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メインストーリー
暖炉と毛布
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ーー
聖堂を抜けて、談話室のような部屋に着く。備え付けられた暖炉には火が灯り、その前には絨毯と木でできたロッキングチェアが置いてある。ロッキングチェアにオレを下ろすと、男は毛布を持って来た。
「教会、入っちまった…」
チョロすぎねぇか?と疑いながら足をそぉっと伸ばす。寒さで感覚がなく、痺れている様子の足は、暖炉前を陣取るロッキングチェアをゆらり、と揺らした。
「私の名はイヴァン。この教会の管理を任されている。あなたは?」
「…教えられねぇ。」
「そうか。」
温まるまでそうしているといい、なんて言いながら毛布をオレに手渡す。イヴァンは暖炉の前に座ると薪をくべた。室内は暖かく、煌々と燃える火がまぶしかった。
「…なあ、この教会、お前の他にも人間がいるよな。なんでだ。」
すぅ、と少し乾燥した空気を吸い込む。空気の中に沢山の人間の生気を感じた。
「ここには、行き場のない女性と子供たちが住んでいる。」
「孤児院かなにかか?」
「たぶん、そう」
「煮え切らねぇ返事だな」
「他の教会の孤児院では、子供に労働をさせる。神に祈るよう言ったり、洗礼を行って改名させたり……。でもここではしてない」
「ここにいる孤児は、信者じゃないってことか?」
イヴァンは言い淀んで、それから口を開いた。
「ここの孤児たちは、婚前に生まれただけの、悪魔の子ではない子供たち。他の信者に石を投げられた子供たち。」
「!」
「婚前に行うことが悪で、生まれた子に罪はない。言われなき罪で傷付けられた子供らは、神を嫌っている。無理やり祈らせるべきではない。……真似したい盛りの子供たちは一緒に祈ってくれるが…。強要はしていない」
「へぇ…わかってんだ。そこらへんのこと」
「人に不快なことをしたくはない。辛い人を助けるためにこの教会の教えを使ってる…。それだけの話。」
イヴァンは、それっきりしばらく暖炉の火を眺めていた。火の中に、神様を見つけでもしたんだろうか?イヴァンは黙りこくっていた。
「…あなたはこの教会に、なんの用事があった?」
「あー、悪魔だってことはわかってんだし…隠す必要もないか?」
人間の変幻を解く。ツノが生え、尻尾が生え、そして服装があの趣味の悪いボンテージに変わる。
「伝承で伝わってるだろ?男でも女でも襲って、性を啜る卑しい悪魔。淫魔、それがオレ。お前の貞操を奪って神様への信仰を削ぐのが仕事。」
「…そう。」
「あんま驚かねぇのな、お前。出てけとか、汚らわしいとか言われるんじゃねぇかと思ったぜ」
「…私が、目的なのだろう?」
「そうだぜ」
「ここにいる人たちに危害が及ばないなら、それでいい。」
「…んじゃぁ、オレに搾られてくれんの?」
「ダメ。」
婚前に性的なことをするのはよくない、イヴァンは端的にそう言うと暖炉の前から離れた。釣れないことで。
「ちぇー。仕事早く終わらせたかったのに」
「今日は泊まって行くといい、来客用の部屋を支度してくる。寝巻きは居るか?寒そうな見た目だが。」
おい!おいおいいいのかよ。悪魔を教会に泊めるって?正気なのかよ。
「…お前が同じ布団で暖めてくれたらいらないんだけど」
「わかった、予備の子供用の寝間着を用意しておく。準備ができたら呼ぶから、それまで暖炉に当たってるといい。」
「はーい。」
パチパチと暖炉の中で薪が燃えるおとを聞きながら、どうしたもんかなぁと思案する。あいつのベッドに潜るのは客間に案内されてからで……。
いや、イヴァンから信仰心がなくなりゃぁ、性交渉しなくてもいいんじゃねえの?説得できれば…悪魔を協会に泊めようなんで考えるあの甘ちゃんのことだ、すぐに…まぁ、なんだ。どうにかなるはずだ。
