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第三節 夢の先には後悔か
Ep.3 僕のクレーム、彼女のクレーム
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「情真くん、それはどうして?」
最初に疑問が来た。だからクレーマーの顔になったのだ。僕ではこの謎が解けないから下手に首を突っ込むなとでも忠告するつもりか。
僕はそんな指示に従うつもりはない。自分自身の中にある硬い意思をぶつけていく。
「『夢を追う会』がこのままじゃ、消えてしまうと思ってさ。三葉さんはこの場所が合わなくてやめたようには思えない。彼女は確かに不器用な人なのかもしれない。人にぶっきらぼうな言葉を使っちゃうかもしれない。でも、一緒にいた時の人への信じ方は誰よりも知っている。何度自分の価値を言われても描いてたのに……何で、こうなったのかって……」
ナノカがまだ黙っている。けれども、何を言ってくるかはだいたい予想できている。言われる前に意見を口からぶっ飛ばす。
「もしかしたら、本当に三葉さんは何度も傷付いて、今回のが一番苦しい状態になったのかもしれない……特別な理由はないのかもしれない。だけどさ、見てきた中で思うんだ。三葉さんは違う理由で嫌になっちゃったんじゃないかって。少しでも思ったからさ。見てる中で彼女が夢を知るにはここがいい場所だと思ったからさ! もし、その他の理由でここが何か嫌な場所になってるって言うんなら、見つけたいんだ。その原因を早く失くして、ここが夢を叶えるために大切な場所にしたいんだよっ! 夢のない僕だけど、この場所は、夢を頑張ってる人は、馬鹿にしてはいけないし! なくっちゃいけないんだ!」
「ねぇ」
「証拠なんてないよ! 彼女が違う理由でこの場所を去ったって理由はないよ! でも、三葉さんに夢を諦めたくないって思いがこの中にあるんだよ……どうしても諦めさせたくないんだよ……」
「ねぇ、情真くん、一旦聞いて。分かってるから」
「えっ?」
途中で僕の言葉を遮ったナノカはやけに優しくなっていた。
「情真くん、ごめん。気持ちを疑ってたとかじゃなくって、君の気持ちを少し聞いてみたいなってことだけだったの。ごめんね。そんなに考えたのね。それなら、当然ワタシも協力するわ。それに夢を諦めさせようとしているのが人の手、ならワタシは本気で潰さないと、って思ってる。まずはそれが誰だか、よね」
彼女は再びクレーマーの表情に。どうやら彼女は事件に対して憤りを抱いているようだ。ナノカが夢を否定した理由は分かっていないが、そこを考えるのは後にしよう。三葉さんの心が完全に、この場所から離れてしまう前に。三葉さんがこの場所にまだ未練が残っていることを信じて推理を進めていこう。
手掛かりは、ない。
あるのは謎だ。ナノカに二つあると伝えていく。
「それを探すための謎なんだけど……一つ目はナノカの言ってる通り、誹謗中傷をしている人間が誰だか、なんだ。僕達って、理亜にも手伝ってもらって他の人達にアヤコさんと火村さんの騒ぎが飛び火していないか、確かめたよね? で、誹謗中傷されているところはいなかった」
「確かにいなかったわよね。でも、それって本当にそうなのかしら?」
「ん?」
「まず、考える発想は一つ。何か作品を書くとするじゃない? それが既存のアニメみたい、作品みたいってどう思うかしら?」
例えが創作者らしいものになってきた。少し考えてから答えてみせる。
「アニメか。そのアニメに憧れてるから、そう言ってもらえて嬉しいなって」
「そうよね。でも、一つ伝え方を間違えるとこうなるわ。何かのアニメみたーい! って作品をちょびっと読んで、これ以上読まないって態度の人が言ってきたらなんて思う?」
自身の作品を楽しんでくれる人ならば、そのアニメも自分の作品も好きだと伝わってくる。
後者は何か、嫌だ。まるで……。
「まるで自分がその作品をパクッてるって言われてるような感じがして、嫌だなぁ。パクリだから読まない、みたいな」
「でしょでしょ。まぁ、作品の作者とそのコメントを出した人以外はただ何かのコメントをしているようにしか見えないから。別に誹謗中傷だとも思わないわ。もしかしたら、今例えたふうにワタシ達には分からない感じで誹謗中傷をしてるのかもしれないわね」
