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メインストーリー02
真っ黒と聖剣
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は、ァ。
荒い息が聞こえる。獣のように浅く、湿り気を帯びて欲を孕んだ息が、肩にかかる。オレはどこからか入ってきた男どもに、薬品を浴びせかけられ気絶していたみたいだ。腕には手錠がはめられ身動きが取れない。びたん、と尻尾で床を打ち、ああ、人間にも化けれていないのだと実感する。体が、妙に熱っていた。
「イヴァン牧師は前からおかしいと思っていたんだ!忌むべき悪魔の子を引き取って、女児娼館でもやってるんじゃないかって…」
肥溜めより臭い匂いを口から吐いて、男が宗教家に言いよる。ハエのように手をすり合わせ、げへへ、と醜く笑った。
「そしたら淫魔を従えて、女どもを仕込んでいるじゃないか!!イヴァン牧師は異教徒だったんだ。悪魔崇拝をなさってるんだよエクソシスト様!悪魔の子は我々で然るべき施設に入れて花でも春でも売らせるべきなんだ!」
「なっ、ふざけんな!イヴァンはそんなことしてねぇ!アイツらに手ェ出すな!」
「ほうら、聞いたかいエクソシスト様!イヴァンわそんなことしてねぇ~だって!どうやってこの卑しい悪魔を躾けたんだろうね!」
エクソシスト様と呼ばれた男はしばらく黙っていた。
「男爵様そちらの悪魔の話、わたくし初めてお聞きしましたよ。あなた様の血を引く子がこの教会の中に紛れているから救出するのを手伝って欲しいとお聞きしましたが?」
エクソシストは冷徹とも取れる顔をし、依頼主であろう男爵に言い返した。
「ああ、ああ!そうだ!そうだったよ!娼館の娘っ子を一人、ワシが孕ませちまって。でも正妻とは子をもうもうけた後だったし、経済上買い上げるわけにも行かなかった!」
口角泡飛ばして、エクソシストに自慢げに武勇伝を語る。おぞましい、ぶよぶよとした体を揺らして、つるっぱげた頭からテラテラと汗を流しているソイツが、本当に人なのか?
「悪魔と寝たって吹聴してまわって追い出したんだ!ここに流れ着いて、元気に産んだそうじゃないか!」
「それも、今初めておっしゃいましたね。」
「元はワシの子、わしの財じゃろう?!」
ぎょろりと目を見開いてソイツは怒鳴り散らす。ヒヒンと馬がその怒鳴り声に驚いて戦慄く。外の様子は伺えないが、周りにはたくさんの木箱とずだ袋があった。貨物馬車に偽装しているんだろう。すんっと鼻を鳴らせば子供たちの匂いがした。クロエとウィルが一緒に捕まっちまったらしい。どうしよう、どうしたらこいつらを守れる。
「いや、伯爵と婚約の話が出てなぁ、若ければ若い方がいいと言っておって。その娼婦に蒔いたのが、ちょうど3年ぐらい前じゃったというとそれが欲しいと言うもんだからな。」
ウィルとの会話を、思い出す。
『イヴァンは私たちを助ける理由にはするけど、いじめる理由にはぜったいしないわ。』
助けるための理由。迫害するための理由。
「何一つとして契約時に教わっていません。しかも連れ帰った子の年は、外観からして11~8…しかも2人も!これでは、あなたの子供では」
「…なんだ、その反抗的な態度は!ワシがいくらお前に払ったと思っている!」
エクソシストと男爵が言い合ってる。こいつらがやり合えばきっと逃亡の隙が見つかる。考えろ、考えろ!
「なぁ、男爵様?オレとの熱い夜を忘れたの?こんな手錠をつけるなんて釣れないヒトだね。」
ボンっと一か八か化けた。魅力的な胸、きゅっと締まったくびれ、細い手首。下品な真っ赤なルージュ。エクソシストが仕事をすることを願いながら捲し立てる。
「あの日、殿方をたくさん呼んで……私をたっぷり愛してくれたじゃない。私、私は忘れられなくて……。ずっとあなたに悪魔付きしてたのよ。ああ、何年も経ってあなたったら、汚れ切った魂になって……。悪魔になるのももうすぐね。」
「!!」
悪魔付きという言葉に、エクソシストが反応する。一方男爵は何を言われているやらと目を回していた。もちろん嘘であるが…この反応だとこの男爵は複数プレイの常習犯だな。
「そうか、男爵様は悪魔に取り憑かれていらしたんですね!」
「気づかなかったの?馬鹿なエクソシスト様。早く殺さないと悪魔がまた増えるわよ。」
「これはこれは親切……いえ、間抜けな悪魔だ!言わなければバレなかったものを!えい!男爵様から出ていけー!」
「おい、エクソシスト、なにを、ぎゃぁ!!」
エクソシストが瓶の中身を男爵にぶちまける。男爵は目を回して倒れた。エクソシストは御者を止めさせ男爵を下ろす。
ボム、と女体化変幻が解ける。エクソシストが投げた瓶の中身をまた少し浴びてしまったせいだろうか、変幻が維持できなかった。
「…はぁ。タダ働きになっちゃいましたねぇ。」
「あんた演技うまかったぜ。悪魔も魔界じゃ組織化されてて下手に人間に干渉しないんだしエクソシストなんかやめて役者でもしたら?」
「あぁ、いいえ。エクソシストって仕事は好きなんです。悪魔を倒せばかっこいいでしょう?」
エクソシストはすらりと剣を構えた。剣身にオレの白い髪と赤い目が映り込む。
