美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

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第二節 女子高生VS超絶美少女AI

Ep.11 不浄な推理

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 新たな謎が生まれだした今、アヤコさんの顔が段々と青白くなっていく。震えている状態で火村さんが「大丈夫ですか?」と声を掛けるけれども反応する言葉もやってこない。
 答えなければ、真実が見えないのでは。そんな危惧もしたけれど、理亜はその奥の真相すら見抜いていたよう。

「彼女が答えないのなら、私が教えてやるしかないな」
「理亜は知ってるのか……?」
「ああ。情真、ネキリムシを知らなかったとなると、まず一つ目は彼女が怠けていたって可能性が浮かんでくるが……そこはどうだと思う?」

 一つの可能性を考えてみるよう指示された。ただ怠けているだけならば、ここまで動揺していないのではないか。「このことは国立さんには、秘密にしておいてくださいね」だとか言えば、終わる話だ。怖がる必要はない。何か僕達に責められて困る話が隠されているのだろうか。

「違うと思う。理亜は、他の可能性もあるって思うのか?」
「ああ。怠けていたんではないとすると、もう一人の園芸部員に任せきっていたってことになるだろうな。部活で忙しいから、花壇のことは全部任せたいだとか言ってな。まぁ、そこで八木岡は八木岡でネキリムシを隠れて育てるのに必死になって、知らなかったと思うがな」
「何で任せきっていたのか、その理由が……アヤコさんが怖がる説明になるのか?」
「なると思うぞ。なぁ、ナノカ達が初めてきた時、鉢植えをわざと蹴ってたんだよな?」

 ついに理亜がアヤコさんの犯行に対する追及を始めていく。
 アヤコさんが後ろに下がって、怯えの表情を見せてきた。火村さんは突然、変なことを聞かされて戸惑うばかり。慕っている先輩がこんな行為をやっていたとは信じられないのだろう。
 僕も同じ。あの事件と誹謗中傷が関わっていることかもどうかも確かではない。それなのに誹謗中傷の謎を解く今のタイミングで話して良かったのだろうか。頭がおかしくなりそうだ。
 ただもう、アヤコさんの頭は誹謗中傷より理亜が責めていることに集中しているみたい。

「見てたの!? あたしの……こと。あの時、貴方もいたの……!?」
「いや、見てたのは情真に情報を伝えてくれたグラウンドで部活をしていた人達だ。アンタがそれをやった理由もまた、花壇のことを知らなかった理由と同じなんだろ」
「あっ……あっ……」

 理由とは何なのか。
 アヤコさんの何を理亜は知っているのか。理亜は急にハイキングでの言葉を思い出した。

「なぁ、後、この前の話し合いの時もサンドウィッチを食べなかったろ?」

 今度は僕に状況を尋ねてきた。確かにそうだ。彼女はお腹が痛いと訴えて、ご飯を食べなかった。

「まぁ、あっ、あの時何か、三葉さんが変な顔してたんだけど、それってまさか関係してる?」
「知ってたんだろうな。どうして違うところでしっかり食べたのにここでいきなりサンドウィッチが食べれないかってところか?」

 段々と察しがついてきた。彼女の予想混じりの推理だが、アヤコさんの精神をじわじわと削っていることがよく分かる。彼女が理亜の方を向かず、目を強く閉じている。
 僕は少しずつ、彼女に問うていく。

「ま、まさか……アヤコさんって……」
「ああ。機械で作られたものならともかく人に作ってもらったようなものは気になって、手に取れない。土などの不浄なイメージにあるものが触れない。これは、潔癖症に違いないな」

 潔癖症。綺麗好きで汚れているものに触れられないとテレビで見たことがある。真実を知って衝撃的でもあったが、納得もできた。
 花壇の鉢植えを蹴り倒した後、どうして鉢植えが当たった足でなく、お腹を抑えていたのか。お腹が痛くてついふらふらして、鉢植えを蹴ってしまったという理論よりかはつい転んでしまった。足に当たってしまったの方が辻褄は合う。どうしてそうしなかったのか。お腹が痛いなんて言ってたか。たまたま転んでいた場合、すぐに直さないとと鉢植えに触らないといけなくなってしまうから、だ。だから腹痛で動けないふりをしていたのだろう。
 しかし、まだ納得はできていない。そもそも鉢植えを蹴る理由が分かっていないのだから。

