美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

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第二節 女子高生VS超絶美少女AI

Ep.5 傷付く理由

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 決意が公園中に響き渡り、散歩していた何匹かの小型犬までもが吠えたり、逃げたりし始めた。「ちょっと騒ぎ過ぎたわね」とナノカが反省しながら、冷静になっていく。逆に興奮し始めたのが、この事態を重く受け取り始めた芦峯さんだった。

「そんなことが……」

 なんて今まで何も知らなかったことに関して、事情をある程度聞いていた理亜がツッコミを入れた。

「いや、ファンならそんな悪口が来てたこと、位知ってるんじゃないのか? ってか、時々、芦峯らしいコメントも付いているが」
「うんうん、それ自分自分! 他にも見てよ! いろんなコメントがあるよ!」

 理亜や僕達に見せていたのは、アヤコさんの曲が好きだと言う人のもの。

『若いのに気概があって、いいじゃねえか! 頑張りな!』
『ふれーふれー! 夢に向かって突き進め!』
『この曲めっちゃスキー!』
『何度でもリピートして電車乗り過ごした……まっ、いっか!』
『マジ神発見』

 見ている人達まで照れるようなものも多い。
 そんな幸せを感じさせる、数々の褒め言葉を提示してから芦峯さんは主張した。

「これだけ自分を褒めてくれる人がいるんだから、別に気にしなくてもいいじゃん!」

 確かに僕の目からしたら、かなり評価されているように思える。昨日、理亜が見せてきた元の発言についても、今確かめてみるとアヤコさんに対する誉め言葉で飾り付けられていた。たった少しの貶してくる言葉が埋もれていく。
 ただ、ナノカが異議を口にする。

「そんな、簡単かしらね。人からの評価ってのは幸せなものより、悪いことが耳につく、のは当たり前なのよ」
「えっ、それってどういう?」

 芦峯さんが首をひょこっと曲げる。ナノカは尖り切った眼光をそのままにして、持論を展開していった。

「だって、褒め言葉って聞かずとも命が大変になることはないじゃない? でも悪い言葉って、もしかしたら自分の命に係わるかもしれない。だから自分が生き残るためにいいことよりも悪口の方に耳を傾け、それを受け入れちゃうんじゃない? で、自分の生き方が間違っているのか、これじゃ生きていけないんじゃないかと不安になるんじゃない?」

 ピンと来ない人のところに、理亜が分かりやすい解釈が流れてきていた。

「簡単な話、大食いの人が動画をアップして。これは、いい食べっぷり、凄いっていい言葉がたくさん来るとする。で、その食べ物の中に毒あるよ。カビ生えてるじゃん。そんな見分けもつかないの? って言葉があったら、どっちを取る?」

 そこに元気に回答する芦峯さん。

「そっか。そーだよね。後の方を取らないと、病気になっちゃうかもしれないし」
「芦峯の答えた通りだ。だから、アヤコって子もその意見を自分の将来に照らし合わせてしまったんだよ……」

 少々暗い雰囲気が辺りを支配するも、そこを取っ払ってくれた人がいた。

「おーい! 遅れてごめんごめん!」

 桃助くんだ。彼が引き連れている四人の中、二人は分かっている。アヤコさんと三葉さんだ。桃助くんが古戸くんに「来る途中、そこのコンビニで出会ったんだよ」と説明していた。
 残りの二人に関して、一人の男子については何か見覚えがあった。理亜がまず、その正体を口にする。

「あっ、土いじりしてた奴」
「あっ、うにょうにょ受け取ってくれなかった子、二人も」

 理亜と彼の発言から思い出した。最初にアヤコさんの学校に訪れた際、あった変な子だ。今も熱いのにも関わらず、コートを着ている。袖を振って、自分の顔を仰ぐのなら脱げば良いのだが。
 聞きたいこととしては、一つ。何故サークルメンバーに関係ない人が混ざっているのか。僕が早速口を動かした。

「えっと、君は……」
八木岡やぎおか来夢らいむだよ。よろしくね! ちょっと見学をしたくて!」

 何だかあっけらかんとした自己紹介。まぁ、ただ説明に関してはしっかりしている。僕達がサークルに関与し始めたことで、その存在を知った人間がいてもおかしくない。そして、夢を志しても不思議なことは一つもなかった。
 ナノカが世間話のノリで語り掛ける。

「で、何の夢を持ってるの?」
「あー、ぼくはねー、学者になるのが夢かなぁって! 虫の、ね」

 子供っぽい話し方が気に入ったのか。ナノカは笑顔で対応。「頑張って!」と応援している。ついでに飛んできた「情真くんも見習いなさいよ」なんて言葉に関しては面食らうものの、平常でいるようにはした。
 最後の一人の女子は自ら紹介を始めた。

「こんにちはー! 火村ひむらかさねって言います。わたしはアヤコ先輩の弟子です!」

 僕達は高校一年生だ。先輩の言葉は久しく聞いておらず、少々驚いた。ナノカが彼女のことに迫る。

「ひょっとして、中学生?」
「そうですよー! 皆様方、高校生の皆様が何を話されるのか気になりまして! 同行させていただきました! で、何をするんですか?」

 火村さんに続いて、三葉さんが声を荒げた。

「で、わざわざこんなところまで呼び出した理由はあるんだろうなぁ? サポーター、いや、クレーマーさんよ……!」

 僕は関係のない人が三人混じっているけれども。はやめに解決させたいことだからと話をすることに決めた。もしかしたら、大勢の人が協力してくれることで何かあるかもしれない。

「今日はアヤコさんのところに来ている、誹謗中傷の件について話したいと思ったんだ」

 話すことに関して驚いていたのは桃助くん一人。ただ彼も「ああ、そういや……」とすぐ深刻な顔をしていた。誹謗中傷の話については馴染みがあるのか、火村さんは「大変なんだね……やっぱ、プロになる道は険しいなぁ」と溜息を吐いていた。
 当人であるアヤコさんは沈黙。いきなり言われて混乱していることもあるのだろう。
 三葉さんが僕に近づいてきた。恐ろしい雰囲気が漂う中、彼女はハキハキ喋っていく。

「それを話し合ってどうすんだよ……誹謗中傷をやめさせるように何度もやったんだ……色々通報もしたけど、何度も復活してくる……! どうやって、そいつを改心させるっつうのかよ……!」

 彼女はどうやら僕達の行動がアヤコさんの心にある傷をえぐるのではないかと心配しているようだ。直接の発言はしないが、彼女ならそうするだろうと思えた。散々イラストレーターとして心無い言葉を受け取っていた三葉さんなら。
 ただ、他の人からしたら僕を脅迫しているかのようにも取れるらしい。特にショタっぽい恰好の八木岡くんが慌てている。

「ちょっとちょっと! ちょっと大変だよ!」

 そこでアヤコさんが口を開いて、三葉さんを止めようとした。

「三葉ちゃん、ちょっと待ってよ。露雪くん達も真剣なんだよ。それにこうして、あたしのことを考えてくれるのも嬉しいし……一緒にどうするか、考えてみようよ」 
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