「ああ、なるほど。でも、よく創作者の気持ちが分かったね」
「ほとんど理亜ちゃんの受け売りなんだけど。前に愚痴ってたことがあったから。残念ながら、ワタシの考えじゃないのよね……」
理亜か。彼女もよくやるよ。そして、それを今の良い例えとして使えるナノカも十分に頭がいいと思う。褒めたくもなったが、照れるからやめておいた。
それよりもナノカが例えに出した通りではないかもしれないけれども、僕達には分からないメッセージがある可能性を考えて動いていく。
まず、今日は来てない理亜に連絡だ。理亜自身が創作者だから、三葉さんと同じ立場で一見では分からない深いコメントも見つけられるだろう。
と、彼女達と共に調べてみた。数分後に理亜から「別にこっちの作品などでは……ないな。彼女、サイトにもまとめてあるようだが、そっちのコメントもいい感想ばかりだと思う。絵が凄いだとか……別に困るようなことはない。まぁ、誹謗中傷が削除されたって可能性もあるんだが」とのこと。
調べるのが早いと思いながら、感謝の意味でのスタンプを送っておく。ナノカが「人食い花のスタンプって、他にいいのなかったの?」と聞いてきた。残念ながら理亜に使いたくなるスタンプはこれ以外にない。
この後、廊下の壁に体を付けてスマートフォンでSNSを調べ上げるも見当たらない。ナノカの顔に手を当てて、「見つからないわね」と溜息をついていた。
誹謗中傷の存在を三葉さんはでっち上げただけなのか。このサークルが単に飽きたから、適当な理由を作って去っていこうとしただけか。
いや、そうは思えない。きっと匿名か何かで受けているのかもしれない。ファンの手紙を匿名で送れる場所や掲示板、動画サイトだとしたら。タイトルや紹介文に三葉さんの名前が書かれていないのであれば、三葉さんの名前やペンネームで検索することもできない。それをたまたま三葉さんが目撃してしまったのなら。彼女しか真実の知りようがない。
仕方がないから、別の考え方で推理を進めていく。誹謗中傷の謎を解けないのであれば、二つ目の謎から挑んでいこう。
「そうそう、ナノカ。もう一つ。何で三葉さんは犯人を庇っているのか、だ。犯人のことなんだから、相談してもいいじゃない。それなのに、どうして相談してくれなかったのか。こっから、謎を解くことってできないかな?」
最初に疑問が来た。だからクレーマーの顔になったのだ。僕ではこの謎が解けないから下手に首を突っ込むなとでも忠告するつもりか。
僕はそんな指示に従うつもりはない。自分自身の中にある硬い意思をぶつけていく。
「『夢を追う会』がこのままじゃ、消えてしまうと思ってさ。三葉さんはこの場所が合わなくてやめたようには思えない。彼女は確かに不器用な人なのかもしれない。人にぶっきらぼうな言葉を使っちゃうかもしれない。でも、一緒にいた時の人への信じ方は誰よりも知っている。何度自分の価値を言われても描いてたのに……何で、こうなったのかって……」
ナノカがまだ黙っている。けれども、何を言ってくるかはだいたい予想できている。言われる前に意見を口からぶっ飛ばす。
「もしかしたら、本当に三葉さんは何度も傷付いて、今回のが一番苦しい状態になったのかもしれない……特別な理由はないのかもしれない。だけどさ、見てきた中で思うんだ。三葉さんは違う理由で嫌になっちゃったんじゃないかって。少しでも思ったからさ。見てる中で彼女が夢を知るにはここがいい場所だと思ったからさ! もし、その他の理由でここが何か嫌な場所になってるって言うんなら、見つけたいんだ。その原因を早く失くして、ここが夢を叶えるために大切な場所にしたいんだよっ! 夢のない僕だけど、この場所は、夢を頑張ってる人は、馬鹿にしてはいけないし! なくっちゃいけないんだ!」
「ねぇ」
「証拠なんてないよ! 彼女が違う理由でこの場所を去ったって理由はないよ! でも、三葉さんに夢を諦めたくないって思いがこの中にあるんだよ……どうしても諦めさせたくないんだよ……」
「ねぇ、情真くん、一旦聞いて。分かってるから」
「えっ?」
途中で僕の言葉を遮ったナノカはやけに優しくなっていた。
「情真くん、ごめん。気持ちを疑ってたとかじゃなくって、君の気持ちを少し聞いてみたいなってことだけだったの。ごめんね。そんなに考えたのね。それなら、当然ワタシも協力するわ。それに夢を諦めさせようとしているのが人の手、ならワタシは本気で潰さないと、って思ってる。まずはそれが誰だか、よね」
