美少女クレーマー探偵と夢殺し完全犯罪論信者

夜野舞斗

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第一節 夢の価値・ネフダトラブル

Ep.13 保健室の尋問・放送室の攻防

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 古戸くんやアヤコさんを困惑させたくないがために、彼等に対しては値札のことはを言わなかった。ただサークルメンバーの誰にも聞かずに調査を進めるのも難しい。相談できる人員が一人は欲しい。その中でユーモアが効くような、比較的穏やかな彼から話を聞くことにした。まぁ、最悪彼が変な解釈をして傷付く前に僕の空想だとか言っても信じてもらえそう。
 と言っても、彼の中で値札は架空のものではない。視覚で確認されていたものだった。

「その値札、自分も見たもん。たぶん、三葉っちの奴と一緒っしょ。三葉っちがいたずらで言ってる訳じゃないよ」
「書かれてる内容も同じだった?」
「うん。確かええと、落ちてるのを見たよ。ええと、37564円じゃなくって。110円でもなくて」
「何か恐ろしい数列が出てきたような。そして見過ごされていったような」
「ああ! 思い出した! 秘密の納豆でええと、13710だ!」
「語呂合わせ……そっちの語呂合わせをして覚えてたか……」

 三葉さんとは正反対の明るい解釈だ。「意味ない」などのネガティブな概念ではなくご飯のお供になっている。
 彼は全く疑いを持つような考え方はしていない。つまるところ、犯人が誰であるとも考えていないようだった。
 僕はどうなのだろう。
 事件を解いて、意味があるのか。いや、僕自身に直接メリットはないだろう。僕はただクレーマーとして、雇われている身。確かにサポートする義務はあるだろうが、無理矢理起きた事件の謎を解けとは言われていない。
 では何故、僕がこうして桃助くんに話を聞いているのか。ナノカ達に相談しようとしているのか。
 理由は一つ。三葉さんのことがどうにもこうにも気掛かりで仕方がなかった。彼女がこのまま疑ったままでは自身の活動を馬鹿にされていると思うだけではないのか。ある言葉が頭に何度も過るのだ。

『彼女がこうなったのは、ネットで色々言われちゃったから、なんだよね。二次元の何がいい……二次元の絵なんて、描く必要がない。空想の物語の絵なんて描いてないで、勉強しろって』

 昨日、古戸くんの言っていたことから彼女の心の中が読み取れるようだ。
 また馬鹿にされるかもしれない、と彼女の中で疑心暗鬼になっている。彼女はそんな気持ちを他人に味合わせたくないのではないか。そんなふざけるような奴から守りたいと思うのではないか。
 夢に関して、正直そこまでする気持ちは全く分からない。
 だけれども、三葉さんの素敵な絵を描く才能が、誰かを守りたいという崇高な気持ちが理不尽なまま潰されてしまうと言うのは納得がいかない。
 放っておいても自分に損も害もない。ただ何だか胸が痛くなる。
 そうだ。だから、僕は知って伝えたいのだ。彼女に問題ないよ、と。
 安心させる方法は一つ。犯人を捕らえあげること。
 桃助くんなら犯人を見ている可能性もある。話をしっかり聞かせてもらおう。

「ねぇ、桃助くん、それがいつ落ちてたか分かる?」
「ううん、活動内、いや、活動より前かな……? この前の活動……ええと、活動が始まった後だ。ああ、たぶん。そこで見つけた」
「そっか」

 まずは最初の質問で誰が落としたかを知りたかったが。結果、三葉さんと話した時と同じ状況だ。サークルの中で活動している、古戸くん、アヤコさん、三葉さん、桃助くんの四人に限られてしまう。
 別の方向で質問してみるのも良いかもしれない。

「じゃあ、こんないたずらと言うか、何かやる人の心当たりってある?」
「ううん……いたずらか……」
「ほら、三人の中で誰かいたずら好きとか」
「ああ、三人の中にはいないね。絶対に」
「何で?」
「そんな暇ないし。みんな、ボクより真面目だし。きっと犯人は別に深い意味もなく……ね」

