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第一節 夢の価値・ネフダトラブル
Ep.12 健康管理もクレーマーの仕事
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ナノカに了承をいただき、明日の放課後までは別に騒ぎもなく緩やかな時間が続いていく。それが最低限の願いだったのだが、うまくはいってくれなかった。
三時限目の体育、それは非常に腹が減った状態で行われるとんでもない拷問だ。近くにあるレストランか何かからおでんのような香りが漂ってきた際は意識が朦朧となってしまう。
そこで何とか体育館内をドタバタ走り込み、最初の準備運動が終わったところでバレーの練習に入る。と言っても、実践にはまだ及ばずボールを壁打ちを繰り替えすだけだ。中学の頃はまともにサーブも打てなかったし、ここで何とかしておきたい。だから、本当練習に集中するだけで何も起きないとは思っていたのだ。
見当はずれに飛んだボールを回収しようとする際、転がっている人の果てた姿を見つけるまでは。
「えっ、嘘……!? まさか……そんなところで……そんなところで……」
言わずにはいられなかったのだ。
「先生がちょっと外出してる間に寝てるなんてどんな神経してんだよ。体育の授業中だぞ!? 後、踏まれるぞ! 本当の死体になっていいなら、そうしててもいいけど!」
あまりにも危険すぎるが、彼は寝ている。と言うよりかは、反応を見る限り、ぐったりしていて倒れているようだ。
その点に気が付いて、こちらに来たのは古戸くんだった。彼の名を告げていく。
「おーい、桃助! まだ水泳の時間にゃ、早いよーって、あれ? おーい!」
桃助。その名を聞いて、昨日読んだノートのことを思い返した。ハッとして、倒れている彼の方を見るとゆっくりながらも納得できるような言葉が飛んできた。
「いや……ゲームを……昨日……やりすぎた……いや、実況でいいのが撮れそうで、撮れなくて……」
古戸くんの方からは溜息一つ。「何やってんだよ……バカだなぁ」との厳しいお言葉も。で、彼からは「面目ない」との言葉を。ただ、このままでは桃助くんがどうなるか分からない。寝不足でだいぶ体調を崩しているみたいだから、処置をした方が良さそうだろう。
桃助くんは恰幅が良いから一人では難しい。古戸くんと僕で協力することにした。
「古戸くん、このまま保健室連れてくけど、足の方持ってもらっていい?」
「同じこと考えてた。了解。じゃあ行くよ!」
桃助くんからしたら、そこまでしなくても良いと思うだろう。「待って!」、「ちょっと」と言っている。ああ、僕も実際自業自得で熱中症になりかけてる奴なんて、心底どうでもいい。こういう騒ぎと言うか、面倒事にも積極的に避けていくタイプだ。しかし、桃助くんが「夢を追う会」のメンバーであり、夢であるゲーム実況者に関してやり過ぎたことから起きた問題であれば。クレーマーとしての健康管理も必要だ。
僕が何とかしなくては。
古戸くんと「せぇの!」で持ち上げ、全速力で体育館から全力疾走。
「おい、やめて、ちょっとゆらゆら揺れるー!」
僕が「ちょっと静かに!」。古戸くんは「ちょい黙ってろ!」の二つでそのまま保健室にチェックイン。保健室の女教諭、ほくろが右目の下にあるちょいセクシーな彼女も口を開けて、驚いていた。
「生徒を一人、お届けに参りました!」
こちらの発言に彼女は「宅配便じゃないんだから」とのツッコミを入れていた。それから落ち着いた先生の診断は早く、単なる寝不足と暑さにやられたとの答えが出た。たぶん、ここでゆっくりしていれば、すぐに良くなるとのことだ。
そうだ。ここは涼しい。できることなら、体育の時間ずっとここで休んでいたい。しかし、練習しなければ笑いものになる。戻ってきた体育教師に居残り特訓させられそうな気もするし、早めに戻るのが吉だろう。
古戸くんは先に出て行く。
「じゃあ、注意の方、露雪くん、よろしく。たぶん、おれが言ってもおふざけだとしか思えないだろうし。専属クレーマーって言うのかな……君が言ってくれた方がたぶん、聞く耳を持ってくれるんじゃないかなぁ」
「あ、ああ……」
保健室の先生は後は僕がどうしようと問題ないと言う風に机に向かっていった。きっと、僕が出て行かなくても関与はしないのだろう。
