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魔族と対面です! 2

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 俺は意を決して、鉄格子に近づく。

「あのー、こんにちは……」

「挨拶のためだけに、遥々ここに来たのか? 縛られて、おもてなしもできないけれど、ゆっくりしていけば。勇者サマ」

 カラカラと陽気に笑う声がする。

「あの、大丈夫?」

「飯なし、トイレなし、風呂なしの状況がそちらさんの生活水準なら大丈夫なんじゃねーの?」

「……ごめん」

 思ったよりも酷い扱いに思わず謝る。ご飯も与えてないなんて…飢え死させるつもりだったのだろうか?

「いーよ。勇者サマは無関係だろ?それに俺、魔王様から加護をもらった選ばれし魔族だもん。こんくらいへっちゃらよ」

「魔王の、加護?」

 魔王という単語が出てきたからか、ティアがザッと杖を構えた。俺は手を出すなとハンドサインする。

「勇者サマは、俺とお話ししてくれるんだろ?特別に教えてやるから、このモヤどっかに散らして、面と向かって話そうぜ。」

 モヤって、たぶん瘴気のこと言ってるんだろうな。どこかに散らすなんて言われたって、空気の入れ替えみたいに結界に穴を開けるわけにはいかないし……。空気清浄機みたいにフィルターを通してきれいにできないかな。

 そうやってうんうんと唸っていると聖剣がずしっと重くなる。

「えっ、何が起こったんだ?!」

 思わず鞘から抜くと、シュルシュルという音とともに鈍色のモヤを剣身けんしんが吸い取っていた。

…いや、消臭剤のCMかよ。

「素晴らしい!さすがは女神ラウラ様の聖剣!」

 ティアは聖剣の性能に感激しているようで、キラキラと目を輝かせている。

「あーあ。せっかく人間を殺せると思ったのに……。ぶっ壊れ機能じゃねーか!反則だぞそんなん」

 だんだんと瘴気がきえていく。瘴気の消えたその先には、腐食した鉄格子と、鉄格子の奥で鎖に繋がれながら地団駄を踏む人がいた。

 黒髪に、緑と赤の目の男。それだけ見ればまぁ普通の人だが、彼の頭部にはヤギのような曲がったツノと尖った耳があった。床から伸びる鎖に縛られた脚をジャラジャラと音を立てながら振り乱し、こちらを恨みがましく睨んでいる。

「それで?!勇者サマはオレに何しにきたわけ?!殺すならさっさと殺せよ!」

「殺すなんてそんなことしない。俺、魔族がどんな感じか知りたくて……。分かり合えたら共存できるだろ?殺し合いなんかしなくてもいいはずだ」

 男は暴れるのをやめた。エメラルドとルビーの瞳がこぼれ落ちそうなほどに大きく瞬きをして、俺に問いかける。

「それ、マジで言ってんの?」

「うん」

 魔族の男は何十秒か熟考した後バリバリと頭を掻いた。

「……ガセだったら承知しねぇかんな」

「ありがとう!…それで、あなたの名前を聞いていいかな?」

「調子狂うナァ……。こので本当に魔王様倒そうってんのかよ」


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