オメガバース全集

ひやむつおぼろ

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オメガバース研究者 ベータの被験体 執着 調教

「エリートドクターは普遍ネズミに発情する」

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メンヘラクズ注意
胸糞注意

ーーー

 私はオメガバースという最近米国からやってきた分野について研究を重ねていた。研究が立ち行かなくなったある日、一人の富豪が名乗りを上げた。『どうしても番にしたいベータがいる。』富豪は人の良い顔でそう言った。恋人という枠では満足しきれず、永遠を誓い合いたいのだ、などと言うかれを私は内心嘲笑しつつ見ていた。

 私が研究していたのは「アルファのフェロモンが他のバースに働きかける作用」だ。アルファの激しいラットを浴びたベータがオメガになったと言う記事が、アメリカニューイングランド州の地方記事にあったこともあり、アルファのフェロモンはオメガだけでなくベータにも効力があると私は見込んでたわけだ。

 あとは実証するだけだ。実験のために番のいないアルファ何人かとベータを住まわせ、アルファにはラット促進剤を投与していた。

 順調な結果が出て、オメガに落ちた元ベータたちを娼館やソープ、はたまた富豪に送りつけ過ごしていた。そんなある日のことである。もう終わりにしようとしていた実験に、一人の男がやってきたのだ。

 第一印象は「なんて細っこい奴だろう。」だった。

 薄ハゲの年老いた助手より生気がない。講義室に置いてある骨格人形の方がまだ太さがあるとさえ言えるほど、骨と皮だけのまるで凧のような体、苦労の伺える落ち窪んだ瞳、不健康という意味に人の体を授けたら、彼のようになるだろうと思った。ほうれい線が見え、ハリのない浅黒い肌。とてもじゃないが、検体にはならないだろうと思いつつ、歳を聞いた。

「19だ」

 言っちゃ悪いが、そうは見えんね
「そうは見えんね」

 思わずつるりと声に載せると死んだ目がきらりと光った。薄くひび割れた唇がにやりと引き伸ばされて開閉した。

「センセも、学者サマには見えないね。体育教師が似合いそうだ」

 そう言いながら、骸骨のような男はにぃと笑い、身分証を出す。その手はこの研究室の他の誰より一段としわしわで、年上の私のほうが張り艶があった。彼を見ると別段恨めしそうでもなく、ただただ達観した何かを持っていた。

 証明写真にはまだ年若い男の顔がある。何が彼をこんなふうに変えてしまったのか、興味が湧いてきた。

「はは、こりゃぁ参った。すまなんだね。思ったことがすぐ口に出てしまって。しののめ、下は何で読むんだい?」

「鳴かないと書いてねずです。夜鳴きをせなんだ俺を喜んだ母が、悔し泣きのない人生にって願ったんです。」

 あぁ、そうだな。今の君は何しても響かなさそうだ。達観して諦めて、しかし、今や過去に囚われることなくじっと次のチャンスを待って見定める目をしている。実によい男だ。優しくしてやりたいとも、泣かしてやりたいとも思った。

「そうか、それはなかなか良い名だ。」

「センセはどう呼んだら良いですか。」

「まだ、君と実験できるかわからないからね。センセと読んでてくれて構わないよ。」

 ゴムチュウブを手に取ると、彼の後ろにいた助手は目を見開いた。そうだな。彼はあまり健康的ではない。だが、何より私が彼を監視したいのだ。

「えっ、、俺では、ダメでしたか?」

「いいや、まずは血液検査をしなければならないんだ。最新機器だが二日かかる。それで君の体が私の研究にふさわしければ手紙を送るよ。……心配しなくとも、この血液検査だけで50万渡すよ。ただ、そうだな、君がもし私の研究にぴったりの逸材だったら、君を3年預からせてもらって良いかい?」

 ぺらぺらと口にオイルを塗ったかのようにまくしあげる。もちろん、検査結果が二日で出るわけがない。しかし血を抜かずとも彼がアルファでもオメガでもないことは、香りではっきり分かる。彼はベータだ。そう、ベータ。私の番になる、可哀想なベータだ!

「3年ですか?!」

 ねずはその薄い腹からよくそんなと言うぐらいの声をあげた。皮と骨だけの体に怒張を差し込めば彼は泣くだろうか、それとも諦めたような顔をするだろうか?指が回りそうなほど細い腕に手際よくゴムチュウブを縛るとアルコール綿で表面を拭う。骨と皮だけの腕からうっすらと血管が覗くのでさえゾクゾクとした。銀の針のついた筒が、ねずの体に刺さる。ゆっくり、輪に指を引っ掛けてゆっくりと彼から血を抜く。倒れたりしないだろうか。

「3年で、1200万出そう。」

「せんにひゃく」

 声が裏返って、浮ついた声が出ている。あぁ、情事の最中はこれくらいの声で鳴くだろうか?一年400万、三年で1200万。その間にゆっくりと体を作り替えて行こう。

「君の実験が成功すれば、もっと、なんなら一生遊んでいけるぐらい出せるよ。」

 無理やり番にするのだ。共同財産全て投げ打って、君に値をつけたら、君は怒るかな、悲しむかな?とても楽しみだ。

「一体何を調べるんですか」

「さぁ、それは教えられないね。ただ、三食宿付きで健康に暮らすだけで1200万だってことだけは確かだよ」

 彼の身体を暴く想像をしていたから、シリンジが満杯になっていることに気づかなかった。血は助手に回収させ、ガサガサの肌に消毒液をぬる。絆創膏を貼る前と後は注射痕を圧迫しないと内出血してしまうのだが、彼の腕に私が施した跡が付くと思うとどうも我慢ならなくて、なんだか注射跡がやらしい情事の後のように見え始め、慌てて絆創膏で隠す。彼の肌に沢山の跡を残す権利が早く欲しいと願いつつ絆創膏のゴミを捨てる。情事のことばかり考えるなんて、私は自慰覚えたでの中坊にでもなったか?

「君から、いい返事を待ってるよ。」

 思わずクスクス笑うと声につられて彼が顔を上げた。今日初めて彼は私の顔を見た。彼の瞳に、私が映った。

 2、3呼吸が止まる。

 あぁ、見てくれた。私を。彼が認識した!!表情筋が言うことを聞かずどんどん緩んでいく。彼を好ましく思ってることを、伝えていく。

 彼は身震いするとブリキバネのおもちゃのようにビヨンと跳ね、そのまま帰って行ってしまった。




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