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第二節 女子高生VS超絶美少女AI
Ep.9 リアル
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その間も理亜はじっと立ち止まっていた。放心していたのか、それとも何か考え事をしていたのかは定かではない。
本当は謎が解けてなくても、構わない。今は二人を何とかしなくては、と思う中のこと。理亜は指を顎に当てて、悔しがるような表情を見せてきた。
「少々誤算だったな」
「えっ? 何が?」
「謎解きの話だよ。謎解き、の。証拠がないって何回も言わなかったか? 推理はできてるんだがもう少し追い詰めて言い逃れのできない証拠を探していこうと思ったんだ。でも、その前にこのサークルが存亡の危機に陥っちゃ、どうしようもない」
「今はそんなできないこと言っててもしょうが」
「……仕方ない。ちゃちゃっと推理ショーを始めるとすっか。そうりゃあ、少しは誹謗中傷で互いに疑い合わなくても済むかも、な」
「疑い合うって……」
古戸くんは今回のことを美少女AIのせいだとか表現していなかったか。そんな甘えたことを考える僕に理亜は現実を突き付けてきた。
「AIが犯人、なんかで誤魔化したが。古戸とやらは絶対三葉のことを疑ってるって気持ちはあるだろうな。三葉も誰が犯人か分からず、イライラしているところでいきなり古戸がスマートフォンを探っていたと勘違いした。少しは思っちまったんじゃないかな。古戸が何かをやっているんじゃないかと」
「そ、そんな……」
「夢を見ない割には人に夢を見過ぎだ。情真……ナノカからも聞いたぞ。三葉は誰も疑わない人だって……でも、違う」
「うう……」
心が痛い。誰も疑わない人がいる。それでいいではないか。そう信じたいのに声が出ない。
僕は誰かを必ず疑ってしまうから。前の事件でも三葉さんに容疑を掛けたから。彼女だけはどうか仲間のことを知らない天使であってくれと信じていたのだ。
普段なら理亜に「中のことを良く知らないくせに良く言えるな」だとか反抗していただろうが。可能性があるために否定ができなかった。
ただ、何も言わない理亜が僕にリアルを見せつけてくる。
「本当は大切にしたいから、疑うんだ。疑ってその先に何もないことを信じたいから、疑っている……」
「理亜……」
少々豪華ではないだろうか。
僕が悩んだ時に励ましてくれる人がナノカ以外にもいてくれる。疑うことも大切だと教えてくれた。
「情真だってそういうことあるだろ? まぁ、今回はその疑心暗鬼が大きくなり過ぎたんだがな……。まぁ、ともかく二人は犯人じゃない。疑い合うのは無駄だって早く教えるために、な」
「ああ……何でも手伝うからな」
「言ったな」
「あっ、いや、事件解決のためだけだからな。それ以外のことは別だぞ! 後、無理矢理変なことを事件解決のためだってこじ付けすんなよっ!」
理亜は笑ってパソコン室に入っていく。その間に見覚えのある少女がやってきた。
「あっ、先輩方じゃありませんか!」
「夢を追う会」の見学をしていた、女子中学生、火村さんだ。
きゃっほーいと跳ねあがる姿は、とても楽しそう。中学生っていいなぁと思う。当然、若さの意味で、だ。変な感情はない。
と同時に手を振る彼女。手に絆創膏やら包帯やらがあるのが気になってしまう。何があったのか。
「ちょっとちょっと……!? 手、大丈夫!?」
彼女はきょとんとしてから、自身の手を見る。そして焦っているこちらの顔を見て、ニコッと笑う。
「ああ、これですね」
「うん。ピクニックの時はなかったように見えたけど」
「先輩ってお優しいんですね。出会ったばかりのわたしに」
「それはいいよ。で、何があったの……?」
「いやぁ、腱鞘炎ですよ。指が疲れてるってことだけですから、お気になさらずに」
病名を的確に出してもらっても、その辛さについてはいまいちよく分からない。彼女が平気そうだから、こちらが心配しても気にならないのだろうか。
じっと彼女の指を見つめていたら、何だか彼女の顔が赤くなっていく。男子にジロジロ見られていても気味が悪いだけであろう。さっと目を逸らすと、今度はやってきたアヤコさんと目が合った。少々目の下にくまはできてるようだが、それ以外は至って平常か。
「あっ、アヤコさん」
「来てたのね」
「最近、眠れてますか?」