それなら少しは気が楽だ。
桃助くんに話ができる。と言うか、彼の方から話し掛けてくれた。
「まぁ、運んでくれてサンキューだよ……この命の恩人!」
「言い過ぎだよ。僕はそんなんじゃない」
「そんな謙遜すんなや! で、それよりそれより誠っちから聞いたよ。クレーマーになったんだって? って、言い方変だな」
「うん。すっごく変」
「クレーマーの弟子だったかな」
「いや、そこじゃなくて。クレーマーと言うよりはサポーターとか、そう言う言い方の方がいいかなぁって」
「まぁ、クレーマーもサポーターも一緒じゃないか。伸びる線二つあるし」
「ちがーう!」
と大声を出すと、女教諭が人差し指を立てていた。一礼して謝っておく。確かに他の人も安静にしている。静かにしなくては。
そう考え、隣のベッドを確かめるも空。疲れた女教諭がベッドの中にダイブインするだけだ。どうやら大声を出すと他の教諭に自分の行為が見つかるかもしれないからとのこと。自分のためか。
大人のことなんて考えるだけ無駄だと桃助くんの方に向き直す。そして、大切な話をしておこう。
「で、まぁ、サポーターとして言わせてもらうけど、幾らいいものができそうであろうと寝る時は寝る! でないと、後からゲームも何もかも楽しめなくなる! 結局、自分で自分の首を絞めるだけだ」
「おお……何だかすごみがあるな……」
「そりゃ、そうだ。本物のクレーマーの受け売りなんだから」
「なんじゃそりゃ」
ナノカから以前ゲームをし過ぎた僕に飛んできた言葉だ。意外とゲームとかを許さないとかではなく、そう言う息抜きも肯定しつつ、やるべきことをきちんとクレームしてくれる。彼女が立派だと思うところである。好意を持った所以でもある。
これで話を終わらせたかった。ただ、ふと気になることが一つ。ナノカ達に相談するなら、情報をもっと集めておいた方が良さそうだ。
「それじゃ……って言いたいところだったんだけどさ、一ついい?」
「何だ?」
キョトンとする彼。僕の言おうとしていることは夢にも思っていないことだろうか。
「よく分からないんだけど……その三葉さんって人がいきなり見せてきたもんで、彼女自身のいたずらか何かかもしれないんだけどさ……何だか、最近値札が……」
「ああ、それね!」
「えっ……?」
彼がいきなり話を遮って反応してきたことに驚かされた。どうやら彼は事情を知っているらしい。
三時限目の体育、それは非常に腹が減った状態で行われるとんでもない拷問だ。近くにあるレストランか何かからおでんのような香りが漂ってきた際は意識が朦朧となってしまう。
そこで何とか体育館内をドタバタ走り込み、最初の準備運動が終わったところでバレーの練習に入る。と言っても、実践にはまだ及ばずボールを壁打ちを繰り替えすだけだ。中学の頃はまともにサーブも打てなかったし、ここで何とかしておきたい。だから、本当練習に集中するだけで何も起きないとは思っていたのだ。
見当はずれに飛んだボールを回収しようとする際、転がっている人の果てた姿を見つけるまでは。
「えっ、嘘……!? まさか……そんなところで……そんなところで……」
言わずにはいられなかったのだ。
「先生がちょっと外出してる間に寝てるなんてどんな神経してんだよ。体育の授業中だぞ!? 後、踏まれるぞ! 本当の死体になっていいなら、そうしててもいいけど!」
あまりにも危険すぎるが、彼は寝ている。と言うよりかは、反応を見る限り、ぐったりしていて倒れているようだ。
その点に気が付いて、こちらに来たのは古戸くんだった。彼の名を告げていく。
「おーい、桃助! まだ水泳の時間にゃ、早いよーって、あれ? おーい!」
桃助。その名を聞いて、昨日読んだノートのことを思い返した。ハッとして、倒れている彼の方を見るとゆっくりながらも納得できるような言葉が飛んできた。
「いや……ゲームを……昨日……やりすぎた……いや、実況でいいのが撮れそうで、撮れなくて……」
古戸くんの方からは溜息一つ。「何やってんだよ……バカだなぁ」との厳しいお言葉も。で、彼からは「面目ない」との言葉を。ただ、このままでは桃助くんがどうなるか分からない。寝不足でだいぶ体調を崩しているみたいだから、処置をした方が良さそうだろう。
桃助くんは恰幅が良いから一人では難しい。古戸くんと僕で協力することにした。