 結局、推理の足しになるような答えは得られなかった。
 強いて、何か手掛かりを言えと強制させられたのならば。一つだけ。彼が「活動が始まった後」と発言したところ。
 三葉さんは掃除した時にはなかったと言っていた。そこから考えるとどうしても犯人は部屋にいた三人と三葉さんに限られる。どうして、桃助くんは三人が犯人ではないと言えるのか。
 分からないな、と溜息をつく。

「そっか……後、桃助くん……ごめん、これは僕と君だけにしといて……君だけになら、何か話せそうな気がしたからさ。特に古戸くんやアヤコさんには秘密に」
「う、うん、分かった……」

 後は僕の頭だけではなく、頭の良い奴に師事しようではないか。
 そう考えて、今、放課後の時間に至る。目の前にいる黒髪短髪の女が放送室と言われる密室の中で一人騒いでいる。

「やっと来てくれたか。情真。待ち侘びていたぞ!」
「こっちは掃除の時間があったからな……」

 ナノカが担当している廊下はまだ掃除が終わっていないようだった。だから放送室にいるのは僕と同じ一年であり、たった二人の放送部に所属する女部員。いや、女部長、間崎理亜だ。

「昨日の話をしてくれ」
「簡潔に言うと、ナノカと共にサークルの監督みたいなことをしてくれって話、それだけだ。歌とかの練習を手伝えって話」
「あっさりしてるな。お土産はないのか?」
「んなもの、ない」

 僕が断言すると、彼女が怪しく笑う。そして共に頭のねじが抜けた人物の話を口に出した。

「じゃあ、あのお土産を持っていくべきだったか。ほら、花壇のところに変な奴いたろ?」
「うんって……理亜が変な奴って言うんだ……いや、理亜から見たら、この世にいる奴、全員変だ。理亜の普通が普通じゃないからな」

 そう言うと、ジロッと睨まれる……こともない。彼女は「変とは失礼な。サイコパスだ、サイコパス。私はれっきとしたサイコパスなんだ」と半笑いで訴えてくる。

「で、情真の言ってる奴、白衣の奴ね。あいつの持ってた、ほら黄色い頭の幼虫、持って帰ってくるべきだった……」
「おいおい……勝手に虫を持って帰ってくんな。ってか、花壇の話はもういいだろ」
「何だよ。話をしているうちにもっと小さい存在が見えてくるかもしれないだろ」
「小さい存在って何だよ。大きな存在なら、分かるけど。あの話に黒幕がいんのかよ。わざと枯らしてた黒幕でも……?」
「さぁな、私には分からん」

 話の目的はきっと、ただ淡々と事件の陰謀説を語るだけだろう。暇潰しだ。まさか、理亜がこれから起きることを何もかも知っている訳がない。
 たぶん理亜の場合はこれから起こることを知っている、と言うよりはこれから何かを起こすのだ。
 予想通り、彼女は行動を起こした。ほいっと何かを無言で手渡してくる。

「何これ……? 原稿用紙? 読めってこと?」

 本能的に危ういと感じた。だが自身の好奇心が勝ち、読んでしまう。彼女はニヤリ笑っているだけ。

「えっ……こ、これは……え……ええと、この縛りは……ええ……ええっ!? 何してんの、この登場人物、冒頭から、しかも真昼間から!」

 手元にあったものがただの原稿用紙から、官能小説に認識が変わっていく。内容は男子高校生が軽々と口にしていいものではない。
 認知した瞬間、体が震え出した。こういう時に限って更に嫌なことが起きるのだ。あの少女の声がした。

「情真くん、理亜ちゃん、もう来てるの? ワタシ、もう入っていいかしら?」

 いい訳がない。今、手元には官能小説があるのだ。僕がこんなの読んでると知られたら、間違いなく軽蔑される。
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