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第三節 夢の先には後悔か
Ep.9 言えなかった
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まず、最初に驚愕していたのがナノカだった。皆も震えているのだが。誰よりも彼女自身がその事実が信じられなかったらしい。手をぐっと握りしめている。
「な、何で頑張ってる姿が追い詰めることになるのよ!?」
そこに気付いたのは、彼女自身の発言だった。
「ナノカ、光があるから闇を感じるって言ったじゃないか。それと同じ。自分にできないことをやっていたから、自分にできない光が目の前に感じて、嫌になったんだと思う」
「じ、自分にできないことって、やろうと思えば、訴えられるんじゃないの? 確かにちょっと手間はかかるけどさ……それでも」
ナノカならば簡単に法廷へ出るわよと言えるが。他の人はそうそう強気には出られないとも思うのだ。
ただ、まぁ、三葉さんのとても強い性格からしても、訴えられるような気はする。やろうとすれば、誹謗中傷をする奴等をボコボコにすることだって可能だと思われる。
ただ、何故その手段を選ばなかったのかには理由がある。
僕は美少女AIことVtuberハグルママワリが配信した動画のコメント欄を提示していく。最初に嫌なことを感じ取ったのが桃助くんだった。
「めっちゃ、嫌なこと書いてあるやん。こんなブロックしちゃえばいいのに……本当、こいつら……最悪だな……」
今回の事件ではその悪口も重要だが、今見てもらいたいものは違う。アヤコさんが体を屈めて、覗いていった。彼女がとても大切な事実を発見してくれる。
「でも、それと同じ位、彼女を救うようなコメントもあるわね」
そうだ。
僕も確認していた。
『いつも相談に乗ってもらって、凄い助かってるんだよ! 流石、美少女AIちゃん! 世界を救うよ』
『悪人にすらも慈悲を見せるところがまた、素敵! 我ら美少女AI教に幸あれ! 讃えよ崇めよ、歌えよ! あっ、今度歌ってよ』
『いっつも優しくて楽しいね。見てて心が安らぐよ。明日も楽しみにしてるね。これ生き甲斐だから』
『そういや、最近声の質が落ちてるけど……そういう時期なのかな? 何とか乗り越えてほしいなぁ』
『最近、出てくるの少なくない? 大丈夫?』
そう。彼女を慕ったり、心配したり。ファンの方々がいる。それもただ、彼女を好きってだけではない。
僕が説明してみせよう。
「これって、誹謗中傷に対抗したら、どうなると思うかな?」
古戸くんがもしかしたら一番近い夢を追っていると言えるかもしれない。だからこそか、一番早く発言した。
「それって……自分が訴えでもしたら、いつも救われてると思ってるリスナーさんやファンが離れてくかもしれないって恐怖から……? 自分が誹謗中傷に対抗したら、それが怖いと思って、自分のファンが怯えてしまうから……?」
「僕はそうだと思う……だから、三葉さん、貴方は誹謗中傷のことを訴えることができなかった! そうだよね! だから、やめてしまったんだよね……!」
彼女ががっくしと項垂れていく。威勢のなくなったとても悲しい顔だが、目を離してはいけないと思った。真実を知ろうとした僕等は彼女の心も受け入れる必要があると思うのだ。
「ああ……その通りだ……表ではどうしても人を傷付けてしまう言葉遣いんなっちまう……だから、ネットならって思ってやってきたんだ。ネットなら誰も傷付けずに済む。それどころか、ネットの顔なら誰かを助けられるって思ったんだ。確かに助けられた人もいた……いてくれたんだ……でもお前の言った通り、誹謗中傷があった……ダメだった。だからもうやめたんだよ……このままこっそり何もかもやめれば、もう何も考えずに済むんだから……」
あまりに強い悲嘆に対し、僕は少し下を向いてしまう。
その間に桃助くんが動いていた。語っていた。
「そんなことしたって悲しいだけだよ……そんな理由で終わっちゃったら……自分の中で我慢しちゃったら……後から悔やむことになる。何であの時、誰にも言わなかったんじゃないかって」
