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メインストーリー02

ベッドに沈む

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 イヴァンにもたれかかってイヴァンの生気を、においを吸い込む。ああ、帰りたくない。たとえ好きになってくれなくても、教会で、イヴァンと子供たちと一緒に、側にいたい。……無理な話だとは分かってる。教会につくまで、この少しの間だけで構わないから、許してほしい。

「ノワール、ついた。起きてほしい。」

「……ん。」

 いつの間にか馬車は教会についていた。優しく揺すり起こされ、オレはさも今起きたかのようにゆっくりと体を離す。…もうすぐ迎えが来るはずだ。名残惜しいけど仕方がない。

「イヴァン!やばいよ!ノワールが帰っちゃう!」

「げ」

 ニックがオレが受け取った手紙を持ってイヴァンに詰め寄る。

「…どういうことか、教えて」

 イヴァンはいつもの微笑みをたやさずこちらに向き直る。その目は決して笑っていなかった。

ーーー

「っ、おいやめろよ。イヴァン」

 ぐいぐいと引っ張られ、オレが入ったことのない部屋……イヴァンの寝室に連れてこられる。オレはイヴァンの匂いがするベッドの上に放り投げられ、尻餅をついた。

 イヴァンはオレをベッドに組み敷く。なんでキレてんだよ、なんでこんなことすんだよ。イヴァンの意思がわからない。淫魔の体はこの状況を喜んでいるのか、心拍がさらに上がり、腰が痺れる。

「あなたは、わたしの貞操を狙いにきていて、わたしがあなたに手を出さなければ、あなたはずっとここに居てくれるはず」

「なぜ、あなたが帰らないといけない?」

「はぁ?!そんな、お前が純潔を散らしてきたから、帰らねえといけなくなったんじゃん!オレに八つ当たりすんなよスケベ!」

「わたしは誰ともしてない」

「はー? でもベティの母さんと一緒に……」

「……ノワールはわたしが、男性恐怖症の婦人を抱いたと思っているのか」

「いや、言っててないわと思った。じゃぁなんでこの手紙が来たん、だ。」

 ふと思い出す。

「今回の任務、おまえの信仰心の欠落じゃん」

 ビスケットとかのせいで、オレうっかり忘れてたけど……。最初はお前を説得して、改宗させようと思ってたんだった。

ーー

 全てを話した。イヴァンが願うだけで神様や天使が動き出し、悪魔を殺すこと。死神たちではイヴァンを殺せず、イヴァンを穢すためにオレが派遣されたこと。イヴァンが神様を信じなくなればオレは必要なくなること。

「わたしが神をまた信じればノワールは一緒にいてくれる?」

「んな単純な話じゃねぇだろ。お前が神様を信じなくなった理由とかは知らねぇが…そうコロッと変わるもんでもないし、その程度なら神様もうごかない、と、思う。」

「ノワールを返さないためだったら、神様だろうと、悪魔だろうと崇拝できる。」

「……さっきから、ほんとおかしいよお前。愛してるだの、オレのためだの…歯の浮くようなこと言わないでくれない?ほら、さっさとオレの上から退いてよ。帰るんだから」

 顔を逸らして、極力イヴァンを視界に入れねぇよう気をつける。イヴァンの、怒りとも憎しみとも肉欲とも取れる視線がジリジリとオレを焦がしていく。

「ノワールは、帰ったらまた男のところに行くのか」

 低く、唸るような声でイヴァンが言う。熱い。オレの手首を掴むイヴァンが熱い。淫魔の本能が、膳立てられた獲物を嗅ぎつけ、じゅんと腹の奥を濡らす。ダメだ、イヴァンは食べない。オレが好きにしていいヤツじゃない。食い物にしていいヤツじゃない。

「は?あぁ、まぁ仕事だし。女に化けれるようにもなったみたいだし…行かなきゃ」

「嫌だ」

「はぁ?何言ってんのお前?とうとう狂っ、」

 顔が、近づいてくる。いい匂いだ。オレが、淫魔のオレがずっと待ち望んでいた匂いが、近づいて、唇に重なる。満ちていく。空いた腹が歓喜をあげ、そしてまだ足りないと飢えを訴える。

「あなたのことが、好きだ。ノワール。」

「は、ぁ」

 何故した、と反論する間も無く2回3回と口付けられる。

「あなた以外いらない。あなたと家族になりたい。ほかに、何を言えば、何を差し出せばあなたはわたしと一緒にいてくれる?」

「ばか、やめ、んぅ、やめろってば!」

 ちゅっちゅって何度も啄まれて、体温がまた上がるのを感じた。啄むたびにイヴァンは女を口説くような台詞を吐く。

 等身大の、稚拙でどうしようも無い愚直なプロポーズが、胸に転がり込む。オレは、キスをされて淫魔として興奮しているのか?それとも、ノワールとしてイヴァンの言葉に喜んでいるのか。わからない。ぐちゃぐちゃになる。ベッドが沈んでいく。

「やめない。あなたが欲しい。」

 イヴァンが鼻先を擦り寄せる。彼の薄い手がオレの服を脱がそうとして、そして止まる。

「あなたに、わたしを刻みたい。わたしだけのノワールになって欲しい。一夜でも、構わないから…」

「っ、こんな淫魔の姿のオレに興奮なんかしないだろ」

「する」

 オレの手を取り、唇を寄せる。愛おしいものに、儚いものに触れるかのように指をそっと絡めると、イヴァンはそのまま、オレの手をイヴァンの中心に押し当てた。

「ずっとまえから、してる」

「……。オレ、疲れてて女に化けられねぇからな。」

「化けなくていい。わたしはノワールを抱きたい。」

「…一晩、だけだ。特別にお前を食ってやる」

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