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第二節 女子高生VS超絶美少女AI
Ep.13 心は燃えている
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アヤコさんは少々理亜に貸すべきか、迷っていた。そもそも潔癖症だから、あまり自分のものを人に貸すのは気が進まないのではないか。理亜もそのことを思い出したのか、もう一つ付け加えた。
「ああ、そうだったそうだった。分かった分かった。私は別に変なことをしようとしてる訳ではない。アヤコさんの個人情報を見たいとは少しも思っていない。私の言う通りに従ってくれてればいい。そうすれば、全て分かる」
「なら……」
「じゃあ、まずここにいる二人とチャットアプリで繋がってたよな? それに私が指し示すのを送ってくれ」
「う、うん……」
そこから少し理亜がアヤコさんに耳打ちをする。
アヤコさんは言われた通りスマートフォンのチャットアプリを利用して、僕達二人にあるURLを送りつけて来た。とても怪しいのだが。一応僕が聞いてみる。
「これ、変なホームページじゃないよな?」
理亜ではなく、すぐアヤコさんが解答してくれた。
「今、そんな変なホームページを用意する暇はなかったから。それにあたし達が利用してる普通のだよ……重ちゃんも別に問題ないよね。変なことされてるけど、たぶん大丈夫。犯人じゃないってことを証明してよ」
彼女は「う、うん」と答える。ここで拒否することはできなかったのであろう。
アヤコさんが大丈夫と説明するなら、安心してURLの中に入ることができる。そこはファンがメッセージを送れるようになっているものだ。ピクニックの際もこの機能を使って、アヤコさん達を呼び寄せたのである。
今もまた使うことなろうとは。
すると何をするのか、になってくる。どうやって火村さんを犯人だと見抜く証拠になるのか。理亜がすぐに指令を出した。
「さぁ、情真、火村。そこに名前を書いてみろ」
簡単だ。僕が「露雪情真」と書いて、送るだけ。
そうすれば、理亜が読み上げるだろう。
「これでいいんだろ?」
「ああ。情真の名前が来た。で……」
火村さんもすぐ同じことをしたはずだ。
「これで……」
アヤコさんが訝しい顔をして、火村さんに告げる。
「来ないんだけど……」
「えっ、そんなはずは……そんなはずは……」
何度も何度も彼女は打っているのが見えるが。結果的に理亜の方に彼女の名前が来ることはなかったとのこと。
本人が「無駄」と断言した。
「やっぱりな。無駄だ」
「な、何で……」
「何でって、決まってるだろう? ブロック機能だよ。ブロック機能。匿名だってやられっぱなしではいかない。アカウントがなかったとしても、そのスマホ自体の送信を受け付けないようになってるんだ……何でブロックされたかって言えば、分かるか?」
そんなのは分かっている。自分が送信したものであるとバレないように、この匿名の機能でも誹謗中傷を送信したのだ。
「でも、何でわざわざ本当のアカウントでやってるのに……」
僕の発した質問も理亜は答えが分かっていた。
「まぁ、誹謗中傷する人が自分以外にもいる、たくさん敵はいるってことを主張するため、だろうな」
「そうか……」
納得。これにて、彼女が誹謗中傷をしていたことの証明にはなった。
アヤコさんに見つめられた火村さんは、ついに心中を吐き始めた。
「……そうよ……あのアカウントはわたしよ。わたしがやったんだよ。わたしが誹謗中傷をしてたんですよ! だってだって、悔しかったんです!」
悔しかったか。彼女の指を見ながら、僕が応じていく。
「それって作曲のこと?」
「そうですよ! 先輩はわたしの年にはもう有名になってた。動画サイトで有名になってたのに……何で、何で同じようにやってるのに! 『頑張れ!』って言われなきゃ、いけないの!? まるで頑張ってないみたいに! 何でわたしの方が音楽が好きなのに、先にデビューされなきゃいけないの!? デビューした人達に『最初は音楽好きじゃないし、あんま聞かないんだけど』って言われて、悔しい思いをしないといけないのよ!」
彼女はすぐ崩れ落ちて、地面に手を付ける。それから嗚咽を上げて、嫉妬する思いを叫んでいた。こちらの心がまた苦しくなる位に。