アヤコさんも胸に手を当てて、自身の気持ちを訴えていく。僕達が心から感じていたことも全て、桃助くんとアヤコさんが言ってくれたのだ。
「もっと近くにいる人を頼ってよ。言えない事情だったら、隠しても良かったから……そこの活動のことは言わなくても良かったから。同じ仲間として、同じ女の子として傷付くのを助けたかったから……」
古戸くんも首を縦に振る。
「うん……」
そんなところで僕に芦峯さんが少し空気を読まない発言を。まぁ、誰にも聞こえていなかったから良かったのかもしれないが。
「で、これでおしまい? 真犯人とかいないの? あっ、そっか。真犯人は誹謗中傷する人かな! そこをぶっ潰せば」
「物騒な話だけど……ああ……真犯人はまぁ……いるよ?」
「えっ?」
「この中に、追い詰めた真犯人がいるんだよ」
「何で? どういうことなの!?」
僕はタイミングを見計らって、全員に伝えていく。
「……そして、今から三葉さんをこんな風にした真犯人について話していこうと思うんだ」
「真犯人!?」
その瞬間、火村さんが驚いて飛び跳ねそうになっていた。一瞬彼女が転ぶのかとヒヤッとしたけれども、近くにいた八木岡くんが支えてくれたから事なきを得た。
自分も落ち着いて話さねば。
「そう、その犯人はきっと三葉さんにこんな思いをさせるために行動したんだ。三葉さんが誰にも言えず、一人で自分自身の夢を殺すように仕向けた犯人が、ね。僕達が動かなければ、完全犯罪になるところだったよ」
火村さんが「それって、誹謗中傷してた人のこととか? えっ、でも必ず訴えるとは限らないし」なんて言ったことがヒントに繋がったらしい。
すぐアヤコさんが気付いてくれた。勘の良い人がいると、推理は少しやりやすくなる。
「ねぇ、それって……もしかして、あたしのところに来た、あの訴えようって言ってたメッセージ……あれって、その真犯人が三葉ちゃんを苦しめるために送りつけてきたって言うの?」
「僕はそう思う。三葉さんが状況的に恥ずかしくて誰にも相談できない状況を知って、アヤコさんに訴えようと提案したんだ」
「で、君はそれが誰だと思ってるの……? まさか、この中の中にいるって言うの? 夢を目指した人達の中に……」
僕は間違いなく、奴がクロだと思っている。指差しで示すことにした。
「ああ……今の説明で間違がってないよね。八木岡くん……?」
「な、何で頑張ってる姿が追い詰めることになるのよ!?」
そこに気付いたのは、彼女自身の発言だった。
「ナノカ、光があるから闇を感じるって言ったじゃないか。それと同じ。自分にできないことをやっていたから、自分にできない光が目の前に感じて、嫌になったんだと思う」
「じ、自分にできないことって、やろうと思えば、訴えられるんじゃないの? 確かにちょっと手間はかかるけどさ……それでも」
ナノカならば簡単に法廷へ出るわよと言えるが。他の人はそうそう強気には出られないとも思うのだ。
ただ、まぁ、三葉さんのとても強い性格からしても、訴えられるような気はする。やろうとすれば、誹謗中傷をする奴等をボコボコにすることだって可能だと思われる。
ただ、何故その手段を選ばなかったのかには理由がある。
僕は美少女AIことVtuberハグルママワリが配信した動画のコメント欄を提示していく。最初に嫌なことを感じ取ったのが桃助くんだった。
「めっちゃ、嫌なこと書いてあるやん。こんなブロックしちゃえばいいのに……本当、こいつら……最悪だな……」
今回の事件ではその悪口も重要だが、今見てもらいたいものは違う。アヤコさんが体を屈めて、覗いていった。彼女がとても大切な事実を発見してくれる。
「でも、それと同じ位、彼女を救うようなコメントもあるわね」
そうだ。
僕も確認していた。
『いつも相談に乗ってもらって、凄い助かってるんだよ! 流石、美少女AIちゃん! 世界を救うよ』
『悪人にすらも慈悲を見せるところがまた、素敵! 我ら美少女AI教に幸あれ! 讃えよ崇めよ、歌えよ! あっ、今度歌ってよ』
『いっつも優しくて楽しいね。見てて心が安らぐよ。明日も楽しみにしてるね。これ生き甲斐だから』
『そういや、最近声の質が落ちてるけど……そういう時期なのかな? 何とか乗り越えてほしいなぁ』
『最近、出てくるの少なくない? 大丈夫?』