「えっ、理亜? 何でそれが僕達がここに来た時の鉢植えを蹴ることに? 鉢植えに何か恨みでもあるのか?」
「んなのある訳ないだろ。まぁ、あったとしたらバラバラに砕いてることだろう。そうじゃなくって、たぶんナノカか情真か誰か、汚いものに触れなかったか?」

 汚いものと言われて、考えるが。そもそも、だ。僕達の考えている不浄なものと、アヤコさんの見ているものとは全然違う。足元に落ちているものだけでも彼女は不浄と捉える訳だ。
 あの時、落ちていたもの。

「ナノカがスポーツドリンクのペットボトルを拾ってた!」
「それだっ! それがあったから、アヤコさんはその状態で手を洗わず、自分の聖域であるパソコン室に入ってもらいたくなかった。だから、だ。だからわざわざナノカが土塗れになる状態を作りたかったんだ」
「ナノカは結構手を洗ってくれるけどね」
「まっ、私達はそれを知ってるから真実に辿りにくいだろうな。ただまぁ、アヤコさんはナノカのことなんてほぼ初対面なんだ。知るはずがないだろ」
「確かに」

 スポーツドリンクにそんな意味があったとは。全く想像もしていなかった。確かにナノカが推理した通り、ネキリムシと共に花壇を枯らしていた原因でもあったのだろうが。まさかアヤコさんに犯行を決意させるものになるとは。
 そんな説明をされてしまえば、もうアヤコさんは誤魔化せない。黙り込むという手も使えなくなったのだ。

「分かっちゃったんだ……本当に分かっちゃったんだ……」

 その気持ちが僕にはまだ分からない。何故隠そうとしたのか。

「でも、何で……。潔癖症ってみんなに言ってもらってれば……協力したのに。ナノカだって」

 アヤコさんは自身の手をじっと見つめている。何だかとても憎そうな感じで。それを見てると何だか胸がきゅんと締め付けられるような気持ちになった。

「ダメだったの。中学の頃、友達の前でその潔癖症が出て。その子が触ってきたから、すぐアルコールティッシュとかで手を拭いちゃったの。そしたら、勘違いされちゃって……その子は自分のことが嫌いなんだ、だから手とか当たったらすぐに拭かれちゃうんだって思われちゃって……。だから、思ったの。潔癖症なんて言っても伝わらないかな。そんなの自分が嫌いだから、勝手にそう説明してるんだって言い訳にしかって言われそうで怖かったの……。だから、だから……ずっと誰にも言わなかった。隠してた……その方が都合が良かったから。隠して極力ものに触れないようにすれば、いいって思ってたから……騙してて、騙してて、本当にごめんなさい」

 謝られても心が痛くなるだけ。何だか辛くなる。彼女には元気でいてほしい。ナノカだってそう思っているはずだから。
 僕が声を上げた。

「それだったら、ちゃんと仲間に伝えよ。大丈夫だよ。一緒に夢を追い掛けた仲間だし。ナノカも理亜もそれをちゃんと知ってる! きっと君を嫌いな人なんて、一人もいないからさっ!」

 決まった。そう感じたところで理亜がちょんちょんと指で肩を突っついてきた。

「情真、嫌いな人はいるだろ。何しろ誹謗中傷してる人がいんだから」
「はっ? 理亜、今いいところなんだけど」

 その雰囲気をぶっ壊す奴だったか、と呆れたくなる。やっと誹謗中傷の話を持ち出すのか。だったら先に誹謗中傷の話を終わらせてから、潔癖症の話をした方が良かったのではないか。
 もっと話の順序を考えてほしいと思ったところだ。理亜はこちらの息が詰まりそうになる程の真相を語り出す。

「ほら、ここにいるじゃないか。火村さん、アンタだろ? アヤコさんのことが大っ嫌いなのは」
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