美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

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第三節 夢の先には後悔か

Ep.10 常識を疑って

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 皆が「えええええええええ!?」とそこら中に「え」との言葉が飛び交った。天然で毎度のほほんとしている彼が、今回の事件を引き起こした張本人とは夢にも思っていなかったようだ。
 ナノカが慎重にと僕の肩に手を置いた。

「間違いないのよね」
「うん……」

 当然、八木岡くんの顔が汗でびっしょりと濡れていく。やましいことがあるから、表情に出ているのだ。
 ただ彼はまだ呑気な自分自身を演出しようと必死で弁明を始めていた。

「お、面白い推理だねぇ……まさか、ぼくが犯人だなんてぇ、面白い推理の冗談だね」
「冗談なんかじゃない」
「だってだってだって! どうして、それがぼくに繋がるの!? 今の流れでぼくって分かるようなものじゃなかったよね……」
「確かにね」

 皆に確認を取ろうとしていた彼。その答えを先に僕が言ってやった。だから肩をビクッと震わせている。
 そんな中、僕の推理に対する疑念をアヤコさんが口にした。

「でも、今言った通り、その訴えた人と八木岡くんをくっつける手掛かりがないんじゃ、犯人が八木岡くんだなんて言いきれないんじゃない? そもそも、訴えようって言ってた人がそういう意図を持っていたか、どうかなんて分からないし」

 僕は頷いてから、答える。手掛かりがないなら、別の方向から引っ張ってくるしかない。
 ナノカにずっと前に言われた「こんがらがりそうな時は紙に書いて。それが無理なら言葉にしてから、行動しなさい」の通りにやっていく。

「僕が今からやることは、八木岡くんが何故犯人になるのか、説明する。それで八木岡くんが訴えを提案した人物だと分かれば……訴えるという救いの手段を悪用しようとしたのが八木岡くんってことが証明できるんだよね」

 芦峯さんが「そうだね。確かに」と。
 八木岡くんは焦っていく。焦ってこちらに指を向けた。白衣から人差し指だけが出ている状態だ。

「で、でも! 分かんないでしょ! そんなことできっこないって! 何で何でぼくが悪意を持ってたって分かるのさ!?」

 三葉さんに悪意を持ってた八木岡くん。この事実を判明させれば良いだけだ。こちらは理亜の如く、余裕を持って対処すれば、何とかなる。
 僕は推論を口にした。

「人が隠しているものを理由もなしに無理に晒そうとしたってことになれば、君が悪意を持っていたって証明できるよね」
「えっ?」

 今は自分でも鋭い視線を出せたことが分かった。八木岡くんの心中は酷く震え上がっていたことだろう。

「八木岡くん……誹謗中傷の投稿が炎上した日だ。古戸くんと一緒にいただろ?」
「あ、あの時がどうしたって言うの? あれがあったから、何!? 夢のことについて話してちゃいけないの?」
「そうは言ってないさ。その後に古戸くんは美少女AI、つまり、三葉さんが隠したがっていた姿をわざと公開したんだ。スマートフォンの画面で古戸くんに見せて、ね。君は嫌がらせのつもりだったんだろ?」

 そんな問い掛けに古戸くんが口を挟んだ。

「ちょっと待ってよ! 伝えたいことは分かるけど、そのスマホの画面を見せるためにはずっと触れてなきゃ、いけないって言っただろ? おれ、カチャカチャやってるの見てないんだよ。だから、それをやった奴がいたとしても、たぶん他の人が……」
「そりゃあ、そうだよね」
「何だよ……? こっちがそう言ってくんの分かってりゃあ、そんな……」
「トリックがあったんだよ。超初歩的なトリックがね」
「へっ?」

 考える間でもない。
 僕達がたまたま思い込んでいただけだ。
 ただここでもナノカのクレームが気付かせてくれた。

「簡単な話だよ。もし、芦峯さんがやったって仮説を立てたらどうなる?」

 芦峯さんが指名され、「えっ、自分が!?」と驚いている。そこにナノカも前と同じクレームを入れてきた。

「制服で学校ちょろちょろしてたら、バレるでしょ!」
「それだよ、ナノカ」
「えっ?」
「制服だよ。常識的に制服の中には隠せないと思い込んでたんだよ。僕達は自分ならそうしないから、他の人はそうじゃないって感覚になってたんだよ……ね。僕達の制服じゃ、どうしても手が出ちゃうし。だけどさ……いっつも長い袖の白衣を着て、手を隠している八木岡くん。学生服の上に着るための白衣なら手をその中に入れていても、何かできるし。制服よりも袖の中にものが入りやすいし……特に肘のところに何か隠してたって、何か触れてたって分かりづらい。まぁ、疑ってよくよく見れば隠し持ってるってことは分かるかもだけど……夢の話に夢中だった古戸くんにそこは映らなかった。彼が隠し持っていた狂気さえ気付けなかったんだと思う」

 八木岡くんはそれでもまだ抵抗する。首を横に振って、「違う」と。

「でも、他の人が入ってやったって可能性も……!」

 僕が断ち切っていく。

「残念だけどさ。ここの鍵があって。三葉さんの考え方して、普通に鍵を置いて、財布や鞄、スマホを置いて行くと思う?」
「それは……」
「三葉さんが何故そうしたか……それは、簡単。古戸くんを信じていた、からじゃないかな。仲間を信じる形からして、古戸くんがすぐそばにいるから大丈夫じゃないかって考えたんじゃないか……すぐ入ってくるって考えたんじゃないか?」
「あっ……」
「もし、それで古戸くんが犯人だとしたら……君は古戸くんが何かしていたところを、見たの……? 怪しいことを……何か見ていたなら、どうして何も言ってないのか……」

 八木岡くんはここで、一歩下がる。
 顔を下に向けて、一回何もかも諦めたような絶望した表情になるのだが。すぐ笑ってみせる。

「……その嫌がらせをぼくがしたとしても……訴えた犯人とぼくをくっつけることなんて、できないよね……? それって、全部ただの想像なんだよね!? ねっ!? それが証明できないのなら、スマホ見せないよ。プライバシーの侵害だもの!」

 桃助くんが告げる。

「もう諦めてくれよ……」
「ぼくのせいじゃないもん! ぼくのせいじゃ、ないんだから!」

 夢のために、集ったものが悲しい言葉ばかりを繰り返していく。
 ふと考える。
 これを終わらせても、本当に素敵な未来は待っているのか。分からないけれども、今は真実を暴くだけだ。
 だから、僕は最大の証拠を提示させてもらおう。
 僕が手を上げる。不思議がって、そちらに注目する皆。少々恥ずかしいと思いつつも指をパチンと鳴らし、合図をした。

「ねぇ、理亜! そろそろ出てきてくれてもいいんじゃない?」
「そうだな。ここいらで私が最後の証拠というものになってやろうじゃないか。情真、よくやった。ナノカも推理が邪魔されたりしないようにしてくれてありがとな」
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