「こっちのくま? ごめんごめん。最近、夜中までずっと作曲してたから。何とか誹謗中傷を実力でぶっ飛ばせないかなって。国立さんを見ているおかげで随分、勇気も出てきたし」
無理はしないでくださいね、と言いたかった。
「あの……」
その前にアヤコさんが先に来ていると思っているであろう人達のことを尋ねて来た。
「そういや、誠くんや八木岡くんは……」
喧嘩のことを告げて、心配させたくない。だから、別の理由を伝えることにする。嘘をついていることは心苦しいが仕方ない。
「家の方で取っかかりたい作業があるみたいで。今日はって」
「そっか」
一瞬、しゅんとなって悲しそうな、寂しそうな目を見せてきた。ただすぐ明るい顔に早変わり。彼女もこちらを心配させまいと奮起しているみたいに思えてしまう。
何とかならないものか。
理亜は本当に真実を見つけ出すことができるものか。
考えて扉の先に向かう僕達は、理亜が仁王立ちしている状態に直面した。理亜は前回推理ショーの場にいられなかった鬱憤もあったのか。その分、格好よくしている。
そのまま椅子に座り、よいしょっと言って目立とうと努力を始めていた。当然、理亜の姿に驚くばかり。
火村さんも「確か、ピクニックに来てた方だよね」と。アヤコさんも困惑している。ナノカや情真については知っているものの、理亜は友人の友人的な存在だ。そんな彼女が今から何かをしようとしているのだと夢にも思わないだろう。
「さてっ、今回の誹謗中傷について。謎が解けた。誰が犯人かも分かったし、まずはここにいる四人でちゃっちゃっと真相を暴いてしまおう」
「えっ?」
幾ら僕が理亜に話をしたからと言って、普通は見抜けないはず。そう思っているのだろう。僕も同じだ。
やはりただ話しているだけかと思いきや、彼女は突如としてパソコン室を出るように指示をした。
「さて、まず犯人を絞り上げるために説明したいことがあるんだ。外へ出ようか」
アヤコさんは真上に目線を向け、「何が起こっているの」と呟いている。ついでに彼女に言葉をぶつけていた。
「誹謗中傷の謎を解くのに、どうして一旦パソコンから離れる必要があるの……えっ? ある意味、事件はパソコンの中で起こってるのよ!? 外に出なくても」
しかし、理亜のペースは崩されない。目の前で誰が変な顔をしようと、疑問を吐かれようと、マイペースに推理を語り続けていく。
「まぁまぁ、黙ってアヤコさんが担当している花壇に来い。そこで謎を一つ、明かしてやるから」
本当は謎が解けてなくても、構わない。今は二人を何とかしなくては、と思う中のこと。理亜は指を顎に当てて、悔しがるような表情を見せてきた。
「少々誤算だったな」
「えっ? 何が?」
「謎解きの話だよ。謎解き、の。証拠がないって何回も言わなかったか? 推理はできてるんだがもう少し追い詰めて言い逃れのできない証拠を探していこうと思ったんだ。でも、その前にこのサークルが存亡の危機に陥っちゃ、どうしようもない」
「今はそんなできないこと言っててもしょうが」
「……仕方ない。ちゃちゃっと推理ショーを始めるとすっか。そうりゃあ、少しは誹謗中傷で互いに疑い合わなくても済むかも、な」
「疑い合うって……」
古戸くんは今回のことを美少女AIのせいだとか表現していなかったか。そんな甘えたことを考える僕に理亜は現実を突き付けてきた。
「AIが犯人、なんかで誤魔化したが。古戸とやらは絶対三葉のことを疑ってるって気持ちはあるだろうな。三葉も誰が犯人か分からず、イライラしているところでいきなり古戸がスマートフォンを探っていたと勘違いした。少しは思っちまったんじゃないかな。古戸が何かをやっているんじゃないかと」
「そ、そんな……」
「夢を見ない割には人に夢を見過ぎだ。情真……ナノカからも聞いたぞ。三葉は誰も疑わない人だって……でも、違う」
「うう……」
心が痛い。誰も疑わない人がいる。それでいいではないか。そう信じたいのに声が出ない。
僕は誰かを必ず疑ってしまうから。前の事件でも三葉さんに容疑を掛けたから。彼女だけはどうか仲間のことを知らない天使であってくれと信じていたのだ。
普段なら理亜に「中のことを良く知らないくせに良く言えるな」だとか反抗していただろうが。可能性があるために否定ができなかった。
ただ、何も言わない理亜が僕にリアルを見せつけてくる。
「本当は大切にしたいから、疑うんだ。疑ってその先に何もないことを信じたいから、疑っている……」
「理亜……」
少々豪華ではないだろうか。
