ちゃんが凄いラジオの人だったとは、ね」
「うん。彼女もまた夢を追う人でもあったんだね。それが武器となったってことはまっ、やっぱ夢って凄い力を持ってるんだね」
「ええ。諦めずに何度もみんなの姿が奇跡を起こしたのね。情真くんも何か夢、持った?」
僕は首を横に振っていく。
「うう……まだ、ない」
「ちゃんと早く見つけなさいよね!」
「何かいい人見つけなさいみたいな言い方だな!」
「いい人がいるのかしら?」
彼女が何だか言いたいことがあるよう。何故だかそわそわしている感じがまた不思議。クレーマーであるのにも関わらず、ハキハキと何か言えない様子だ。
雨音があまりにも静かすぎて、何かやらなければならない使命感に襲われる。
今こそ、か。夢のための闘いが終わった今だからこそ、なのかもしれない。
「ナノカ……」
「何?」
僕は、と口にしたところでひょいと理亜が来ようとしていたから、来るな来るなと足で振り払おうとしている。ここで邪魔が来るのは、予想済みだ。ラブコメの漫画やライトノベルで熟知している。邪魔させてなるものか。
「ナノカ、君のことが!」
雨音と共にピカリと光る。ああ、雷が来る前に話してしまおう。
「君のことが好きだっ!」
言いきった後に雷がゴロゴロと鳴り響いていく。音にも人にも邪魔されずに済んだ。
ナノカはこう返してくれた。
「すき焼きが食べたいって……」
「へっ?」
ううん、どんな形で伝わってしまったのだろうか。そもそもナノカも疑ってくれ。普通、こんな時期にすき焼きが食べたいとは言わないのだ。
「あっ、ごめん」
「気付いてくれた?」
良かった、と思った瞬間。
「すきみ丼ね。今の時期、冷たくてとろとろのがまた美味しいよね! あのわさびがつーんと来るのがまた。これは食べたくなるわよね。うちもそうしよ。近所のスーパーで、すきみ売ってるかな」
違う、違うんだって。
絶望間近になったところで理亜がこちらに両腕で絡んできた。ちょっとだけ濡れているようで僕達の制服に水がしみわたっていく。
「おうおうおう!」
「ちょっと理亜ちゃん! 濡れるって!」
「すまんすまん。でも讃えてくれていいんだぞ? 私が芦峯を推薦しなかったら、ああはならなかったんだから」
「はいはい、凄いと思っているわよ」
なんて言っているのと同時に理亜がコソッとナノカには聞こえない声を出した。
「残念だったな……タイムアウトだ、情真」
「いやいやいや、理亜が来なきゃ、まだ」
「あの食いしん坊ナノカモードで告白を受け入れてくれると思うのか? お前じゃなくて食べ物に夢中なんだぞ」
「ま、まぁまぁまぁ……ううむ」
理亜の助言も間違ってはいないと思う。と言うより女心については理亜に頼った方がいいだろう。
がっかりしながらナノカの方を見て、諦めておく。また別の機会に告白してみせよう。今度はもっと大きな事件を解決して、と……いや、何故事件に巻き込まれる前提なのだ。もっと別の分野で活躍……できるところあるかなぁ。
なんて不満を持ちつつも。
ナノカが理亜のせいで栗色ポニーテールを濡らし、そこから水が落ちていく状態だ。笑っている姿もまたいい。水も滴る素敵な女の子、だ。
うっとりしている間にナノカが外を見て、呟いた。
「あっ……! 雨が上がったわよ! ほら、綺麗な虹が出てる!」
七色のアーチが大空のキャンパスに飾られている。
理亜もうんうんと頷いて、すっきりとした表情を見せてくる。二人の女子高生が虹を指差して盛り上がっている。
「虹か。縁起がいいな。この様子じゃ、明日からは気温も高くなるみたいだ」
「そんな、暑いのは困るわね……」
「でも、ジメジメとはもうおさらばだと思うな」
「やったぁ!」
これで一層、人々の心も晴れやかになるだろう。
気付けば、目の前にいた女子高生二人は自転車を置いて走り出していた。
「ナノカ、どっちが虹の先に行けるか、走ってみないか?」
「ふんっ、ワタシに勝てると思う訳?」
「まぁ、交通事故にならないように気を付けながら、行くぞ!」
「ちょっと待ってよ!」の声に二人が振り返り、挑戦的な発言を出す。
「びりっけつは情真くんかしら?」
「悪いな。一等賞はワタシのものだ」
負けてたまるか、と地面を蹴った勢いで転ぶ。そしてナノカが前を向いて気付かないうちにすぐさま立ち上がった。
何度転んだって、問題ない。
さぁ、もう一度二人を追って走っていかなくては。って、誰だ? 僕のことを「二人の女子高生を捕まえようとしている不届きもの」って言った奴!?
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