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第三節 夢の先には後悔か
Ep.1 教えてくれないのなら
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「ナノカ、何言ってんだよ……ナノカが何を言ってんだ……?」
ポツリ口から出た言葉がナノカへの問い掛けだ。頭の中が真っ白になっていく。
意味が分からない。何故に彼女が「夢を追う会」が目指している大切なものを否定するのか。
夢が大切だと目を輝かせて語っていたのは君ではないか。夢に進むことの大切さを厳しくも優しく説いてくれたのが君ではないか。
僕は「夢を追う会」と関わる短い期間の中で、夢を追う尊さを学んだ。自分にはない夢だけれども、誰かの夢を守ることは尊いことだと教えてもらった。
これも何もかも、ナノカのおかげだ。
それなのにどうして彼女が「夢を存在してはいけないもの」と言うのか、全く分からない。
普段は何かを見透かしているかのように含み笑いをする理亜も首を傾げている。彼女もナノカの意図を読み取れなかったのだ。だから直接聞いてもいた。
「ナノカ、いきなりだな。何か嫌なことでもあったのか……?」
僕と理亜の声があってか、彼女はすぐにハッとして目を見開いたままの状態で返事をした。
「えっ!? あっ、ごめん……何か変なこと、ワタシ言ってたかしら? 不愉快にさせてたら、ごめんなさい」
その流れで彼女は申し訳なさそうにしている。いや、僕が聞きたいのは謝罪の言葉なんかではない。彼女が夢を否定する理由だ。
「ナノカ? だから聞きたいのは、そのナノカを嫌な気持ちにしていた理由なんだけど」
これで答えが返ってくるものだと思ったけれども。現実は非情なまでに苦かった。
「ごめん。今は言えないかな。一旦、忘れて。また話すと思うから」
「あ……わ、分かった。ナノカがそう言うなら待ってる」
自分で悩みを抱え込むという意思表示を見せられた。これでは事情を知ることができない。理亜も僕もナノカに食い下がって事情を聞こうとすれば、怒られることを知っている。だから誰も必要以上の言及ができずにいる。
そんな中、ナノカは「それよりも!」と「夢を追う会」の現状について尋ねてきた。
「誹謗中傷の件、どうにかできないかって。理亜ちゃんが前に身近にいるって言ってたじゃない。犯人を誘き出す方法とか色々考えてみたんだけどね」
少し空気が悪くなる。その必要はない、と。いきなり喋りにくい雰囲気になったことを察したナノカが「えっ!? 何!? 身近にいるって推理違ったの?」なんて慌てている。
今の時点で判明していることを喋ってほしいと目で理亜に合図した。
「おう、分かった」
「あっ」
「情真が女の子に悲鳴を上げさせたことを話せば」
「ちげぇだろ!?」
理亜がこちらをからかったせいでナノカからはこちらを敵として認識されてしまった。殺意のオーラが体から出まくっていて、僕は怖気づくことしかやることがない。
「情真くん……? 何したの? スカートめくりでもしたとか!?」
「違う違う違う! 虫を掘り出したことで驚かせちゃっただけ!」
「何でそんなことを」
「詳しく話せば長くなるけど!」
すぐさま自分の身を守るため、事件を解決したことと誹謗中傷が激しくなったこと、アヤコさん達が対策を取り始めたことを全て解説しておく。こうなるのであれば、最初から自分で説明しておくべきだったと後悔。それから理亜を睨むも「おっ、前より睨み方が可愛くなったな」と変な褒められ方をした。絡まったコンセントのように気分は複雑である。
納得したナノカの方は敵意を喪失させてから、更にとんでもないことになった現状を憂いていた。深刻な顔で何度も首を縦に振っている。
「二人共、ありがとね。そしてお疲れ様……って言いたいところだけど、やっぱ、そっちの方をどうにかしないと、よね。誹謗中傷を訴えるだけで何とかなるかしら……」
理亜は「そう簡単にはいかない」と目を閉じてコメントした。その後も彼女の解釈が続いていく。
「訴えたとしても、考えてる程うまくはいかないだろう。最近は誹謗中傷が禁固刑になったとかはあるだろうが……逆にそうなると相手の抵抗も強くなる。自分はそういう解釈で言った訳じゃないだとか。証拠を残す前にアカウントを消されるだとか。いろんな誤魔化しをやってくるだろうな」