僕が悩んだ時に励ましてくれる人がナノカ以外にもいてくれる。疑うことも大切だと教えてくれた。
「情真だってそういうことあるだろ? まぁ、今回はその疑心暗鬼が大きくなり過ぎたんだがな……。まぁ、ともかく二人は犯人じゃない。疑い合うのは無駄だって早く教えるために、な」
「ああ……何でも手伝うからな」
「言ったな」
「あっ、いや、事件解決のためだけだからな。それ以外のことは別だぞ! 後、無理矢理変なことを事件解決のためだってこじ付けすんなよっ!」
理亜は笑ってパソコン室に入っていく。その間に見覚えのある少女がやってきた。
「あっ、先輩方じゃありませんか!」
「夢を追う会」の見学をしていた、女子中学生、火村さんだ。
きゃっほーいと跳ねあがる姿は、とても楽しそう。中学生っていいなぁと思う。当然、若さの意味で、だ。変な感情はない。
と同時に手を振る彼女。手に絆創膏やら包帯やらがあるのが気になってしまう。何があったのか。
「ちょっとちょっと……!? 手、大丈夫!?」
彼女はきょとんとしてから、自身の手を見る。そして焦っているこちらの顔を見て、ニコッと笑う。
「ああ、これですね」
「うん。ピクニックの時はなかったように見えたけど」
「先輩ってお優しいんですね。出会ったばかりのわたしに」
「それはいいよ。で、何があったの……?」
「いやぁ、腱鞘炎ですよ。指が疲れてるってことだけですから、お気になさらずに」
病名を的確に出してもらっても、その辛さについてはいまいちよく分からない。彼女が平気そうだから、こちらが心配しても気にならないのだろうか。
じっと彼女の指を見つめていたら、何だか彼女の顔が赤くなっていく。男子にジロジロ見られていても気味が悪いだけであろう。さっと目を逸らすと、今度はやってきたアヤコさんと目が合った。少々目の下にくまはできてるようだが、それ以外は至って平常か。
「あっ、アヤコさん」
「来てたのね」
「最近、眠れてますか?」
「こっちのくま? ごめんごめん。最近、夜中までずっと作曲してたから。何とか誹謗中傷を実力でぶっ飛ばせないかなって。国立さんを見ているおかげで随分、勇気も出てきたし」
無理はしないでくださいね、と言いたかった。
「あの……」
その前にアヤコさんが先に来ていると思っているであろう人達のことを尋ねて来た。
「そういや、誠くんや八木岡くんは……」
喧嘩のことを告げて、心配させたくない。だから、別の理由を伝えることにする。嘘をついていることは心苦しいが仕方ない。
「家の方で取っかかりたい作業があるみたいで。今日はって」
「そっか」
一瞬、しゅんとなって悲しそうな、寂しそうな目を見せてきた。ただすぐ明るい顔に早変わり。彼女もこちらを心配させまいと奮起しているみたいに思えてしまう。
何とかならないものか。
理亜は本当に真実を見つけ出すことができるものか。
考えて扉の先に向かう僕達は、理亜が仁王立ちしている状態に直面した。理亜は前回推理ショーの場にいられなかった鬱憤もあったのか。その分、格好よくしている。
そのまま椅子に座り、よいしょっと言って目立とうと努力を始めていた。当然、理亜の姿に驚くばかり。
火村さんも「確か、ピクニックに来てた方だよね」と。アヤコさんも困惑している。ナノカや情真については知っているものの、理亜は友人の友人的な存在だ。そんな彼女が今から何かをしようとしているのだと夢にも思わないだろう。
「さてっ、今回の誹謗中傷について。謎が解けた。誰が犯人かも分かったし、まずはここにいる四人でちゃっちゃっと真相を暴いてしまおう」
「えっ?」
幾ら僕が理亜に話をしたからと言って、普通は見抜けないはず。そう思っているのだろう。僕も同じだ。
やはりただ話しているだけかと思いきや、彼女は突如としてパソコン室を出るように指示をした。
「さて、まず犯人を絞り上げるために説明したいことがあるんだ。外へ出ようか」
アヤコさんは真上に目線を向け、「何が起こっているの」と呟いている。ついでに彼女に言葉をぶつけていた。
「誹謗中傷の謎を解くのに、どうして一旦パソコンから離れる必要があるの……えっ? ある意味、事件はパソコンの中で起こってるのよ!? 外に出なくても」
しかし、理亜のペースは崩されない。目の前で誰が変な顔をしようと、疑問を吐かれようと、マイペースに推理を語り続けていく。
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