そう。彼女を慕ったり、心配したり。ファンの方々がいる。それもただ、彼女を好きってだけではない。
僕が説明してみせよう。
「これって、誹謗中傷に対抗したら、どうなると思うかな?」
古戸くんがもしかしたら一番近い夢を追っていると言えるかもしれない。だからこそか、一番早く発言した。
「それって……自分が訴えでもしたら、いつも救われてると思ってるリスナーさんやファンが離れてくかもしれないって恐怖から……? 自分が誹謗中傷に対抗したら、それが怖いと思って、自分のファンが怯えてしまうから……?」
「僕はそうだと思う……だから、三葉さん、貴方は誹謗中傷のことを訴えることができなかった! そうだよね! だから、やめてしまったんだよね……!」
彼女ががっくしと項垂れていく。威勢のなくなったとても悲しい顔だが、目を離してはいけないと思った。真実を知ろうとした僕等は彼女の心も受け入れる必要があると思うのだ。
「ああ……その通りだ……表ではどうしても人を傷付けてしまう言葉遣いんなっちまう……だから、ネットならって思ってやってきたんだ。ネットなら誰も傷付けずに済む。それどころか、ネットの顔なら誰かを助けられるって思ったんだ。確かに助けられた人もいた……いてくれたんだ……でもお前の言った通り、誹謗中傷があった……ダメだった。だからもうやめたんだよ……このままこっそり何もかもやめれば、もう何も考えずに済むんだから……」
あまりに強い悲嘆に対し、僕は少し下を向いてしまう。
その間に桃助くんが動いていた。語っていた。
「そんなことしたって悲しいだけだよ……そんな理由で終わっちゃったら……自分の中で我慢しちゃったら……後から悔やむことになる。何であの時、誰にも言わなかったんじゃないかって」
アヤコさんも胸に手を当てて、自身の気持ちを訴えていく。僕達が心から感じていたことも全て、桃助くんとアヤコさんが言ってくれたのだ。
「もっと近くにいる人を頼ってよ。言えない事情だったら、隠しても良かったから……そこの活動のことは言わなくても良かったから。同じ仲間として、同じ女の子として傷付くのを助けたかったから……」
古戸くんも首を縦に振る。
「うん……」
そんなところで僕に芦峯さんが少し空気を読まない発言を。まぁ、誰にも聞こえていなかったから良かったのかもしれないが。
「で、これでおしまい? 真犯人とかいないの? あっ、そっか。真犯人は誹謗中傷する人かな! そこをぶっ潰せば」
「物騒な話だけど……ああ……真犯人はまぁ……いるよ?」
「えっ?」
「この中に、追い詰めた真犯人がいるんだよ」
「何で? どういうことなの!?」
僕はタイミングを見計らって、全員に伝えていく。
「……そして、今から三葉さんをこんな風にした真犯人について話していこうと思うんだ」
「真犯人!?」
その瞬間、火村さんが驚いて飛び跳ねそうになっていた。一瞬彼女が転ぶのかとヒヤッとしたけれども、近くにいた八木岡くんが支えてくれたから事なきを得た。
自分も落ち着いて話さねば。
「そう、その犯人はきっと三葉さんにこんな思いをさせるために行動したんだ。三葉さんが誰にも言えず、一人で自分自身の夢を殺すように仕向けた犯人が、ね。僕達が動かなければ、完全犯罪になるところだったよ」
火村さんが「それって、誹謗中傷してた人のこととか? えっ、でも必ず訴えるとは限らないし」なんて言ったことがヒントに繋がったらしい。
すぐアヤコさんが気付いてくれた。勘の良い人がいると、推理は少しやりやすくなる。
「ねぇ、それって……もしかして、あたしのところに来た、あの訴えようって言ってたメッセージ……あれって、その真犯人が三葉ちゃんを苦しめるために送りつけてきたって言うの?」
「僕はそう思う。三葉さんが状況的に恥ずかしくて誰にも相談できない状況を知って、アヤコさんに訴えようと提案したんだ」
「で、君はそれが誰だと思ってるの……? まさか、この中の中にいるって言うの? 夢を目指した人達の中に……」
僕は間違いなく、奴がクロだと思っている。指差しで示すことにした。
「ああ……今の説明で間違がってないよね。八木岡くん……?」
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