温かな毛布をたぐり寄せ、完璧な作戦を計画してたオレは、そのまま火の番を放棄して寝てしまった。
イヴァンがオレを客間まで運んだことに気づいたのは、目が覚めてからだった。
聖堂を抜けて、談話室のような部屋に着く。備え付けられた暖炉には火が灯り、その前には絨毯と木でできたロッキングチェアが置いてある。ロッキングチェアにオレを下ろすと、男は毛布を持って来た。
「教会、入っちまった…」
チョロすぎねぇか?と疑いながら足をそぉっと伸ばす。寒さで感覚がなく、痺れている様子の足は、暖炉前を陣取るロッキングチェアをゆらり、と揺らした。
「私の名はイヴァン。この教会の管理を任されている。あなたは?」
「…教えられねぇ。」
「そうか。」
温まるまでそうしているといい、なんて言いながら毛布をオレに手渡す。イヴァンは暖炉の前に座ると薪をくべた。室内は暖かく、煌々と燃える火がまぶしかった。
「…なあ、この教会、お前の他にも人間がいるよな。なんでだ。」
すぅ、と少し乾燥した空気を吸い込む。空気の中に沢山の人間の生気を感じた。
「ここには、行き場のない女性と子供たちが住んでいる。」
「孤児院かなにかか?」
「たぶん、そう」
「煮え切らねぇ返事だな」
「他の教会の孤児院では、子供に労働をさせる。神に祈るよう言ったり、洗礼を行って改名させたり……。でもここではしてない」
「ここにいる孤児は、信者じゃないってことか?」
イヴァンは言い淀んで、それから口を開いた。
「ここの孤児たちは、婚前に生まれただけの、悪魔の子ではない子供たち。他の信者に石を投げられた子供たち。」
「!」
「婚前に行うことが悪で、生まれた子に罪はない。言われなき罪で傷付けられた子供らは、神を嫌っている。無理やり祈らせるべきではない。……真似したい盛りの子供たちは一緒に祈ってくれるが…。強要はしていない」
「へぇ…わかってんだ。そこらへんのこと」
「人に不快なことをしたくはない。辛い人を助けるためにこの教会の教えを使ってる…。それだけの話。」
イヴァンは、それっきりしばらく暖炉の火を眺めていた。火の中に、神様を見つけでもしたんだろうか?イヴァンは黙りこくっていた。
「…あなたはこの教会に、なんの用事があった?」
「あー、悪魔だってことはわかってんだし…隠す必要もないか?」
人間の変幻を解く。ツノが生え、尻尾が生え、そして服装があの趣味の悪いボンテージに変わる。
「伝承で伝わってるだろ?男でも女でも襲って、性を啜る卑しい悪魔。淫魔、それがオレ。お前の貞操を奪って神様への信仰を削ぐのが仕事。」
「…そう。」
「あんま驚かねぇのな、お前。出てけとか、汚らわしいとか言われるんじゃねぇかと思ったぜ」
「…私が、目的なのだろう?」
「そうだぜ」
「ここにいる人たちに危害が及ばないなら、それでいい。」
「…んじゃぁ、オレに搾られてくれんの?」
「ダメ。」
婚前に性的なことをするのはよくない、イヴァンは端的にそう言うと暖炉の前から離れた。釣れないことで。
「ちぇー。仕事早く終わらせたかったのに」
「今日は泊まって行くといい、来客用の部屋を支度してくる。寝巻きは居るか?寒そうな見た目だが。」
おい!おいおいいいのかよ。悪魔を教会に泊めるって?正気なのかよ。
「…お前が同じ布団で暖めてくれたらいらないんだけど」
「わかった、予備の子供用の寝間着を用意しておく。準備ができたら呼ぶから、それまで暖炉に当たってるといい。」
「はーい。」
パチパチと暖炉の中で薪が燃えるおとを聞きながら、どうしたもんかなぁと思案する。あいつのベッドに潜るのは客間に案内されてからで……。
いや、イヴァンから信仰心がなくなりゃぁ、性交渉しなくてもいいんじゃねえの?説得できれば…悪魔を協会に泊めようなんで考えるあの甘ちゃんのことだ、すぐに…まぁ、なんだ。どうにかなるはずだ。
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