美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

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第三節 夢の先には後悔か

Ep.13 バックドラフト大作戦

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 彼女のやりたいことは誹謗中傷に対する復讐だった。予想通り、とんでもなく陰険な作戦ではあるが、やらなければ何も変わらない。
 最初、ナノカは引きった顔で動くことすら躊躇ちゅうちょしていた。

「本当にそんなこと、するの? 理亜ちゃん……?」
「ああ……それとも正義のために、待つか。正しいことが必ず行われると、ただひたすら待つか」
「……んな訳ないでしょ。正しい道は自分で切り拓く! いいことをして、自分が自分を誇れる道を歩いて、いつか本当に正義か悪か分からなくなった時に、いつも自分の選んだ道は正しかった! だから今回も自分の選んだ道が正しいって思うために! 見捨てるなんてことできないっ! だから、やってやるわよ! 犯罪じゃないのなら! 今回だけはっ!」
「いい返事だ」

 ここ一番の正義感を持つナノカが動いたことにより、僕達が前へ進むきっかけにもなった。
 理亜の指令は非常に簡単。誹謗中傷しているアカウントの住所をここにいる十人で調べて、ダイレクトメッセージや匿名の意見ができる場所に送っていく。もう、僕達はお前のことを知ってるんだぞ、お前が何かこれ以上少しでも人を傷付けるような書き込みをした場合、何が起こるか分からないぞ、とでも言うように。
 当然、下手に文句を付けると脅迫の罪に当たる可能性も出てきてしまうから、極力下手な書き込みはしない。頑として「誹謗中傷をやめてください。でないと本気で通報します。貴方が何処にいるかも何もかも分かっています」との文面を送るようにと言われていた。
 夢を守るために。
 夢を守るために手が汚れていく。
 何だか悲しいが、これしか手段は残されていない。涙をぐっと飲みこんで、ナノカと顔を見合わせる。彼女と僕の想いが共鳴したような気がする。
 これは、悪だ。
 ただ、僕達の未来を守るための悪だ。いや、僕達だけではない。夢を持つ人達の希望を奪うものを全て、消し去るための。
 今の悪行が僕や理亜達の想いでもある。
 部屋の中が騒がしくなっていった。古戸くんが「このアカウント、分かる?」とのこと。アヤコさんが「これは他のサイトでブログやってる人だから、そこから情報を掴めるかも」と。罪を悔い改め、人が変わった火村さんは早速理亜に質問をぶつけていた。

「あの。どうしても分かんないアカウントとかありますよね。ここにもほら、誹謗中傷しか話してないアカウントが」
「そいつは使い捨てだな。そういう奴にはあるものを用意してある」

 そこに反応したのが芦峯さん。パソコンの画面に訳の分からぬデータコードが乗っている。こいつパソコンを壊したかと思ったが、どうやら違うみたい。

「じゃじゃあん! このデータコードで、適当に送ると数分ごとに勝手に誹謗中傷のアカウントにメッセージが行くようになるの。で、ずっと言うの『そんな誹謗中傷していて楽しい?』『それやってて、つまんなくない?』、『人格否定して君の人生それだけ豊かなんだなぁ』みたいな文面を送ってくの。当然、自分達のものとは別のアカウントでね。ブロックされてもまた別のアカウントを使えば、問題ナッシング。逆に相手がアカウントをどんどん変えようものなら、SNS公式に目を付けられる可能性も出てくるからね……そのメールアドレスごと使えなくなっちゃうかもね」

 芦峯さんは何者だ。呆気にとられる僕達よりも先に、八木岡くんが動いた。

「その使い方ってどうするの!?」
「おっ、君が最初に興味を?」
「ぼくがやったことは許されないことだよ。こいつらを利用して人を傷付けようとした。だからぼくは、ぼく自身もこいつらも許せないんだ……! だから、協力させて! ぼく自身で終わらせる!」
「よーし! 反省した子にはサービスで教えてあげちゃう!」

 再びまた何か起こすのではないか、などの不安も過るが。三葉さんが僕の肩に手を置いた。

「大丈夫だ。きっと。気の迷いから奴は抜け出せたと思う。あいつも本当は許せなかったんじゃないかな。でも、何もできなくて、ならば心が悪いことをした方がスッキリすると思ったんだろうな。でも、今は違う。戦おうとしている。だから、アイツは悪いことはしないと思う」
「三葉さん……」
「さて、自分もやれることをやろう」

 キーボードを打つ音が一向に止むことはない。一部屋の必死な作戦に今はまだ外の人間は誰も気が付いていないのかもしれない。
 古戸くんの歌が心の中で響く。そして、今彼は歌の力でも戦いたいと言い出した。アヤコさんも同調する。訴えると共に誹謗中傷の辛さを秘めた音楽を作り出すと。
 桃助くんもゲームが好きな人達に共感の力を通して、伝えていきたいと叫ぶ。三葉さんも再び、筆を持つ。描いたものに命を宿らせた。
 再び立ち上がった四人の力に心を打たれた僕はとあることを口にする。

「夢を持ってる人達の邪魔をするなよ……人が夢を追うのにどれだけ苦しんだか。夢のために嬉しいことを我慢して、辛いことも気にしないふりをして。笑顔で頑張ってる奴等がいるんだぞ。パソコンの前で、スマホの前で、それを知らずにガチャガチャたわけたことを打ってんじゃねえよ! 批判? 聞いたものは何かを言う権利はある!? 違うだろっ! 傷付ける権利なんてない! アドバイスしたいんなら、そのアドバイスしていいか、人に相談しろっつうの! お前だけが正しいと信じ込んでやるのはどんなことを言っても許されると思ってるからだ! 独りよがりで意見をしようとするな。いいや、もう褒めてやれよ! 頑張ってんだから、まずは褒めてやれよ! 意見する前に凄いって言ってやれよ! まず、それで戦える人がいるんだってことを理解しろよっ!」

 あまりに独り言が大きすぎたか、とヒヤッとした一瞬。芦峯さんがゾクリとするようなことを告げた。

「……あらら……今、誹謗中傷のこと拡散するためにスマホでラジオのライブやってたところだったんだよね……ああ、露雪くん、すっごい反響貰ってるよー! 今までにないっ位たくさんコメント貰ってる!」

 知りたくない。知りたくない。そのたくさんコメント貰っているのが一つや二つであると信じてる。いつもきっとコメントはなかったのだろう。そう思いたい。
 僕のぼやいた独り言がそんな世界の人に聞かれていたことが分かったら、絶対に恥ずかしくなるから。
 悶えているうちに今までアヤコさんや三葉さん、火村さんを誹謗中傷していたアカウントがぐっと消えていったという。これは偶然か、必然か。
 僕は知ろうとはしなかった。
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