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第三節 夢の先には後悔か
Ep.11 夢を汚すか
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ナノカが「ええ……」と平然とした表情で頷いてから、理亜の声に「ええええええっ!?」と驚いていた。当然、僕の肩を掴んで揺さぶって聞き出そうとしてくる。
「えっ!? 来ないとかって言ってなかった? 何で、声がしてるの!?」
「何か理亜に見られちゃ困ることでもあった?」
「情真くんじゃないからそんなのないわよ! ただ、びっくりするというか、恥ずかしいというか……!」
そんなやりとりをしている間に理亜がパソコン室の隅にある机の下から現れ、ツッコミを入れてきた。
「ちょっと……ここ、私が出てきて……ええ! ってなって、驚かれる場面なのにナノカがそんな大げさな反応してたら、みんなそっちに注目しちゃうだろ」
人生なかなか思い通りにはいかないものである。理亜はぶつくさ言いながら、スマートフォンを提示する。その話を皆に見てもらうため、僕が言葉を紡いでいく。
「落ち着いて。理亜のスマホを見てくれれば、分かるでしょ。ねっ、アヤコさん」
ナノカがアヤコさんに「知ってたの?」と。そう。彼女にはある作戦を実行してもらったのだから。
彼女自ら話してもらおう。
「あたしはアンケートをスマホで送ってもらうように言われてて」
スマートフォンを何人かに出して操作してもらうことをお願いしていた訳だ。それを理亜が後ろから撮影してくれるとの手筈になっていた。
彼女自身もしっかり証拠が残っていたようで笑顔で話していく。
「で、そのためにスマホを取り出して電源をオンにするだろ。そこで私は、その訴えたって人のアカウントに何件もいらない通知が出てくるよう、メッセージを送りつけたって訳だ。予想通り、私のビデオカメラに八木岡が受け取った私から通知が見えたよ。アンケートに答える前にそのSNSを開いてくれたから、更に見やすい状況になったんだがな」
「あ……いや、それは……」
まだ逃げようとする八木岡くん。そこを追い詰めるのは僕ではなく、怒りに体を震わせたナノカであった。
「言い訳ができないのなら! 弁明ができないのなら! 何のためにそのアドバイスをしたのか言えないなら、もう逃げるなっ!」
「えっ!?」
「自分の罪から逃げるってことはアンタが目指している夢を汚すことになるってこと! 誰だって間違える! 誰だって悪いことをやるかもしれない! だけど、そこで謝罪もなしに逃げたら、もう取り戻しがつかなくなるわよ! ここで謝るか……弁明するか、それとも……ずっと悪いと思われ続けて自分を、そして貴方自身が持ってる夢までもがとんでもないものと思われるか、よ……」
「何で、ぼくが悪いと夢まで……」
「そういうものなの。人って結びつける生き物だから。夢を語る人が何か悪いことをやれば、すぐ揚げ足を取るようにできてるのっ! その揚げ足を取られないようにするためには悪いことをしないってのが一番だけど……もし、したのなら反省して、その意思を皆に見せることしかないでしょ! もう一度言う! 自分の夢を貴方はどうしたいの!? そもそも、貴方は三葉ちゃんに近づくためだけに夢を持ったの!?」
最後の言葉がよほど応えたらしい。
「ち、違う! 違う! ぼくの夢は偽りなんかじゃ……ずっと昔から、大切にしていた夢なんだ! 虫のことをもっと知ってもらいたいって! そんな! そんな!? もし、ぼくが犯人なのに認めなかったら……」
ナノカは静かに語る。
「ええ……虫が苦手な人は多いけど、このことで更に嫌悪感を持つ人も出てくるわね。虫が好きな人はこういう風に性格が悪くなるって……。それを取り消せるのは、今、アンタだけよ」
八木岡くんはその場でよろけて、顔を俯けた。そして僕達の狙い通り、罪を認めてくれた。
「……ぼくだよ。そうだよ。陥れるために……全て、全てやったんだよ。訴えるのを提案して、三葉さんが羨ましがって嫌な気持ちになればいいなってなって……やったんだ……」
これで少しだけ一安心。だけれども、まだまだ空気が悪くなるばかり。三葉さんが最初に行動した。ヤバい。彼女が攻撃したらと突然不安が蘇り、庇おうとするも間に合わない。
