オメガバース全集

ひやむつおぼろ

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オメガバース 無知 ギャグ 幼なじみ 執着

「男らしい〜」side雄也

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 雄也は激怒していた。そう書くとどうも文豪の、不敬罪だったか反逆罪だかで捕まり、妹の結婚式のためにセリヌンティウス幼馴染みを売る男の話を思い出すが、何も雄也は国のトップに怒っているわけではなかった。雄也は竹馬の友の裏切りに合っていたのだ。

「っ好きな人がオメガだったから!」

 頬を赤らめた愛しの幼馴染みは、久しぶりの再会もそこそこに、俺に冷や水を浴びせたのだ。

ーーー

 この世界には男女の他にバース性なるものが存在する。

 一般性のベータ。秀れた才覚を見せるアルファ。繁殖力のみ優れたオメガ。

 日本政府は海外に比べバース性教育が遅れている。元々男尊女卑の気がお国柄強かったことや、男性オメガの差別が多く合ったことが理由として挙げられている。(未だ男性オメガ差別集落問題の国絡みの裁判は続いている。)

 性行為に対する触れてはいけないタブーな空気の中、児童生徒内でが起きる時代もあった。今ではアルファとオメガで分けて性に対して教え、専門カウンセラーをつけることで防いでいるが社会のオメガ雇用率は低く、貧困に喘ぐオメガは少なくない。

~~
(平田智和 『遅れた日本のオメガバース教育』より)

 難関大学入試の過去問を開いて、ガツンとしたたかに机に頭をぶつける。

 先日の出来事を思い出したからだ。アキラの赤くなった頬。ミルクと花を彷彿とさせる甘い香り。少し日に焼けて傷んだ髪。柔らかそうな血色の良い唇…。俯きがちな目を縁取る睫毛がふるふると揺れ、涙を溜めながら吐かれたあの言葉。好きな人がオメガだったから。番になりたくて。オメガ…オメガ……。

「僕はアルファ……」

「おや、どうしたの?君がそんなことをするなんて。」

 向いにはさっきの問題集に出てきた、アルファのスクールカウンセラーがコーヒーをすすっていた。
 此処はアルファ専用のスクールカウンセリングルームだ。

 子供のアルファはホルモンが安定せず、ラットというアルファ特有の発情期に入ってしまうことがある。(発情期だぞ?理性ある動物の人間に発情期。信じられない。)アルファはラットの時オメガに対しフェロモンを分泌しオメガの発情期ヒートを誘発させる。まぁつまり、過ちが起きないよう熱っぽい、ダルいなどの症状を訴えたアルファやオメガを隔離する専用のカウンセリングルームがあるというわけだ。

 そこを僕は有効利用していた。小学生男児というのはやんちゃで、構われたがりで、悪戯好きだ。あの野生児たちのいる教室ですました顔してお勉強なんてしていたら、高確率で邪魔が入る。僕は前までサッカー部に入って活発にしていたものだから、こいつは外で遊べるやつというラベルを貼られているのか、余計絡まれてしまう。

 僕は勉強しなきゃいけなかった。親は僕がサッカーで推薦が取れるほどの成績を残せないと知るや否やサッカー部を退部させた。僕がサッカー部に執着しているのではなく、アキラに対して良からぬ想いを抱いていることを知ったからだ。僕の家はそこそこ大きな家らしく、僕は跡取りらしい。

 「相手がオメガかどうかもわからないのに…男色に目覚められたら困る。」と考えた母は、アキラに恋心をバラされ親友をやめられたくなければ中学受験に合格なさいといった。中高一貫の進学校だ。あそこに合格したらお前が幼馴染みを想うことを許す。しかし失敗したら、アキラにバラして滑り止めの男子学校の寮生活、アキラには会えなくなってしまう。

 アキラが好きとバレたあと男子校入学のコンボはヤバい。あらぬ誤解を受け「男なら誰でもいーんじゃん。触らないで」と冷たく吐き捨てるアキラを想像した。それはそれで何か滾るものがあったがそうじゃない。弁明もできないままドナドナと他府県の山奥の寮でムサイ男どもと生活なんて耐えれない。

 だから勉強を頑張っているのに…。

「片思いの子に好きな子がオメガだったから番う為にアルファになりたいと言われた僕の気持ちを二百文字で答えよ」

「なになに?そんな問題文が出てきたの?」

 なおアキラを誑かすような女のカゲは今まで発見されなかったものとする。

ーーー

「先生、友達の好きな子のバース性がまだ決まらないんです。」

「ほう、なるほど。その好きな子がアルファになりたいと…。ひどい失恋をしたね。」

「僕は失恋してません!!」

 机をバンっと叩く。気づけば詳かに事情を説明してしまっていた。マグカップが跳ね僕に出されたココアが揺れた。先生は作業用のアルミ机から、医学雑誌を取り出した。

「君たちにはまだ教えてない事なんだけどね。アルファとオメガにはまだまだ色々あるのさ。運命の番って言って甘い自分好みのフェロモンの香りがする相手がいるとか……」

「…!相手はすごい良い匂いがします。もしかして」

「惚れた欲目じゃない?って言ってしまえば終わりなんだけど。

 実際自分と白血球の遺伝子配列の異なる男性の匂いを良い匂いと捉える女性…みたいな、バース性発見前の実験結果はあるからね。

 掛け合わせて白血球の抗体の遺伝子の種類を増やそうとする……子孫繁栄のための動物的な本能だね。ただ単に遺伝子的に相性が良いだけとされてるよ。」

「遺伝子的に体の相性がいい…」

「おやおやお話も聞けなくなったかい?」

 君の溺愛っぷりからすると運命のつがいってより普通に惚れた欲目の可能性があるから、なんとも言えないね。背中を押せなくて参るなぁ。

 パラパラと医学雑誌をめくり、流し見ている糞カウンセラーを睨む。なんだよ!僕とアキラが運命だったらいいなって夢さえ見させてくれないなんて!

 ズズッとコーヒーを啜って今度は古いオカルト雑誌を手に取る先生。日本ではオメガバースの対応が遅れすぎてて、オメガ男性を孕み腹の男の怪異なんてオカルト的に書いていた時代があったため、オカルト本にもバース性に対する文献が入っているのだとうんちくをたれていた。その割に先生が集めている本の多くはネッシー特集やチュカパブラ特集が多い。

 今先生が開いてるのは比較的新しい号で『マッドサイエンティスト特集』と書いてあった。バース性が広く知られ、あまり過激には書けなかったのだろう。少し薄いその本をペラペラめくり大きなマグカップをゆっくり傾ける。

「あぁ、そうだ。バース転移の研究があってね。アルファになれるわけじゃないけど……。アルファのフェロモンをベータに吸わせ続けるとそのベータはオメガになっちゃった!って人体実験をやったバカがいて……」

「それってフェロモンどうやって集めたんです?」

「フェロモンは、脇の下やら首筋やら股間から出てるとされているけど、この実験では精液をそれとは伝えずずっと食事に混ぜてたらしくて。人権侵害で学会追放されたみたいだね。」

「へぇ、変態もいたものですね」

「そうだねぇ」

 ズズッとマグカップを傾ける先生。

「無理やりは良くないからね?」

「……」

 僕はココアを流し込んだ。沼色のそれは酷く甘く、煮湯のように熱かった。
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