彼女は再びクレーマーの表情に。どうやら彼女は事件に対して憤りを抱いているようだ。ナノカが夢を否定した理由は分かっていないが、そこを考えるのは後にしよう。三葉さんの心が完全に、この場所から離れてしまう前に。三葉さんがこの場所にまだ未練が残っていることを信じて推理を進めていこう。
手掛かりは、ない。
あるのは謎だ。ナノカに二つあると伝えていく。
「それを探すための謎なんだけど……一つ目はナノカの言ってる通り、誹謗中傷をしている人間が誰だか、なんだ。僕達って、理亜にも手伝ってもらって他の人達にアヤコさんと火村さんの騒ぎが飛び火していないか、確かめたよね? で、誹謗中傷されているところはいなかった」
「確かにいなかったわよね。でも、それって本当にそうなのかしら?」
「ん?」
「まず、考える発想は一つ。何か作品を書くとするじゃない? それが既存のアニメみたい、作品みたいってどう思うかしら?」
例えが創作者らしいものになってきた。少し考えてから答えてみせる。
「アニメか。そのアニメに憧れてるから、そう言ってもらえて嬉しいなって」
「そうよね。でも、一つ伝え方を間違えるとこうなるわ。何かのアニメみたーい! って作品をちょびっと読んで、これ以上読まないって態度の人が言ってきたらなんて思う?」
自身の作品を楽しんでくれる人ならば、そのアニメも自分の作品も好きだと伝わってくる。
後者は何か、嫌だ。まるで……。
「まるで自分がその作品をパクッてるって言われてるような感じがして、嫌だなぁ。パクリだから読まない、みたいな」
「でしょでしょ。まぁ、作品の作者とそのコメントを出した人以外はただ何かのコメントをしているようにしか見えないから。別に誹謗中傷だとも思わないわ。もしかしたら、今例えたふうにワタシ達には分からない感じで誹謗中傷をしてるのかもしれないわね」
「ああ、なるほど。でも、よく創作者の気持ちが分かったね」
「ほとんど理亜ちゃんの受け売りなんだけど。前に愚痴ってたことがあったから。残念ながら、ワタシの考えじゃないのよね……」
理亜か。彼女もよくやるよ。そして、それを今の良い例えとして使えるナノカも十分に頭がいいと思う。褒めたくもなったが、照れるからやめておいた。
それよりもナノカが例えに出した通りではないかもしれないけれども、僕達には分からないメッセージがある可能性を考えて動いていく。
まず、今日は来てない理亜に連絡だ。理亜自身が創作者だから、三葉さんと同じ立場で一見では分からない深いコメントも見つけられるだろう。
と、彼女達と共に調べてみた。数分後に理亜から「別にこっちの作品などでは……ないな。彼女、サイトにもまとめてあるようだが、そっちのコメントもいい感想ばかりだと思う。絵が凄いだとか……別に困るようなことはない。まぁ、誹謗中傷が削除されたって可能性もあるんだが」とのこと。
調べるのが早いと思いながら、感謝の意味でのスタンプを送っておく。ナノカが「人食い花のスタンプって、他にいいのなかったの?」と聞いてきた。残念ながら理亜に使いたくなるスタンプはこれ以外にない。
この後、廊下の壁に体を付けてスマートフォンでSNSを調べ上げるも見当たらない。ナノカの顔に手を当てて、「見つからないわね」と溜息をついていた。
誹謗中傷の存在を三葉さんはでっち上げただけなのか。このサークルが単に飽きたから、適当な理由を作って去っていこうとしただけか。
いや、そうは思えない。きっと匿名か何かで受けているのかもしれない。ファンの手紙を匿名で送れる場所や掲示板、動画サイトだとしたら。タイトルや紹介文に三葉さんの名前が書かれていないのであれば、三葉さんの名前やペンネームで検索することもできない。それをたまたま三葉さんが目撃してしまったのなら。彼女しか真実の知りようがない。
仕方がないから、別の考え方で推理を進めていく。誹謗中傷の謎を解けないのであれば、二つ目の謎から挑んでいこう。
「そうそう、ナノカ。もう一つ。何で三葉さんは犯人を庇っているのか、だ。犯人のことなんだから、相談してもいいじゃない。それなのに、どうして相談してくれなかったのか。こっから、謎を解くことってできないかな?」
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