美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

文字の大きさ
上 下
37 / 95
第二節 女子高生VS超絶美少女AI

Ep.13 心は燃えている

しおりを挟む
 アヤコさんは少々理亜に貸すべきか、迷っていた。そもそも潔癖症だから、あまり自分のものを人に貸すのは気が進まないのではないか。理亜もそのことを思い出したのか、もう一つ付け加えた。

「ああ、そうだったそうだった。分かった分かった。私は別に変なことをしようとしてる訳ではない。アヤコさんの個人情報を見たいとは少しも思っていない。私の言う通りに従ってくれてればいい。そうすれば、全て分かる」
「なら……」
「じゃあ、まずここにいる二人とチャットアプリで繋がってたよな? それに私が指し示すのを送ってくれ」
「う、うん……」

 そこから少し理亜がアヤコさんに耳打ちをする。
 アヤコさんは言われた通りスマートフォンのチャットアプリを利用して、僕達二人にあるURLを送りつけて来た。とても怪しいのだが。一応僕が聞いてみる。

「これ、変なホームページじゃないよな?」

 理亜ではなく、すぐアヤコさんが解答してくれた。

「今、そんな変なホームページを用意する暇はなかったから。それにあたし達が利用してる普通のだよ……重ちゃんも別に問題ないよね。変なことされてるけど、たぶん大丈夫。犯人じゃないってことを証明してよ」

 彼女は「う、うん」と答える。ここで拒否することはできなかったのであろう。
 アヤコさんが大丈夫と説明するなら、安心してURLの中に入ることができる。そこはファンがメッセージを送れるようになっているものだ。ピクニックの際もこの機能を使って、アヤコさん達を呼び寄せたのである。
 今もまた使うことなろうとは。
 すると何をするのか、になってくる。どうやって火村さんを犯人だと見抜く証拠になるのか。理亜がすぐに指令を出した。

「さぁ、情真、火村。そこに名前を書いてみろ」

 簡単だ。僕が「露雪情真」と書いて、送るだけ。
 そうすれば、理亜が読み上げるだろう。

「これでいいんだろ?」
「ああ。情真の名前が来た。で……」

 火村さんもすぐ同じことをしたはずだ。

「これで……」

 アヤコさんが訝しい顔をして、火村さんに告げる。

「来ないんだけど……」
「えっ、そんなはずは……そんなはずは……」

 何度も何度も彼女は打っているのが見えるが。結果的に理亜の方に彼女の名前が来ることはなかったとのこと。
 本人が「無駄」と断言した。

「やっぱりな。無駄だ」
「な、何で……」
「何でって、決まってるだろう? ブロック機能だよ。ブロック機能。匿名だってやられっぱなしではいかない。アカウントがなかったとしても、そのスマホ自体の送信を受け付けないようになってるんだ……何でブロックされたかって言えば、分かるか?」

 そんなのは分かっている。自分が送信したものであるとバレないように、この匿名の機能でも誹謗中傷を送信したのだ。

「でも、何でわざわざ本当のアカウントでやってるのに……」

 僕の発した質問も理亜は答えが分かっていた。

「まぁ、誹謗中傷する人が自分以外にもいる、たくさん敵はいるってことを主張するため、だろうな」
「そうか……」

 納得。これにて、彼女が誹謗中傷をしていたことの証明にはなった。
 アヤコさんに見つめられた火村さんは、ついに心中を吐き始めた。

「……そうよ……あのアカウントはわたしよ。わたしがやったんだよ。わたしが誹謗中傷をしてたんですよ! だってだって、悔しかったんです!」

 悔しかったか。彼女の指を見ながら、僕が応じていく。

「それって作曲のこと?」
「そうですよ! 先輩はわたしの年にはもう有名になってた。動画サイトで有名になってたのに……何で、何で同じようにやってるのに! 『頑張れ!』って言われなきゃ、いけないの!? まるで頑張ってないみたいに! 何でわたしの方が音楽が好きなのに、先にデビューされなきゃいけないの!? デビューした人達に『最初は音楽好きじゃないし、あんま聞かないんだけど』って言われて、悔しい思いをしないといけないのよ!」