「何で……」
「ああ……もういいよ。思うがままに殴ってくれて大丈夫。気が済むまで……」
「んなこと聞いてねぇよ!」
大声で体が固まった。近くにいる桃助くんは鳥肌までもが立っていた。
「じゃあ……」
「確かに自分は恨みを買うような話し方をしているが、アンタと話した覚えも……あんまないんだ。どうして恨んでるんだよ……何で……何をやっちまったんだよ、自分は……」
「そっか、覚えてないんだね」
「教えてくれっ!」
何があったのか、だ。
皆が静聴しようとしていた。小さい深呼吸をして心を整えた。どうやら、とんでもない話が出てくるらしい。
「ただただ、ぼくは虫が好きだったんだ……でもさ、やっぱみんなには理解してもらえない……そうさ。ゲジゲジだって毒はないのに」
「……ゲジゲジ……ううん、あれ!? あれのことを言ってんのか!?」
どうやら二人の間に過去、何かあったらしい。アヤコさんによれば、彼女と八木岡くんは同じ中学でもあったらしい。その時に起こった事件が今回の復讐計画に関係しているらしい。
「そうだよ……君が勘違いでどぶ川に放り投げたゲジゲジ……それで君は言ったんだ。こんな危ないのを学校の庭に置いておくんじゃねえって」
「あっ……それは」
「君が近所の子が入ってきて、それを触ろうとしていて。それをどうにかするためにしたってことは分かってるさ。でも、それで、その子達が気持ち悪いと言ったのを君は否定しなかったよね……」
「……えっ?」
そこで口を挟むのが芦峯さんだった。
「今のが何で……確かにあれだけど、復讐しなくたって文句言えば良かったんじゃあないかなぁ?」
八木岡くんは首を横に振った。
「まぁ、それだけだったらね……でも、途中から気が変わったんだ。夢を追う姿を見て……夢でみんなと楽しんでる様子を見て、どうしても許せなくなってた……どうしても、君を苦しめなければって思って、手が疼いていたんだ」
「手だと……」
「これだよ……」
彼が白衣から手をするりと出した。それは赤く腫れあがっていて、異様な形になっている。皆が思わず息を飲んだ。
「大丈夫かよ……!?」
「うん……でも、この虫刺されを見てたらね……どうして自分だけが苦しんでんだってなって……それがまた……とんでもない憎悪になっちゃったんだよ。許されないと思う……本当にごめんなさい……ごめんなさい……」
「えっ!? 来ないとかって言ってなかった? 何で、声がしてるの!?」
「何か理亜に見られちゃ困ることでもあった?」
「情真くんじゃないからそんなのないわよ! ただ、びっくりするというか、恥ずかしいというか……!」
そんなやりとりをしている間に理亜がパソコン室の隅にある机の下から現れ、ツッコミを入れてきた。
「ちょっと……ここ、私が出てきて……ええ! ってなって、驚かれる場面なのにナノカがそんな大げさな反応してたら、みんなそっちに注目しちゃうだろ」
人生なかなか思い通りにはいかないものである。理亜はぶつくさ言いながら、スマートフォンを提示する。その話を皆に見てもらうため、僕が言葉を紡いでいく。
「落ち着いて。理亜のスマホを見てくれれば、分かるでしょ。ねっ、アヤコさん」
ナノカがアヤコさんに「知ってたの?」と。そう。彼女にはある作戦を実行してもらったのだから。
彼女自ら話してもらおう。
「あたしはアンケートをスマホで送ってもらうように言われてて」
スマートフォンを何人かに出して操作してもらうことをお願いしていた訳だ。それを理亜が後ろから撮影してくれるとの手筈になっていた。
彼女自身もしっかり証拠が残っていたようで笑顔で話していく。
「で、そのためにスマホを取り出して電源をオンにするだろ。そこで私は、その訴えたって人のアカウントに何件もいらない通知が出てくるよう、メッセージを送りつけたって訳だ。予想通り、私のビデオカメラに八木岡が受け取った私から通知が見えたよ。アンケートに答える前にそのSNSを開いてくれたから、更に見やすい状況になったんだがな」
「あ……いや、それは……」
まだ逃げようとする八木岡くん。そこを追い詰めるのは僕ではなく、怒りに体を震わせたナノカであった。
「言い訳ができないのなら! 弁明ができないのなら! 何のためにそのアドバイスをしたのか言えないなら、もう逃げるなっ!」
「えっ!?」
