淫魔さんは今日も鳴く

ひやむつおぼろ

文字の大きさ
上 下
5 / 15
メインストーリー

暖炉と毛布

しおりを挟む
ーー

 聖堂を抜けて、談話室のような部屋に着く。備え付けられた暖炉には火が灯り、その前には絨毯と木でできたロッキングチェアが置いてある。ロッキングチェアにオレを下ろすと、男は毛布を持って来た。

「教会、入っちまった…」

 チョロすぎねぇか?と疑いながら足をそぉっと伸ばす。寒さで感覚がなく、痺れている様子の足は、暖炉前を陣取るロッキングチェアをゆらり、と揺らした。

「私の名はイヴァン。この教会の管理を任されている。あなたは?」

「…教えられねぇ。」

「そうか。」

 温まるまでそうしているといい、なんて言いながら毛布をオレに手渡す。イヴァンは暖炉の前に座ると薪をくべた。室内は暖かく、煌々と燃える火がまぶしかった。

「…なあ、この教会、お前の他にも人間がいるよな。なんでだ。」

 すぅ、と少し乾燥した空気を吸い込む。空気の中に沢山の人間の生気を感じた。

「ここには、行き場のない女性と子供たちが住んでいる。」

「孤児院かなにかか?」

「たぶん、そう」

「煮え切らねぇ返事だな」

「他の教会の孤児院では、子供に労働をさせる。神に祈るよう言ったり、洗礼を行って改名させたり……。でもここではしてない」

「ここにいる孤児は、信者じゃないってことか?」

 イヴァンは言い淀んで、それから口を開いた。

「ここの孤児たちは、婚前に生まれただけの、悪魔の子ではない子供たち。他の信者に石を投げられた子供たち。」

「!」

「婚前に行うことが悪で、生まれた子に罪はない。言われなき罪で傷付けられた子供らは、神を嫌っている。無理やり祈らせるべきではない。……真似したい盛りの子供たちは一緒に祈ってくれるが…。強要はしていない」

「へぇ…わかってんだ。そこらへんのこと」

「人に不快なことをしたくはない。辛い人を助けるためにこの教会の教えを使ってる…。それだけの話。」

 イヴァンは、それっきりしばらく暖炉の火を眺めていた。火の中に、神様を見つけでもしたんだろうか?イヴァンは黙りこくっていた。

「…あなたはこの教会に、なんの用事があった?」

「あー、悪魔だってことはわかってんだし…隠す必要もないか?」

 人間の変幻を解く。ツノが生え、尻尾が生え、そして服装があの趣味の悪いボンテージに変わる。

「伝承で伝わってるだろ?男でも女でも襲って、性を啜る卑しい悪魔。淫魔、それがオレ。お前の貞操を奪って神様への信仰を削ぐのが仕事。」

「…そう。」

「あんま驚かねぇのな、お前。出てけとか、汚らわしいとか言われるんじゃねぇかと思ったぜ」

「…私が、目的なのだろう?」

「そうだぜ」

「ここにいる人たちに危害が及ばないなら、それでいい。」

「…んじゃぁ、オレに搾られてくれんの?」

「ダメ。」

 婚前に性的なことをするのはよくない、イヴァンは端的にそう言うと暖炉の前から離れた。釣れないことで。

「ちぇー。仕事早く終わらせたかったのに」

「今日は泊まって行くといい、来客用の部屋を支度してくる。寝巻きは居るか?寒そうな見た目だが。」

 おい!おいおいいいのかよ。悪魔を教会に泊めるって?正気なのかよ。

「…お前が同じ布団で暖めてくれたらいらないんだけど」

「わかった、予備の子供用の寝間着を用意しておく。準備ができたら呼ぶから、それまで暖炉に当たってるといい。」

「はーい。」

 パチパチと暖炉の中で薪が燃えるおとを聞きながら、どうしたもんかなぁと思案する。あいつのベッドに潜るのは客間に案内されてからで……。

 いや、イヴァンから信仰心がなくなりゃぁ、性交渉しなくてもいいんじゃねえの?説得できれば…悪魔を協会に泊めようなんで考えるあの甘ちゃんのことだ、すぐに…まぁ、なんだ。どうにかなるはずだ。

 温かな毛布をたぐり寄せ、完璧な作戦を計画してたオレは、そのまま火の番を放棄して寝てしまった。

 イヴァンがオレを客間まで運んだことに気づいたのは、目が覚めてからだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...