 彼女はすぐ崩れ落ちて、地面に手を付ける。それから嗚咽を上げて、嫉妬する思いを叫んでいた。こちらの心がまた苦しくなる位に。

「先輩が羨ましかったんです! 先輩にこのまま上に行かれるのが、怖くて……どうしようもなくて」

 アヤコさんの方はアヤコさんの方でその言葉に対し、叱るような声を出す。

「そんなことして、満足なの!?」
「ひっ!?」
「そんなんじゃ、自分の作品が悲しいよ。誰かを勇気づけるために貴方は作品を作り上げたんじゃないの? 誰かを幸せにするためにしたんじゃないの? それなのに、何でそんなことをしちゃうの!?」
「えっ!?」
「他の作曲家に言うのは悪いかもだけど、貴方のことがとっても好きだったんだよ。貴方の歌が、作曲が……頑張ってるところ全てが良かったから。だから夢を共に頑張ろうって思えてたんだよっ! それなのに、何でそんなことやって貴方が成功を積み上げる道を壊しちゃってるの!?」
「そ、そんなこと言われたって!」

 アヤコさんの方も必死で涙を出さないように顔を強張らせていることが分かった。本当に火村さんを信じていたのだ。彼女が彼女の作品が更に良いところに進めると思っていたのだ。それを火村さんは裏切ってしまった。

「貴方の作曲をいいって言ってくれる人は他にいなかったの?」
「そんなの、みんなお世辞だよ!」
「お世辞なんかじゃない! そんなネットの片隅にいるような人にお世辞を飛ばしたって、一円の価値すりゃ得られない! 一秒一秒の時間を使って、本当に伝えたいから言ってるのよ!」
「……そ、そんな……そんな……!?」

 火村さんは心が空っぽになったのか。何度も「ごめんなさい」を繰り返す状態だ。こんな彼女をアヤコさんは抱きしめる。
 理亜は「この先、どうするのか」とすぐに判断を迫っていた。

「……別にあたしは責めないよ。ちゃんとこうやって気持ちを教えてくれたから。それに売れるか売れないかなんて、運の問題もあるわ。あたしは運が良かっただけ。あたしも間違っていたら、誰かを恨んでいたかもしれない。引きずり落していたかもしれない……だから……ね」
「分かった。他の人には何とか和解したってことを伝えておこう」
「ありがと。貴方の推理、とっても憎かったけど、凄い助かった」
「それはどうも……」

 この時のアヤコさんは空を見上げて、唇を引き締めている。まるで何かを決意したかのよう。
 心の中が少し晴れていたのだけれども。何故か頭の中に「嵐の前の静けさ」との言葉が思い浮かんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Arachne 2 ~激闘! 敵はタレイアにあり~

ミステリー
学習支援サイト「Arachne」でのアルバイトを経て、正社員に採用された鳥辺野ソラ。今度は彼自身がアルバイトスタッフを指導する立場となる。さっそく募集をかけてみたところ、面接に現れたのは金髪ギャルの女子高生だった! 年下の女性の扱いに苦戦しつつ、自身の業務にも奮闘するソラ。そんな折、下世話なゴシップ記事を書く週刊誌「タレイア」に仲間が狙われるようになって……? やけに情報通な記者の正体とは? なぜアラクネをターゲットにするのか? 日常に沸き起こるトラブルを解決しながら、大きな謎を解いていく連作短編集ミステリ。 ※前作「Arachne ~君のために垂らす蜘蛛の糸~」の続編です。  前作を読んでいなくても楽しめるように書いたつもりですが、こちらを先に読んだ場合、前作のネタバレを踏むことになります。  前作の方もネタバレなしで楽しみたい、という場合は順番にお読みください。  作者としてはどちらから読んでいただいても嬉しいです! 第8回ホラー・ミステリー小説大賞 にエントリー中! 毎日投稿していく予定ですので、ぜひお気に入りボタンを押してお待ちください! ▼全話統合版(完結済)PDFはこちら https://ashikamosei.booth.pm/items/6627473 一気に読みたい、DLしてオフラインで読みたい、という方はご利用ください。

終焉の教室

シロタカズキ
ミステリー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...