「自分の罪から逃げるってことはアンタが目指している夢を汚すことになるってこと! 誰だって間違える! 誰だって悪いことをやるかもしれない! だけど、そこで謝罪もなしに逃げたら、もう取り戻しがつかなくなるわよ! ここで謝るか……弁明するか、それとも……ずっと悪いと思われ続けて自分を、そして貴方自身が持ってる夢までもがとんでもないものと思われるか、よ……」
「何で、ぼくが悪いと夢まで……」
「そういうものなの。人って結びつける生き物だから。夢を語る人が何か悪いことをやれば、すぐ揚げ足を取るようにできてるのっ! その揚げ足を取られないようにするためには悪いことをしないってのが一番だけど……もし、したのなら反省して、その意思を皆に見せることしかないでしょ! もう一度言う! 自分の夢を貴方はどうしたいの!? そもそも、貴方は三葉ちゃんに近づくためだけに夢を持ったの!?」
最後の言葉がよほど応えたらしい。
「ち、違う! 違う! ぼくの夢は偽りなんかじゃ……ずっと昔から、大切にしていた夢なんだ! 虫のことをもっと知ってもらいたいって! そんな! そんな!? もし、ぼくが犯人なのに認めなかったら……」
ナノカは静かに語る。
「ええ……虫が苦手な人は多いけど、このことで更に嫌悪感を持つ人も出てくるわね。虫が好きな人はこういう風に性格が悪くなるって……。それを取り消せるのは、今、アンタだけよ」
八木岡くんはその場でよろけて、顔を俯けた。そして僕達の狙い通り、罪を認めてくれた。
「……ぼくだよ。そうだよ。陥れるために……全て、全てやったんだよ。訴えるのを提案して、三葉さんが羨ましがって嫌な気持ちになればいいなってなって……やったんだ……」
これで少しだけ一安心。だけれども、まだまだ空気が悪くなるばかり。三葉さんが最初に行動した。ヤバい。彼女が攻撃したらと突然不安が蘇り、庇おうとするも間に合わない。
「何で……」
「ああ……もういいよ。思うがままに殴ってくれて大丈夫。気が済むまで……」
「んなこと聞いてねぇよ!」
大声で体が固まった。近くにいる桃助くんは鳥肌までもが立っていた。
「じゃあ……」
「確かに自分は恨みを買うような話し方をしているが、アンタと話した覚えも……あんまないんだ。どうして恨んでるんだよ……何で……何をやっちまったんだよ、自分は……」
「そっか、覚えてないんだね」
「教えてくれっ!」
何があったのか、だ。
皆が静聴しようとしていた。小さい深呼吸をして心を整えた。どうやら、とんでもない話が出てくるらしい。
「ただただ、ぼくは虫が好きだったんだ……でもさ、やっぱみんなには理解してもらえない……そうさ。ゲジゲジだって毒はないのに」
「……ゲジゲジ……ううん、あれ!? あれのことを言ってんのか!?」
どうやら二人の間に過去、何かあったらしい。アヤコさんによれば、彼女と八木岡くんは同じ中学でもあったらしい。その時に起こった事件が今回の復讐計画に関係しているらしい。
「そうだよ……君が勘違いでどぶ川に放り投げたゲジゲジ……それで君は言ったんだ。こんな危ないのを学校の庭に置いておくんじゃねえって」
「あっ……それは」
「君が近所の子が入ってきて、それを触ろうとしていて。それをどうにかするためにしたってことは分かってるさ。でも、それで、その子達が気持ち悪いと言ったのを君は否定しなかったよね……」
「……えっ?」
そこで口を挟むのが芦峯さんだった。
「今のが何で……確かにあれだけど、復讐しなくたって文句言えば良かったんじゃあないかなぁ?」
八木岡くんは首を横に振った。
「まぁ、それだけだったらね……でも、途中から気が変わったんだ。夢を追う姿を見て……夢でみんなと楽しんでる様子を見て、どうしても許せなくなってた……どうしても、君を苦しめなければって思って、手が疼いていたんだ」
「手だと……」
「これだよ……」
彼が白衣から手をするりと出した。それは赤く腫れあがっていて、異様な形になっている。皆が思わず息を飲んだ。
「大丈夫かよ……!?」
「うん……でも、この虫刺されを見てたらね……どうして自分だけが苦しんでんだってなって……それがまた……とんでもない憎悪になっちゃったんだよ。許されないと思う……本当にごめんなさい……ごめんなさい……」
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