「古戸くん、このまま保健室連れてくけど、足の方持ってもらっていい?」
「同じこと考えてた。了解。じゃあ行くよ!」
桃助くんからしたら、そこまでしなくても良いと思うだろう。「待って!」、「ちょっと」と言っている。ああ、僕も実際自業自得で熱中症になりかけてる奴なんて、心底どうでもいい。こういう騒ぎと言うか、面倒事にも積極的に避けていくタイプだ。しかし、桃助くんが「夢を追う会」のメンバーであり、夢であるゲーム実況者に関してやり過ぎたことから起きた問題であれば。クレーマーとしての健康管理も必要だ。
僕が何とかしなくては。
古戸くんと「せぇの!」で持ち上げ、全速力で体育館から全力疾走。
「おい、やめて、ちょっとゆらゆら揺れるー!」
僕が「ちょっと静かに!」。古戸くんは「ちょい黙ってろ!」の二つでそのまま保健室にチェックイン。保健室の女教諭、ほくろが右目の下にあるちょいセクシーな彼女も口を開けて、驚いていた。
「生徒を一人、お届けに参りました!」
こちらの発言に彼女は「宅配便じゃないんだから」とのツッコミを入れていた。それから落ち着いた先生の診断は早く、単なる寝不足と暑さにやられたとの答えが出た。たぶん、ここでゆっくりしていれば、すぐに良くなるとのことだ。
そうだ。ここは涼しい。できることなら、体育の時間ずっとここで休んでいたい。しかし、練習しなければ笑いものになる。戻ってきた体育教師に居残り特訓させられそうな気もするし、早めに戻るのが吉だろう。
古戸くんは先に出て行く。
「じゃあ、注意の方、露雪くん、よろしく。たぶん、おれが言ってもおふざけだとしか思えないだろうし。専属クレーマーって言うのかな……君が言ってくれた方がたぶん、聞く耳を持ってくれるんじゃないかなぁ」
「あ、ああ……」
保健室の先生は後は僕がどうしようと問題ないと言う風に机に向かっていった。きっと、僕が出て行かなくても関与はしないのだろう。
それなら少しは気が楽だ。
桃助くんに話ができる。と言うか、彼の方から話し掛けてくれた。
「まぁ、運んでくれてサンキューだよ……この命の恩人!」
「言い過ぎだよ。僕はそんなんじゃない」
「そんな謙遜すんなや! で、それよりそれより誠っちから聞いたよ。クレーマーになったんだって? って、言い方変だな」
「うん。すっごく変」
「クレーマーの弟子だったかな」
「いや、そこじゃなくて。クレーマーと言うよりはサポーターとか、そう言う言い方の方がいいかなぁって」
「まぁ、クレーマーもサポーターも一緒じゃないか。伸びる線二つあるし」
「ちがーう!」
と大声を出すと、女教諭が人差し指を立てていた。一礼して謝っておく。確かに他の人も安静にしている。静かにしなくては。
そう考え、隣のベッドを確かめるも空。疲れた女教諭がベッドの中にダイブインするだけだ。どうやら大声を出すと他の教諭に自分の行為が見つかるかもしれないからとのこと。自分のためか。
大人のことなんて考えるだけ無駄だと桃助くんの方に向き直す。そして、大切な話をしておこう。
「で、まぁ、サポーターとして言わせてもらうけど、幾らいいものができそうであろうと寝る時は寝る! でないと、後からゲームも何もかも楽しめなくなる! 結局、自分で自分の首を絞めるだけだ」
「おお……何だかすごみがあるな……」
「そりゃ、そうだ。本物のクレーマーの受け売りなんだから」
「なんじゃそりゃ」
ナノカから以前ゲームをし過ぎた僕に飛んできた言葉だ。意外とゲームとかを許さないとかではなく、そう言う息抜きも肯定しつつ、やるべきことをきちんとクレームしてくれる。彼女が立派だと思うところである。好意を持った所以でもある。
これで話を終わらせたかった。ただ、ふと気になることが一つ。ナノカ達に相談するなら、情報をもっと集めておいた方が良さそうだ。
「それじゃ……って言いたいところだったんだけどさ、一ついい?」
「何だ?」
キョトンとする彼。僕の言おうとしていることは夢にも思っていないことだろうか。
「よく分からないんだけど……その三葉さんって人がいきなり見せてきたもんで、彼女自身のいたずらか何かかもしれないんだけどさ……何だか、最近値札が……」
「ああ、それね!」
「えっ……?」
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