淫魔さんは今日も鳴く

ひやむつおぼろ

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メインストーリー02

カップと母屋

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(ディアの部屋を知る。女のにおいと、牧師のにおいのするシスター服の人物を見て勘違いをする。)

 この教会に泊まるようになって、はや三日。毎日同じことをやるものだから、俺の家事スキルは上がってしまい、ついに頼まれていた大抵のことは終わってしまった。追加で何か手伝えることないかな。そう思いながら、イヴァンの姿を探す。見当たんねえな。

 生気をたどる。……くぞガキどもと契約しちまったせいが、イヴァンの生気と嗅ぎ分けられるようになっていた。キッチンの方にかすかながらあいつのにおいがした。

「パンがゆ……?」

 鍋の中にミルクとパンがとろとろに解けたそれが置いてあった。少しかさが少なくなっている。他にもガキがいたのか、それともイヴァンの食事だろうか。すんっとまた鼻が鳴る。ダイニングにはいなかった。聖堂につながる廊下、その先にもう一つドアを見つける。ミルクの甘い匂いと共に生気はドアの先から香っていた。それを開けば、芝とスイセンが咲いた花壇の先に、ぽつねんとたたずむ小屋があった。

「こんなとこあったのか……」

 小屋の窓には蔦が絡み、葉が覆っている。中をうかがえないその小屋は、触れられたくない秘密かのようで。ドアを開けるのを躊躇っていた。

「いや、サボってたって思われたくねぇし。イヴァンも、やましいことなんかねえだろ。ほら、納屋かもしんねぇし。」

 自分でもおかしな言い訳をしていると知っている。納屋だったらパン粥を持ってく必要はねぇじゃん。ドアノブを握りしめるが、どうしても開けられない。子供たちと、イヴァンとも違う女の生気が香った。

「……。……!」

 ドアに人間が近づいてくる。ガチャと音が、して。

「…!」

 思わず後ずさった。ドアの向こうには、目を見張るほど美しいシスター服をきた人物がいた。

 どっどっどっ、と胸が高鳴る。

 イヴァンのほかに宗教家が居たのかとか。すごく好みな顔しているとか。たくさんのことが頭に浮かんで。

 そうじゃない。でも、信じたくなくて。

 汗がブワッと噴き出る。顔が引き攣る。信じられない。

 このシスターからは、シスターのものであろう女の匂いと、イヴァンの匂いが絡んでいて。

 それは、イヴァンがこのシスターとシたってことで。

 胸が、痛くて。

「ねー、ノワールいないのー?!ノワールにお客さんだよー!」

「ゆうびんさんだよー!」

 ウィルとベティが俺を呼んで、やっと硬直が解ける。

「わっ、わかった!今行く!」

 俺はすぐ踵を返して、シスターから逃げた。

ーー

「ウィル、ベティ。なんだったんだ。」

「ん、ええっとね、お手紙置いたらかえってったよ。ノワールあての手紙!」

 ウィルから手紙を受け取る。開けたくないな。

「開けないの?」

「……ああ、開けなきゃな。」

 びり、びりと封筒を破っていく。中には一枚紙が入っていた。

『任務達成』『帰られたし』

「は、はは…」

 これを見て、イヴァンを盗られたって思っちまった。自覚しちまった。

「ノワール泣いてるの?」

「ん、ぁあ。大丈夫。俺は、大丈夫だから…。」

 オレは、イヴァンのこと好き、だったんだな。

「ノワール、かなしい?泣いてるよ。ベティ、お願いね。私クロエ探してくる。」

「よしよし。こわくない、よ。」

 ベティが頭を撫でて涙をすそで拭ってくれる。オレは目の奥がまた熱くなるのを感じた。

「ベティ、オレ、イヴァンのこと好きだ。」

「うん。ベティは、イヴァンのことすき。やさしいもん」

「オレ、女に変身することだってできる。魅力的なメスにも化られる……けど本物には勝てない……」

「ノワールは、ノワールのままでもあいされる。ノワールも、ベティたちにやさしかったもん。あきらめないで。」

 そんなこと、ありえない。信仰心の強い、ガードの硬いあの男を動かしたんだ。それってきっと、御伽噺の、ずっと馬鹿にしてた、お姫様と王子様のキスと同じやつだ。真実の愛って奴だよ。悪魔のオレじゃかないっこない。

「…ベティはノワールのこともすき。イヴァンとノワールと、ここにくらすみんなで家族になりたい。だからクレヨンとびすけっとの誓いをしたの。」

 それに、と言葉を区切ってベティは付け加える。

「イヴァンのことはきっと、かんちがい。もっと二人ははなしあうべき。」

「…やーでもなぁ。仕事終わっちまったから、魔界に帰らないと」

「今、なんて言った?」

「や、だから魔界に…。……? お前どっから入ってきたんだよ。」

 大きな麻袋を持った宗教家の男と、大柄な男がそこに居た。




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