美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

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第三節 夢の先には後悔か

Ep.12 絶対人に話してはいけない豆知識

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 しんみりとした空気が流れる中、このままではいけないかと思った桃助くんが声を上げた。少々空気を読まない感じが少しだけありがたい。

「それにしてもさ、さっきの証拠のって、よく作戦が成功したよね。もし、失敗してたら、君はこのクレーマーをどうしてた訳?」

 理亜に僕への罰を考えている彼。考えてはほしくないものである。ナノカもそれに乗っていく。

「そうね。もし、違ってたら理亜ちゃん恥ずかしくって、永遠に机の下から出れなくなってたんじゃ」

 芦峯さんが「ううん、永久に他校の机の中で暮らすか……」なんてとんでもないことを考えている。ただ、確かに理亜は何の迷いもなく僕の作戦を了承してくれた。少しは失敗した時、八木岡くんの持っていたアカウントが違うものだった可能性は考えなかったのだろうか。
 そこに理亜が笑いながら、発言する。

「まぁ、間違ってたら、情真をそこの窓からひょいと放り投げてたかもな」

 恐ろしくて無言になる僕よりも先に古戸くんがツッコミを入れていく。

「事件の犯人より恐ろしいことを起こしてあげるなよ」
「冗談だ冗談。実際は、もう分かってたんだ。そのアカウントが八木岡のものだってことはな」

 そこで今度はアヤコさん。

「ハッキングでもしたってこと?」
「いや、そんなたいそうな技術は持ってない。簡単な話だ。アカウントの写真から、何が映っているか。一番いいのは、マンホールや電柱、コンビニとかその地域にあるものだな。位置関係などを調べようとすれば、今の時代、インターネットのマップですぐに分かる。後は生活のことなどについて発言してれば、近くにコインランドリーがあるか、その年齢の人が車で行くのか、などなど調べれば」

 あくまで軽い気持ちで聞いたことに恐ろしい返しがやってきて「えっ、怖」と戦慄するアヤコさん。彼女に容易く、何故分かったのかとなる理由を尋ねてはいけない。恐ろしい答えがやってくるからだ。
 そうであるのにも関わらず、今度は度胸が据わった三葉さんが気を取り直して、聞いていく。

「ん? でも……誹謗中傷やる奴って、そんな事細かに日常の写真なんて上げるか?」

 よくぞ聞いてくれたとにやける理亜。アンタが犯人より恐ろしい。

「ああ。その場合は、天気を使うといい。SNSで天気を気軽に呟いている奴は多いし、そもそもその日の天気を自動的に呟く機能みたいなのもある。その日は全国がほぼ晴天だとしても、その前の呟きで雨となったら、かなり場所が限られてくるとは思わないか? その上、また違う日は雪なんて情報があれば、本当に場所が分かってくるな。後、地震もそうだな」

 実際に理亜に調べられたであろう八木岡くんが口を開けている。

「ああ……ああ……」

 これ以上彼を追い詰めてやるのはやめてやれ、と言いたいところだが。呆れて声が出ない。こんな経験、初めてだ。
 理亜がまだまだ恐ろしい知識を続けていく。

「で……まぁ、八木岡の場合はもっと分かりやすい虫の知識が時々あったからな。普段の八木岡を知っている人なら、誰でもアカウントが分かる状況だな。身バレをしたくなければ、気を付けろ。周りの人は意外と見てる。まぁ、天気のことと虫のことがな……。で話を続けよう。とんでもないことを教えてやる」

 芦峯さんが「何々?」と聞きたがっている。そのせいで怖い派はもうやめてくれと言えなかった。体が風邪を引きそうな位、ゾクゾクしているというのに。

「雷のことには気を付けろ。雷ってのは、調べれば、何処に落ちたか誰でも分かるようになってんだ。その場所のことを調べれば、例え相手がここから遠い遠い、北海道でも沖縄でも、どの地区に住んでるか、なんてことは簡単に分かっちまうんだ。後は発言を少し調べれば、学生か一人暮らしか分かるからな」

 そこでストップを入れるのがナノカだった。ようやく彼女も動けるようになったのだ。

「待って待って! そんなことされたら、どうしようもないじゃない! 対処法とかないの!?」
「ナノカはまぁ、やんないだろ?」
「まぁ、ワタシはやんないけど、この人達はやってるんだし、教えてよ」
「まっ、ナノカには……やりにくいことだろうけどな」
「じらさないで!」
「分かった分かった! 対処法としては、嘘をつくことだ」

 皆が首を傾げている状況でナノカだけがハッとする。

「そっか! 嘘で場所を誤魔化してって訳ね」
「簡単に言えば、そうだな。天気のことだってそうだ。一日、晴れや雨を偽ったとしても文句は来ない。まぁ、流石さすがに何処の地方も雨の日に晴天とか言うような完全に矛盾してることを話したら、その日のことだけは嘘だって見抜かれるかもしれないから。隣の県の天気だとかで騙すといい」
「騙すってのは言い方悪いけど、身を守るためには仕方ないわよね」
「ああ……その日の天気を記念として残しておきたいのなら、身バレをする覚悟でやるか。まぁ、後は他人に見せない日記に書くとかに済ませとけ。まぁ、雷についても話したければ、怖い気持ちを数十分程、我慢するんだ。ちょっと時間をずらしてみせるってのもありだな。それだけで普通は分からなくなる。どうしても発信したいってなったら、予約投稿とか使ってみせるのもいいかもな」

 ううん、とってもためになる知識の披露でございました。もう二度と聞きたいようなものではないのだけれども。
 ただ理亜の笑いはまだ止まっていない。
 何か、隠している。火村さんが最初に、その点を指摘した。

「どうしたんです? まだ、何か言い足りてない話でも……?」
「いや、違うんだ。ちょうどいい質問だったなって思ってな。皆に集まってもらった理由もそうだし。とっても話しやすくなったよ」
「えっ? 話しやすいって……」
「君がアヤコさんと一緒に考えていたことをやってみようと思ってね」

 今度は僕がピンと来た。
 理亜はまさか、今からとんでもない作戦を決行するのではないか。今まで誰もやったことのないような、奇策が彼女の頭の中にあるのではないか。
 止めるかどうかは定かではない。ただとにかく、今は口を動かさなくてはと思った。彼女の意向を確かめなくてはと思ったのだ。

「理亜……まさか!? まさか……」
「情真もこの怪しい作戦にピンと来たか。炎上させてきた奴等に傷跡を残す、放火してきた奴等に飛び火させる。名付けて、『バックドラフト大作戦』だな」
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