「じゃあ、どうしようもないの?」
「ううん、今のところは思い付かないな。とにかく、今はアヤコさん達と合流して今後について話し合っていこう。何かいい案が思い付くかもしれない」
僕達がパソコン室に向かっていたところで、桃助くんと合流。「何が起こってるんだ!? これ」と驚きを隠さずにはいられなかったよう。
当然、アヤコさんや火村さんと共に状況を語っていく。終わるや否や、ナノカがまず現実的な提案をした。
「……とにかく、大人に知らせてみる?」
あまり気が進まない提案だが、乗るしかないかもしれない。ここで少ない人数で語っていてもどうにもならない。それならば多少大人が大勢いれば。きっと大人も誹謗中傷に対してはこちらを批判しないと思ったのだが。
「ダメ……」
賛同しなかったのは、アヤコさんだった。ナノカは腕を振って、迫っていく。
「な、何で!? こうやって悩んでるよりはまだマシかもしれないわよ!」
確かにその通りではある。ただアヤコさんは僕が思っている以上の問題を提示した。
「ううん、そうしたら絶対言われるのよ。こんな身の丈に合わない夢を追ってるから、こんなトラブルに巻き込まれるんだって。最悪、SNSが校則で禁止されかねない! そんなことしたら、誹謗中傷してきた奴が更につけあがる! 今だって一部の人以外には疎まれてる活動なのに!」
ナノカも彼女の勢いに「それじゃあいけないわよ!」とは言えないみたいだ。大人がそう言わないと否定できない以上、「大人に相談しましょ」の発言は「夢を諦めましょ」と同義になる。
この中で一人、僕は「夢を追う会」のクレーマーであるのに、だ。ナノカの隠し事ばかり考えていた。
夢を否定するけれども。アヤコさんの夢を悪いものとして見ていないよう。必死で救ってみせようと考えていることが真剣さから伝わってくるのだ。
何故、彼女は夢を否定したのか。分からない僕に隣にいた理亜がささっと近くの紙にシャーペンで文字を書いた。
『気になってんなら、教えてくれないのなら、私達には推理するって手があるだろ。ナノカの心の中を推理してみろ。ナノカのことが好きなお前なら、簡単なことだろ? 簡単じゃなくても、きっとできてしまうだろ?』
ポツリ口から出た言葉がナノカへの問い掛けだ。頭の中が真っ白になっていく。
意味が分からない。何故に彼女が「夢を追う会」が目指している大切なものを否定するのか。
夢が大切だと目を輝かせて語っていたのは君ではないか。夢に進むことの大切さを厳しくも優しく説いてくれたのが君ではないか。
僕は「夢を追う会」と関わる短い期間の中で、夢を追う尊さを学んだ。自分にはない夢だけれども、誰かの夢を守ることは尊いことだと教えてもらった。
これも何もかも、ナノカのおかげだ。
それなのにどうして彼女が「夢を存在してはいけないもの」と言うのか、全く分からない。
普段は何かを見透かしているかのように含み笑いをする理亜も首を傾げている。彼女もナノカの意図を読み取れなかったのだ。だから直接聞いてもいた。
「ナノカ、いきなりだな。何か嫌なことでもあったのか……?」
僕と理亜の声があってか、彼女はすぐにハッとして目を見開いたままの状態で返事をした。
「えっ!? あっ、ごめん……何か変なこと、ワタシ言ってたかしら? 不愉快にさせてたら、ごめんなさい」
その流れで彼女は申し訳なさそうにしている。いや、僕が聞きたいのは謝罪の言葉なんかではない。彼女が夢を否定する理由だ。
「ナノカ? だから聞きたいのは、そのナノカを嫌な気持ちにしていた理由なんだけど」
これで答えが返ってくるものだと思ったけれども。現実は非情なまでに苦かった。
「ごめん。今は言えないかな。一旦、忘れて。また話すと思うから」
「あ……わ、分かった。ナノカがそう言うなら待ってる」
自分で悩みを抱え込むという意思表示を見せられた。これでは事情を知ることができない。理亜も僕もナノカに食い下がって事情を聞こうとすれば、怒られることを知っている。だから誰も必要以上の言及ができずにいる。
そんな中、ナノカは「それよりも!」と「夢を追う会」の現状について尋ねてきた。
「誹謗中傷の件、どうにかできないかって。理亜ちゃんが前に身近にいるって言ってたじゃない。犯人を誘き出す方法とか色々考えてみたんだけどね」
