美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

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第三節 夢の先には後悔か

Ep.5 あの日に戻って

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 これにはナノカも最初は訝し気な顔をしていた。

「えっ、美少女AIって?」
「古戸くんが言ってたんだよ。美少女AIのせいでもしかしたら、こんなことになっちゃうのかって……だから三葉さんが辞めた原因にも関係してるのかも」

 そこに彼女は僕が引っ掛かっていたことをピンポイントに当ててきた。

「まず、何でそこで美少女になるの? AIは分かるとして……そういや、理亜ちゃんも何か似たようなこと言ってなかった?」
「理亜のはまぁ、ラノベだとか見てそう考えたのは分かるんだ。でも、何で何にも関係ないような古戸くんがそんなことを言ったのかが、凄い気になるんだ」
「一番考えられることとしたら、AIのように動く美少女を見たってことでしょ? 何で見たんだろ」

 彼女と話すことによって、考えがまとまっていく。古戸くんは美少女AIのことを告げる前に何を見たか、言っていた。三葉さんとの雰囲気が悪くなった原因でもあろう。

「古戸くんは三葉さんのスマホを見ていた。見ていたからこそ、三葉さんの怒りを買ったんだ。そうでないと普通、スマホを拾っただけじゃあ怒られないよね」

 話をしている中で、ひょいとこちらの様子が気になった人がいたみたいだ。パソコン室の扉を開けてきた桃助くん。

「何々? 何の話をしてるの?」

 僕達が秘密の話をしていることに気が付かれたか。少し体を彼と反対側に押してしまったが、すぐさま戻していく。誤魔化さなければとナノカも思っていたようで素早く言い訳をしていた。

「ちょっとこっちの課題の話をしてただけよ」
「そうなんだぁ」

 普通に戻っていこうとする彼。では、と思っていたが聞いてみるべきことがあるのではないかとも考えられた。

「桃助くん、待って!」
「な、何?」
「いや、気になったことが少しあったんだけどさ。古戸くんと三葉さんって結局、仲悪かったの?」
「ああ、そのことについて……? 最近はちょっといざこざがあったみたいだけど、別に悪くはなかったし。二人共分かってたって感じだな」
「そっか。じゃあ、互いのスマホに触っててもおかしくない?」

 一応、確かめておこうと思った。どれ位、親しいのか。本当にスマートフォンを触られただけでも怒るような関係であったか。
 彼が出した答えは僕が予想している以上のものだった。

「おかしくないというか。作業集中してる時は、誠っちに読ませてたな。パスワードを解除させることはできると思うけど、それがどうかした?」
「いやいや、クレーマーとして仲については覚えておかないとなって思って」

 今の発言が迂闊だった。

「そっか……でも、三葉っちは……」

 暗い空気を作り出してしまった。そこでナノカが口を開ける。

「見てたところ、喧嘩別れじゃないと思うわ。しばらくしたら、戻ってくるかもしれないわよ」
「ああ……そうだよなぁ! 何せ、絆で結ばれてんだから!」

 彼女が希望を与えてくれたおかげでサークルの中が今以上に最悪な雰囲気になることは避けられた。彼女には感謝しかない。
 桃助くんは彼女の言葉を反芻して、パソコン室の中に戻っていった。ここで話をしているとまた他の人が来るかもしれないと靴箱の方まで移動した。サークルの人達もここで話していることは聞こえないし、気にもならないだろう。
 ナノカが今の調査で分かったことを落ち着いてから、言葉にしてくれた。

「で、情真くん、ありがとね。これで分かったわね。間違いなくその画面で古戸くんが見ちゃったってことなのよね。その見てはいけない、三葉さんのスマホに巣くっている美少女AIとやらを。そのせいで関係がギスギスしちゃった、と」
「わざわざ古戸くんが……パスワードを開けて見たってことになるのか」
「見ちゃってたとしたら……」

 そんな不安に一言。

「見てないよ。確かに拾い上げて、その画面が付いてた。AIみたいに女の子がにゅるにゅる動いてて、さ……それで、つい見ちゃったんだ。八木岡くんがいなくなった後に、ね」

 古戸くん、だった。彼が背後に立っていたものだから今度こそ、驚いて壁の方まで逃げてしまった。彼が完全に古戸くんであると気付き、僕はのそのそと自分がいた場所まで帰還。ナノカに「驚くけど、そんな反応までしなくていいと思うわよ」と言われ、白い目を向けながらも彼と対話を試みた。

「ま、まぁ……二人共驚かせてごめん。で、古戸くん、それって八木岡くんが適当に押しちゃってってことはないよね?」
「それはないよ。彼女のスマホ、ずっと光ってたから」
「光ってると何でって……あっ、もしかしてスリープモードになってなかったってこと?」

 彼は頷いた。確かにスリープモードにならないようにするためには、スマートフォンを触ってないといけないのではなかったか。

「落ちてた時、別に動画を再生している様子はなかったんだ。だから動画でスリープにならなかったってことはなかったし。八木岡くんが話している間に、ね。確かに三葉さんは電源を切らないでそのまま置きっぱなしにするけど、すぐ消えちゃう。スマホの画面にタッチしてていれば、別の話だけどおれはそんな机に置いて、連打してるところなんて見てないし……」
「そっか……」
「だから、誰かパスワードを知っている誰かが……そうだ。確かあの子、三葉さんがパスワード打つところ、後ろから見てたような。ほら、うちの学校で、ピクニックに行った時も来てた子! まさかこの学校に来て、変なことしてるとは思わないけど……いや、彼女ならあり得るかもだけど、彼女が」
「彼女って……芦峯さんのことか!」
「……彼女が何のためか分からないけど、八木岡くんが出てった後、すぐそこに投げ入れてたとしたら……ううん、でもこんなのあり得ないか……」

 ナノカも「確かに他の学校の制服じゃ目立つし、それはないんじゃないの? 誰かに見られて密告でもされたら一発で犯人が分かっちゃう」と。確かに制服が違う。
 だから一緒にして考えては、ダメだ。
 なんてナノカが推理に出したクレームでハッとした。今度は別の誰かの存在に驚いた訳ではない。ある発見に心が動いたのだ。
 だから今の推理を作っていくために古戸くんへまた質問をさせてもらった。

「古戸くん。あのさ、あの日、一番最初にパソコン室の鍵を開けたのは誰?」
「それは三葉さんだよ。すぐに行くってことで……話してさ。だから、彼女の鞄も起きっぱだった。彼女はなんか先生に課題のことで呼び出されてたみたいだけど」
「なるほど……!」
「まぁ、こんな情報で犯人は分からないよね。じゃっ、おれは戻るよ。どうやら今回の事件について探ってるみたいだけど……おれの夢よりは叶いそうだな」
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