「先輩が羨ましかったんです! 先輩にこのまま上に行かれるのが、怖くて……どうしようもなくて」
アヤコさんの方はアヤコさんの方でその言葉に対し、叱るような声を出す。
「そんなことして、満足なの!?」
「ひっ!?」
「そんなんじゃ、自分の作品が悲しいよ。誰かを勇気づけるために貴方は作品を作り上げたんじゃないの? 誰かを幸せにするためにしたんじゃないの? それなのに、何でそんなことをしちゃうの!?」
「えっ!?」
「他の作曲家に言うのは悪いかもだけど、貴方のことがとっても好きだったんだよ。貴方の歌が、作曲が……頑張ってるところ全てが良かったから。だから夢を共に頑張ろうって思えてたんだよっ! それなのに、何でそんなことやって貴方が成功を積み上げる道を壊しちゃってるの!?」
「そ、そんなこと言われたって!」
アヤコさんの方も必死で涙を出さないように顔を強張らせていることが分かった。本当に火村さんを信じていたのだ。彼女が彼女の作品が更に良いところに進めると思っていたのだ。それを火村さんは裏切ってしまった。
「貴方の作曲をいいって言ってくれる人は他にいなかったの?」
「そんなの、みんなお世辞だよ!」
「お世辞なんかじゃない! そんなネットの片隅にいるような人にお世辞を飛ばしたって、一円の価値すりゃ得られない! 一秒一秒の時間を使って、本当に伝えたいから言ってるのよ!」
「……そ、そんな……そんな……!?」
火村さんは心が空っぽになったのか。何度も「ごめんなさい」を繰り返す状態だ。こんな彼女をアヤコさんは抱きしめる。
理亜は「この先、どうするのか」とすぐに判断を迫っていた。
「……別にあたしは責めないよ。ちゃんとこうやって気持ちを教えてくれたから。それに売れるか売れないかなんて、運の問題もあるわ。あたしは運が良かっただけ。あたしも間違っていたら、誰かを恨んでいたかもしれない。引きずり落していたかもしれない……だから……ね」
「分かった。他の人には何とか和解したってことを伝えておこう」
「ありがと。貴方の推理、とっても憎かったけど、凄い助かった」
「それはどうも……」
この時のアヤコさんは空を見上げて、唇を引き締めている。まるで何かを決意したかのよう。
心の中が少し晴れていたのだけれども。何故か頭の中に「嵐の前の静けさ」との言葉が思い浮かんだ。
「ああ、そうだったそうだった。分かった分かった。私は別に変なことをしようとしてる訳ではない。アヤコさんの個人情報を見たいとは少しも思っていない。私の言う通りに従ってくれてればいい。そうすれば、全て分かる」
「なら……」
「じゃあ、まずここにいる二人とチャットアプリで繋がってたよな? それに私が指し示すのを送ってくれ」
「う、うん……」
そこから少し理亜がアヤコさんに耳打ちをする。
アヤコさんは言われた通りスマートフォンのチャットアプリを利用して、僕達二人にあるURLを送りつけて来た。とても怪しいのだが。一応僕が聞いてみる。
「これ、変なホームページじゃないよな?」
理亜ではなく、すぐアヤコさんが解答してくれた。
「今、そんな変なホームページを用意する暇はなかったから。それにあたし達が利用してる普通のだよ……重ちゃんも別に問題ないよね。変なことされてるけど、たぶん大丈夫。犯人じゃないってことを証明してよ」
彼女は「う、うん」と答える。ここで拒否することはできなかったのであろう。
アヤコさんが大丈夫と説明するなら、安心してURLの中に入ることができる。そこはファンがメッセージを送れるようになっているものだ。ピクニックの際もこの機能を使って、アヤコさん達を呼び寄せたのである。
今もまた使うことなろうとは。
すると何をするのか、になってくる。どうやって火村さんを犯人だと見抜く証拠になるのか。理亜がすぐに指令を出した。
「さぁ、情真、火村。そこに名前を書いてみろ」
簡単だ。僕が「露雪情真」と書いて、送るだけ。
そうすれば、理亜が読み上げるだろう。
「これでいいんだろ?」
「ああ。情真の名前が来た。で……」
火村さんもすぐ同じことをしたはずだ。
「これで……」
アヤコさんが訝しい顔をして、火村さんに告げる。
「来ないんだけど……」
「えっ、そんなはずは……そんなはずは……」