「それに劇だって、完全な悪を正義が正義の名の下に暴力で解決するのがイイんです。」
荒い息が聞こえる。獣のように浅く、湿り気を帯びて欲を孕んだ息が、肩にかかる。オレはどこからか入ってきた男どもに、薬品を浴びせかけられ気絶していたみたいだ。腕には手錠がはめられ身動きが取れない。びたん、と尻尾で床を打ち、ああ、人間にも化けれていないのだと実感する。体が、妙に熱っていた。
「イヴァン牧師は前からおかしいと思っていたんだ!忌むべき悪魔の子を引き取って、女児娼館でもやってるんじゃないかって…」
肥溜めより臭い匂いを口から吐いて、男が宗教家に言いよる。ハエのように手をすり合わせ、げへへ、と醜く笑った。
「そしたら淫魔を従えて、女どもを仕込んでいるじゃないか!!イヴァン牧師は異教徒だったんだ。悪魔崇拝をなさってるんだよエクソシスト様!悪魔の子は我々で然るべき施設に入れて花でも春でも売らせるべきなんだ!」
「なっ、ふざけんな!イヴァンはそんなことしてねぇ!アイツらに手ェ出すな!」
「ほうら、聞いたかいエクソシスト様!イヴァンわそんなことしてねぇ~だって!どうやってこの卑しい悪魔を躾けたんだろうね!」
エクソシスト様と呼ばれた男はしばらく黙っていた。
「男爵様そちらの悪魔の話、わたくし初めてお聞きしましたよ。あなた様の血を引く子がこの教会の中に紛れているから救出するのを手伝って欲しいとお聞きしましたが?」
エクソシストは冷徹とも取れる顔をし、依頼主であろう男爵に言い返した。
「ああ、ああ!そうだ!そうだったよ!娼館の娘っ子を一人、ワシが孕ませちまって。でも正妻とは子をもうもうけた後だったし、経済上買い上げるわけにも行かなかった!」
口角泡飛ばして、エクソシストに自慢げに武勇伝を語る。おぞましい、ぶよぶよとした体を揺らして、つるっぱげた頭からテラテラと汗を流しているソイツが、本当に人なのか?
「悪魔と寝たって吹聴してまわって追い出したんだ!ここに流れ着いて、元気に産んだそうじゃないか!」
「それも、今初めておっしゃいましたね。」
「元はワシの子、わしの財じゃろう?!」
ぎょろりと目を見開いてソイツは怒鳴り散らす。ヒヒンと馬がその怒鳴り声に驚いて戦慄く。外の様子は伺えないが、周りにはたくさんの木箱とずだ袋があった。貨物馬車に偽装しているんだろう。すんっと鼻を鳴らせば子供たちの匂いがした。クロエとウィルが一緒に捕まっちまったらしい。どうしよう、どうしたらこいつらを守れる。
「いや、伯爵と婚約の話が出てなぁ、若ければ若い方がいいと言っておって。その娼婦に蒔いたのが、ちょうど3年ぐらい前じゃったというとそれが欲しいと言うもんだからな。」
ウィルとの会話を、思い出す。
『イヴァンは私たちを助ける理由にはするけど、いじめる理由にはぜったいしないわ。』
助けるための理由。迫害するための理由。
「何一つとして契約時に教わっていません。しかも連れ帰った子の年は、外観からして11~8…しかも2人も!これでは、あなたの子供では」
「…なんだ、その反抗的な態度は!ワシがいくらお前に払ったと思っている!」
エクソシストと男爵が言い合ってる。こいつらがやり合えばきっと逃亡の隙が見つかる。考えろ、考えろ!
「なぁ、男爵様?オレとの熱い夜を忘れたの?こんな手錠をつけるなんて釣れないヒトだね。」
ボンっと一か八か化けた。魅力的な胸、きゅっと締まったくびれ、細い手首。下品な真っ赤なルージュ。エクソシストが仕事をすることを願いながら捲し立てる。
「あの日、殿方をたくさん呼んで……私をたっぷり愛してくれたじゃない。私、私は忘れられなくて……。ずっとあなたに悪魔付きしてたのよ。ああ、何年も経ってあなたったら、汚れ切った魂になって……。悪魔になるのももうすぐね。」
「!!」
悪魔付きという言葉に、エクソシストが反応する。一方男爵は何を言われているやらと目を回していた。もちろん嘘であるが…この反応だとこの男爵は複数プレイの常習犯だな。
「そうか、男爵様は悪魔に取り憑かれていらしたんですね!」
「気づかなかったの?馬鹿なエクソシスト様。早く殺さないと悪魔がまた増えるわよ。」
「これはこれは親切……いえ、間抜けな悪魔だ!言わなければバレなかったものを!えい!男爵様から出ていけー!」
「おい、エクソシスト、なにを、ぎゃぁ!!」
エクソシストが瓶の中身を男爵にぶちまける。男爵は目を回して倒れた。エクソシストは御者を止めさせ男爵を下ろす。
ボム、と女体化変幻が解ける。エクソシストが投げた瓶の中身をまた少し浴びてしまったせいだろうか、変幻が維持できなかった。
「…はぁ。タダ働きになっちゃいましたねぇ。」
「あんた演技うまかったぜ。悪魔も魔界じゃ組織化されてて下手に人間に干渉しないんだしエクソシストなんかやめて役者でもしたら?」
「あぁ、いいえ。エクソシストって仕事は好きなんです。悪魔を倒せばかっこいいでしょう?」
エクソシストはすらりと剣を構えた。剣身にオレの白い髪と赤い目が映り込む。
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