少し空気が悪くなる。その必要はない、と。いきなり喋りにくい雰囲気になったことを察したナノカが「えっ!? 何!? 身近にいるって推理違ったの?」なんて慌てている。
今の時点で判明していることを喋ってほしいと目で理亜に合図した。
「おう、分かった」
「あっ」
「情真が女の子に悲鳴を上げさせたことを話せば」
「ちげぇだろ!?」
理亜がこちらをからかったせいでナノカからはこちらを敵として認識されてしまった。殺意のオーラが体から出まくっていて、僕は怖気づくことしかやることがない。
「情真くん……? 何したの? スカートめくりでもしたとか!?」
「違う違う違う! 虫を掘り出したことで驚かせちゃっただけ!」
「何でそんなことを」
「詳しく話せば長くなるけど!」
すぐさま自分の身を守るため、事件を解決したことと誹謗中傷が激しくなったこと、アヤコさん達が対策を取り始めたことを全て解説しておく。こうなるのであれば、最初から自分で説明しておくべきだったと後悔。それから理亜を睨むも「おっ、前より睨み方が可愛くなったな」と変な褒められ方をした。絡まったコンセントのように気分は複雑である。
納得したナノカの方は敵意を喪失させてから、更にとんでもないことになった現状を憂いていた。深刻な顔で何度も首を縦に振っている。
「二人共、ありがとね。そしてお疲れ様……って言いたいところだけど、やっぱ、そっちの方をどうにかしないと、よね。誹謗中傷を訴えるだけで何とかなるかしら……」
理亜は「そう簡単にはいかない」と目を閉じてコメントした。その後も彼女の解釈が続いていく。
「訴えたとしても、考えてる程うまくはいかないだろう。最近は誹謗中傷が禁固刑になったとかはあるだろうが……逆にそうなると相手の抵抗も強くなる。自分はそういう解釈で言った訳じゃないだとか。証拠を残す前にアカウントを消されるだとか。いろんな誤魔化しをやってくるだろうな」
「じゃあ、どうしようもないの?」
「ううん、今のところは思い付かないな。とにかく、今はアヤコさん達と合流して今後について話し合っていこう。何かいい案が思い付くかもしれない」
僕達がパソコン室に向かっていたところで、桃助くんと合流。「何が起こってるんだ!? これ」と驚きを隠さずにはいられなかったよう。
当然、アヤコさんや火村さんと共に状況を語っていく。終わるや否や、ナノカがまず現実的な提案をした。
「……とにかく、大人に知らせてみる?」
あまり気が進まない提案だが、乗るしかないかもしれない。ここで少ない人数で語っていてもどうにもならない。それならば多少大人が大勢いれば。きっと大人も誹謗中傷に対してはこちらを批判しないと思ったのだが。
「ダメ……」
賛同しなかったのは、アヤコさんだった。ナノカは腕を振って、迫っていく。
「な、何で!? こうやって悩んでるよりはまだマシかもしれないわよ!」
確かにその通りではある。ただアヤコさんは僕が思っている以上の問題を提示した。
「ううん、そうしたら絶対言われるのよ。こんな身の丈に合わない夢を追ってるから、こんなトラブルに巻き込まれるんだって。最悪、SNSが校則で禁止されかねない! そんなことしたら、誹謗中傷してきた奴が更につけあがる! 今だって一部の人以外には疎まれてる活動なのに!」
ナノカも彼女の勢いに「それじゃあいけないわよ!」とは言えないみたいだ。大人がそう言わないと否定できない以上、「大人に相談しましょ」の発言は「夢を諦めましょ」と同義になる。
この中で一人、僕は「夢を追う会」のクレーマーであるのに、だ。ナノカの隠し事ばかり考えていた。
夢を否定するけれども。アヤコさんの夢を悪いものとして見ていないよう。必死で救ってみせようと考えていることが真剣さから伝わってくるのだ。
何故、彼女は夢を否定したのか。分からない僕に隣にいた理亜がささっと近くの紙にシャーペンで文字を書いた。
『気になってんなら、教えてくれないのなら、私達には推理するって手があるだろ。ナノカの心の中を推理してみろ。ナノカのことが好きなお前なら、簡単なことだろ? 簡単じゃなくても、きっとできてしまうだろ?』
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