何度も何度も彼女は打っているのが見えるが。結果的に理亜の方に彼女の名前が来ることはなかったとのこと。
本人が「無駄」と断言した。
「やっぱりな。無駄だ」
「な、何で……」
「何でって、決まってるだろう? ブロック機能だよ。ブロック機能。匿名だってやられっぱなしではいかない。アカウントがなかったとしても、そのスマホ自体の送信を受け付けないようになってるんだ……何でブロックされたかって言えば、分かるか?」
そんなのは分かっている。自分が送信したものであるとバレないように、この匿名の機能でも誹謗中傷を送信したのだ。
「でも、何でわざわざ本当のアカウントでやってるのに……」
僕の発した質問も理亜は答えが分かっていた。
「まぁ、誹謗中傷する人が自分以外にもいる、たくさん敵はいるってことを主張するため、だろうな」
「そうか……」
納得。これにて、彼女が誹謗中傷をしていたことの証明にはなった。
アヤコさんに見つめられた火村さんは、ついに心中を吐き始めた。
「……そうよ……あのアカウントはわたしよ。わたしがやったんだよ。わたしが誹謗中傷をしてたんですよ! だってだって、悔しかったんです!」
悔しかったか。彼女の指を見ながら、僕が応じていく。
「それって作曲のこと?」
「そうですよ! 先輩はわたしの年にはもう有名になってた。動画サイトで有名になってたのに……何で、何で同じようにやってるのに! 『頑張れ!』って言われなきゃ、いけないの!? まるで頑張ってないみたいに! 何でわたしの方が音楽が好きなのに、先にデビューされなきゃいけないの!? デビューした人達に『最初は音楽好きじゃないし、あんま聞かないんだけど』って言われて、悔しい思いをしないといけないのよ!」
彼女はすぐ崩れ落ちて、地面に手を付ける。それから嗚咽を上げて、嫉妬する思いを叫んでいた。こちらの心がまた苦しくなる位に。
「先輩が羨ましかったんです! 先輩にこのまま上に行かれるのが、怖くて……どうしようもなくて」
アヤコさんの方はアヤコさんの方でその言葉に対し、叱るような声を出す。
「そんなことして、満足なの!?」
「ひっ!?」
「そんなんじゃ、自分の作品が悲しいよ。誰かを勇気づけるために貴方は作品を作り上げたんじゃないの? 誰かを幸せにするためにしたんじゃないの? それなのに、何でそんなことをしちゃうの!?」
「えっ!?」
「他の作曲家に言うのは悪いかもだけど、貴方のことがとっても好きだったんだよ。貴方の歌が、作曲が……頑張ってるところ全てが良かったから。だから夢を共に頑張ろうって思えてたんだよっ! それなのに、何でそんなことやって貴方が成功を積み上げる道を壊しちゃってるの!?」
「そ、そんなこと言われたって!」
アヤコさんの方も必死で涙を出さないように顔を強張らせていることが分かった。本当に火村さんを信じていたのだ。彼女が彼女の作品が更に良いところに進めると思っていたのだ。それを火村さんは裏切ってしまった。
「貴方の作曲をいいって言ってくれる人は他にいなかったの?」
「そんなの、みんなお世辞だよ!」
「お世辞なんかじゃない! そんなネットの片隅にいるような人にお世辞を飛ばしたって、一円の価値すりゃ得られない! 一秒一秒の時間を使って、本当に伝えたいから言ってるのよ!」
「……そ、そんな……そんな……!?」
火村さんは心が空っぽになったのか。何度も「ごめんなさい」を繰り返す状態だ。こんな彼女をアヤコさんは抱きしめる。
理亜は「この先、どうするのか」とすぐに判断を迫っていた。
「……別にあたしは責めないよ。ちゃんとこうやって気持ちを教えてくれたから。それに売れるか売れないかなんて、運の問題もあるわ。あたしは運が良かっただけ。あたしも間違っていたら、誰かを恨んでいたかもしれない。引きずり落していたかもしれない……だから……ね」
「分かった。他の人には何とか和解したってことを伝えておこう」
「ありがと。貴方の推理、とっても憎かったけど、凄い助かった」
「それはどうも……」
この時のアヤコさんは空を見上げて、唇を引き締めている。まるで何かを決意したかのよう。
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